北の大地へ 3
なんて間隔だ! 信じられない!
……なんだか今年度に入ってからまともな時間が取れません。お陰で積み小説が更にもりもりと……。
今回はちょっと長くなってしまったので読む前に軽く休憩でもとって下さいね。
ーホテル(部屋)
ー視点 明治響
朝食を軽く済ませ、みんなに先に戻る事を伝え一足先に部屋へ戻った俺は昨日の事を思い出していた。
どういう訳か力が入らなくなり動けなくなった俺は休憩室へ運ばれ、みんなに心配された。
あかりちゃんがみんなを部屋の外へ連れて行き、少しの間竹中先生に看てもらっていると唯斗がやってきた。
唯斗は俺の所まで駆け寄り、俺は情けなくも唯斗に思いっきり甘えた。
唯斗は拒むことなく全力で優しく受け止めてくれた。
思い出すだけで体中がぽわぽわとふつふつと湯だっていって、感情が溢れそうになった。
優しくて、好きで、大好きで……。簡単な表現しか出来ないけどとにかく、とにかくで……。
「好き~好き~大好き~♪ ラブ~ラブ~ラブラブ~♪」
思わず訳の分からない歌を歌ってしまうくらいにテンションがおかしくなって……。
「「ーーーーーッ!!!??(癒し殺される……ッ!!)」」
予期せぬ三島さん達の帰還。
「……ぇ…………?」
見られた? 聴かれた?
頭からピーピーと沸騰した時の音が鳴る。
そして俺の体温は更に更に熱くなり……
パタン
「ひ、響ちゃんが倒れた!!」
「ど、どうしましょう!?」
「……なんというか……ごめんね、ヒビキ……」
「…………ん……んぁ……?」
背中から伝わる振動。
ボボボボボと小さくも独特な音。
よく聞くクラスの女の子達の声。
ここが一体どこなのか俺はすぐにわかった。
バスの中で、頭は誰かの膝の上。
「……ん? あ、おはよう、ヒビキ♪」
「……でぃざ……あかりちゃん……」
「ふふっ、最近のヒビキはよく寝込むね」
俺はあかりちゃんの言葉で何故自分が今こうしているのかを思い出そうとし、途中でやめた。掘り起こしちゃいけない、そう思ったから。
「ここ……バス?」
「うん。あ、ヒビキの荷物はちゃんと持ってきたよ」
そう言うとあかりちゃんはショルダーバッグとして使うタイプの小さなポシェットを俺のお腹に優しく落とした。
「ありがとう」
「いえいえ~」
俺はあかりちゃんに感謝を述べ、体を起こして周りを見渡した。
どうやらここはバスの一番後ろの席らしい。
「しかしまぁ凄いよねヒビキのバッグは」
「え? なんで?」
「だって携帯と財布しか入ってないじゃん。ほんとある意味凄いよ。お菓子とかジュースとか入れないの?」
「ああ、そういうことね。お菓子はみんながくれるから持ってくる意味があまりないんだ。あーんさせられるという条件付きだけど」
「おお……。ジュースは?」
「他の女の子のジュースを……そ、その……間接キスだけど……」
「わぁおWinWinだね」
「うん……。とにかく二重三重の意味で役得なんだ」
「なんと……。今(幼女)を謳歌してますな」
確かにそうかも。
唯斗の貰い物とは言えヘアピンはだいたいいつも髪とかポケットに付けてるし、母さんや唯斗が用意したものとは言えヒラヒラしたのとか可愛いのとか色んな服を着こなしたりしてるし……。
料理だってするようになったし女の子らしく甘味も嗜むようにもなった。
唯斗とのデートで遊園地に行く際に子供料金で入ってるのは……まぁあまり関係ないか。
「俺……変かな……?」
「変だね」
「そっか……」
「でも可愛いからオールOKだよ」
「……うぐ」
こりゃいかんな……
ーサッポロ工場モール
バスでちょいと観光地を巡り、ホテル付近に戻って降りていくらか歩いた。
2月だと言うのにまだ白い世界の広がる札幌はとても幻想的で、ただ雪化粧をしたビルや路地や街灯などを見ているだけで気持ちが弾んだ。
だが俺の気持ちを弾ませるのはそれだけではなかった。
「響ぃ~」
「唯斗ぉ~」
見つけあうなり周り気にせずガバッと抱き合った。
「あぁ~よしよしよし。寂しくなかったか~?」
「うn……ゆ、唯斗こそっ」
「寂しかったに決まってるじゃないかぁ~。あ~よしよし、最高だぁ~」
そう、四日目からはほぼ自由行動!
誰とも彼とも何処へでも、門限さえ守れば行ってよし。こんなにステキなイベントはない。
いつもは唯斗から俺へ行動を起こしていたから気づかなかったが、ここ数日で俺は俺がどれだけ唯斗へ依存しているかがわかった。
男女で隔てられることなく思う存分唯斗と居られる。これだけで俺の心はハイテンションだ。
「……あ、でも本来なら俺は三島さん達と、唯斗は高橋達と行く予定だったんだよね。どうしようか?」
「あー確かにお互いの関わりを無視して2人だけで行っちゃうのはあまりよろしくないかもなぁ。俺は別にあの3人くらい放っぽっていっても良いんだが、響はそうはいかないしな」
「うん」
あれ? 今唯斗、クールというより冷たくなかった? 主に高橋と藤崎とアキ……陸手に対して。
「よし、じゃあ今日はみんなと行動しようか」
「うん」
…………。
「~♪」
…………。
「……唯斗、そろそろ離して」
「お? あぁ、わるいわるい」
悪いと言うわりには悪びれた様子もなく、唯斗は俺を解放した。
……まぁ唯斗に抱かれることに嫌悪感を感じることなんて一切ないけど、これじゃ三島さん達を呼べないしね。仕方ない。仕方ない。
十数分後、俺達は三島さん達と高橋達と合流し、このサッポロモールをうろちょろとしていた。
サッポロモールはいわゆるデパートみたいなもので、普通のデパートと違い景観重視の為かちょっと歩いて見て回るだけで楽しくなれるところだ。
それにしても女子五人男子四人、なかなかの大所帯じゃない?
「いやー響ちゃん成分がここにきて補充できるなんて俺は幸せものだなぁ」
「うんうん、藤崎の気持ちはよーく分かるぞ!」
「お前らスキーに夢中だった癖によく言うよ。なぁ唯斗氏」
「そういや響の事教えてくれたのは高橋だけだったな。非情にも残りの誰かは滑っていたみたいだが」
「ぶーぶー、まるで俺と陸手リアが悪者みたいに言うなよー」
「あぁ、あの時は華菜がメールで教えてくれたんだ」
「えぇ、響ちゃん、あの時寝込みながら森長君の名前を呼んだ気がしたから……。一応伝えとこうと宏樹に連絡したのよ」
……俺、三島さんのおかげで唯斗と会えたのか……。
「なんだかドラマチックな話ですね」
「うんうん、今時珍しいよ。ヒビキと唯斗君みたいなバカップルは」
「ははは、照れるなぁ。もっと言って」
「あ、あかりちゃん! 唯斗まで乗らないで!」
「照れてるのか響?」
「し、知らないっ」
俺がそっぽを向くと、温かい手が頭に乗って優しく撫でてきた。
「……むぅ」
唯斗は……ずるい……。
「……なぁ高橋」
「なんだ藤崎」
「天使がな? 俺の天使がな? どこの馬の糞ともしれない男と仲が良くてな? いつの間にか彼氏彼女の関係になっててな? 今目の前でイチャイチャしててな? それでも胸の奥がムズムズしてどこか嫌がらないんだよ」
「あっそれ俺も! NTR耐性ってヤツ?」
「藤崎、陸手リア。お前ら病気だ。ホテルに帰って寝てろ」
★ ★ ★
「それじゃ、えと……お願いします」
「はい、かしこまりました(良い子だわぁ~)」
あれからみんなでモール内の店を歩き回り、その店先でお土産を買ったりしていた。
「おろ? 響は何をお土産に買っていくんだ? というか今何買った?」
「ん~? 母さん達に頼まれたものと先輩達に何かしらのストラップを買っていく予定だよ。そんで今頼んだのはバウムクーヘン。なんか配送してくれるっぽかったからそうしてもらうことにしちゃった」
お土産も気軽に配送してもらえるこの時代。良い世の中になったものだなぁ。
「へぇ~バウムか。確か北海道のちょいとお高いバウムクーヘンはしっとり感のあるやつらしいぞ。アタリだな」
「ホント? いやぁ~良いもの買っちゃったなぁ~」
★ ★ ★
「力を……この右腕に……ッ」
「あ、あんま力むなよ響……」
「んんんんん……ええーーーい!!」
ぽす
ぴろぴろぴー
「言わんこっちゃない……。それにしても7点って……」
「そ、そんなぁ……。ぜ、絶対おかしいって。壊れてるんじゃないのこれ……?」
今俺達はモール内のゲームセンターに来ていた。
ここはエアホッケーやフリースローなどのスポーツタイプのゲームや、ちょっと古めなレースゲームから最近のレースゲーム、音楽ゲームやちょっとしたパチスロなどが置いてあるかなり充実したゲームセンターだ。
そして今俺はパンチングマシーンで自分がいかに強いかを見せしめる為に渾身の力を込めたミラクル気合いパンチを披露したのだが……。うーん、機械の故障のようだ。
「なんなら俺がやってみようか?」
「う、うん……」
どずん
唯斗は一切構えることなくストレートをかました。
テッテレ、テレレレッテレージャン!
「…………えー……」
100点……そんな数字は俺には見えなかった。
そうだよ、10点だよ10点! それ以外有り得ない! だって故障しているんだもん!
「あれ? 手加減したつもりなんたが……お、オカシイナァ……ヤッパリ故障カナァ」
「……ごめん唯斗。なんかごめん。無理にフォロー入れなくていいよ。唯斗、嘘吐くのあまり上手くないもんね。……ごめん」
心の中でいくら叫んだって無駄。わかってたもん、貧弱な事くらい。
「そ、そんな三回もごめんって言わなくても……(あ、なんかこの色々な感情の混じった表情……見るの初めてかも。ラッキー♪)」
「お? 力比べ? 俺もやるー」
さっきまでバイクレースに夢中になっていたツインバカ(陸手と藤崎)と高橋がこっちへ来た。
「いいね~。そいじゃあ懐かしの地元パワーを見せてもらおうか陸手リア!」
そう言えば今は陸手でその昔はアキタと言われてた時には確か北海道に住んでたんだっけ。
「地元パワー? あぁ……うん。実はな、今更だけど俺、前住んでた所は確かに北海道なんだけど……函館なんだ」
函館って確か北海道の下の端っこだったっけ?
「もしかして……全然地元じゃない?」
「流石我らが響ちゃん! ご名答、地元どころか別世界だ」
「あ、あれ……? 響ちゃんって赤点女王だったんじゃ……?」
「藤崎、それは失礼だぞ。たとえ赤点に恵まれているとしても明治は波頼の生徒だぞ」
「ふっ、ダメダメだな藤崎。所詮お前はエリートの中の凡人だ。点数に出ない秘めたる賢さを持つ響ちゃんとは大違いだ」
……なんか陸手、さり気なく酷いこと言ってない?
「はっ、真のエリートを知らぬ癖にエリートを語るかダメ陸手! 真のエリートはテストで良い点を採るだけでなくパンチングマシーンでも良い点を採るんだよ! 見れ! このエリートパンチを!」
藤崎は話しながら右腕を構え、そして……
「ひゅ~……。ッ! どっせぇええええい!!」
ばすん!
ピロリロリ~
結果はなんと70点だった。
俺の十倍! どういうことですかっ!
「ほほう、確かこの型のパンチングマシーンは結構ムキムキな人でも100点は難しいと言われているんだ。なかなかやるな藤崎」
え? じゃ、じゃあさっきの唯斗の点数は……。
「当たり前だ。……ぬふっ、ねーねー響ちゃん今の見てたー?」
「ゆ、唯斗……さっき確か……」
「ん、どうした響? あぁ、知り合いにパンチングマシーンで70点出す奴がいると知って怖くなったのか? よしよし安心しろ、俺が守ってやるから」
「いやそうじゃなくt」
「バカめ、響ちゃんは野蛮な奴は苦手なんだよ。ざまぁねえぜ。な、高橋?」
「ああ、明治の見た目的に考えてただ強いだけじゃダメだな。それに一撃にあんな力を溜めてたら集団で襲われた時に勝てないぞ。守れる力、これ大事」
高橋の言う通り普通の女の子なら自分を守ってくれる王子様っていうのに憧れるのかもしれない。
でも俺はちょっと違うんだ。確かに昔と違って自分に尽くしてくれる人に弱くはなったけど、それでも俺は惚れたりしない。
だって男は恋愛対象として見れないんだもの。これだけはきっといつまでも変わらない。
唯斗は特別。唯斗だけは特別。
俺が恋愛対象として見れる男は世界だって宇宙だって異世界だって、どんなに探してもただ1人。これだけはきっといつまでも変わらない。
「う、うぐぅ……ボロクソ叩きやがって……。……あっそうだ! せっかくだから唯斗氏の力も見せてもらおうぜ。響ちゃんを守れるだけの力を持っているか見てやる」
「見苦しい……」
言ってやるな陸手。藤崎の心のライフはもう……。
「唯斗、一応言っておくけど俺は唯斗が100点出しても野蛮だなんて思わないよ」
「……ふふ、可愛いヤツめ」
「……っ!?」
唯斗は右腕で俺を抱き寄せた。
「「おお~……」」
そこの3人! なんか感心したような声を出さない!
「彼女を守るのは利き腕だ。余った方は彼女を守る為に振るう。だから俺は左腕で藤崎に勝つぞ」
そう言って唯斗はパンチングマシーンにストレートをかました。
ずどん
テッテレ、テレレレッテレージャン!
「「……な……なんだと……?」」
「す、凄い……」
文句ナシの100点。
なんの勢いもつけずに、しかも左腕でこの点数を出したことにみんな驚いてじっと点数の表示されているところを見ていた。
「ふふん。ただ響ちゃん響ちゃん言ってるだけじゃダメだぞ、響はか弱い女の子なんだから。そのか弱い響を守れるときっぱり言えるだけの力をつけないとな」
そう言って唯斗は俺を更に抱き寄せた。
俺は恥ずかしくなって下を向いた。
「くそー、俺も毎日ストレッチしてるのになぁ~」
「藤崎、お前の言ってるっていうストレッチってあの柔軟体操のことか?」
「え?」
「おいおいしっかりしてくれたまえよ~藤崎くぅん? 何気に高橋と成績が並んでるんだからさぁ~。お前より成績の低い俺がバカみたいじゃないかぁ~、ね? 響ちゃん」
「……え? あぁうん、確かに。俺なんてE組ワースト1なんだから」
天才の集う波頼高校。普通の中学の中の下の成績だった俺がこの高校のクラスどころか学年ワースト1の座に着くのは1日に朝と夜があるのが当然というのと同じくらいに当然なことだった。
そして目の前の藤崎(とオマケに陸手)というバカは実は俺より頭が良い。……なんで!?
「くそぅ……いつもいつも非があれば即行で叩いてきやがって……。しかも響ちゃんをダシにするとかマジありえねぇし‥…」
「ひ、響をダシに……!?」
「ひ、響ちゃんをダシに……!?」
「め、明治をダシに……!?」
「…………」
「……あっ」
「……え?」
な、何その沈黙。ちょっと怖い。
「「(いいかも~……超うまそ~)」」
「(……明治をダシに……。な、なんてこった! とても犯罪的だ!!)」
なんとなく雰囲気が怖かったので唯斗にしがみついた。
「…………」
しかし何も言わずにニヘラニヘラと笑っている唯斗を見た瞬間、俺はなんとなく唯斗から離れていた。
「…………。……あれ? 響? どこ行くんだ?」
「え? あ、あぁえ~っと……ちょっとトイレに……」
「おぉ、ごゆっくり~。……ん? トイレ? (トイレ=黄金水黄金水黄金水黄金水……)」
なんとなく逃げちゃった。
まぁいいや、三島さん達の所にでも行くか。
「ダシ!?」
なんかよく分かんない事言ってるし怖いからさっさと行こう……。
~少しして~
UFOキャッチャーやらプリクラやら、いかにも女の子が行きそうなところを歩いているとすぐに三島さん達は見つかった。
「おーい」
俺が声を掛けると三島さん達は俺の方へ振り向いた。
「響ちゃん! 響ちゃんだわ~♪」
がばっ
「あふっ?」
三島さんは一直線に俺に掛けよると思いっきり抱きしめてきた。
「もぅ~心配してたんだからね? どこ行ってたの?」
「えっ? 唯斗達と?」
何故か疑問系で答えてしまった。
「ダメよ~? 女の子が1人で男性だけの所にいたら。でも無事そうでよかったぁ~」
三島さんはそう言って俺の頭を撫でた。
前までは『本当は撫でるのは俺の方なのに』みたいに思っていたが、今は撫でられるのが嬉しくて気持ち良くてあんまり思わなくなっていた。
……ま、いいよね?
「(三島さん……明治さんを独り占めなんて……いいなぁ……)」
「ヒビキったら彼氏の温もりだけに飽きたらず友達の温もりまで味わおうだなんて。ふふっ、この欲張りさんめ」
「あかりちゃんも抱きしめて欲しいなら私がいつでも抱きしめてあげるわよ♪」
「……え? あぁいや、べ、別に羨ましくなんかないんだからね!?(あわわ、ツンデレ発言しちゃった!?)」
「あぁ~癒されるぅ~……」
あれ? 三島さんってこんなキャラだったっけ? あとあかりちゃんもなんか不思議ちゃんじゃなくなってるような……。
「あ、そういえばみんなでプリクラ撮っていくんだったわ。響ちゃんもちょうど来たところだしさっそく撮りましょうか」
「うん、いいよ」
「はい♪」
え?
「じゃ、いくわよ~!」
「ヒビキ、何固まってんの? 行こっ」
「ちょっ……」
あっという間の流れで話が進み、俺はあかりちゃんに引っ張られながらプリクラの何かのあの箱の中へ連れ込まれた。
……完全女の子空間。
「あ、代金は私が払うわ」
三島さんが機械にお金を入れると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「あ、あの……俺はどうしたら……っ」
「あれ? 響ちゃんは初めて?」
「うん……」
その昔は一応付き合ってた女の子に『プリクラしよっ?』なんて言われた事もあった。
でもそういう時だけはシャイになってしまって遠慮しちゃったりして一度もやったことがなかった。
今思えばあの子達との付き合いが長続きしなかったのは俺に配慮が足りなかったからなのかもしれないな……。
女の子=プリクラ
更に今思えば俺は女の子の気持ちを全く分かっていなかったのかもしれない。まぁその女の子になった今でもまだまだ全然理解出来てないだろうけど。
女の子っていう生き物は身近にいる生き物の中でも一番摩訶不思議なものなのかもね……。
「あ、実は私も」
「あ、オレも実は」
「響ちゃんはまぁ帰国子女だし、藤矢ちゃんも帰国子女。あかりちゃんは神社っ子。なんだか私だけ普通すぎて疎外感が……。ま、まぁ良いわ。きっと初めてでもなるようになるから機械の言う通りにさえしてれば大丈夫よ」
なるほど、確かにこのグループは三島さん以外特殊な人達ばかりだ。
俺は自分が変な存在だってことを誰よりもよく知ってる。
藤矢さんは社長令嬢で帰国子女。
あかりちゃんが変な存在だってことも俺がよく知ってる。
三島さんは……変な俺の日常の大事な癒し。
……わぉ!
★ ★ ★
ーホテル(入口)
「「「お帰りなさいませ! お嬢様!」」」
期限の時間も近くなり、ささっとお土産を勝ってホテルに戻ると沢山のホテル関係者の人がお出迎えしてくれた。
……でもちょっとこれ……オーバーすぎない? 多分40人くらいはいるよ?
それになんかお嬢様って言っていたような……。
「お嬢様、お荷物をお持ちいたしますね。それとケアも」
沢山の従業員さんがずらーっと俺の周りに集まったかと思うと持っていた荷物を全て取られ、靴を磨かれ晒してある肌の部分全てをサッと優しく丁寧に拭かれた。
驚いて周りを見渡すとこの待遇を受けているのは俺だけみたいで、そのことに訳が分からず呆然としていると、従業員さんとは雰囲気の違うなんだか気品のある偉そうな男の人が目の前へやってきた。
「アリスお嬢様。この度はアリスお嬢様が当ホテルをご利用になさって下さることに気付かず一般客としてお迎えしていた無礼をどうかお許し下さいませ」
「……え? あ、あの……」
突然過ぎて何がなんだか分からず困惑しながら助けを請うように唯斗の方を向くと、気持ちが伝わったのかこっちへやってきた。
「(小声)……なに、これ?」
「(小声)推測は後で話す。まずはそこの人を許す意を言葉で伝えるんだ。丁寧かつカタコトでな」
「(小声)わ、わかった」
唯斗の言う通りにすれば間違いはない。とりあえず今は唯斗の言う通りにするのが懸命だ。
「……き、気にしない 下さい です」
俺がそう言った途端、偉そうな男の人は顔を上げた。そして嬉しそうな表情をほんの一瞬だけ見せて元のビシッと決まった表情に戻り、口を開いた。
「お気遣いの御言葉、誠にありがとうございます……。せめてものお詫びとして本日からは当ホテルができる最大のおもてなしをお嬢様やお嬢様の組織の関係者様にも致します。お嬢様のルームはこの者がご案内致します。それでは私はこれで失礼します。どうぞごゆっくり……」
ーホテル(響の部屋)
あっという間に話が進み、なんだかデジャヴを感じながら案内された物凄く豪華で物凄く広い部屋に入ってまたデジャヴを感じ、豪華だけど落ち着いた大きなベッドで横たわっていると唯斗がやってきた。
「お疲れ様だなアリスちゃん」
「微妙に思い出してきたんだけど一応説明してよ、唯斗」
「カタコトカタコト」
「説明! ハリー!」
「よしよし」
唯斗は俺のすぐ側で腰掛けると頭を撫でてきた。
「~~~~♪ …………はっ!? ……もう! からかう 良くない!」
「さて、賢いアリスちゃんはすでに察しているかもしれないが説明しよう。以前、みんなで海に行ってホテルに泊まった事があっただろう?」
海とホテルとアリスのワードだけて俺はなんとなく分かった。
そして唯斗は俺を撫でながら説明を始めた。
以前、俺ん家こと明治一家を中心として唯斗や高橋、藤崎に三島さんの8人で海に行った事があった。
そして母さんが俺を『アリス』として仕立て上げホテルを巻き込んだ割と大きいような小さいような騒動があった。
(※ 内容は大体第30話前後の『幼女と海での三日間』を参照下さい)
そしてその時のホテルとこのホテルは何らかの関係があるのだとか。
そう言えばこの前あかりちゃんが『ヒビキ、従業員の人に見られてるよ』的なこと言ってたっけ……。まさかこのことだったとは……。
「推測だがな」
そういえばあの時は偶然父さんがロシアにいたから助かったけど、父さんは基本的にカナダが拠点なんだよね。
「まぁつまり、また響はロシアからのスーパースペシャルミラクルVIPのアリスという女の子って訳だ」
「……う。また カタコト するの?」
「もちろん」
「……はぁ~。母さん 帰ったら 怒る」
「(俺的にはまたアリスモードの響を見れて超ラッキーって感じかな。俺達が泊まる部屋も凄くなってたし)」
ディザーリィ実体化に唯斗欠乏症。
いままで生きてきたなかで一番濃い修学旅行はここにきて更に濃さを増すのだった。




