第三話-2
大学生のかすみだが、本気や淫子、その他の北高生徒と同じ制服を着ている。よほど愛着があるのだろう。
「ま、色々あってね。今から後半?」
「善戦はしているんですけどね。西校には日本代表クラスって言われる選手がディフェンダーに二人いますから、なかなか点は取らせてくれませんよ。それでなくても全国常連校ですからね」
「へえ。本気くん、何気に詳しいの?」
「隼人から直接聞いたんですよ」
「そっか、友達くんがいるんだったね。どれ?」
「インコちゃんの友達組の中では一番カッコイイらしいですから、カッコイイのを探してみたらどうです?」
「ゴールキーパー?」
「いや、あの人は申し訳ないですけど一度も名前出てないです。まったくノーマークでしたけど、カッコイイですか?」
「まあ、感性の問題だから。私はあのいかにもゴールキーパーです、って雰囲気好きだけどね」
「左サイドバックの、あのちょっと背の高い奴が隼人ですよ」
「あれが友達くん?たしかに見た事ある気がする」
そう言うとかすみは大きく息を吸い込む。
「おーい、友達くん!応援に来たから良いトコ見せてよね!」
西校応援団も驚く声量でかすみが言うと、隼人が驚いたようにこちらを向き、満面の笑顔で拳を振り上げる。
「さて本気くん、義理は果たしたから、こっちからもお願いしていい?」
周りの女子が大喜びで嬌声を上げる中、その笑顔を向けられた本人はまったく隼人に興味を示していない。
隼人、残念ながら前途は真っ暗闇だ。まあ、隼人のためを思うと良い事だろう。
「お願い?常識の範囲でなら協力しますけど」
「常識の範囲を広げてもらう必要はありそうね。校門の方をチラッとでも見てくれれば、私のお願いにも予想がつくと思うけど」
かすみに言われ、本気は校門の方を見る。
日曜日であり、練習試合も白熱して後半戦に入るというところなので、誰も校門の方には視線を向けていないのは幸運と言えた。
コソコソとこちらを伺うのは、金髪の悪魔祓いだった。
「先輩、アレって」
「同じようなのがイッパイいるならともかく、多分アレでしょうね」
そう言うかすみは悪そうな笑顔を浮かべている。
「あまり聞きたくないんですが、何をするつもりなんですか?」
「どうもアレは本格的にインコちゃんを狙ってるみたいなのよね。ここらでこっちもリスクを教えてやらないと、と思ってね」
「口で言ったらどうですか?」
「言って聞くと思う?」
「まあ、先輩に口で言っても聞いてもらえないんで、アレもたぶんダメでしょうね。金魚とかの同類ですよね」
「それは私も金魚扱いみたいで納得いかないけど、そういう人種がいる事はわかっているでしょ?だったら分かるように説明してあげないと」
「先輩、楽しそうですね」
本来の目的であるはずのサッカー部の応援より、かすみの興味は悪魔祓いの金髪コスプレ女をどうイジメてやろうか、という方に大きく傾いていた。
練習試合の方は後半が始まってからは完全に西校ペースになっていた。前半を有利に戦っていた北高だったが、西校が練習試合という事で試していたという側面があったからである。それでは北高には勝てないどころか、自信を失う事になりかねないと西校監督は思ったらしく、後半からは西校本来のスタイルを出してきた。
西校には超高校級のディフェンダーが二人もいるため異様に守備力が高いが、堅守のスタイルでは無く、圧倒的な攻撃力を見せつける超攻撃的なスタイルである。守備に対して不安がないからこそ出来る、ある意味では個人技頼りにも見える戦術だが、遂行するには試合時間のほとんどを走りきるスタミナが絶対不可欠である。
個々の資質というより、膨大な練習量に支えられている戦術でもあるので、個人技主義と見ていては突破口が開けるはずもない。
「いやー、強いね西校。北高、ダメじゃん」
「先輩、ヒドいですね」
本気はそういうが、それでも北高は得点を許していない。しかし、ほぼ全員で攻める西校に対し、ほぼ全員で守る北高なので、北高の勝ち目は見えない。
応援の声も西校の方が元気一杯で、北高外野は諦めムードである。
「でも、北高はまったく諦めてないですよね」
本気は北高守備陣を見て思う。
心が折れそうな攻撃を仕掛ける西校だが、北高の守りは恐ろしく硬い。それは全員がまだ集中力を持って守っているからである。北高のエースや、瞬足の隼人にボールを渡せればチャンスはあると信じているからである。
試合が動いたのは試合終了の三分前、耐えに耐えてきた北高だったが、ついに西校の猛攻によってゴールを奪われてしまった。が、その直後、隼人の脅威的な瞬足が敵味方共に度肝を抜いた。
試合も終際で、しかも常に動き続けてきた隼人がボールを持った瞬間に相手ゴールに向かって走り込んできた。その動きの早さは、今試合が始ったばかりかと思えるほどに疲れとは無縁のものだった。
実はドリブラーの一面も持っている隼人は、誰も触れることも出来ないと錯覚させるレベルだったために西校の焦りを呼び、自身がゴールを割る事は出来なかったが、最後の最後でPKのチャンスを北高に与えた。
「すごいじゃない、友達くん」
「隼人は疲れる事を知らないですからね」
小学生の時には同じ少年サッカーチームにいたので、隼人の実力は本気も知っている。本気はゴールキーパーだったので紅白戦などを行なった時など、終際に走り込んでくる隼人がどれほど脅威なのか、容易に想像できる。高校生になって体が大きくなった上にさらにスピードも上がっているので、より強烈な脅威になっているようだ。
「同点で終わりかな?」
「いやー、キッカーが止められそうですね。右側に蹴ろうとしているのがバレバレです」
かすみの言葉に対して、本気が応える。
が、本気が言った通りキッカーは右側に蹴ったのだが、西校のキーパーはそれを止める事が出来ずに同点を許してしまう。
「本気くんなら止めれてたのにね」
「どうですかね、あそこに立ったらプレッシャーも尋常じゃないですから」
「さて、同点で終わった事だし、本気くんには手伝ってもらおうかな」
「まだいるんですか?」
「まだ同じところにいるわよ。それで、出来るだけ人気の無いところに誘導したいのよ。場所は指示するから、ちょっと手伝ってくれる?」
「先輩一人で捕まえられるでしょう?」
「サプライズ計画があるのよ。お願い」
「了解しました。で、インコちゃんはどうしますか?」
興奮冷めやらぬ級友達からもみくちゃにされて困惑している淫子を見て、本気が尋ねる。
「インコちゃーん!」
かすみもその輪の中に参加して、淫子にガシッと抱きつく。
「ヒイッ!」
「しまった、この人が一番の危険人物だった」
本気がかすみを淫子から引き剥がす。
「インコちゃーん、うへへへへへ」
「先輩、後輩達が超絶ドン引きしてますから、一回帰ってきて下さい」
かすみを知っていればこういう人物だと分かるが、卒業したかすみを今年の一年生が知るはずもない。
「先輩、行きますよ」
かすみを引きずって、本気は移動を始める。
「あ、明日唐先輩、どこか行かれるんですか?」
「先輩を病院に連れて行くんだよ。カウンセリングが必要だから」
「愛情に飢えてるのよ。インコちゃんの側にいれば治るから!」
「治りません」
そう言いながら、本気はかすみを連れて校門の方へ行く。
「先輩、どっち方面にやりますか?」
「本気くん達の家の方に。あの近くって人通りの少ない所が幾つかあるからね」
「拉致ですか?犯罪ですけど」
「拉致じゃないって。ちょっとだけお話する時間をもらうの」
かすみは笑いながら言う。
「それじゃ、よーいドン」
かすみの掛け声と同時に、かすみと本気は分かれて校門に向けて走り出す。




