第一話-1
実験的な作品になってしまってます。
感想や悪いところなどで、具体的な意見をいただけると有難いです。
第一話 UMA研究部
県立北高校は、同じ県立南高校ほどの進学校では無く、西高校ほどスポーツに特化しているわけでもない、正に普通校と言える高校である。
この物語の主人公である、明日唐本気もその北高に通うごく普通の高校生である。
「あすからほんき」という親がふざけて付けたとしか思えない名前のせいで馬鹿にされる事やイジられる事は数え切れないが、それでもイジメとは被害側とも加害側とも無縁でいられた。
そう、少なくとも去年、この部活に入るまではごく普通でいられたのだ。
「さて、それじゃ部員もそろったし、今年の行動指針を決めましょうか」
「すいません、その前に質問していいですか?」
「はい、本気くん、何かしら?」
「去年卒業した先輩が、何でさも当然の様に部長やってるんですか?しかも制服で」
本気は呆れて言う。
今この部室で仕切っているのは、去年卒業したはずの美少女、鴨音かすみである。
このモヤッとした名前の美少女は昨年の部長で、成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能を『自称』していた。少なくとも容姿端麗の方は他者も認めるところであり、運動神経の方も、校内の測定では昨年の女子の中では超人的なまでに桁外れの数値を出していた。北高すぐ近くの全国でも有名な大学に入学したことで成績優秀も証明してみせたと言えなくもない。
しかし、卒業した高校の制服を着て、まったく自然に部室にいる辺りの奇行は正直相変わらずと言える。
「だって、私がいないと、この部ってUMA研究部じゃなくてガチャピン研究部になっちゃうでしょ?」
「いや、そうじゃなくて、それ以外に色々と気にしたり気になったりするんですけど。先輩、大学のサークルとかで活動した方が良くないですか?」
「え?何?本気くん、私のレギュラーの座を奪おうとしてる?」
何のレギュラーだよ、と言いかけるのをグッと我慢する。
この美少女かすみは、とにかく顔立ちもスタイルも抜群に良く、黙って微笑んでさえいれば昨年のミス北高に満場一致で決まっていたはずだったのだが、素行の悪さと言うより発想の方向性があまりにもぶっ飛んでいるため、少なくとも彼氏的な存在はいない。
まあ、この人と付き合っていくとなったら胃薬常備どころの話じゃないだろうからな。
「先輩、もう一ついいですか?」
「何?スリーサイズなら去年のままよ?」
「違います。っていうか去年も同じ事言って、けっきょく具体的な数字は教えてもらってないんですけど、そんな事より部員がまったくそろってないんですけど」
「あら、本気くんがいるじゃない」
「現部長がいないでしょう。先輩が任命したんですよ?」
「ああ、あの子はいいよ。私は本気くんがいてくれたらそれで十分なんだから」
かすみが可愛らしく微笑む。
この笑顔だ。これのせいで俺はこんな部に来てしまったんだ。
本気が真剣に悔やんでいる事である。
北高は必ず部活に所属していないといけない校則がある。運動部にはさほど興味が無く、親しい友人と適当に幽霊部員になって放課後はゲーセンにでも、と思っていたのだが、運悪くかすみと出くわしたのだ。
上級生でかつ群を抜く美少女のお誘いとあっては、何かあるにしてもついつい興味が湧いてしまったのがそもそもの失敗だった。確実に嫌な予感はあったのだが、目の前の誘惑に負けてしまった。
そして気付けばこの変人の隔離施設の一員となってしまっていた。
本当はこの部は『理科部』と言う名前の部活だが、去年までの部長であるかすみと、部活の顧問である矢追狐次郎の趣味のもと、UMA研究部として活動していた。
学校裏サイトでは『隔離施設』と呼ばれるこのUMA研究部は、かすみを見ていれば多少の想像もつくがとにかく奇妙な人間が集まる。
顧問の矢追狐次郎もその一人、というより筆頭である。
科学の教師なので『理科部』の顧問なのは納得のいく話だが、彼もまたかすみと同じく奇行が過ぎる人物である。
背が高くスマートに引き締まった体型、整った顔立ちやセクシーボイスなど、何故教師になったのかと思うほど恵まれた容姿であり、北高の『隠れイケメン』と言われている。何故『隠れ』がつくかと言うと、妙に猫背で分厚いメガネ、さらに白い肌に目の下にクマが出来ている事も多いため、その恵まれた外見を見事にスポイルしてしまっている。
校内でのあだ名が『眼鏡エル』というのも猫背とクマから来ている。
困った事に、本気はこの奇妙な教師の事をよく知っている。
というのも家が隣りであり、小さい頃からよく遊んでいた。
本気の記憶では面白いお兄さんではあったが、変人では無かった気がする。小さい頃から「面白い」と思っていたのであれば、その頃からちょっと変わったところがあったのだろう。
「オカルト研究部じゃない!UMA研究部だ!」
去年そうやって熱く語っていたのを、冷めた目で見ていたのはよく覚えている。
「あれ、マジくんもういる。ええっ!先輩まで?何で?」
部室にやってきたのはもう一人の部員で現部長である少女、竹取神楽である。
本気と同じく親がふざけて付けたと思われる名前だが、本気と違って神楽はこの名前を嫌ってはいない。
UMA研究部となった理科部の後任を任されるだけあって、彼女も名前だけが奇抜という訳ではない事を残念ながら本気はよく知っている。
彼女も本気の家の隣りに住んでいるのだ。
小学校の頃から将来の夢は「ガチャピンになる事」と言い続け、小学生の可愛い夢から中学生にもなって現実の見えてない痛い子になり、今では夢追い人として彼女を知る者達は一定の距離を置いて生暖かく見守っている。
本気もその立ち位置にいるはずだったのだが、かすみの美人局によって見守られる側になってしまっていた。
「先輩、コスプレまでして何してるんですか?」
「コスプレになるの?現役を退いてまだ一ヶ月も経ってないはずだけど」
「いえいえ、卒業後に制服着てたらコスプレでしょ?ねえ、マジくん?」
「そんな事ないわよね、本気くん?」
「何で俺はこんな人達に関わってしまったんだろう、とは思ってます」
本気は素直な気持ちを口にする。
かすみと神楽、顧問の矢追と比べ、本気は名前以外でこのメンバーと戦えないくらいに一般人である。
級友達からも哀れみの目を向けられる本気だが、この部が楽しくはあるのだ。少なくともかすみは見た目だけで言えば美少女だったし、神楽も一般的な美意識から言えば美少女の分類に入る。妙なライバル意識や暑苦しい体育会系のノリは好きじゃない。
だからここに留まっているのだが、色々考えるとここにいるのはマイナスじゃないかと思えてしまう。
「大体先輩、卒業してまで何を研究するんですか?先輩には悪いですけど、どんなに探してもスカイフィッシュは日本にはいないと思いますよ?」
「あら竹取さん、私からも言わせてもらうけど、ガチャピンはUMAじゃなくて着ぐるみよ?」
「なっ!何を言ってるんですか!ガチャピンはガチャピン族って種族で、南の島に生息するUMAです!」
「いやいや、背中にチャックがあるからね。大体海外のUMAがどうやって日本に来るの?ワシントン条約って知ってる?」
「悪いけど先輩、レッドデータブックにガチャピンは載ってないと思いますよ?それにガチャピンは取引で来てるんじゃないんで、ワシントン条約は適応されないと思いますけど」
「そう来たか。ま、何を言ってもガチャピンはUMAじゃないからね。研究できないでしょう」
「ぐぬう、そう言われるとガチャピンはすでに市民権を得ているし、UMAと言うにはネッシーとかイエティみたいな有名どころよりメディアの露出が多いし、無理があるかも」
「いや、そう言う事じゃないんだけど」
「でも先輩、スカイフィッシュもそうですけど、ジャージーデビルもチュパカブラも国内では見かけませんから。まだツチノコとか河童とかそっちの方が可能性は高いですよ?」
「だって日本のUMAって妖怪扱いが多いじゃない。何か私の求めるUMAとは違うのよ」
神楽とかすみの独特のガールズトークは、常人にはついて行けないものである。
「皆のもの、聞けえい!」
突然そう言う雄叫びと共に、部室に顧問の矢追がやって来る。
「ぬはははは!今日はご苦労!だが!今日は皆のものに聞かせる事があるのだ!」
「先輩、本物のUMA来ましたよ」
「ホントね。アレを研究するだけで部として存続できそうね」
「ガールズ、何を言っているのかな?そんな事より、今日は僕の話を聞いて欲しい!」
異様にテンションの高い白衣とメガネのイケメンは、顔が良いだけに残念さが桁外れである。
「君達は、とある条件をクリアして三十歳を迎えた男性が魔法使いになれるという事は知っているかな?」
「先輩、UMAです」
「どっちかと言えば変質者の類だから、FBI特別捜査官より警察の方がいいって」
「FBI特別捜査官って響きは懐かしいが、まあ待ちたまえ。僕の誕生日は四月三日だから、部活動する時にはとっくに誕生日を迎えているわけだが、なんと僕は!魔法使いの条件をクリアして!魔法使いになったのだあ!ぬあっはっはっはあ!」
両手を広げて高々と宣言する矢追を三人は冷めた目で見る。
「先生、見た目で言えば超モテそうなんだけど。まあそれは先輩もだけど」
お前もだよ。
心の中で本気は神楽に対して言う。
「で、先生。魔法使いになってどうしたんですか?自首でもしますか?」
「はっはっは、鴨音くんは面白いな。ん?でも何で鴨音くんがいるんだ?去年卒業したんじゃなかったっけ?今年三年生だったっけ?」
「先生、自首するか病院に行って下さい。UMA研究部は私が面倒見ますから」
「先輩も安心して卒業して下さい。ちゃんと俺と竹取さんでこの部を廃部にしてみせますから」
「ふっふっふ、君が内部から崩壊を招く獅子身中の虫である事は分かっていたのだよ、明日唐くん!だが!僕は!君の上を行く者!」
「先生、今日はいつもに輪をかけておかしいですね」
おかしいといえば常におかしい人物ではあるが、今日はテンションが異様に高い。
「で、魔法使いってどう言う事ですか?」
会話がまともに成立しないとわかって、本気は矢追に話を振る。
「そう、今日はその話込みで色々あるんだよ。まあ魔法使いになる条件というのは置いといて、せっかくだから魔法を使ってみたんだ」
話している内容はともかく、テンションは通常に戻ったようだ。
「先生、ホントに病院行きましょうか」
「本当だって。で、召喚魔法をやってみようと思ったんだ。そう!召喚魔法!その結果も見せてあげよう!入って来てくれたまえ!」
高らかに宣言して部室の扉に手を向ける。
が、開く気配が無い。