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響さんの日常  作者: ZEXAS
彼氏彼女になってから
83/91

元男による男の為のスパイ作戦! 2



─波頼高校

─3年C組教室

視点 明治響




「これ以上無い安心感ですよっ、響先輩っ!」


何だかんだで解れて余裕そうな京ちゃんに対し、俺は少し緊張気味だ。いや、同級生なんだし堂々としてればいいんだ。やましいことなんて何も……無くはないけど。とにかく俺は京ちゃんの後ろに着いて俯いた。


京ちゃんは威勢と反して遠慮気味に教室の扉を開けた。でも、Cの人達には何かセンサーみたいな物でも付いてるのか、俺達が教室に入った瞬間に一斉に視線を向けてきた。


「「ぴゃあ……ッ!?」」


発射点はバラバラでも、一方向へ集中した目線は太いものになる。圧というか、なんか凄い凄みに俺達は揃って変な悲鳴をあげた。


「きょーおーちゃーーん! 待ってたよー! それに響ちゃんまでっ! 何かあったのー?」


噂の須藤さんが駆け寄ってきて俺達を纏めてぎゅっと抱きしめてきた。……そうそう、須藤さんはスキンシップが大好きな人だった。俺よか帰国子女っぽい。


「須藤先輩っ、響先輩は先程廊下で会って、せっかくだから先輩方へのお土産にと着いてきて頂いたんですよっ」


ああ、やっぱり生贄なんですね……。そりゃ京ちゃんの負担が減りますもんね……。


「流石京ちゃん! 気が利くぅ~、よしよし~♪」


「恐悦至極にございますですよっ」


京ちゃんの不安だった表情はもはや無い。

須藤さんに頭をなでられてホッとしている京ちゃんを後ろから眺めていると、後ろから急に誰かに腋から持ち上げられた。


「なっ、だっ、誰っ!?」


「響ちゃん捕まえたー! せっかく来てくれたんだから沢山お話してこうよー♪」


後ろから聞こえる声からして女の人だ。

俺は両手を持ち上げられた猫のように足をブラブラさせながら女子溜まりへと連行された。


「キャー! よくもやってくれたわね椎名! ありがとう!」


キャーキャーと嬌声があがる中に椎名という言葉が。……椎名、1年の時のバレーで対峙したB組の中で、特に印象に残ったメガネを掛けた胸が豊かな人だな。背中に当たる弾力性のある何かで確信した。


「わーぷにぷにぃ~!!」


「むぃっ!?」


「髪さらさら~♪」


「太ももがすべすべもちもち……っ!!」


「やっ!? く、くすぐったい!」


降ろされたかと思うとあっという間に女の子に囲まれ、ほっぺたをこねくり回され、髪をわしわしと弄ばれ、太ももをすりすりされ、もう揉みくちゃだった。


ふと京ちゃんが気になって、須藤さんと京ちゃんがいるであろう廊下側の席に目を向けると、向こうも女子溜まりが出来てた。たぶん俺と同じ目に合ってるんだと思う。



・・・・・★



─3ーE組教室



とりあえず今日は須藤さん達と面識を深めた。今日の部活は参加するとして、須藤さんに話し掛けても不自然じゃない筈だ。どんどん友好を深めよう。


それと並行して須藤さんや女子だけがこぞって集まるイベントと場所を確保しなきゃいけない。

……なんか、テニス部の女子更衣室でも良い気がしないでもないが、あんな目に毒な所はダメだ。あぁいう所で色恋沙汰の話なんてしたら俺が色々ちちくり回されちゃう。女子だけが集まり、尚且つ『花園スポット』ではない所じゃないといけない。そう、モラルを大事に出来る所……。


……俺ん家が浮かんだ。絶対有り得ない筈なのに。

我が家の場合は男性比率が極端ますます0に近くなって博樹が可哀想になるが、中学生男子じゃ有害な男と認識されず、恋バナも可能だろう。たぶん。


……よし、とりあえず今後の作戦だ。

まず大前提として須藤さんとそれなりに親しくなろう。京ちゃんとは俺も須藤さんも普通に話せるから、京ちゃんを上手いこと挟もう。

次に家の確保だ。あらかじめ母さんには家に友達を呼ぶかもしれない的な事を伝えておこう。

その後でメンバーの確保だ。三島さんと藤矢さんを呼んで、その後でついでという形で須藤さんと京ちゃんを巻き込む風にしよう。

最後に日程を話し合って、当日は当日の俺がなんとかする!


……完璧なプランだ。後で唯斗に意見を聞こう。……ふふ、抜けがなさ過ぎて思わず感動されるかもしれないな。唯斗男泣き! ふ、ふふっ♪ 今から楽し──


「明治さん」


「……んー」


突然肩を揺すられて、俺の肩に触れる手を目で追う。

……はぁ、今授業中だぞ~? ……あ。


「せ、せんせぇ……」


「やっと帰ってきたか。目を開けたままなんて器用だなぁ明治さんは」


わわわわわ、考えるのに夢中になってて国語の先生の動向に気を配るのを忘れてた。


「ち、違います! 寝てません!」


「ボケーッとするのもダメだぞ。気をつけるんだ」


「はい……ごめんなさい」


「……よし、じゃあ時間も押してるし授業はここまでとしよう。号令」


「なっ、まさ──」

「きりーつ、れい」


慌てて号令に合わせて着席して、ようやく頭の整理というか考えの裏付けを始めた。

……そう、授業が内容が区切りのいいところまで進み、残り時間も微妙なライン。そんな先生の目に付いたのが、明らかに他の人と雰囲気の違う俺。……持て余した時間を見せしめのために使ったんだ。


竹中先生といい、普段は優しくて気の良い先生なのにちょっとイジワルな先生が多いよなぁ。いや、波頼で居眠りなんて愚行をしてる俺が10割悪いんだけどさ。

もしかしたら、あれで優しくしてるのかもしれないなぁ……。


暫く机に突っ伏してうなだれていると、大量の視線のようなものを感じて顔をあげた。


「………………」


俺は絶句した。

なんと俺の目の前から男女問わずの長蛇の列が出来ていた。それも教室の外まで延びてるすごくヤバいのが。

みんな俺の前に来たら両手をすり合わせて去っていく。……わからない、しらない。俺わからない。 


ちょうど高橋が目の前に来たので話しかける事にした。


「……な、なにしてんの?」


「あぁいやなに、藤崎が何も言わずにうつ伏せになってる明治に祈りを捧げてたから、みんな真似してるだけだ」


「……あのバカまた……。俺って伏せしてる方がいいのかな」


「そうしてくれ。机に突っ伏してる明治に祈ることに意味があるのかもしれないからな」


「あぁ……うん。わかった、よ」


……何も考えまい。担がれる御神体は物言わないのが正しいんだ。でもあの列、外まで延びてるし見かけた人まで巻き込んでたらこの休み時間内には終わりそうもないぞ……。


ふと気になって唯斗の方を見ると……やっぱりこっち見て……ちょっと笑ってないかあれ? くそう、俺はお前に用事があるってのに。


仕方が無いので俺は寝ることにした。高橋の言い分だとうなだれてたり落ち込んでなきゃいけないのかもしれないけど、そこまで面倒みきれない。


次の授業が始まる頃には先生が列を散らし、謎の参拝騒動は終結した。


ほんと、みんな頭良い筈なのになんでこうもバカみたいな事するんだろう……。

なんて失礼なことを考えたが、結局成績はみんなの方が俺よりずっとずっと上だ。頭の構造とか住む世界が違うんだろうと、俺は無理やり納得することにした。




★ ★ ★




─住宅街




帰り道で俺の考えた今後の作戦を唯斗に話してみた。唯斗なら足りない所や改善案を出してくれる筈だ。……そうでなくても、少し褒められたい。


「……だいたいの流れは問題ないな。もう少し親睦を深めてもいいが、今日にでも美代さんに家を使いたいって言っておいてもいい。三島さんと藤矢さんに関しては問題無いな。一応その2人の予定が合わない時の為に須藤さんと京ちゃんって子との会話はよく馴らしておくこと。この作戦は何よりも響が女性との会話が出来てなきゃいけない。暫くは積極的に女性と話すようにしないとな」


「……うぅ、やっぱりかぁ」


……逃げたい気持ちはある。だが、これは1人の男子高校生の心の平穏の為の事なんだ。俺にしか出来ない事なんだ。俺がやらなきゃ誰がやる! ……って程の事でもないかもしれないけど、前に唯斗が言ったとおり、これは俺にとって必要な事でもある。


そう、俺はこの試練を超えて更なる高みへと向かうのだ! 元男でありながら女の子と話せるごく普通の女の子へ……!

そして男子高生ライフを送れない代わりに女子高生ライフを送るんだ! 残り一年だけど!


「唯斗! 俺……俺っ、やり遂げる! このチャンスをモノにするっ!」


俺の言葉を聞いて、唯斗はただ優しく微笑んで俺の頭を撫でてくれた。こんなに心強く優しい味方がいることを、俺は改めて実感した。





★ ★ ★





─波頼高校 廊下



「……ふー」


昨日唯斗と話してあんなに気合い入っていた筈なのに、俺はなんだすっかり冷え込んでいた……。

結局のところ、思うのは簡単だけど実行に移すのは凄く難しいのが分かった。ただ女の子に話しかけるだけだと言うのに、すんごく難しい。


……どうすればいい?

三島さんや藤矢さんに話しかけて、慣らしたら次に京ちゃん、そして須藤さんって感じでゆっくりと階段を上がる?

いっそエレベーター式というか、女の子達がたまにやってて俺もされた事のある抱きつきを俺からやって無理やりメンタルを鍛える?


……どっちにしてもハードル高いなぁ。というか俺から抱きつくのは無理だ。


「響先輩~っ!」


元気で明るい声で俺の名が呼ばれる。その声がした方から足音が近づいてきて、そっちを向けば手を振りながらとてとて歩いてくる京ちゃんがいた。


「京ちゃん」


「にちわーですよ、響先輩っ。なんか最近廊下にいますね。ここには何かあるのですかっ?」


俺がもたれてる柱をペタペタと触っている無邪気な京ちゃん。


唯斗が前に言ってたんだけど、廊下とかで俺に人集りができないのは俺の移動の邪魔にならないようにと、あらゆる生徒のみなさんが目を光らせているからなんだとか。

俺が教室から出る時って基本的にトイレに行くときくらいだから、『みなさん』それを知ってての行動かもとも言ってた。……コワイ。


一見普通のエリート高校の廊下に見えて、凄まじい牽制眼光の飛び交う中で平然と俺に話しかけても『みなさん』からのお咎め無しなのは、この無邪気で天然な京ちゃんだからこそなのかもしれない。京ちゃんを見てて俺はそう思った。


後輩かつ女の子というより見守るべき娘な感じの京ちゃん……もしかしたら俺が話しかけるハードルは低いのかもしれない。


自然と、俺の手は京ちゃんの頭に伸びた。

ちょっと癖っ毛に見えて、触るとサラサラしてて気持ちいい。


「……わわっ?!」


七海と母さん以外の女の人の頭を撫でたのは初めてかも。……母さんは頼まれて撫でただけだから、心から撫でたわけじゃないけど。


「ひ、響先輩っ、こっ……これは何ですよっ!?」


「京ちゃん、なんだか妹みたいだなぁって思って」


この身体になってからは七海は変なところが出来ちゃったけど、それでも甘えん坊で俺を慕ってくれているのは変わらない。

京ちゃんは七海とは方向性がちょっと違うけど、俺にもう一人妹が居たらこんな感じの子が良いなぁって気にさせてくる。……京ちゃんが年上に人気な理由が分かった気がする。





★ ★ ★





─明治家 リビング



夕飯を食べ終え、七海がお風呂を出た後で入れ替わりで入って、俺も上がったら博樹と入れ替え。

そして多分効果は無いけど牛乳をコップ一杯一気飲みした後で、ソファーに座ってテレビを観ている七海の横でダラダラと携帯ゲームをしている。


……ふと、学校で京ちゃんの頭を撫でた事を思い出して七海の頭も撫でた。


「お、お兄ちゃん……?」


久々に七海からお兄ちゃんって言われて俺は何か身体の底から湧き上がるものを感じた。

七海は俺のペースで接するとポロッと『お兄ちゃん』って言ってくれる事がある。やっぱりそう呼ばれると凄く嬉しい。自然と笑みがこぼれる。


「もうっ、お返し~♪」


撫で返されたので、今度はもう片方の手で七海のほっぺたをつついた。……ぷにぷにで柔らかい、ちゃんと女の子の感触だ。


「えへへぇ~♪」


女の子に触れてるっていう背徳感がちょっとだけあるけど、妹だからという理由でいい感じに中和されてる。可愛い妹とのスキンシップは兄の特権なのだ。妹が拒まない限り合法なのだ。


「あーんもうっ、おねえちゃんっ!」


「わっ!?」


ちょっとやりすぎたのか、今度は七海に抱き寄せられたかと思うと目一杯に頬ずりされた。

そして思いっきり抱きしめられた。女の子特有の柔らかな感触とお風呂から上がってそんなに経ってないせいか優しい匂いがした。


「おねえちゃんおねえちゃん! 今日のおねえちゃん何だか凄いっ! おねえちゃんっ! あぁダメ……っ、かわいい……っ!!」


俺から抱きしめるならまだしも(やったことないけど)、七海優勢での過剰なスキンシップを取られるのは兄の尊厳に関わるので大抵は拒む。

……でも今日は一切拒まない。受け入れてしまえば結構良いもんだし今後も拒まないかも……というのは置いといて、今は拒まない。


妹とはいえ女の子。女の子とのスキンシップはとにかくしておかなきゃいけない。今はとにかく女の子に慣れなきゃいけない。七海は高校生級とまではいかないかもしれないけど身長が高いから割と都合がいいんだ。……決して、七海に身を任せるのが案外よかったとかそういう訳じゃない。多分。


「あらあら~、2人だけズルいわぁ。私も混ぜてぇ~」


フッと母さんが湧いて出てきた。

七海は俺を庇うように、隠すように包んできた。


「ダメー! 私とおねえちゃんの愛の営みはお母さんだって邪魔しちゃダメなの!」


「……変な言葉を覚えちゃったわねぇ。響が教えたのかしらぁ?」


「ん? 何が?」


「……そうね、響が知ってるわけないか。七海ぃ~? 変なドラマの変な言葉を意味も知らずに使ってると後で大恥を掻くわよぉ? 気を付けなさいねぇ?」


そう言って母さんは台所の方へ戻っていった。


なんか無知の烙印を押されたみたいで腑に落ちないけど。言動から察するに知らなくてもいい言葉だったみたいだ。

案外、エロいこと大好きな雰囲気を出しまくってる男達より女の子の方がイケナイ知識が豊富だったりするのかもしれないなぁ……なんて考えていると、なんだかクラスの女の子をまともな目で見れなくなりそうになったから考えるのをやめた。


女の子は何というか、純真であってほしい。もちろん七海も無垢で可愛い妹であってほしい。……まぁいずれは大人になっていくんだろうけど。

とりあえず今の七海はセーフっぽいけど、ちょっと危ないかもしれないなぁ。お兄ちゃんはとても心配だ。


……女の子ってたまに俺の知らない言葉で盛り上がったりしてること多いけど、あれ全部エロトークだったのかな。……俺、変な受け答えしてなかったよね? めちゃくちゃ不安だ。







実は作者、投稿せず適当に書き続けている話が後3つくらいあるのですが、その内の一つがノンプラトニック(仮題)の長編リメイクなんですよね。


レイチェルさんが酒場の家族と知り合うきっかけから書き始めてたりするのですが、現在投稿されているノンプラトニックを読んでいただくと分かるとおり、レイチェルさんは朝チュン式で直線的な描写こそありませんが色々ちょめちょめされて、その後も徹底的にちょめちょめされる運命なんですよね。


長編リメイクにあたり、作者が今一番迷っているのがノンプラをノクターンとして書くかチー彼式にヤラレチャッタ(過去形)で済ますかです。

どっちも書いてて楽しいのは間違いないのですが、如何せん経験不足なもので、舵切り出来ずにいます。その辺のアドバイスや要望などを頂ければ幸いかと思います。……どの道暫くは投稿できそうにありませんが。


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