北の大地へ 2
久々の更新です。
季節は梅雨明け、響さんの世界は2月。あはは!
恐ろしい事にこの季節、虫が活発になり蜂が出てきます。
作者はこの前親指1つ程の大きさの蜂を見かけてショック死しそうになりました。ほんと蜂こわい。
はぁ、冬が恋しいです……
ースキー場
ー視点 明治響
……はぁ、それにしても今日の朝は凄かった。
朝起きて誰かの温もりを沢山感じたんだ。
おかしいと思って目を開けるとネグリジェで透けたブラがあって、驚いて起きあがるとそれは藤矢さんの物だと分かった。
女の子に抱きつかれてたと気付いた俺は急いで頭を働かせて何がどうしてそうなったのか解析したんだ。
『……そう言えば昨日風呂で寝ちゃったんだ。それから記憶が……』
そこまで思い出した後で自分の体の違和感に気付いた。
『……あれ? なんか寒い……? …………ッ!?』
そう! 裸のまま抱きつかれていたんです!
「……はぁ」
「あれ? 明治さん? どうかしましたか?」
「……え? あ、いや……上手く滑れなくて……。あはは……」
言えないっ!
裸のまま藤矢さんに抱きしめられていたのを思い出して今更ながら得した気分になってるなんて言えないっ!
「そんな事ありませんよ。私から見た明治さんの滑りはまさにプロ並みですよ?」
ああ、藤矢さんはお嬢様だからスキーとかそういうロイヤルなスポーツに心得があるのか。
「ううん、もし俺がプロ並みだったらテレビに出てる人はみんなスキーマスターだよ」
スキーなんて初めてなんだ。
藤矢さんはきっと俺が落ち込んでいるんだと思って励ましてくれているんだろう。
あぁ、優しいなぁ……。
「……っとと、私から……言わせれば喋りながら滑れてるあなた達の方がスキーマスターに見えるわ…………キャッ!?」
ぼすん
先程からフラフラと少し危なげな感じで滑っていた三島さんだが、とうとうバランスを崩して倒れてしまった。
「ちょ、ちょっと危な……わっ!?」
ぼすん
三島さんの後ろを滑っていたあかりちゃんも巻き添えになった。
俺と藤矢さんはブレーキを掛けて停まり、板を外して2人を助け起こしに向かった。
「大丈夫!? 三島さんっ!」
「栗鼠さん、立てますか?」
「……あはは。ごめんね、情けないとこ見せちゃって」
「なんとか立て……あ、やっぱり手伝って。……んしょ、……面目ない』
三島さんとあかりちゃんは別に何も付いていないスキーウェアを軽く手で払うとスキーの板を付けた。
「それにしても2人とも上手いわよねぇ。やっぱりスキーとかの経験とかあるの?」
「はい。私は半年に何回かスキーをしに色んなゲレンデによく行ってました」
「「やっぱり……」」
「俺はスキー経験なんて一度も無いよ」
「「えっ!?」」
俺がスキー経験が無いことを言うとみんなは驚いたような表情を浮かべた。
俺はちょっと得意になった。
「ねぇねぇ、オレ、もう滑りたいな」
「そうね。せっかく滑りにきているんだから天才的になって帰らないとねっ」
おお! 三島さんが燃えている!
「よぉーし、オレはまずは響を目指すぞ」
★ ★ ★
あれから数時間が経った。
時間はそろそろ四時手前。五時には集合場所へ戻る事になっているから後一時間余っている。
三島さんとあかりちゃんの上達速度はかなりのもの? なのか、最初はフラフラかくかくだった三島さんは滑らかに滑ることが出来るようになった。
あかりちゃんは元々スキー経験があるのか、感覚を掴んで(あかりちゃん曰わく今の身体はいつもよりだいぶ身長が縮んでいるらしい)からは三島さん以上に滑らかに滑れるようになり、たまにある小さいジャンプ台からジャンプしたりと凄いパフォーマンスを見せてくれたりした。
俺? 無理無理、いくらジャンプ台が小さいと言われてても1mくらいの高さだ。ちょっと怖い。
あかりちゃんは経験者だからいいけど、今日滑り始めた俺には自殺行為だ。
「(……響ちゃんはスキーだけは意外とダメで、あかりちゃんは響ちゃん以上にダメダメで、以外と私が上手く出来て優しく仲良く教えるという理想が……。せめてあかりちゃんだけでもと思ったのにあかりちゃんまで上手いだなんて……)ブツブツ……」
「三島さん? どうかしたのですか?」
「ヒビキー! オレ、ジグザグ出来るよー♪」
「よぉーし! じゃあ俺も加わってクロスだ!」
「おーけー!」
先行するあかりちゃんが右に行けば俺は左に行き、あかりちゃんが左に行けば俺は右へ。
こんな感じでうぃんうぃんやってたら段々気持ちよくなってきた。
「あはははは♪ これすごく良いー♪」
「ヒビキの言う通りだー♪ ふぃー♪」
「ふ、亜理彩ちゃん! わ、私もあの2人みたいにしたい!」
「……さ、流石にあんなに息の合った動きは出来ませんよ……」
「つまり響ちゃんとあかりちゃんは相当の仲と……」
「そういう事になりますね」
「あ~……。私もあと20cm小さかったらあの良い匂いの漂ってそうな空間に入れたのに……」
「三島さん、あの空間に入るのに身長は関係ありません」
「そ、そうね! 頑張ってあの2人みたいにクロス出来るようになりましょう!」
「はい♪」
うーん! 風を切ってうぃんうぃんうぃんうぃん。楽しいけどそろそろ疲れてきたな。
「ちょっと……とまって~」
俺がそう言うとあかりちゃんは止まってくれた。
俺もブレーキを掛けてゆっくり止めると、後ろで滑っていた三島さん達も止まった。
「あれ? どうしたの響ちゃん?」
「いや……ちょっと……ね」
「ヒビキ、少し疲れたみたい」
あかりちゃんがそう言うもんだからみんな心配そうに近づいてきた。
「『安打製造機』『波頼の魔幼女』『テニスのお姫様』『フォワードの右腕』『チェイスプリンセス』などなど、運動の女神と言われてるあの響ちゃんがバテるなんて……。珍しい事もあるものね……」
「ほんと……なんでだろね……」
「時間もそろそろ迫ってますし、これを滑り終えたら集合場所に行きましょうか」
「そうね、明日もあるんだし早めに戻って休むのが一番かもしれないわ」
「よーし、じゃあ誰が一番最初に下に着くか競争だ」
「みんなごめんね」
★ ★ ★
ー視点 三人称
「……はふぅ」
ホテルに帰り食事と風呂を済ませ、髪をとかしながら乾かし終えた響はほっと一息ついていた。
そして、どこかポーッとしている響の元へ栗鼠あかりがやってきた。
「ヒビキ、三島さん達が七並べしないかってさ」
「……えぅ? うーん、……きょうはえんりょしとくね……」
「…………」
返答もなくただ黙って見ている栗鼠あかり。
それを怒っていると勘違いした響は取りあえず謝ることにした。
「……ご、ごめんねっ。……でもきょうはつかれてて……」
「えっ? あ、いや……違うんだ。別に怒ってないんだ」
「……?」
やはり様子が違う響に少々戸惑いながらも、あかりは響に向き直った。
「響」
「なに?」
「愛は足りてる? 幸せは足りてる?」
「え?」
「バカップル特有の禁断症状が起こる前にさっさと彼氏さんに会うんだよ? いいね?」
「……え? うん」
あかりの言葉の意味がイマイチ分かっていない響は適当に相槌をうった。
「いい子だ。じゃあゆっくり休んで明日に備えてね」
「うん。あかりちゃん、いちばんたのしんでたもんね」
「うっ……。お、お休み響」
「おやすみなさい」
栗鼠あかりは響が眠りにつくまで見届け、寝息を立て始めたら優しく髪を撫でて三島達の所へ戻った。
「響ちゃん大丈夫だった?」
「うん、大丈夫だったよ。ちょっと疲れただけみたい」
「なるほど、明治さんは遠征に弱いタイプなんですね」
「うーん、まぁそうなるのかな」
「3人で大富豪って言うのもつまらないし、ちょっと他の部屋にでも行ってましょうか?」
三島がそう提案すると、藤矢は首を横に振った。
「私は明治さんが心配です。離れたくありません」
「そうだね。オレもちょうど眠くなってきちゃったしもう寝ようかな」
2人がそう言うと三島も頷いた。
「そうね。今日はもう寝ちゃいましょうか」
「はい♪ それでは折角大きなベッドなので私は明治さんの隣で寝ちゃいますね♪」
「ああ、ずるいわ! 私も響ちゃんと寝る!」
「じゃあオレは普通に自分のベッドで……ふぁ~……」
三島と藤矢は響のベッドに潜り込み、やや窮屈そうにしながらも幸せそうに響に身を寄せた。
一方栗鼠あかりは自分のベッドに入ると3人の方へ顔を向け、微笑ましいものでも見たような表情をした後目を閉じた。
★ ★ ★
翌日
視点 森長唯斗
楽しいハズの修学旅行。
三日目にして俺は既に堪えていた。
最初の最初、初日のHRから北海道に着くまでがピークだった。
北海道に着くまではたまにチラチラ見える響を遠巻きに見たり、澄ますと聞こえる響の声を聴いていたから平気だった。
だが、バスやグループや部屋が別々なせいかここに来てからは全く顔を合わせてない。せめてできるやり取りはメールくらいだ。
いくら響の寄越したメールだとしても所詮はメール。
俺は響の声が聴きたい響の元気な姿、困った顔、怒った顔、嬉しそうな顔、泣きそうな顔、色々な顔を全部見たい。今すぐに。生で。
俺はもう病的なまでに響が好きで仕方がないのだろう。
気づくと響の事ばかり考えてしまっては辛くなっていた。
明日になれば自由に観光できる。
それまでの辛抱なんだ。耐えないと……
ースキー場
優しい青空だ。
時々浮かぶ白い雲は響の綺麗な白銀の髪を連想さ……いかんいかん。一度始まると止まらなくなる。
慌てて下を向けば白い雪。
綺麗なその白は響の触れると溶けてしまいそうな響の肌を連…………
「くっ……!」
ここ、地獄です。死にたくなります。
「おい、唯斗氏!」
どこを向けば分からなくなって目を閉じていた俺に高橋が話しかけてきた。
「……すまん、今は構ってやれない……」
「大変だ! 明治が体調を崩した!」
…………ッ!!?
あの風邪を引かない響が……!?
「明治は今休憩所で横になってる。早く行ってやれ!」
「あ、ああ! すまない!」
居ても立ってもいられなくなった俺は高橋にお礼を言うとゴーグルを掛け、風を切るかのような速さで滑っていった。
★ ★ ★
「響ッ!」
休憩所に着くなり俺は響の名を呼んだ。
「来たか」
長めのソファーに横になっている響の近くにいた竹中先生は立ち上がると俺に寄ってきた。
「響は、響は大丈夫なんですか?」
「熱は無かった。遠征疲れみたいなものだな。安静にしていれば大丈夫だろう」
それを聞いた俺は少し安心した。
「明治のやつ、時々唸りながら森長を呼んでいたぞ。しばらく側にいてやったらどうだ?」
「もちろんです。そのつもりで来ました」
俺が即答すると竹中先生は良い笑みを浮かべた。
「じゃあ俺は他の生徒を見てないといけないから、後は頼んだぞ」
「はい」
「もし体調が悪化したり良くなったりしたら知らせるんだぞ」
そう言って竹中先生は休憩所から出て行った。
俺は響の側にそっと寄り、頭を撫でた。
「……ぃ…………」
すると響の目が若干開き、頭を撫でる俺の手に響の手が当たった。
「……大丈夫か?」
「ん……」
「……そうか」
何を思ったのか響は俺の手を掴むと自分の胸の上に置いた。
良い感触と静かな鼓動が手に伝わってきた。
「響?」
俺は響によって動かされた手の行方を追っていた視線を響の顔に戻した。
響はどこか安心したような、幸せそうな表情をしていた。
俺は思わず微笑んだ。
「何か買ってきて欲しいものはないか?」
「…………」
響は首を横に振った。
「ゆいと……」
「なんだ?」
「おねがい……」
「ん?」
響は先程までの表情とは変わり、今にも泣き出しそうな、不安そうな表情になった。
「いて……いっしょに……」
「大丈夫。俺はどこにも行かないよ」
「うん……♪」
「…………」
こう、言葉に表しにくい素敵な雰囲気が俺達を支配し始めた時、俺は近寄ってくる人の気配を感じて後ろを向いた。
そこには綺麗な黒髪を背中まで伸ばした紅い瞳の響と同じくらいの小さな女の子がいた。
確か同じクラスの……あれ?
「ヒビキ、大丈夫だった?」
「……え? あ、あぁ。重い病状ではないみたいだよ」
「本当に?」
「え?」
女の子は急にそんなことを言ってきた。
俺は女の子が言っている意味が理解できなかった。
でも少し不安になって響の方を見た。
「響、痛いところはないか?」
「だいじょうぶ……」
女の子は俺の右側へやってきた。
「ん……あかりちゃん……?」
「君も響を心配して来てくれたんだね。ありがとう」
「それがオレがヒビキに出来る事だからね(……みんなをここに来させないようにして正解だったみたい)」
不思議な子だ。
同じクラスメイトのハズなのに会った気がしないし、どこかで会った事がある気がする。
クラスメイトなんだし後者は当然だろうが。
……ん? 響は学校ではいつも俺かと居たはずなんだが。俺はこの子は見なかったぞ?
「…………ゆいと……」
「どうした響?」
「……だいすき」
「……あ、ああ、俺も大好きだ」
手から伝わる響の鼓動はどんどん高まっていた。
それは俺も同じで、見つめ合う内に鼓動はますます高まり、遂には熱を発してきていた。
頭から足まで全てが熱い。
「……っとと、ダメだぞ響。お友達がいるのに放ったらかしちゃ」
「……えへへ……ごめんなさい…………♪」
もうダメだ。可愛すぎて心臓が吹っ飛んで死にそうだ。
「見せびらかしてくれるねぇ……。お邪魔しちゃ悪いしオレはこれで失礼しちゃおうかな」
女の子は立ち去ろうとした。
俺は礼をしようとその子の方を向くと、その子も俺の方を向いた。
「ヒビキは幸せじゃないといけない。ずっとずっと幸せにしてあげてね」
突然そう言われて俺は固まってしまった。
女の子はその間に去っていった。
……幸せ……響を……。
元親友と言うこともあり今まで軽く見ていたのかもしれない。
なんせ元はあの響だ。
今もそうだが元気で比較的活発で素直で明るくて、怪我は気にせず病気を寄せ付かせない。そんな奴だった。
仕草から男っぽさは少しずつ減ってきてはいるが、それでも響は響のままだった。
でも響は小さな女の子。
以前の調子で動かされた今の身体はたまったものではなかったのだろう。
響はもう守られるべき存在だ。
響が安心して幸せに暮らせるよう、そろそろ将来を見据えて行動しなきゃいけないな。
あの子はそれを伝えたかったのかな。
そうだとしたら本気で響を心配しているんだろうな。
「……ゆいとぉ~……」
「んん? どうした?」
やや猫なで声になった可愛らしい響の声を聞いてその方を見ると、響はソファーから体を起こしていた。
「安静にしてないとダメだぞ」
俺がそう言うと響は悲しそうな顔をした。
可愛いから頭を撫でて、その後で抱きしめた。
抱きしめている途中、響の雰囲気が変わったような気がした。
「…………ずるい。そんなことされたら俺、勝てない……」
体を離して響の顔を伺うと、先程までに無かった着恥が満ちていた。
「……ご、ごめんな。迷惑掛けて。スキーの邪魔しちゃって。わざわざ来てもらって」
相も変わらず俺の嫁は馬鹿だ。
響掛けられた迷惑なんてただの一つも無いってのに。
「謝る必要なんてないさ。むしろ響と会えてこっちが助かったよ」
……そう、昨日あたりから響成分が足りなくてだいぶ参っていた。響ばかり考えてしまってボーッとしていた。今日に至ってはスキーがつまらなくなるくらいになった。
でも、神様仏様はそこまで残酷じゃなかった。
響には悪いかもしれないが、響が体調を崩してくれて助かった。
「ありがとう唯斗。なんだか元気になった気がする」
そう言って目を細める響は女神かはたまた天使か。そんな言葉じゃ物足りないくらいに可愛らしく愛らしく愛おしく輝いていた。
「唯斗。一緒にスキーしにいこっ?」
「ああ、そうだな。午後になったらな」
「……えー、なんで~?」
「遊ぶのはもっと元気になってからだ。大丈夫、俺もここにいるからゆっくり休もうな」
「……うん。ありがと」
響はそう言って顔を綻ばせた。
俺もつられて顔を綻ばせた。
「よしよし、良い子だ」
俺はソファーの端に座り太ももをポンポンと叩いた。
響もなんとなく察したのか俺の太ももを枕にして横になった。
「もう、子供扱いしないでよ」
「はは、説得力が微塵もないぞ」
「……むぅ」
あまりに可愛いものだから俺は響のお腹に手を当ててさすった。
何故こんな事をしたのか、まぁ自然と手がでたんだし仕方ない。響も全く抵抗しないし。
「…………ひ…ぅ……」
俺がねちっこくお腹をさすっていると、響はくすぐったそうな、どこかじれったそうな顔してちょっと悩ましげな声を漏らした。
「……ゆ…い斗。これ、良くない……なんだかバカになる……」
「ふふ、ごめんよ。少し寝ようか」
「……うん。唯斗、眠くなっちゃったの?」
「ああ、ちょっと寝たい」
「実は俺もなんだ。おやすみ……」
「おやすみ、響」
俺の膝の上に頭を乗せている可愛い可愛い俺のお嫁さんが静かに寝息をたてるまで見守り、やがて俺も睡魔に身を委ねた。
起きたら夕方くらいになってるかもな。
でも響と身を寄せ合って寝たと思えば全然勿体なくないと思える。
今はこの幸せを噛みしめていたい。
おやすみ、響……




