文化祭 中編
あーとっくにすーぎーたーお正月ぅー♪
(クリスマスに上げてサプライズだ! クリスマス用番外編を書いてもいいなぁ)(年末に上げ以下略)(年明け第一発!)
……先月の心境とはなんだったのか。流石にだらけすぎましたね。
いまだにお休み気分が抜けてない有様でございます。
ー波頼高校2年E組(裏)
ー兼ヒーリングエデン(裏)
視点 明治響
お昼前には俺と唯斗は教室へ戻り、着替える為に準備室へ入っていた。
何故か今の時間帯のシフトじゃない奴らまで準備室にいるみたいなんだけど気にしちゃいけない。
この準備室には服屋さん的なところにあるようなミニ更衣室が3つ程あったりする。俺と唯斗はそれを利用し着替える訳だが……
「響、ちゃんと着替えられるか?」
「うーん、まぁ一応」
正直ちょっと不安。
「響ちゃん、俺が手伝ってあげようか?」
なんの悪気も無さそうな表情でそういうアキタ。暴走しそうな他の人に比べて今のアキタならちょっとだけ信用できる気がするが……
「それは俺の役目だそ陸手リア!」
「ふふん、エロ魔人の藤崎には任せられんな。あとリアつけんな」
「エロ魔人って言った奴がエロ魔人だぞ陸手リア!」
「エロ魔人って言った奴がエロ魔人だぞって言った奴がエロ魔人だぞバーカアーホドジ間抜けー! たびたび申し訳ないがリアつけんな」
「オウム返しとは芸がないな陸手リア」
「人の話を全く聞かない奴に言われなくはないね」
「「ぐぬぬぅ……」」
あぁ、また馬鹿始めた……やっぱり信用はできないかも。
「じゃあ着替えてく……」
「私が響さんの着替えをサポートします」
「え? 藤矢さん?」
ちょっとちょっと! なんで着いてくるんですか!?
「「藤矢さんなら安心だ」」
ちょっと皆さん満場一致しないで!
「ご、ごめんね藤矢さん。お世話になります」
俺も何を言ってんです!?
……まぁ自分で出来るか不安だったしやっぱりいいのかな?
シャー
シュルル チャキチャキ スルスル パッ
ササッ ピシッ カポッ
シャー
「「おおおお……!」」
「……? ……?」
一瞬の出来事で何が何やら頭が着いていかなかった。
脱がされたと思ったらもう着せられていてみんなの前で御披露目なんだもの。
「流石は藤矢さんだ。手が早い」
不意に横から唯斗の声が聞こえたのでそちらを向くと、ウェイターの服に着替え終わった唯斗がいた。
「森長さんには負けますよ」
「え? ……え?」
よくわからない。
よくわからないけど何か僕の知らない凄い何かが起こったんだよきっと。違いない。
「しかしユイトスも酷いよなぁ。着替える側と着替えさせる側では勝負にならないだろうに。手加減してやれよ全く」
高橋がそんなことを言った。
「悪い悪い」
え? 何? 勝負なのこれ?
「響、『エリートたるもの早着替えは当たり前』だぞ」
あぁ……
「そっかぁ……」
…………。
くそ! なんでもかんでも『エリートたるものうんたらかんたら』ってやれば良いってもんじゃねぇんだぞ!
「にしても、やっぱり良いなぁメイド服着た響ちゃん……」
「DJ、さっきは悪かった」
「いやいや、こちらこそ大人気なかったなリア」
アホ2人が和解してる……。いや、さっきのも喧嘩というより単なるおふざけというかダル絡みだったんだけど……。
「さて、そろそろ響ちゃんの担当の時間よ。オーダーの取り方と接客は練習で見た限りじゃ大丈夫みたいだったけど、今日は外部からの全く見知らない人も来るわ。大丈夫?」
「うん、任せてよ」
俺の返事を聞いた三島さんは俺の頭に手を置いて撫でてくれた。
「よしよし、テンパりそうになったら無理せずに周りの人に助けを求めてね」
「もう、子供じゃないんだからそんな心配しないでよ三島さん」
「ふふっ」
★ ★ ★
……うーん。忙しい。
まず準備室を出たら既に惨劇は始まっていた。
満員御礼、ウジャウジャ、ごった返し。とにかく全席が埋まっていた。準備室に入る前はこんなんじゃなかったのに。
流石の俺も薄々そんな予感はしていたが、まさか本当になんの捻りもなくこんな光景を目の当たりにした時は頭を抱えたよ。
そして何故か突然リンリンリンリンと教室中に響き渡る鈴の音。偶然なのか俺が出てくるところを狙っていたのかは考えないでおこうと思った。
もちろん俺はオーダー取り役なのでいかなきゃいけない訳で……。そんなこんなで今は注文を聞きにあせあせと回っているところだ。
「俺タイムリーランチ! (健気だなぁ)」
「僕もそれにしようかな (可愛いなぁ)」
「じゃあ俺もー (…………)」
「今の時間帯のタイムリーランチはオムライスとなっておりますが宜しいですか?」
「大丈夫だよー(膝上スカートエロいなぁ)」
「(あああ……あの響ちゃんが健気に敬語で接客してくれてるだけで……!)宜しいです! はい……」
「いいですよー (……………)」
「他に何かご注文はございますか?」
「い、いえ、大丈夫ですっ(あああ……響ちゃんの前でこんなしょうもない対応をしてしまった~!)」
「同じく(写メ撮ってもオッケーかな……)」
「俺も大丈夫かな(……………ああ! よく保ってくれた俺の平常心!)」
お客さんとしてくる同級生の中にはあたふたする人もいた。本来あたふたしちゃいけないのは俺の方で、お客さんは堂々としてていい筈なんだけどね。ちょっと面白いかも。
「かしこまりました。ご注文のメニューは完成次第お持ちしますので少々お待ちください。それでは失礼します」
もはやバイト先にて定型文となった接客を済ませ次のオーダーを取りに……行く前に裏へ連絡っと。
「『えーこちら明治。イエローにタイムリーランチ3つお願いしまーす。イエローにタイムリー3つでーす』」
『こちら森長。イエローにタイムリー3つ了解です。……まぁなんだ。頑張れ』
……エールはありがたく受け取った。が、現はかなりキツい。正直キツい。
お客多すぎんよぉー! 昼飯目的なのかメイドさん目的なのか知らんけどこんなのあんまりだよぉー!
……なんて叫べないのは当たり前。次のオーダーを取りにいかないと。
「お待たせしました……って、高橋に藤崎に陸手じゃないか」
気を引き締めオーダーを取りに行った先には高橋と藤崎とアキタがいた。
「よう、明治。頑張ってるみたいだな」
「うーん、このメイド服のスカートは響ちゃんの学生スカートより短いだけあって目のやり場に困る……困らない!」
「来ちゃった(はぁと)」
高橋は良いとして残りの2人!
このスカートの短さは俺も気にしているんだぞ! 膝より高いなんてメチャクチャだ! こんなエロチックなメイド服を用意したのは誰だ全く!
まぁ善意で用意してくれたんだろうからあんまり文句は言えないんだけど。
それとアキタ、男が『来ちゃった(はぁと)』は無いと思うよ。
「おぶっ……自分でやって気持ち悪くなった」
「何自滅してるんだこのアホ!」
何やってんだか……
「おいおい……あ、それで注文は?」
今回は馬鹿に構ってる暇は無いんだ。ササッと済ませちゃおう。
「ちっちっち、響ちゃん、そんな接客じゃダメだぞ~。もっと丁寧にしなきゃ」
「あ、ああ……うん」
正論、正論なんだけど……藤崎に言われるとちょっとムカつく。藤崎には悪いけどムカつく。
「……えー、こほん。ご注文はいかがになさいますか?」
「「…………ッ!!!??」」
「…………あれ? お客様……?」
せっかく素直に敬語で接客したってのにみんな黙っちゃった。
「(こりゃあ金の成る木だな、うん)」
「……結婚してください!」
「ナ~イス、ナ~イスですよ~」
藤崎は置いといて、なんだアキタその変なポーズは。全然ナイスじゃない。高橋はうんうん頷いてるし。
「お客様、ご注文がお決まりになりましたら再度呼び鈴を鳴らして下さい。失礼します」
「あああ待って! 今すぐ言うから!」
アキタが慌てて俺を止めた。
馬鹿に付き合ってる暇は無い。他の人を待たせない為にもこうやって慌てさせてやるしかないんだ。許せ。
「マジで客が詰まってるんだ。頼むぞ」
「(俺がもっと2人を制御してやればよかったかな……すまん)」
「(いつになくツンツンしていらっしゃる。素晴らしい!)」
「(ここでふざけて久々にお叱りを受けたいところだが流石にやめとこう)」
シフトの時間になって30分くらいが経過した。
相変わらず客は次から次へとやってきて席は常に満席。大変ってレベルではない。
実はこの予想外な繁盛ぶりにクオリティ低下を恐れて本来1時間前の時間帯の人達にも手伝ってもらっていた。俺と唯斗は助っ人としてこの時間帯にいる。そして元々12時からの人もいるので、現在のスタッフは8人もいたりする。
唯斗も途中から裏方でなくオーダー取りや料理運び役として参加し、オーダー兼料理運び役は俺と唯斗の2人。
1時間前のシフトの人達は会計1人と裏方2人で分けられ、現在のシフトの人達は料理運び役1人と裏方2人で分けられている。
そしてこんなんでも空席が出ることは無い。
もうね、自分より裏方で働いてる人達がずっと可哀想になってくるよ。みんな根のところはクソ真面目だから休むことなく当然のように全力でやってるから余計に……ね。
性ってやつなのかな。
「お待たせ致しました、ホットケーキといちごミルクになります」
「ありがとう。大変ですね響さん」
そう心配そうに言ってくれるのは藤矢さん。
このお昼時に甘いものといちごミルクとはなかなかシャレオツな人だ。これが令嬢か。
「まぁね……。っと、知り合いが来るとすぐ敬語を忘れちゃう……ダメダメだね、俺」
「ふふっ、響さんはそれで良いと私は思いますよ。なんだか嘘がつけなさそうな感じがして私的には好印象です。(やっぱりいいなぁ……可愛いなぁ……)」
流石社長令嬢は相手の気分をよくさせるのが上手い……。
「ありがとう藤矢さんっ。俺、頑張れそうな気がしてきた。今こそ気合い入れなきゃね♪」
そうだ! 裏方のみんなの負担を少しでも減らす為に俺が頑張んなきゃ!
……よーし!
「お力になれたようで私も嬉しいです。無理のないように頑張って下さいね」
「うん、ありがとうっ。じゃあもう行くね」
「はい♪ (はぁ~この笑顔~♪ 御馳走様です~♪)」
ー屋上
藤矢さんのエールもあって何事もなく時刻13時を迎えることができ、俺達は13時からの人達へ役目を渡すことができた。
そして、俺と唯斗はなんとなく人のいない場所でゆっくりしたかったので屋上で休憩することにした。
「ふぃー、やっぱここは良いな。なぁ響」
「そうだな。なんか落ち着くなここは」
他の誰もいない、俺と唯斗だけの空間。人の目を気にせず本当に気を許せる人とくつろげる空間。
多分世界中で三番目くらいに好きな場所。
「とりあえずお疲れ様ってとこかな?」
「夕方…… 」
「言うな、響」
夕方もあるんだけどって言おうとしたら言葉で遮られた。
「……ん? 流石の唯斗もちょっと辛い?」
「いや、俺はどうってことないさ。ただなんとなく嫌なだけだ」
「ふーん……?」
俺がそう疑っていると、ポンと頭に手を置かれた。
「…………」
抵抗しないでいると今度は持ち上げられ唯斗の膝の上に置かれ、そのままお腹の辺りに腕を回され抱かれた。
「……なんだ?」
流石に恥ずかしいので軽い抵抗の意味で身体を揺さぶった。
「何でも」
「なんでも無い訳ないだろ。恥ずかしい」
そう言いながらも俺は身体を揺さぶるのを止めて唯斗にされるがままにしていた。
我ながら立派に唯斗の恋人をしてると思う。
「……ああ……こうしてられるなら正直もう文化祭なんてどうでもいいや」
珍しく優等生らしからぬ発言。
「そういう訳にはいかないよ」
「はは、響の方が偉いな。でもお前だってずっとこうしていたいだろ?」
「…………」
そりゃまぁ…………なんて言えない!
ふと上を見て唯斗の表情を伺うと、なかなか良い笑顔でこちらを見ていた。
「……そ、そういうことにしてやろう」
「痛み入りまする。姫」
「姫言うな」
★ ★ ★
「んぅ~……?」
……やばい……寝てたっぽい……。
「おお、起きたか」
上の方から声がしたので見上げてみると唯斗がこっちを見ていることに気づいた。
「わっ!?」
「ごふっ……」
思わず俺は飛び上がってしまい、その結果俺は唯斗の顎に頭突きしてしまった。
唯斗の地味に痛そうな声が漏れた。
「……あたたた……唯斗の顎ちょっと硬い……」
「……こっちはクリティカルヒットだぞ……」
「あっごめん! 大丈夫……?」
「いや……大丈夫だ……」
「ホントごめんな……びっくりしちゃって……」
「気にすんな」
「……ありがと」
気にするなとは言われたもののこのままではなんだか申し訳ないな。
……よし。
「響?」
俺は一度立ち上がり、唯斗に向き合った。
俺がいくら小さかろうと立ち上がれば胡座を掻いて座ってる唯斗よりは高い。
「ちょっとじっとしてて」
俺は手を伸ばして唯斗の顎をさすった。
「何を……」
少しの間唯斗の顎をさすって、再び唯斗の上に座った。
「こんなことしか出来ないけど……少しは良くなったかな……?」
もちろんそんな事はないと思う。
「ああ、良くなった。ありがとな響」
でも唯斗は当然のように優しく返事を返して頭を撫でてくれた。
俺はもしかしたらこうされたかったのかもしれない。
「実はな、響が寝始めて少ししたら俺も寝ちまったんだ」
「そうなの?」
「今日は程良く暖かいってのもあるのかもしれないが、なんかこう響の体温が心地よくてなぁ。2人とも寝たら危ないから寝ないようにしてたんだが……」
「しょうがないよ。俺も唯斗が暖かくて寝ちゃったんだもん。今も暖かくて……ちょっと眠い」
「呑気だなぁ。俺なんかこの状況に謎のエロスを感じて完全に目が覚めたってのに」
「この状況に? 俺には分かんないなぁ」
「紳士は業が深いのさ」
「訳わからん」
「響はそれでいい」
「……?」
きっと頭の良いバカにしか分からない何かを唯斗は感じたんだろう。
「ねぇ唯斗」
「ん?」
「もう少しこのままいたい」
「いいぞ。むしろそうしていてくれ。でも寝るなよ?」
「えへへ~♪ ありがとう」
身体の背面から伝わってくる唯斗の温もり。これは俺をおかしくする。でも不思議ともっと感じていたくなる。
……俺ってこんな甘えん坊だったかな。
「唯……」
「……?」
「いや、なんでもない」
さっきみたいに抱きしめてほしい……なんて言葉が喉元辺りにくる前に俺は声を留めた
恥ずかしさでどんどん体温が上がってきた気がする。
「どうしたんだ響? 赤いぞ?」
「な、何でもない」
どんどん頭がごちゃごちゃになって、どんどん頭が冴えてきた。
そしてこの状況の異常さに気付いた。
唯斗の言う『エロスを感じた』とは違うけど、多分似たようなものを俺も感じた。
ぽわぽわしてた頭はあっという間に吹き飛び、恥ずかしさというかむず痒い何かが溢れてきた。
今すぐ唯斗から離れなきゃ。でも離れたくない。
そんな感じのがぐるぐる回って体温の上昇は加速した。
「だ、大丈夫か?」
「……っ!」
唯斗が俺の額に触れた。ただそれだけ。
それだけの筈なのに、何かが身体を通ったような感覚に驚いて俺は目を瞑った。
「熱は無いようだな」
「…………」
「響? 本当に大丈夫か?」
「う、う…ん……」
嬉しい、辛い、嬉しい、辛い。
俺にはまだ分からない感情の波がぶわんぶわんと流れてくる。
説明はできないけど何で嬉しいのか、何で辛いのかは何となくわかる。
「唯斗……」
唯斗の名前を呼ぶ。それだけで辛いのが少し薄れた。
ああ、やっぱりそういうことなのか……。
「な、なんか欲しい物はないか? 持ってくるから」
ちょっと焦り気味の唯斗……ちょっと可愛いかも。
って何を考えているんだ俺は!
「何も要らない。このまま……しばらくこのままここに居たい、唯斗と2人で」
嬉しいのは唯斗が俺を大切にしてくれるから。その気持ちの片鱗を見られるだけで俺は幸せになる。
辛いのは素直になれないから。唯斗の優しさに素直に飛び込めなくて逃した幸せは山ほどあった。その時の俺もどこかで気づいていた筈だ。
決めたんだ。ずっとはまだまだ俺の心的に無理だけど、今は甘えて甘えて甘えまくろうと。その方が楽になれる。
「(……辛抱できるだろうか。こんなに甘えられて。今にも爆発しそうだ。……でもそれはまだしちゃいけない。あああっ!! 神様のバカ響のバカ俺のバカ! 凄くムラムラします!)」
「……!」
唯斗は俺を強く抱き締めてきた。
俺は唯斗の腕に手を当てて受け入れた。
「さっきより暖かい」
「響も暖かいぞ」
俺の背中と唯斗の身体を遮る物は服しかないくらいに俺達は密着していた。
「響、今何時?」
「えー……3時くらいかな」
よく考えると結構寝たな俺達。
「夕方のシフト、サボっちゃおうか」
「えっ? う、うん……♪ じゃなーい! 流石にダメだよそれは!」
「冗談だ(……半分な)」
ちょっとだけ……ちょっとだけだけど、俺もサボりたいなぁ……なんて考えちゃっていた。
「じゃあもう少しだけこのままでいてさ、気が向いたら適当にそこらをぶらついてさ、その後で教室に戻ろうか」
「うん」
結局4時過ぎまでここにいてまともに店を回れなかったんだけど、不思議と後悔はしなかった。
文化祭というイベントをポイしてまで選んだ恋人とのヒトトキ。なんだかとっても贅沢だなぁ……なんて考える程なんだもの。
文化祭は学生である今しか楽しめないかもだけど、学生でありながら文化祭より恋を優先するっていうのも今しかできないもんね。




