ちょっと遠出初夏デート 1
12月中に更新って言ってた気がするので
滑り込み投稿です
よいお年を
─明治家 玄関
視点 明治響
今日は唯斗とデー……遊びに行く日だ。
唯斗は約束の時間より早めに来るから、俺はそれに合わせて早めに玄関で待機している。もちろん出かける準備はバッチリだ。
何となく携帯で時間確認。約束の時間の9時より20分前……もうすぐ来る頃合いかな……
〈ピンポーン〉
ほら来たと、なんか賭け事に勝った時みたいな喜びを感じながら玄関を開けると、やっぱりそこには唯斗がいた。
唯斗は初夏に優しい涼しげな格好だけど、どこかカジュアルで然り気無いお洒落心を感じる……でも気合いを入れてる訳でもない、色々とお出掛けに優しい格好をしていた。
「おおっ響早いな。さては玄関で待ってたな?」
「ち、違うよ。唯斗がいつも来るの早いから。待たせちゃ悪いと思って……」
「ふーん? それより行こうか。ギャラリーがお前を見てるぞ」
「え?」
唯斗に言われて後ろを向くと、母さんを始め博樹七海の3人が壁からひょっこり半身を覗かせていた。……こいつらいつの間に。
「お姉ちゃん! チュー! 最初からクライマックスデートだよ!」
……七海がなんか言ってら。
「行こう、唯斗」
反応したら負けな気がするので3人の事は無視して唯斗の手を引っ張って行こうとすると、唯斗が動かないせいで俺は紐で繋がれた犬みたいになった。
「響、ちゅーする?」
「行くの!」
馬鹿言ってる唯斗の腕をなんとか抱えて引っ張り出した。それによって唯斗もようやく歩きだし、いよいよデートが始まった。
・・・・・★
今俺達は一原駅に向かって走る電車に揺られている。
今回もいつも通りその辺でぶらついて、その辺で食べて、ゲーセンに行ったりカラオケに行ったり映画を観に行ったり街中の見世物を見たり、やることは下手したら男の時と変わらないけど、それでも俺は心を踊らせていた。
毎回同じ事してる筈なのに毎回違う楽しみや発見があるし、唯斗となら何をやっても何度同じ事をしても楽しい。慢性なんて無い。もしあったとしても、そもそも唯斗と二人でいる事が俺にとっては一番重要な事だから、最初から問題なんて1つもないんだ。
「……って唯斗っ、彼女がすぐ横にいるのに何で目の前のカノジョと遊んでんのさ」
酷い事にラブプ○スに夢中な唯斗の顔を目を細めて眺め見る。真顔で心の内を隠してるが、俺にはその心境はよーく分かる。
「響だって人の事言えないじゃないか。イベントが一段落して暇になったからって俺を非難するんじゃない」
視線を変えずに真実を突きつけられた。……そう、その通り、愛実ちゃんとのデートスタートイベントは終わってしまった。唯斗に構ったのはとてもお辛いからその腹いせでしかない。
『ユイくん、ちゃんと私をエスコートしてね?』
「ああ、ユイくんに任せなさい」
うぐぁぁぁっ!!! めっちゃ真顔なのにイケボでなんか変だ!! 俺もよくなってるんだろうけど、やっぱり端から見るとキモい!
くそ、イベント開始までは待つつもりだったが……俺も沢山お喋りするぞ! もう我慢できん!
「愛実ちゃ~ん♪」
『ん? どうしたの? ヒーちゃん』
「頭撫でさせて♪」
『……は、恥ずかしいよ。でもヒーちゃんがしたいなら……♪』
画面の中の愛実ちゃんがもじもじしながら寄ってきた。俺は迷わず頭を撫で回し始めた。
……あぁ~、やっぱり麻薬だわこのゲーム。いずれ最新作が出て名前も3文字以上読んでくれるようになったら死ねるな。というか最近失いつつある女性への恋心みたいなのが復活するな。……したところで今更な気もするけど。
体験型VRがこの先進化してったら頼みますよ、コ○マイさん!
……と、一通り撫でてキスも済ませて一旦終了して唯斗の方を見ると、唯斗は真顔でこっちを見ていた。
「……な、なに?」
「響、俺は響が彼女で本当に良かったと思うよ。俺のこういうところを平然と受け入れてくれる女性なんてお前くらいだ」
……なんか素直に喜べないというか、そんなに褒められてないような気がするというか。
でもまぁ、恋仲になったからといって以前のノリが消えないってのは俺達だからこそだと思う。お互い気を遣わなくていいって、凄く理想的だよね。もはや夫婦感漂うけど。
「俺も唯斗と同じ気持ちだよ。ホントよくもまぁ俺なんかを彼女にしたね」
「はは、俺には元々選択肢が無かったからな。もちろんこれから選択肢が増える事もないから安心してくれ」
「……唯斗が俺を捨てたりしたら、俺はきっとあっさり唯斗なんか忘れて他の人とくっつくからね?」
俺がそう言うや、唯斗はこの世の終わりのような顔をした。そして俺の右肩を掴んでグラグラと揺らしてきた。
「お、おいっ、誰か宛てでもいるのかっ……!?」
「い~な~いぃ~っ、じょ~だぁ~ん~っ」
俺はどうあっても男なんか愛せない。唯斗は例外中の例外だ。……そんなの分かってる癖に、唯斗は本当に……臆病なんだから。
……でも、もし唯斗が俺を捨てるなんて事になったら……俺はきっと唯斗を忘れる。いや、何がなんでも忘れなきゃいけない。……そうしなきゃ大変な事になる気がするから。
「……そうだといいが。響は競争率が高いから時々不安になる」
「流石に唯斗以外の男を恋愛対象として見るのは難しいと思う。安心して」
「そうだったな。……いやなに、最近の響は随分と女の子っぽいからさぁ」
「……うーん? 自覚無いなぁ」
わりと前と変わんないというか、現状が無理やり女の子っぽく振る舞ってる訳じゃないから実感が湧かないや。……あぁでも、思い浮かぶとしたらガニ股はもうしてないかも。そんくらい?
「ねぇ唯斗、どの辺が女の子っぽい?」
「……そうだな、例えば今だとグイっと身を寄せてきてるのとかかな。お前、小さくて軽くてふわふわしてるから油断すると抱き締めたくなるんだ」
唯斗に言われて、身体を傾けて体重を唯斗に乗せてるのに気が付いた。男同士だった時はこんな事はしなかった……かな? たぶん。いや、親友同士なら自然なレベルじゃないか?
うーん、わからん……。
とりあえず唯斗からスッと離れて咳払い。膝をパタパタと叩いて間を繋いだ後で話題をちょっと戻す事にした。
「そういえばさっき俺の競争率が高いって言ってたけど、それってマスコット的な人気と勘違いしてるとかじゃないの?」
「それも相まってって感じだな。好き(ライク)が何かのきっかけで愛に変わってる奴が多いと俺は見ている。……きっかけと言うとそうだな……響は男に対して壁が薄いだろ? 一度響と話した事のある奴は自然とお前を恋愛対象として見始めるんだよ」
「へぇ~」
なんか距離の近い女の子って確かにいいものだけど……。試しに男にフレンドリーな女の子を想像してみるか 。…………。
「……びっちじゃん、それ」
自分で言って辛くなった。
「……いや、それはたぶん響の想像の仕方が悪いんだと思う。大方男に馴れ馴れしいだけの子をイメージしたんじゃないか?」
「俺はそんな感じじゃないの?」
「思い返してみろ。響はいつも受け手だ。響から男連中に話すなんてあまり無いじゃないか」
「……そうだったような……いや忘れた」
そういえばこの姿になってから積極性が無くなった覚えはあったけど、なんか普通に喋る人に困らなかったな。
みんなが俺に話し掛けてきてくれてるから? うぬぅ、みんなには申し訳ないが実感が沸かないぞ。
「そういう天然なところに男は弱いのは響だって知ってるだろう?」
「……いや分かるけど、分かるけどさ。なーんか作ってる感ある子よりマジモン臭のある子の威力は絶大だって分かるけどさ。……いや自分がそれじゃ無意味でしょうに」
「紛い物の天然が聞いたらさぞお怒りになるだろうな」
「知らないよそんなの。逆に偽物の天然が好きだって人には悪いけど俺は偽物なんて嫌いだよ」
やっぱりさ、好きになってさ、結婚まで考えちゃうくらいの女の子がいたとしたらさ、真っ直ぐで純粋でちょっぴり味気ない感じの子が良いと思うのよ。……あ、これ愛実ちゃんじゃね?
「唯斗、やっぱり愛実ちゃんだったわ」
「ようやく気付いたか。理想は俺達の手の中にあるのだ響よ」
「これが真実……愛実ちゃんこそ真実……」
理想と現実のギャップに嘆く事は無い。今の時代は逃げる先がある。理想を味わえるツールがある。……と、ここまで考えておいて台無しな話をすると、現実に理想の女の子が現れなくても唯斗がいるから何も問題ないんだよね。
「まぁ俺は響が真実だけどな」
「…………。」
のろけてるってこんな顔なんだろうなって、唯斗の幸せそうな顔を見て俺はそう思った。
本当に、よくもまぁこんなに『好き』を表面に押し出せるなぁ。一応電車の中に他の人だっているんだぞ?
「……俺はさ、唯斗みたいには振る舞えないからさ。……今は反応悪くてもさ、一応ちゃんと伝わってるからさ……えっと……わっ!?」
俺が言わんとしている事が伝わったのか、唯斗は俺をひょいと持ち上げて膝の上に乗せてきた。最近はすっかりここが定位置だ。
そして左腕で俺を離さないように軽く抱き寄せられ、余った右手で頭を撫でられるともう何も考えられなくなる。どうしようもなく唯斗に甘えたくなる。
楽になるように身体を唯斗に預けてピッタリくっつくと背中から唯斗の鼓動が伝わってきた。……ちょっと早くなってる?
「……ふふふ♪ ん……なんか眠くなった。寝ていい?」
「おう、寝れるときに寝とけ」
こうして身体を密着させて、頭を撫でられて、電車に揺られて……こんなの眠くなるに決まってるじゃないか。……ふふっ、唯斗は外出時のベッドだな。すぐに眠くなる安らぎのベッド。……俺だけの♪
「……ありがと。なにかあったら起こして」
「夢の中で先にデート始めるなよ?」
「……流石に電車の中じゃ夢は見れないよ、たぶん」
俺は右手を唯斗のほっぺたに当てて軽く擦った。背中から伝わる鼓動がまた速くなって、俺は小さく笑みを浮かべた。
「おやすみ、唯斗」




