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響さんの日常  作者: ZEXAS
彼氏彼女になってから
84/91

元男による男の為のスパイ作戦! 3




─明治家 リビング

視点 明治響



俺はリビングのソファーに横たわり、色々思い返しながら須藤さん達を待った。

……そう、俺は頑張った。頑張って須藤さん達を家に呼ぶことができた。唯斗に話を聞いてから一週間程掛けて遂に実ったんだ。


一週間と言えば少ないかもしれない。だが、俺にとってのその一週間は地獄のような天国のようなやっぱり少し地獄のような一週間だった。


受けに徹してたせいで女子との話に馴れていた気になっていた。俺から話しかけてトークに洒落込むのはなかなか覚悟の要る行為で、最初は京ちゃんに話しかけるのも厳しかった。

受けから始めるなら結構簡単なんだけど、結局俺が京ちゃんの視界の外でウジウジしてると京ちゃんが俺に気付いて話しかけられるというパターンが続いた。一応自分から話しかけに行ける三島さんや藤矢さんがいかに話しかけやすい女子だったかを実感した有り様だった。


主に部活の時間を利用して京ちゃんに接して3日程経つ頃には、俺から話すのも平気になってきた。相手が京ちゃんだから出来たことだった。

そんな京ちゃんが、3年生の中で特に須藤さんに気に入られてるのは奇跡としか言えない。自然と須藤さんと話すことも増え、遂に勉強会に誘えて、今に至る。


……そう言えば唯斗が言ってたな。緊張してもしょうがないから何も考えずボケーッとしてると良いと。

というわけで、俺はソファーに寝転がってただただボケーッとすることにした。


…………。

………………。

……………………。


「……あれ、兄さんどうしたの? 眠いの?」


「あー、きにしないでー」


博樹が寄って来た。今はとにかく脱力しまくるのが目的だ。受け答えもかなり適当なものになった。


「兄さんの友達が来る時間までまだ少し余裕があるし、眠いなら寝ておきなよ」


そう言って博樹は寝そべる俺に薄い毛布を掛けてきた。

……こ、これはマズい。空っぽの頭に程良い暖かさが気持ちよくて……ほ、ホントに寝ちゃうよ……?


「兄さんの友達が来たらちゃんと起こすから安心して寝ていいよ、兄さん」


あっ……そんな甘い事言われたら理性じゃ止められない……。


…………だめだ。

ねむ……い。

………………すみ……。




・・・・・★




「わぁ~……! ホントに響ちゃん寝てるぅ~……!」

「掛け布団も服も捲れてて……とても凄く無防備ですよぉ……!」

「響ちゃんって家でもおねむさんなのね……」

「でも学校と違ってなんだか新鮮です……」


……うっすらと覚醒する意識。

女の子の声がぼんやりと頭の裏あたりを通り、俺の頭はまた休み時間を睡眠に当ててるんだと認識した。……あれ、でも今日は土曜日だったような……。


「……むぃっ」


なんか、つつかれた。


「あぁ~ほっぺたやわらかぁ~い」


「では私はおててを拝借。……こんな小さくて柔らかい手のどこにあれだけのラケット捌きをさせるパワーが……」


「先輩方っずるいのですよ! 私は……えーと、えーと……えー、太ももを沢山触るですよ」


「わ、私は……膝枕しましょう」


「……あっ、に、姉さん……。どうしよう」


ううん、今日の皆様はスキンシップが激しめだけど、この賑やかさは紛れもなく学校だ……いや、女の子の声しかしない。あといい匂いがする。

……んー、何か変だな。


「に……姉さん、姉さん」


博樹にそっくりな声が聞こえて俺は目を開けた。うっすらと、ここは学校じゃないことを悟っていたが、いよいよもって確信になった。


「……ぉぁぉ」


でも、頭も身体も半分くらいしか起きてないみたいで、『おはよう』すらまともに話せなかった。

直後に知ってる声が入り乱れて、何言ってるのかさっぱり聞き取れなかった。でも、なんだか良さそうな表情をしてる見知った顔が視界に入ってきたから特に問題は…………。


……そうだ、今日は勉強会とは名ばかりの女子会の日だった。




……なんやかんやでリビングにて勉強会が始まった訳だが、正直言って彼女達の勉強についていくのは無理かもしれない。

女の子が集まって勉強会……普通はキャッキャキャッキャと、どちらかと言えばお喋り会みたいなイメージを俺は持っていたりするんだけど、俺以外の波頼女子は格が違った。


各々が各々の勉強したい事に合った資料をいくつか用意していた。

三島さんは表紙だけ見ると化学に関係してるっぽい本。なんかちょっと意外なような。

藤矢さんはなんか英語で書かれている、俺じゃどんな本なのかさっぱり分からない本。流石は帰国子女と言ったところか。

須藤さんは一番特殊なのかな。なんか新聞紙を切ってルーズリーフに貼りまくってる。スクラップってヤツかな。経済に関係してそうな話題が多くあるように見えるけど、やっぱり俺には理解できない。

京ちゃんは教科書出してる。あぁ、同類だ……。素晴らしき仲間だ……あれ? なんかよく見る教科書だな。……3年生の教科書だ。


なんか、今日俺は何を勉強しようとしてたのか忘れてしまった。……いや、こんなん見せられちゃねぇ。こういうのは正直唯斗だけかと思ってたけど……これが波頼じゃ標準的な思考なんだろうなと思うと……ねぇ。


「響先輩っ、今日は響先輩とお勉強できると聞いて、卒業した先輩の方から教科書をいくつか頂いてきたのですよっ。もしよかったら私の勉強を手伝って欲しいのですよっ」


「うん、いいよ」


「やったー♪ 響先輩と勉強なんて滅多に出来ないんですよーっ♪」


「「…………!?」」


何の気なしに了承したら京ちゃんは凄く嬉しそうだった。

……そこまではよかったんだけど、何やら空気がおかしくなったのを俺は感じた。


「はわっ!?」


謎の違和感の方向を向くと、三島さん達がずいっと身を乗り出してきた。


「響ちゃん! 私と電流戦争を振り返らない!?」

「響さん! 株と経済について語り明かしませんか!?」

「響ちゃん! えーと、えーと、新聞ペタペタ楽しいよッ!!」


どうしよう……と思ったのは一瞬の事。最初に京ちゃんと勉強すると決めたからには、女の子達に言い寄られたからといって変えるなんてあってはならない。……別に3人の勉強内容に着いて行けそうにないとか京ちゃんは教科書追うだけで楽そうとかそういうのじゃない。…………。


「ごめんね。俺じゃみんなの勉強に着いて行けそうにないや。教科書ならなんとかなりそうだから、俺は京ちゃんの手伝いをするね」


まぁ、見栄張ったってしょうがないから本音を言っとく。下手な事してボロを出すより馬鹿だと思わた方が圧倒的に安い。


「じゃ、じゃあ私も響さんと京ちゃんと教科書のおさらいをします!」


「……なっ!? わ、私も一緒にやっていいかしら?」

「わ、私もやりたいー!」


「うん、みんなでやろう!」


藤矢さんの突然の切り替えに三島さん須藤さんと続いて乗り出してきた。俺に断る理由は無かった。

……そうそう、これだよ。女の子のお勉強会ってのは簡単なお題目で済ませてキャッキャウフフしないとね。俺は唯斗の言ったとおり女の子イベントにグイグイ飛び込んでくぞ!


「いやーごめんね響ちゃん。私達って勉強は1人でガッツリやる癖があって……。せっかくみんな居るんだし、ゆるーくやるべきだったわね……」


三島さんがそう言ったので、俺は首を横に振った。


「実は俺も初めてなんだ。だから気にしないで。お菓子でも食べながらのんびりやろう。ね?」


「響ちゃん……ありがとっ♪」


「はいっ、響先輩っ! 私は響先輩のお部屋で勉強してみたいですよっ!」


「「────ッ!!!??」」


京ちゃんの発言に空気が一変した気がした。

気がしたというか、京ちゃんのその発言から俺の思考が『もしかしたら女の子が俺の部屋に!?』という発想へ至って、俺1人だけ反応してるだけかもしれない。


……俺は肯定はしないで流れに任せる事にした。




・・・・・★




結局俺の部屋に行くことになり、俺が先導して二階へ上がる途中でみんなの小声が聞こえてきた。


「ひ、響さんの部屋……。お家自体は度々お邪魔することがありましたが……こんなのは初めてです……」


「かつて誰も踏み入れた報告が一切ない未踏の地……。後でみんなに自慢しちゃおーっと……♪」


「響ちゃんって案外趣味の話とか深い情報って出てないわよね……。私だってかれこれ3年目の付き合いだっていうのに……」


「下級生で響先輩の部屋に入れるなんて我ながら凄いのですよっ……♪ この事はしばらく話の種になるのですよっ……♪」


そういえば、唯斗って割と独占欲が強いから俺の部屋に来るより自分の部屋に呼ぶタイプなんだよね。だから俺の部屋って基本的に家族しか入った事無くて、据え置きのゲーム機なんかはリビングにあるもんだから、俺も寝る時以外入らない事も多かったりして。


俺が今の姿になってすぐに殺風景にされてしまった部屋は母さんが俺が我慢できる程度にちょくちょく部屋を弄ってたから、それなりにお洒落で可愛い感じの部屋になってたりはする。俺が散らかす人間じゃない上に、そもそもあんまり物が無いからちょっと生活感が無いけどね。


とにもかくにも、今の俺の部屋は誰を呼んでも恥ずかしくない状態だ。母さんのせいでちょっぴりファンシーな雰囲気だから唯斗を入れるとからかわれたり、博樹が色々察して気遣い精神に溢れた目で見たりしてくるけどね。


階段を登りきって二回右に曲がれば俺の部屋のドアが見える。そのドアを開けて先に入り、みんなを入れた。


「「わぁ~……っ!」」


薄ピンクのカーペットに薄ピンクのカーテン。ピンク大好きヤンキーなら選びそうなので、ギリギリ男でもセーフ……なチョイスに、窓際にあるベッドの上の、デフォルメされた可愛いデザインの狐と狼とライオンのぬいぐるみが見事にトドメをさしている。いや、可愛いぬいぐるみ大好きヤンキーなら持ってそうだからセーフだと今決めた。


ベッドの反対側の方には40インチはある大きなテレビがあり、ベッドとテレビの間には白いローテーブルが置いてある。一応テレビ棚にはDVDレコーダーがあるが、活用されたことはあまりない。

ドアから入ってすぐ右にテレビ、その奥の方には引き戸型の大きなクローゼットとタンスがあり、その中には部屋の景観を崩しかねない物や母さん選りすぐりの服や唯斗の買ってくれた服が綺麗に収納されている。残念ながら男物は一切無い。


ドアから入って左奥にはシンプルな机と高橋から貰った割と高性能なパソコン一式がある。よく唯斗、高橋、藤崎、陸手、俺のメンバーでス○イプしながらゲームをしたりする。

唯斗曰く『ゲームソフトは俺がやるから積みゲーマーにはなるな』と、ゲームソフトのギフトを貰ったりしてる。よく分からんことは詳しい人に任せるのが一番だと、俺は唯斗の言うとおりにして貰ったゲームをみんなと楽しんでる。


「へぇ……意外なようなそうでもないような」


と須藤さん。


「割と何にもないのね」


と三島さん。


「うん。母さんの言うとおりに暫く使わなそうな物は箱にしまってクローゼットの中に入れてるんだ」


そして俺。


「響先輩のベッドに一番乗りですよーっ♪」


そう言った京ちゃんは小走り気味に俺のベッドへ近づき、がばっと潜り込んだ。


「むふふー! 響先輩のベッド……なんだか幸せいっぱいな香りですよぉ……♪」


「あぁっ、京ちゃん! 次私だからね!」


「了解ですよー須藤先輩っ♪」


女の子が俺のベッドに……これは唯斗に自慢できる案件だぞ……なんて考えていると、藤矢さんに肩をちょんちょんと叩かれた。


「藤矢さん?」


「響さん、やっぱりあれってパソコンですよね」


藤矢さんはパソコン本体の箱を指差しながらそう言った。高橋がくれたパソコンはちょっと大きめだから気になったのかもしれない。


「うん、だいぶ前に貰ったんだ」


「アップグレード騒動ありましたよね。響さんのパソコンはアップグレードされましたか?」


「あー、そういえばそんなこともあったらしいね。俺の場合は唯斗が何か弄って対処してくれたから、特に変な事は起きなかったよ。だからあんまり実感なくって……えへへぇ」


「そうだったんですか。……あれ? と言うことはもしかして……森長さんってこの部屋に入った事があるんですか?」


「うん、まぁ。でもウチに来たってだいたいは下で遊ぶからこの部屋に来たことはそんなに無いけどね」


「あわわわわ、け、結構進んでるんですね……」


「……そう?」


進んでる……かなぁ?

互いの家に遊びに行くことなんて前からしょっちゅうあったし、泊まり掛けで遊ぶなんて割とザラだった。

むしろ、女の子になってからは泊まりはほとんど無くなったし後退してる気さえする……。


うーん、今度この部屋に泊めちゃおうかな。そしたら唯斗の残り香とか残っちゃったりして、少し嬉しくなるかもしれない。……なんてね。






前中後で終わらせるつもりがナンバリングする程に長くなってしまいました。

思いのほか女の子達の掛け合いが長くなってしまい、あと2話程ガールズトークが続くと思われます。

本当は博樹さんの部屋で待機してたとか響の部屋のクローゼットに隠れてて、何か感じた響が静かにクローゼットを開けるとそこには唯斗さんが……みたいなのもやろうとしましたが止めました。最後の唯斗関係の響さんの思考はその名残ですね。


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