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響さんの日常  作者: ZEXAS
彼氏彼女になってから
90/91

番外編 存在が麻薬


次話のBパートと言いますか、前回でいう唯斗さんが一切出ないお口直し的なパートを作ったのですが、次話本編において別段必要無かったので番外編として供養します。

つまるところ、次話はほぼ響さんと唯斗さんの掛け合いになる……筈。逆に言えばこの話では一切ありません。





 俺がテニス部にお邪魔したある日の事だった。女子が須藤さんのロッカーにとある趣向の薄い本を入れる所をテニス部の女子が発見しちょっとしたゴタゴタが起きた。

 犯人は須藤さんと同じテニス部の子で、部室に誰も居ない時を見計らって須藤さんの鞄にブツを入れて受け渡し完了だったらしい。そしてその女子は須藤さんの友達だそうで、つまり事件でもなんでも無かったわけである。

 それどころか、この受け渡しの案を出したのは須藤さんの方で、その友人さんは巻き込まれて趣向がバレたようなものだからむしろ須藤さんが主犯と言ってもいいだろう。おう???


 ともあれ、人の口に戸は立てられないいつものパターンで、件の次の日から女子だけになった時にそのとある趣向についての熱い語り合いが起こるようになった。……んだけど、その趣向というのが『レズじゃない方の同性愛』だから……俺は専門外なので話に入れません。……入れません! アウェーです!

 運命のイタズラというのは本当にあるようで、今日の体育はDとEの合同授業。更衣室に入った段階で既に、場に居る半数の女子から淀んだオーラが出ていた。そしてそのオーラは須藤さんと巻き添えで趣向がバレた子を囲んでいた。別にイジメとかそういうのじゃなくて、単に同好の志の語らいの中心にいるだけみたい。


「ね、ねえ三島さん。三島さんもその……」


「……ん? ああ、そういうこと。興味が無いことは無い……かな?」


「……マジですか」


 世の女子おなごはみんなあの趣向に興味津々意気揚揚という勝手な偏見を事実かどうか確認するべく、失礼ながら三島さんにそれとなく聞いてみたら……女の子への幻想がまた1つ崩れたような気がした。

 三島さんは高橋のこと好きみたいだからノーマルなのは分かってただけに、これが女子のデフォルトの可能性が高まった。……い、いや、藤矢さんや京ちゃんは無い……と思いたい。


「ああ、もちろん創作の範囲での話よ? それに、そういう趣向に理解があって別に否定的にもならないだけ。ほら、流行りの教材の回し読みを拒否らないのと似たようなものよ」


「なるほど?」


 唯斗がオススメする漫画やゲームなら特に何も考えず借りるようなものと考えれば同じことの筈なんだけど……唯斗だったらまずある程度俺の好き嫌いを考えた上でオススメするだろうし……って、これじゃ例になってない?


「……そうね、今度響ちゃんにも良さげなの貸してあげるね」 


「……え」


「……あっ、私が言ってるのは教材の方だからね!? 響ちゃんにはああいうのはまだ早いわ! というか響ちゃんには純粋でいて欲しいもの、私があんなの貸すわけないじゃないっ!」


「う、うん……」


 教材も遠慮しておきたいです……。

 というか俺には早いって言うほどの何かを三島さんは御読みになったことがあるのですか……『あんなの』ってどんなのですか……中身自体は知りたくはないけど、件の本を女の子のマル秘本って言い換えると滅茶苦茶気になる。……これって男のサガだよね! 男心残っててちょっと嬉しい。


「まぁ、私が心配せずとも響ちゃんには森長君がいるもんね。……彼氏や好きな異性がいても云々なのは例がここに何人かいる気がするけど、それでもあんな超人が彼氏じゃ創作物にすら浮気なんてできないでしょ?」


「うーん、唯斗は確かに頭も良いしスポーツも万能だけど普通の男の子たと思うよ?」


「……あ~、森長君でも彼女にしか見せない素ってやつがあるのね。うわぁなんか良いなぁ」


 素……かどうかは分からないけど、この前の甘えん坊なな唯斗と朝の寂しがりな唯斗を思い出して、ちょっと耳が熱くなった。


「まぁ、えへへ。で、でもね、俺も唯斗もゲームのカノジョに夢中でね、俺のカノジョのが可愛いー! ってやるんだ」


「それは……。……いや、どうやったらそこまでになれるの……。相手がゲームの女の子とはいえ、好きな人がそのキャラを愛でたり自慢してるのを見てお互いに楽しそうにしてるって、私ちょっと想像できない……」


「そう?」


「そうよ、響ちゃんもそうだけど、森長君もそういう所を恋人に見せるのって、互いに信頼してるとかいう次元じゃないと思うもの。……なんというか、そういう一面があったりそれに理解があったりしてもね、なるべく見せないようにするのが普通というか……」


 三島さんの言ってること、分からなくは無いんだ。俺だって彼女とか出来たらそういう事は自粛したりするかもだし。でも……。


「でも……唯斗にそういう気遣いする方が俺はちょっと嫌だな」


 唯斗相手になんかそういう壁を作るじゃないけど、無闇に線引きはしたくない。


 俺の事、俺が出せる俺の全てを知って欲しいし、唯斗のことももっと知りたい。……まぁこんな恥ずかしいこと言えないけどね。

 なんだか一瞬で考えが矛盾した気がするけど要するにアレだ。唯斗に遠慮はしたくないし、されたくないって事だ。……むぅ、言葉にするのは難しいな。これでもこの気持ちを表現しきれてない気がする。


「……一理あるけど。うぅ~、私嫉妬してるのかなぁ……?」


「気休めにしかならないと思うけど、俺と唯斗は長い付き合いだから、三島さん達もその……似たようなものだし近い感じになれると思うよ」


「……でもこのままだとただの友達のままよ」


「うーん……。うう~ん……。ともだち……そう、友達のまま恋人になるんじゃダメ?」


「……あ、あはは。ごめんね響ちゃん。この話は一旦やめておくわ……」


「う、うん。ごめん」


「ううん、私が悪いだけだから」


 ふと、いつもの更衣室より静かになっている気がした。考えすぎかもだが、俺達が恋バナをしてるものだから聞き耳を立てられてたのかもしれない。なんにせよこんな人だかりの中でしていい話じゃなかったと思う。

 誤魔化す訳じゃないけど、なにか話題を振って上手く流せないかな。


「そ、そうだ三島さん」


「うん?」


「さっきの話に戻るけど、逆に……女の子同士ってどう思う?」


「「「………………」」」


「…………?」


 今度は気のせいでもなんでもなく更衣室が静まり返った。横目で見なくても視線が集まってる感じがする。


「……響ちゃん。同性愛は無いと思うわ」


「え、創作の範囲で?」


「全面的に無いかな」


「…………? え?」


 そ、そんな馬鹿な……。何かがおかしい。だってさっき『そういう趣向(女の子同士じゃないけど)』に理解があって否定もしないって……。


「うーん、ごめん訂正するね。創作でも場合によっては好きかもしれないから、絶対に無理って訳じゃないの。ただまぁ……ほら、勝手知ったる女同士でっていうのはちょっとね」


 勝手知ったる女同士……これを男バージョンで考えればいいわけか。いや、考えるまでもなく無いだろ男同士とか絵面がエグいわ。


 ………………。


 なんか今物凄い自虐をした気がするが気のせいだな。


 しかしなるほど、男からしたら同性愛が無いように、女の子からしても同性愛も無いって事か。なんか微妙に釈然としないが、三島さんが真面目な話で嘘を吐くとも思えないし間違い無いんだろう。


「あぁでも、お互いよく知ってるからこそって考え方もあると思うから、私の意見はあくまで私だけの意見って事でよろしくね」


「う、うん」


 さっきから黙って頷くかうんうん言うかしかしてないから、何か洒落の効いた台詞でも言えないものかと頭を捻ってみたけど全然出てこなかった。 


「……ふふっ。でも響ちゃんみたいな子なら性別の壁を越えちゃう人もいるかもね」


「ふぇっ……!?」


 スッと三島さんに詰め寄られ、そのまま抱き締められて、おまけによしよしされた。三島さんにしては珍しいスキンシップに頭が混乱しかける。


「あーずるい! ずるいずるいずるい!」

「私もギュッてしたい~っ!」

「私髪の毛触りたーい♪」


「えっ、ちょ、ちょっ……!?」


 首が動かせなくても女子の方々が寄ってきているのが分かる。そして俺の力じゃ三島さんのホールドを解くことが出来ないことも、このままじゃ好き放題されちゃうことも……。


 ってあれ、詰め寄る女子軍からさっきまで純愛(ゲの字)の話題で盛りあってた須藤さんの声らしきものが混じってる気がするんですが。


「ひゃいっ!?」


 背中にひんやりとした手の感触がして、思わず三島さんを抱き締め返してしまった。


「……っ! そ、それやめッ……っ! ちょっとぉぉ……!」


 誰かは分からないけどわざわざ冷やした手をワイシャツの下から突っ込んでペタペタ当ててくる。ひんやり感がちょっと心地よくて、触れては離れてを繰り返す度に身体がゾワっとする。


「流石は響ちゃん……噂通りの敏感肌……」


「えっ須藤しゃっ……! にゃっ!?」


 母さんや七海が言うには確かに俺の肌は刺激に弱いらしいけどもそういうことじゃなくて!


「……ぁ……、……んやぁっ…………」


 どさくさに紛れて太ももやお尻までスリスリされ始めた。

 ……って誰ですかっ! 靴下脱がして足を舐めてるのはっ! うう、くすぐった気持ち悪い……。


「むぃぃ……やだぁっ……やだぁぁっ…………」


「……!!」


「んむぅ……!?」


 三島さんが強く抱き締めた事で三島さんの胸に埋められた顔がより密着する。甘い香りと体育の後でかいた汗らしき匂いが混じりあったものが鼻をくすぐった。

 ……凄く、いいにおい。頭がぽーっとする。


「あぅっ……♪ これ、すき…………♪」


「……あヤバイみんな中止! ストップ!」


 ぼんやりした意識の中、身体中を撫で付けていた手が離れ、三島さんの抱擁が弱くなった。もっと抱っこして欲しくて今度はこっちから強く抱き付いてみた。


「えへへ~♪ もっとしてっ♪」


「み、みんな……私には響ちゃんを離すのは無理……離したくない……。だから頼むわ……みんな」


 途端、女の子が二人掛かりになって三島さんを引き剥がそうとしたので、こっちも強く抱き締めて抵抗した。


「だ、だめっ! 取らないでっ!」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ! 響ちゃんと離れたくないぃぃぃっ!!」


「やべーぞ! かなっちはもうダメだ!」


「三島ちゃんが壊れた!」


「ううぅぅぅ……!! やだ~!」


 三島さんも離れたくないと言ってくれたのが嬉しくて、より一層強く抱き締めて抵抗してみたけど、自分の力じゃ敵わないが分かってるだけに時間の問題なのは分かっていた。思わず目尻に涙が溜まる。


「ずっと響ちゃんといるぅっ! このまま融合するぅぅぅ!!」


「三島ちゃんが……これ絶対藤崎か何かの影響だよね……」


「響ちゃん泣いてる……」


「もぉ、辛いのはこっちよぉっ……」


「二人とも結構力強い……こうなったら響ちゃんの方も誰か引っ張らないと」


「駄目! 今の響ちゃんに密着すると三島の二の舞よ!」



 更衣室でのひと騒動。当初の記憶は曖昧だったが、動画を丸っと見せられ悶絶する未来はそう遠くなく訪れた。そして更に女子の間で件の動画が広く出回っていたのを藤矢さん経由で知った時は暫くフリーズした。

 藤矢さん曰く、他の女子も写ってるから男子に見せられる事は無いだろうけど、女子なら学年問わず行き届いている可能性があるとか何とか。ひどい……。





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