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第三話-1

第三話 サッカー部の応援と悪魔祓い対策


「本気!てめえ、どういうつもりだ!」

「隼人、随分お怒りのようだが、どうかしたか?」

「どうもこうもねえよ!話が違うだろ!」

 日曜日に北高サッカー部を応援に来たUMA研究部は、制服姿の本気と淫子の二人である。

 神楽は金曜に急な発熱で学校を休んでいる。本人は今日は大丈夫だと言って来ようとしていたが、本気が止めたので今は家で寝ているはずである。念のため金魚に見張らせておいた。

 イベント事が大好きなはずのかすみは、今朝メールで『遅れるけど、がんばって来るようにするから』というメッセージが届いていた。

 朝からかすみが来るのを待っていた隼人に、本気は言葉で説明せずにメールを直接見せた結果、隼人がヒートアップしたのである。

「何のためにお前に頼んだと思ってるんだよ!百歩譲って竹取は仕方ないとしても、なんでお前とこの」

 言いかけて隼人は本気の横に立って、ちょっと怖がっている淫子を見る。

「うおーい!どういう事だよ、この美少女は!まさにUMA、未知の生物がココに!」

「落ち着け。ただでさえ成績の良くないお前が、今のままだと頭まで悪いと思われるぞ」

「いやいや、何でお前は平気なんだよ。どういう事だよ。どこの主人公様だよ」

「前に言っただろ。今年のUMA研究部の新入部員だ」

「は、初めまして」

 淫子は異様なテンションの隼人に怯えながら、それでもアイサツする。

「これはどうも初めまして。私、桂城隼人と申します。サッカー部の二年生で、左サイドバックをやらせて頂いております。って、本気。この子、日本人なの?」

「日本語はペラペラだから、会話は成立するぞ」

「こんなピンク髪が似合うのに日本語で話してるって事に違和感が無いのも凄いよな。UMA研究部、ぜひ彼女を研究してくれ。基本的にはどんなタイプが好みかとか、彼氏がいるのかを中心的に研究してくれるとありがたい」

「わかった。先輩にそう頼んでおこう」

「え?いや、冗談だよ」

「そうだろうと思ったから、そろそろサッカー部に戻れ。先輩も後から来るだろうから」

「おう、期待してるぞ」

 そう言って隼人は走っていく。

 あれでも隼人はイケメンぞろいと言われる北高サッカー部の中でトップクラスの人気を誇っている。

 かすみと同じく、少なくとも見た目は良い。無尽蔵のスタミナと群を抜く瞬足の持ち主であるため本来はサイドバックだが、イメージとしては左サイドのどこにでもいると思えるくらいの運動量なので、とにかく目立つのだ。

 UMA研究部の二人のほかにも、北高の女子生徒が多数練習試合を見に来ているようだが、隼人を見に来ている女子生徒もいることだろう。

「あの、今の方は明日唐先輩のご友人ですか?」

「ああ。俺と竹取さんの共通の友人だよ。調子の良い奴だけど、アレが素の状態で裏表が無い困った奴なんだ」

 隼人はもう少し自分のイケメン度を知った方が良いのだろうが、小学生のサッカー少年のまま高校生になってしまっている。

 ただ、良く言えば純粋さを持っている隼人だからこそ、神楽も仲良くしているのだろう。

「良い人、ですよね?」

「単純に良い人かどうかは分からないけど、悪い奴じゃないのは間違いないよ。少なくとも先輩よりは常識が通用するし」

「そう言う事は言ったらダメですよ?」

 本気の言葉に淫子はクスクスと笑う。

「ところでインコちゃんは、サッカーのルールとかって分かるものなの?」

「ええ、大丈夫ですよ?細かいルールまでは分かりませんけど、ボールを蹴って、ゴールに入れると得点になって、その得点の多い方が勝ちですよね?」

「それだけ分かってたら先輩とか竹取さんより試合を楽しめると思うよ」

 おそらくかすみや神楽も同じくらいの知識しか無いだろう。だが、どちらが勝っているかが分かれば応援は出来るので、本気は詳しく教えるのはやめておいた。

 特別強豪というわけではない北高サッカー部なので、サッカー部専用のグラウンドなどはなく、運動場で練習試合は行われる。

 本気と淫子の二人が運動場へ行った時には、運動場にはすでに北高と西校のサッカー部がそれぞれ準備運動を始め、周りには北高女子集団の他、西校からも応援団が来ていた。

 北高と違って西校は強豪校なので、西校応援団も練習試合であるにもかかわらず来ている。おそらく西校応援団も練習を兼ねているのだろう。

「ところでインコちゃん、先生とは話してみた?」

「はい。運動部の活動を見るのは悪いことじゃないから、思いっきり応援してこいって言われています」

 今日の事なのか。

 本気としては淫子が矢追から呼ばれた理由など、そういう事のつもりで聞いたのだが、珍しく明るい笑顔で淫子が答えたので聞きづらくなってしまった。

 そう言えば、インコちゃんっていつも困った様な表情しているな。こんな風に笑うのは初めて見るかも。

 淫子の笑顔を見て、本気はそう思う。

 そして、その笑顔もどこか引っ掛かるところを感じる。

 どこかで会っているという感覚。既視感とでもいうような感覚が、本気に付きまとっていた。

 もちろん初対面の時と同じで、こんなピンク髪の美少女とどこかで合っていれば忘れるはずがない。元々本気は記憶力は悪くない上に、人の顔を覚えるのは得意な方である。

「あー!色欲さんだ!」

 淫子に気付いた女生徒が声を上げる。

 どうやら淫子の同級生だったらしい。

「俺はここにいるから、行ってきたら?応援なんてどこでも出来るから、友達と一緒の方が楽しいんじゃない?」

「友達、ですか。でもそれだったら、UMA研究部の先輩方と一緒の方が楽しいですよ?」

 淫子が首を傾げて言う。

 やべえ、超可愛い。先輩も竹取さんも見た目は良いけど、喋ったら台無しだからな。こりゃ先輩がハイになるのもわかるな。

 淫子は軽く手を上げて同級生に応えると、本気と離れようとはしない。

「あの、鴨音先輩は何時くらいに来られるんですか?」

「さあ、あの人の行動は俺の予想の範疇を超えてるから。今日は来ないかも知れないし、もう後ろにいるかも」

 本気がそう言うと、淫子はビクっと肩を震わせて後ろを振り返る。

 いないのが気になってるのかと思ったら、単純に怖がってるらしい。

「冗談だよ。今のところは」

 本気は怖がっている淫子に言う。

 しかし、かすみの行動に予想が付かないのは本当の事である。いつの間にか後ろにかすみが立っている、という事はありえない話ではない。

「さて、それじゃ北高の応援団に合流しますか」

 本気がそう言って、淫子の同級生達の集まっている方へ行く。

「サッカー部の応援?」

 本気が声をかけると、三人の女生徒の集団は本気を値踏みするように見る。

「そうですけど、色欲さんの彼氏ですか?」

 三人の女生徒の中でも特に好奇心の強そうな少女が、思い切って尋ねてくる。

「いや、俺は色欲さんの部活の先輩」

「かく」

 言いかけて女生徒は慌てて言葉を飲み込む。

「理科部の先輩ですか?」

「隔離施設だよ、あそこは」

 何しろ変人ぞろいの空間である。『理科部』という正式名称より『隔離施設』の俗称の方が、所属している本気でさえしっくり来る。

 在籍している面子だけでも十分なのに、いまでは空を飛んで言葉を喋る特大の黒いデメキンまでいるのだから、本格的に隔離した方が良いと思っているくらいだ。

 本気がそう思っていると、三人の淫子の同級生は淫子に根掘り葉掘り聞いている。

 何だか、いっつも困らされてるな。

 今もオロオロとしている淫子を見て、本気は苦笑いする。

 どうやらイジメてみたいと思うのは異性だけではなく、同性にも高い効果があるらしい。むしろこの少女達やかすみを見る限りでは、同性の方に効果があるように思える。

 男だと感じる庇護欲的なものが、同性には効果が無いのかな?だとすると、ある意味では同性の方が影響が大きいって事か。

 いざ北高対西校の試合が始まっても、一年生組は淫子を質問攻めにするのに忙しいらしいが、他の北高女子の黄色い声援を受け、隼人を筆頭とする北高サッカー部のお調子者数名と、黄色い声援を一切受けない西校サッカー部の数名のテンションが目に見えて上がる。

 それに対し、西校応援団は意外な程冷静で、北高女子の甲高い声援と張り合う訳ではなく、淡々と指示を出して応援の音頭を取っている。

 西校応援団にとって、この練習試合は応援団にとっても練習の場と割り切っているようだ。応援団というグループのイメージとはちょっと違うが、応援団としてのプライドを持っているらしい。

 試合は練習試合という事だったはずだが、異様に白熱した試合になっていた。

 西校が練習という事で色々と試しているためではあるが、それでも前半戦は北高が有利に試合を進めていた。

「良い試合になってますね」

 前半の終わりくらいから本格的に応援を始めた一年生組から解放され、淫子が本気に言う。

「私、生でサッカーの試合って見るの初めてですから、興奮します」

 まあ、悪魔はサッカーとかしないだろうからな。

「色欲さんは誰を見てるの?」

 前半が終わって後半が始まるまでの間に、一年生組が再び淫子を標的にする。

「誰って、サッカーの試合を見てましたけど」

「やっぱり桂城先輩よね?」

 隼人、大人気だぞ。後で本人に教えてやろう。

 一年生組が淫子に色々言うのを横で聞きながら、本気はそう思っていた。

 実際に前半での隼人はかなり目立っていたのは事実であり、北高サッカー部の中でもかなりの男前である。ただ、サッカーをしていない時の隼人はどちらかと言えばUMA研究部寄りの性格である事を、一年生組はまだ知らない。

 思いっきりバラしても良かったのだが、ここは隼人の名誉を守るためにも内面の話はしないでおく事にした。

「まだ点は入ってないの?」

 本気の後ろから声をかけられる。

「ああ、先輩遅かったですね」

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