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響さんの日常  作者: ZEXAS
彼氏彼女になってから
74/91

文化祭の準備



最近完全に月イチ投稿に……

お待ちして下さってる方々の為にも少しは間隔を縮めたいものです……



ー波頼高校(二年E組)

視点 明治響



修学旅行から帰ってきた翌週から休む間もなく始まった文化祭の準備に俺は四苦八苦していた。

修学旅行を共にした同学年の連中はって?

奴ら一切辛そうにもせずにキビキビやってるよ。全く大した優等生達だ。


『エリートである以上、切り替えは素早く』とのことだけど……ちょっと俺にはまだ……ね。

凄いんだもん。普段接してる分じゃ普通の人達なのに勉強やこういう行事になると人が変わったようにエリートエリートしてて……そう、ギャップがね……。


ところで、そんな優秀な方々に囲まれていながら何故四苦八苦しているのかというと……。


「「きゃー! こっち向いてー!」」

「「響ちゃーー! ピースピース!」」


「は、は~い……」


そう、今は絶賛撮影会。


2ヶ月程前のこと。

LHRロングホームルームの際に文化祭では2年E組は何をするかを多数決やらで提案していた。そして喫茶店の案が出た途端、提案のハズが満場一致で喫茶店に決まった。


俺としても反論する理由は無かったので流されるように喫茶店に票を入れた。今は間違いだったんじゃと思ってる。


別に喫茶店って時点なら問題は無かった。でも藤崎が『喫茶店と言ったらメイドさんでしょ!』といった途端に空気が変わった。

まるで当然のように反論する人は現れず、まるで当然のようにメイド候補に俺の名前が挙げられ、まるで当然のように俺以外満場一致で決められてしまった。


流れ作業のように淡々と素早く進められていき、まともに反対も出来ないまま決められたその時は策略というか計画というか、なんかそんな感じのものを感じた。


……とまぁそんな訳でメイドさんの役となった俺。そして文化祭の準備の時間であり決して文化祭の日でもないのにメイド服を着せられた。

その結果がこれ(撮影会)だ。


「「も、もう撮るだけじゃ我慢できない!」」


え!?


「抱っこしてあげる~」

「……ひゃっ」

「ほっぺたすりすり~♪」

「むぃ~っ」

「私は太ももすりすり~」

「……っ……や、やめてくだっ」

「あぁ~おなか良い~♪」

「……やぁ~っ」


暴走しだした女子達はあっという間俺を囲み、もみくちゃに色々してきた。

俺は急な出来事に逃げることも避けることも出来ずただ弄くりまわされた。


「オラオラ女子共やめいーい! 男共が羨ましが……響ちゃんはこれから大事な仕事があるだろ!」


藤崎の一言で俺を囲む女子台風の外側にいる女子達が藤崎へ糾弾を一斉射撃した。

案の定というか、もう馴れているのか藤崎は全く動じた様子も見せずに言葉を続けた。


「今お前達が響ちゃんを虐めている間にも高橋や三島、唯斗氏や藤矢さんの四人はこのクラスの為に喫茶店の宣伝をし美しい汗を流している! それだというのになんだお前達は! これからその宣伝に加わる響ちゃんに寄って集ってモミモミスリスリと! 自分を恥ずかしいとは思わないのか! 響ちゃんに申し訳ないと思わないのか!」


なんというかまぁ……藤崎の癖に滅茶苦茶正論ですな。反論の余地がないせいで女子達も黙ってるし他の男共もうんうん頷いてるし。


だが藤崎よ。お前は俺の半分味方だけど半分敵なんだ。

確かに女子達にされるがままもイヤだけどこの格好で学校を歩き回るのもイヤなんだもん。


そう、今まさに俺は究極の2択を迫られていた。


「そ、そうだわ! 響ちゃんの意見を聞かないと!」


……お気づきになりましたか。


「なるほど。響ちゃんはどう思ってる?」


「あぅ……えっと……」


俺としてはこの格好で人目に触れるのは大変よろしくない。でもそれは元男だからそういう気持ちになってしまうだけで、女性であるならきっと別な考えを持つハズ。


「「響ちゃん」」


だ、だから客観的に考えると宣伝にいくのを良しと思うのが普通……う、うーん……。

で、ででも……やっぱりこの格好はイヤ……でも……


「……うぅ~~~…………!」


ボッ

プシュー


「「(あ、ショートした)」」


「ふ、藤崎君が問い詰めるから響ちゃんが固まっちゃったじゃない!」


「いやいやおかしいでしょその発想!」


「「あーだこーだ」」


「「…………」」


「「……か、可愛いなぁ」」




★ ★ ★




ー波頼高校(三階廊下)



「はは、そりゃ災難だったな」


あの後唯斗が宣伝用のチラシを取りに戻ってきて、ショートした俺の頭は取りあえず唯斗の腕にしがみついて教室から退散することなんとか思いついてくれた。

唯斗の腕を抱きしめている内に俺の頭は唯斗に礼を言うくらいには落ち着きを取り戻していた。


そして今、経緯を聞かれたのでありのままの事を言ってみれば軽く笑われた。全く呑気な奴だ。


「まぁ確かに響のメンタル的にその格好で出歩くのはなかなかキツいかもしれないな」


「それですよ全くもう……。只でさえ目立つのに……。そういえば唯斗は恥ずかしくないの?」


実はこの宣伝に関わる人はだいたい指定の衣装を着せられている。

俺はもちろん三島さんや藤矢さんもメイド服。そして唯斗や高橋はホテルのボーイ風というか、Yシャツにベストにスラックスとオシャレにビシッとキメている。

俺から見ても結構カッコ良く見える格好だが、出歩くのに勇気が要るのは変わりないと思う。


「恥ずかしい? どこが?」


「え……?」


「この格好なんか紳士っぽいというか、そうでなくても誠実性というか良いイメージが湧かないか? その格好を恥ずかしいだなんて思わないぞ俺は」


なるほど、言われてみれば確かに。


「うん、唯斗の言うとおりだ。しかも良く似合ってる」


「そ、そうか?」


「かっこいいよ、唯斗♪」


「は、はは……面と向かってそんなこと言われると流石に照れるな……」


「えへへっ」


うんうん、俺の彼氏は世界いちぃぃ! ……なんちゃって。

全く毒されちゃってるな、俺。


「っとと、浸ってる場合じゃなかった。今は宣伝しないと」


「うん」


「今三島さんと藤矢さんは施設棟の方へ行ってて高橋はこの棟二階を回ってる。俺は四階を回るから響はこのまま三階を回ってくれ」


「……う、うん。大丈夫、任せてっ」


どうせなら2人で回りたかったんだけど……仕方ないよね。


「(な、なんだろう。とんでもなく罪悪感を感じるぞ……)」


「唯斗……?」


唯斗は突然俺の前へ立ち、しゃがみこんだ。

少し顔が熱くなった気がした。


「ちょっとの辛抱だ。カカっと終わらせて戻ってくるから頑張ろうな」


そう言って唯斗は俺の頭を撫でた。


「あ……」


ついボーッとしている内に唯斗は立ち上がって階段の方へ向かっていた。


「唯斗!」


咄嗟に出た俺の呼び声を聞いて唯斗はこっちに振り向いた。


「頑張って!」


「……。おう!」


自分でも驚くくらいに自然とそんな言葉が出ていた。

唯斗はいい返事を返して階段を上がっていった。


「はふぁ~……」


今になって恥ずかしさがこみ上げてきた。

さっきの俺の行動や言動はまるで……。……あんまり考えないでおこう。気にしちゃいけない……うん。


……さて、どうしたものか。これから喫茶店の宣伝の為に三階を回らないといけない訳だが……。

ちなみに二階が二年生の階でここ三階が一年生の階、唯斗の向かった四階は三年生の階となっている。

つまり俺は一年生相手に宣伝をするんだけど……。


うーん、年齢関係なくこういうのはスッゴく緊張するなぁ……。

と、とりあえず手前のA組から順に行こう……。


こんこん

ガラガラ


教室に入った瞬間、一斉に目線がこっちへ飛んできた。


お、臆しちゃダメだ! 頑張ろう!


「2年E組の者でーす! 宣伝に来ましたー!」


見回す限りじゃこのクラスも文化祭へ向けてなにやら色々やっているようだった。ちょっと邪魔しちゃったかな?


「ヒソヒソ……なぁ……あのちっちゃい子ってもしかして……」

「ヒソヒソ……あ、あぁ……その姿を見た者は男女問わずとにかく魅了されると言われるあの……」

「ヒソヒソ……名状するにも肩書きが多すぎてなんて呼べば良いか迷うけど、この場合は『メイド天使』の響先輩が正しいかしらね……」

「ヒソヒソ……や、やっぱり響先輩か。噂に違わぬ破壊力だ……理性を抑えるのが辛いぜ……」

「ヒソヒソ……まさか私のクラスに宣伝に来るなんて。とんでもない幸運だわ……」


「えっと……2年E組では喫茶店『ヒーリングエデン』を開くことになっていますっ。ま、まぁこんな格好をしているだけあって俺も当日は働く訳でして……え、えへへ……」


「「「(な、なんと!!!)」」」


「もし宜しければ……まぁごひいきに……なんて」

「「「ハイっ!!」」」

「わぁっ!?」


い、一年生の皆さん元気の良い事で……。


「え~、お忙しいところ失礼しました。作業頑張ってくだs」

「明治先輩!」


挨拶を済ませて教室を出ようとした俺を1人の男子生徒が呼び止めた。


「は、はい。何でしょう?」


「その手に持ってる物って広告ですよね?」


男子生徒は俺が手に持ってる結構な数の広告を指差してそう言った。


「はい。……あっ、そうか配布しないと……。ひーふーみー……少し待ってて下さいね。今数えているので……」


「あの先輩。もし良かったら僕への広告はサインを入れて貰えませんか?」


「……へ? サイン?」


サインってあれだよね? あの数学の……エッチスケッチなんとかなんとかってヤツみたいな。


「はい! 是非とも先輩のサインが欲しいんです!」


……ん、やっぱなんか勘違いしてるな俺。サインってサインのことか。この男子の凄みかたを見るに。


「い、いいですけど……俺なんかのサインなんて貰ってもどうにもならないんじゃ……」

「否! 否ですよ先輩! 宝にします! 家宝にします!」


「そんなに!? て、照れるなぁ」


なんだか嬉しくなって広告の裏にサラサラっと『Hibiki Meiji』と書いて渡した。


「どう? 変かな?」


「先輩のサイン……!! ありがとうございます! 一生大事にします!!」


「そ、そんな勿体ない……。俺のサインが欲しいなら今度もっとちゃんとしたのにk」

「あの! 俺もサイン欲しいです!」

「あっずるい私も!!」

「俺も!」「私も!」「僕も!」


気が付いたらクラス中の子が俺に群がってきた。


「ちょ、ちょっと……!?」


自分より背の高い人達にザッと囲まれて少し恐怖心を抱いたが、それ以上になんか嬉しくなった。


俺がこんなにサインをせがまれるほどの存在だったとは……。


自分を慕う者が嫌か訳がない。

全員分まとめてサインしちゃいますか! えへへ……♪




一年のクラスを回ってると、噂が走っていたのか行く先々でサインを求められた。

俺もホクホクみんなもホクホク。

まさにwinwinの状態だった。


1年D組に行く頃にはもう広告もなくなってしまったので、サインを求められたらなんか適当なものを用意してもらった。

中にはカバンや教科書にサインを求める人もいて、流石にまずいと伝えたがどうしてもと返されて失敗しないよう緊張しながら書いた時もあった。


とにもかくにも、この宣伝の時間は思いもよらず充実した時間となった。

慕われるって気持ちいいねっ♪




★ ★ ★




明治家リビング




文化祭の準備は思ったより精密で時間が掛かり、家に着く頃には七時になろうとしていた。

玄関のドアを開けた途端いつにも増して勢いよく駆けつけた母さん達を見たら、帰りが遅くなることを伝えた方が良かったかな……なんて思えてきて申し訳なくなった。


どうやら母さん達は俺を待って夕食を食べていなかったらしく、今は母さんが少し冷めてしまった料理を温めなおしている。

匂いからしてカレーかな?


「へぇ~、それで今日は帰りが遅かったんだね兄さん」


「そうなんだよ。とにかく盛大っていうか豪華っていうか、準備がすごいんだ」


「それでお姉ちゃんはどんな仕事をしたの?」


うぐぅ……宣伝しかしてねぇ……。


「まぁ色々と……」


「色々って?」


七海、俺より大きくてもちゃんと小学生なんだね……。好奇心旺盛で大変よいですよ……。でもそれは時に人を傷つけますよ……。


「……せ、宣伝……」


「「(なるほど、大変そうな仕事は可哀想だからクラスの人達が気を使ってくれたんだ)」」


「凄く適任じゃないかな、お姉ちゃん!」

「もっと誇りを持っていいと思うよ兄さん」


「え? な、なんで?」


……な、なんだ?

2人とも褒め称えてくるぞ?


「なんでも何も、お姉ちゃんはきっとあの学校ではファン多数のスーパー(マスコット)アイドルなんだよ? そんなお姉ちゃんが宣伝に行ったクラスの人達は絶対にお姉ちゃんのクラスのやっているイベントに絶対いくよ。そう、それはもう義務! 義務なんだよっ!」


「七海の言うとおりだよ兄さん。兄さんは兄さんのクラスの中で一番宣伝役に適した存在なんだよ。だからみんなの求める宣伝役をやってくれた兄さんは自分の役割を誇っていいんだよ」


なんだか七海の言い方がオーバー過ぎる気がするが、とにかく2人とも俺を気遣ってくれてるみたい。


「博樹、七海、ありがとう」


俺は立ち上がり手を伸ばして2人の頭を撫でた。


「えへへ~♪」


「…………♪」


いつも2人には助けられてばかりな気がする。今度なんか美味しいものでも買ってきてあげないとね。


「ちょっとずるいわよぉ~? ママも撫でなさぁい♪」


「うわっ!」


俺は突然目の前に現れた母さんに驚いて尻餅をついてしまった。


「も~そんなに驚かなくたっていいでしょ~?」


「だ、だって母さんいつも突然バって出てくるんだもん……」


「人をお化けみたいに言わないの。……それはそうと、ごはんの支度が終わったわよぉ♪ 頑張ってきただろうからお腹減ってるでしょ~? 早く夕飯にしちゃうわよぉ~」


「言われてみれば確かにペコペコだ……」


「兄さん、今日はカツカレーなんだよ」


「なんと! それは朗報だ!」


「ゆで卵も付いてるよお姉ちゃん」


「へぇ~、ずいぶんと豪勢だね」


「でしょ~♪ ゆで卵は博樹と七海が作ったのよぉ♪ しかも響の好きな半熟をよぉ~」


それを聞いた途端、俺は博樹と七海の頭を撫でていた。


「よくやった同志よ」


「に、兄さん……♪」

「はふぅ~……♪」


「ねぇママは~? ママにも撫で撫でして~?」


「2人を撫で終わったらね」


「いけず~!」




★ ★ ★



響の夢の中




『おっ、響! お疲れちゃーん』


「うん、ディザーリィ。お疲れ」


『……うーーーーん!! 毎回名前を思い出させなくていいってこんなに良いことだなんて!』


「わ、悪かったよ」


『いやいや、夢の内容を覚えるなんて難しいし仕方のない事だもの。責めてなんていないさ』


「……むぅ~」


『あ、それはそうと、近々文化祭があるんだってね』


「うん。なんだか中学校の時とは違って滅茶苦茶デッカいイベントになりそうな雰囲気で今ワクワクしているんだ、俺」


『そいつはなにより。せっかくの文化祭だからね。全部のクラスを回る気持ちでいっていよるといい』 


「ほぇ~、まるで文化祭経験者のような物言いだね」


『……ま、まぁね……。オレの場合は1つ2つ回って終わりっていう今思うと寂しい文化祭だったからさ……。ま、先輩からのアドバイスってやつさ』


「貴重なご意見感謝いたしまする」


『いえいえ、ちょっとした気紛れ故お気になさらず御座候』


「……ふふっ」

『……はははっ』


『……っとと、今日はちょっと響の夢が気になるからここいらでお暇するとしますよ』


「そっか。……あっ、そういえば今回は実体化してこないの?」


『ん? ああ、今回は頼んでないんだ。……というかそんな都合良く実体化なんて出来ないよ』


「残念」


『なぁにオレなんかいなくたって響には彼氏がいるじゃないか。どんとイチャイチャじゃれ合ってくるがいいさ』


「も、もう! じゃれ合うだなんて恥ずかしいじゃないか!」


『ま、そういうことさ』


「どういうことなのさ……」


『文化祭はお友達と楽しむ為だけのものじゃないってこと。文化祭は恋人と楽しむ為のものでもあるんだよ』


「なるほど……。そ、そうだよね。ありがとうディザーリィ」


『うんうん、じゃんじゃん乙女全開でいくのも良いもんだよ。周りから見てとんでもなく微笑ましいし。……そいじゃまたっ、お休み響』


「うん、お休みディザーリィ」







久々の後書き

今回もなーんも番外編がないのですがご了承を


文化祭の季節ですねぇ。もう終わった方々もいるかもせれませんが……。

波頼高校の文化祭は秋ではなく冬の終わりと春の始めに当たる3月手前に行われます。ちょっと寒いかもしれませんね。


実のところ、二年生を終えたら一気に三年生のどこかまで飛ばしてエンディングの筈だったのですが、ちょっとフラグが足りてないのでもう少しこの物語は延びそうです。



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