イヴですらバイト
だいたい八週間ぶり……でしたっけ?
おかげで大きな季節ズレが起きてしまいました……
響ちゃんは有能だ
最初の頃はまぁ色々とやらかしていたりした
響ちゃんはわりと無茶をする子で、初っぱなから色んな物をいっぺんに運ぼうとしていた
その結果軽い衝撃で……まぁ察して下さいな状況をモアりだす訳で
普通だったら怒るところだけど、謝りながらも頑張っている響ちゃんを見てたらなんだか許せてしまった。可愛いは正義! 可愛いから許す! そういう事なのかもしれない
そして自分を含めたモーメントエデンベテラン店員メンバーで緊急会議を開き、明治響育成計画を企画
これは響ちゃんのスキルアップを何よりも大事と考える企画で、響ちゃんが何らかの手順に困っていたら一緒にやることで覚えさせるってだけの簡単な計画だ
この企画は最優先事項
何があろうと響ちゃんサポート。もう甘々超ゆとり体制だ
だがこれは収入の見込みがあるからやるのだ
響ちゃんが入ってから、この店は以前より客足が増えた
元々ゆったりした空間を提供するのが第一なのだが、人は大金を目の前にして放ってはいない
俺は響ちゃんの魅力で大金を掴み、もっといい食材と飲み物を手に入れるのだ!
そうすれば店員さん達とバイトさん達に和牛のサイコロステーキと赤ワインをまかないとして提供するヤベェ店長になれるハズだ!
士気も上がってみんな笑顔。そんな笑顔を見て幸福になる俺。考えただけでニヤけが止まらない
そんなこんなで響ちゃんのスキルを上げ続けたらもう伸びる伸びる
流石に響ちゃんの体では色んな物をいっぺんに運ばせるのは無理というか可哀想なのでやめさせ、オーダー取りや客の出迎えを主な仕事とさせると目立つミスは無くなり、最近では小さなミスもほぼなくなった
元々はゆったりした空間を求めて年のいったおじさんおばさんやお爺さんお婆さんが来るのと、響ちゃん目当てで来る客がいるお陰で響ちゃんの接客は成功
おじさん達は響ちゃんに微笑ましいものを感じて和み、響ちゃん目当ての人達は響ちゃんなら何をしても喜ぶという有り様
繁盛ってほどじゃないけど常に席が7割くらい埋まるようになったのは響ちゃんのお陰だね
とまぁ我がモーメントエデンは最近世の中の風に流されず黄金期に入り始めた訳だが、クリスマスになるちょっと前の頃には更に強力な力を手にしているのだった
―モーメントエデン
視点 明治響
今日はクリスマスイヴだ
でもバイトの日だ
本当は唯斗とそこら辺でぶらぶらして過ごすつもりだったのだが、ちょうど唯斗とモーメントエデンに行った時に店長に何度も『クリスマスは出てくれ!』頼まれた。それで困っていたところを唯斗が店長に話があると言って店長と裏の方まで行ったから流石は彼氏だな~と感心してたら承諾して帰ってきやがった
時間は13時から18時までと若干少なめ
そんな訳でちょいと早めに12時に家を出たのだが、何故か唯斗も着いてきた
最初は一原の方に用事があるのかと思っていたが違うみたいで唯斗はここまで着いて来た
なんか絶対企んでるよねこれ
俺達が中に入ると店長が直々に出迎えてきた
店長はなんかイタズラじみた表情をしていた
「やぁやぁ、2人共よく来てくれたね」
うわぁ、やっぱりなにか企んでるよ
取り合えず挨拶はしとこう
「「おはようございます」」
あ、あれ? 何故か唯斗の声も聞こえたような……
ああ、普通の挨拶か。流石は唯斗、店先のスタッフにも敬語とは礼儀正しいな
「ああ、おはよう。じゃあ2人とも着替えてきちゃって」
「はーい、じゃあ行ってk」
「はい! 責任をもって自分が響を着替えさせてきます!」
な、何を仰っとるんですか唯斗さん!?
「着替えるったってエプロン着けるだけなんだからそんなに気合入れなくても」
「店長、仕事は全力で取り掛からないといけないのです! 響の着替えを全力でサポートするのも仕事の1つなのです! それではいってきます!」
何を言っているのだねチミは……
「わっ!?」
そして俺は唯斗に引っ張られながら更衣室へと向かった
「(仕事なんだから俺も響ちゃんの着替えをサポートしちゃおうかな、なんて言ってからかいたかったけどやめとこう)」
「何故だ……」
言葉に出てしまっているが心の中でももう一度
何故だ……
あれから唯斗は俺を途中でお姫様抱っこして更衣室へ運び、そのままモーメントエデン指定のエプロンを着け、俺のあちこちを触りながら俺にエプロンを着せ、またお姫様抱っこして事務所に運び、あろうことかタイムカードを押しやがった
(※ ちなみにモーメントエデンはタイムカードのPC移行の波に流されずいまだにそのまんまのタイムカードです)
「よし、2人共準備はOKだね。」
「俺はOKですよ。ところで店長、これは一体どういう事なんですか?」
俺は唯斗を指差しながらそう言った
唯斗は目に見えるくらいにニヤニヤとしていた。クールフェイスはどこへやら
「ああ、森長君は先週から入った新人のバイトさんなんだ。宜しくやってくれ」
「宜しくな」
「……まじか」
なんというか、溜め息しか出なかった
感想から話そう
唯斗は超有能だった
テキパキ動くわ下げ繕は手際よく一度に沢山運べるわ接客は上手いわ厨房にも回れるわイケメンだわだわだわと……カンペキ、無欠、イッツパーフェクトな訳で
水樹先輩を含んだ従業員のみんなは唯斗見てを驚くのは勿論の事。気になって仕方がないのか仕事がそっちのけになっている人までいた
そんな中水樹先輩は
『流石、純粋過ぎて色気の抑え方も知らない響ちゃんを惚れさせるだけの事はあるよねぇ。私も久々に夢見たくなっちゃった』
なんてからかわれた
まったく、俺の何処に色気があるんだか。それにもしあったとしてもそれは水樹先輩の足下にも及ばないだろうし
そうそう、色気で思い出したんだけど、やっぱりスカートっていいよね
……いや、俺が履く分にはよくはないんだが
モーメントエデンのスタッフは俺みたいな学生兼バイトや普通に20代の人と、店長以外はみんな若い。そして若さ故かスカート率が高い
つまりだ、ちょっとした出来事でラッキーチラリズムがおほほのほという訳なのだよ
俺だって唯斗の近くでは立場的には完全に女の子な訳だが、それでも心はまだまだ男の子。そう簡単に溢れ溢れる男の探求心が消える訳がないい。そう感じる時に唯斗には申し訳ないが俺は『まだまだ俺は男なんだな』なんて考えて安心していたりする
そういえば今、ちょうど竹中さんがこの店に来ているんだよね
竹中さんといったら俺をこんな神時給の店を紹介してくれた素敵素敵なおじさんだ
当時ははんば強引な形で働くことになったんだけど、今はそれさえありがたかったと思える
竹中さんには超好待遇で接客しないとね
というか竹中さんって店長とはどんな仲だったんだろう?
なんとなく気になって店長の様子を伺う為にさりげなーく近づくと
「響ちゃん、竹中にこれを持ってってくれないか?」
と言われコーヒーの入ったカップの乗ったプレートを渡された
「……? 店長、竹中さんからはまだオーダーをとってませんよ?」
「ん、ああ、いいんだ。それは俺からの奢りだからな」
ほうほう、やっぱり店長と竹中さんは仲が良いみたいだ
「はーい、了解ですっ」
「響ちゃん」
俺はコーヒーを持っていこうとした時、店長に呼びとめられた
「はい、何でしょう?」
「君も知っているとは思うが竹中は同じ場所に何分、何時間でもただぼけーっとしていられる奴だ。だがここは店。テーブルの上に空になったカップがずっと置きっぱなしなのは宜しくない」
「……え?」
「まぁつまりだ、適当にオーダーをとってきてくれないか?」
うぬぬ、唯斗といい店長といい、俺の周りには面倒くさい話し方をする人が多いな
「オーダーをとってくればいいんですね? わかりました」
「うん、お願いね」
竹中さんの所へ行くと竹中さんはすぐに俺に気付いた
竹中さんは公園にいる時とは違って可哀想なオーラは出ていなかった
「こんにちは響君」
ああ、俺に君付けしてくれるのは竹中さんだけだよぉ……ありがたやありがたや……
「こんにちは竹中さん」
「うん、どうやら上手くやれているみたいだね。良かった良かった」
「ありがとう竹中さん、はいこれ」
俺は竹中さんに礼を言いながらコーヒーの入ったカップをテーブルに置いた
「ああ、彼からだね、ありがとう。……ふふふ、このコーヒー、どれだけの価値があるか想像したら飲むのを躊躇ってしまうよ」
「……? どういうこと?」
「いやなに、響君はこの辺りでは隠れたアイドルなんだよ。もともと響君の使っている路線では既にアイドルだったんだけど、ここに来てからは他人と接する機会も増えたよね。その結果さ」
な、なにぃ!?
「ま、マジですか……?」
「うん、この話は本当だよ。現に……おっと、仕事の邪魔しちゃいけないね。それじゃあ注文してもいいかな?」
ずるい! そこまで言ってそれはないよ……
うぬぬ、しかし今は仕事中、仕方ない……
オーダーをとって厨房に戻ってくると、何やらとてもいいニオイがした
「おお、お戻りなすったな響ちゃん! もうすぐ出来るから待っててね」
店長はそう言うとまるで職人のようなフライパンさばきで料理を皿に盛り付けた
見たところチャーハンだけど、これが竹中さんの頼んだ7693という料理なのかな?
……というか良いにおいだなぁ
「あの、店長? これが7693ですか?」
「そうとも、これがここの裏メニュー『幻の蟹チャーハン』さ。その数はいわば秘密の番号だよ」
「おお~……」
「さぁ、冷める前に運んじゃってくれ」
「はーい」
そして時間は経ち、ちょうど3時くらいになりあと2時間ちょいであがりかな~って考えている時だった
「響ちゃん、そこまでお客さんが来てる感じだから出迎えお願いね。ちなみに1人ねー」
「了解でーす」
カランカラン
店長の言った通りお客さんは来た
しかしその人は思いもよらない人だった
「いらっしゃいませ♪ お一人様です……え!?」
「ああ、1人でお願いね。小さいのに大変だねぇ。僕にも君くらいの息、娘が……え!?」
俺も目の前のお客さんも思わず唖然としてしまった
お客さんだけが唖然とすることならよくあるが俺も唖然とすることなんてなかった。なぜなら……
「な、なんで父さんがここに!?」
「なんで響がここに!?」
父さんが来たからだ
「なるほど、響はここで働いていたんだね。随分頑張っているじゃないか」
「……ま、まぁね。……えへへ」
ちなみに俺の父さん、名前は維伶っていう変わった名前なんだよね。何度もおもうんだけど明治維伶ってなんか惜しい名前だよね
「お久しぶりです。響のお父さん。いや、お義父さん」
何故か一緒に着いてきた唯斗は父さんに会うなりサラッとどころかドドンととんでもない事を言い出した
「お義父さん? ははは、唯斗君が響の相手なら僕も安心だよ。でもちょっと早過ぎないかな。僕だってまだ混乱しているんだ。少し時間をくれないかい?」
「はい、大事な縁談なんで少しずつゆっくりしっかりネチネチと進めていきましょう。……ふふふ」
……なんともこっぱずかしいなぁ
「そう言ってもらえると助かるよ。しかしまぁ、こうやってよーく見ると……」
そういって父さんは俺を観察するかのようにゆっくり見てきた。唯斗も釣られるように父さんに続いた
……やっぱりまだ視線には慣れないなぁ
「ほのかに雰囲気が似ているなぁ響。特にこのどこか眠たそうな眼とか……」
「流石はお義父さん。響の魅力をわかってらっしゃる」
「もう、変なことしてないでサッサとオーダーとっちゃおうよ。父さんも唯斗がマネしちゃうからさっきみたいなのはダメだよ?」
「おっとごめんよ。少し待っててね
」
「(……とと、危ない危ない。響のお陰で俺のクール崩壊を逃れられたぜ。幸い近くに他の店員さんは居ないし)」
「それじゃあこの7693っていうのをお願いするね」
えっ!? 確かそれって……
「父さん! なんでそれを!?」
「ふふふ、やっぱりあるんだね、ひみつのメニュー。不自然なくらいに小さく書いてあるから言ってみただけなんだけど」
なんという観察力……。もしかして。海外で働くとみんな父さんみたいになれるのかな?
「他に何かいる?」
「それじゃあウーロン茶を頼もうかな」
「7693とウーロン茶ですね、かしこまりました。それでは失礼します。ごゆっくりどうぞ。ささ、行こう響」
「う、うん。じゃあ父さん、ゆっくりしてってね」
「そうさせてもらうよ。2人とも頑張ってね(流石は唯斗君だ。テキパキしてる)」
唯斗がサッと下がり、俺もそれに着いていく。そして父さんに背を向け歩き出してから俺は唯斗に話し掛けた
「凄いね唯斗は。身内(になるかもしれない人)に対しても敬語でさ。俺、知り合いが来たら敬語を保てる自信がないよ」
「サービス業に勤めている者として当然さ。響は素でも敬語でも問題なさそうだからいいけど俺は男だからな。ビシッと決めないと(み、身内だってさ! ひょひょひょ~い!)」
うぐ、男はビシッと……か。心に染みるフレーズだな……
最近女の子に慣れすぎて甘えているのかもしれないな。もっとビシッとシャキッとしないと……。まぁ別にもう男として生きている訳じゃないしそこまで気にする必要なんて…………なるほど、これが甘えか……
「唯斗、俺頑張るよ」
「……? あんま無理しないようにな?」
そして更に時間は経ち、あたりはいい感じに暗くなっていた
時間も押していたから俺と唯斗は店長に上がり作業をするように言われ、それを終えるとタイムカードを押した
「2人ともお疲れ様。なんだか響ちゃんは少し気合いが入っていたみたいだね。お客さんも綺麗さ寄りの響ちゃんを見れて満足していたらしいよ。それと森長君。君は本当に容量がいいね。これからもここで頑張ってくれると俺も助かるよ」
「ありがとうございます、店長」
いやぁ~、いつもより頑張ったら誉められちゃった♪
「自分なんてまだまだですよ」
謙虚だねぇ。たけど天才の謙虚さは凡才を傷つけるだけなんだよね……
なんて事を考えていると店長は俺と唯斗に小さな封筒を渡してきた
「それはボーナス的な物だよ。最近は大きな黒字が続いてるからね。クリスマスってのもあるけどこれは俺からの気持ちだ。とっておいてくれ」
こ、これってボーナス?
「じゃ、俺達は忙しいからもういくよ。お疲れ様」
「はーい、お疲れ様でした~」
「お疲れ様でした」
店長は事務所から出て行き、俺達は着替えて帰る事にした
ー住宅街
帰りは学校の日と同じように話しながら帰った
「今日はなんだか凄かったな」
「うん、竹中さんが来たと思ったら父さんまできたし」
「ああ、響の父さん、凄い人だったな。確か響が小さい頃に海外へいったんだっけ?」
「うん、まだ居た時にはよく遊んでもらっていた記憶が残ってるよ」
確か七海が物心つき始めているかいないかって頃に行っちゃったんだっけかな。そんで年に何回かこっちから電話をかけたりかけられたりしてコミュニケーションをとっていたんだよね
「……大変だったな」
「なにが?」
「……いや、何でもない」
俺は気になって聞こうとして最近のことを思い出し、やめた
「……唯斗は、まだ気にしてくれていたんだね」
「……ああ、まぁな。嬉し泣きとか悔し泣きする響なら見たことがあったがあんな風に泣く響を見たのは初めてだったからな……」
その言葉を聞いて俺は唯斗が本当に俺のことを思ってくれているんだなと感じ、唯斗の前に出た
「……? どうしたんだ? ッ!?」
俺は唯斗にスッと近づき、そのまま抱きついた
「(な、なな……!?)」
正直言って恥ずかしい。近所の人が通りすがったらヤバい。近くの家の人がふと窓を見てもヤバい
それでも俺は抱きついた
身長差で俺の顔は唯斗の胸板に飛び込んでいた。だけど、むしろその方が心地いいかよかった
「響……(響は女の子だけど元男だから女の子にすがることなんて出来ない。でも元男だからって男にすがることも出来ない。響の性質上普通の人とは距離を置いてしまうんだ。だから俺が響の依り代になってあげないと……)」
唯斗は俺の名前を呟き、ゆっくり優しく包んでくれた
「……? あれは……お姉ちゃ……。ここは空気を読んで遠回りして帰ろう」
「(あら、今時の子はそこかしこで抱き合っちゃうのね……)」
「(……響!? う、うふふ♪ いいとこ見つけちゃった♪ 消音カメラで撮っちゃお~っと)」
五分くらいはこうしているのかな? 全然飽きないや……
……はふぅ、唯斗があたたかいからなんだかねむくなってきたよ
「……ゆいと……おれ……もう……みゅっ!?」
唯斗は俺の考えをさっしたかのように俺を持ち上げた
「(ああもう……可愛いなぁ!)」
そして器用におんぶの体せいに持ち込んだ
「……ありがと」
「ああ、帰っぞ」
ー視点 三人称
あれから唯斗は半分寝ている響をおんぶしながら明治家へたどり着いた
インターホンを押して出てきたのは美代だった
「はーい、ってあれぇ? 唯斗君じゃなぁい。あらあら、響ったらすっかり寝ぼけちゃって」
「いやぁ、甘やかすのはよくないとは思ってたんですが……あまりにも破壊力が……」
「分かるわぁ! スッゴく分かる! どうあがいても可愛がっちゃうのよねぇ♪」
「全くもって面目ないです」
「いいのよぉ♪ ほーら響、シャキッとしなさい?」
「ん~? あ、かぁさん……ぉぉしたの……? なんだかぅれぃそうぁね……」
訳 ん~? あ、母さん、どうしたの? なんだか嬉しそうだね
「「(ッ!!!???)」」
「(あぁ、癒されるわぁ……♪)」
「(にょほほほほほ~♪)」
「……おっといかんいかん。ほら響、起きろ~」
「うん……」
響は唯斗にゆっくりと降ろされた。しかし響は歩く事なく唯斗にぎゅっとしがみついているだけだった
「ゆいと~♪」
「でゅ!?」
「にょ、にょほほほほほ♪」
響の行動を見て、美代は思わず変な笑みをこぼし、唯斗に至っては内が外に出てしまった
「ひ、響? 俺はそろそろ帰りましゅよ?」
「やーだー! ゆーいーとー」
「ひゅ、ふふふ……響ったら完全に寝ぼけて素が出てるわねぇ……。ママ、このままじゃ萌え死んじゃうわ……」
「え!? これ素なの!? ……じゃなくて素なんですか!?」
「そうよぉ、響は寂しがり屋の甘えん坊なんだからぁ♪ たぶん」
美代の発言で唯斗はあることないこと妄想し、思考が飛んだ
「あああああのあの……お持ち帰りしていいですか?」
「だーめ♪」
「しょんにゃあ……」
唯斗が嘆いている間に美代は響の近くまで行って響を持ち上げ、こう言った
「響、ママの目をよーくみて」
「……?」
響は素直に美代の言うとおりにした
「(……あ、直視ヤバい。可愛い過ぎるわぁ♪)」
少しの間2人は目を合わせ、やがて響に異変が起きた
「あ、あわあわあわ……」
「響」
美代が響の名前を言うと響はガタガタと震えだした
「ひぇぇぇぇぇ……」
そして響は気を失ったかのように目を瞑り下を向いた
一部始終を見ていた唯斗も何が起きたのかわからなかった
「な、なにをしたんです?」
「ふふふ、これがいわゆるマママジックよぉ♪ 効果はすぐにわかるわ」
唯斗は頷き響の様子を見ることにした
するとすぐに響の目はゆっくりと開かれていった
「……むぅ。なんだか嫌な夢を見たような。……あれ? 母さ……わあぁぁぁぁ!? まだ終わってないいぃぃぃぃ!?」
響はそう言って暴れ出したが美代にがっしり持ち上げられていて対して動けなかった
「響ぃ~? 一体どんな優しい顔をみたらそんな怖い夢でも見たかのような顔になるのかしらぁ?」
「ーーー!! あっ、唯斗! 神様ありがとう。こんな救済を置いてくれるなんて。ねぇ唯斗! 見てないで助けてよぉ!」
「……あぁ~。響、これは夢じゃない、現実なんだ。目の前の真実を見てみろ? きっとその人はホンモノだから」
響は唯斗に言われるまま美代をよーく見詰めるとようやく落ち着いた
「(……なんだか夢と変わらないような気がするけど、まぁいいか)」
「(不思議だわ。私を見る響の目がまるで変わっていないような。き、気のせいよね……)」
唯斗は帰宅し、博樹も遊びから帰ってきてようやく明治家に家族が集結した
今日はクリスマスイヴ。家族が揃えばパーティーが始まる
普通なら彼氏彼女でホワイトでキラキラな街へ繰り出しラブラブイヴイヴな夜を過ごすものなのだが、美代はともかく維伶はハウス派。七海はまだ小学生。博樹も周りのせいでストライクゾーンが異常に狭く高いのか彼女なし。とにかくお盛んな年代である高校生のはずの響は彼女ではなく逆に彼氏を作ってしまい、デートは当日だという
そんなこんなでイヴは定時には家に帰り贅沢なお食事パーティーとなったのだった
ショート 〈ぎゃるげ〉
今日は唯斗を驚かせようと思ってる
唯斗に伝えた時刻より少し早めに唯斗の家に入るんだ
まぁあまり意味のある行動とは思えないが、なんか発見があるかもしれない面白そうじゃん?
そんな訳で唯斗の家にこっそり入ったんだが、なんか唯斗のやつ一人で呟いてるぞ
因みに唯斗の家は唯斗が居る時ならカギは基本的に開いているんだよね。凄く不用心だね
『……な……ど、だが……れる分……きより恵まれてるな。まぁ俺的には戻……い響の方が……と思うがな』
なんだ? 俺がなんだって? もう入っちゃおうか
『……うむ、やはり金髪は……もオーソ……クスというか、す……しいな!』
あと少し、あと少しで何言ってるか聞こえるんだけど……
よし、ドアに耳を当ててみよう
『むっひょー! 休日の朝は幼女を眺めるに限る! お出掛けしろ? 引きこもんな? 彼女作れ? 別に1人で出掛けてもつまんねーし引きこもってねーし最後に至っては無問題! 俺にはとびきりの幼女な彼女がいるもんにーだ! ははははは!』
……よくわからんが充実した朝を送ってるみたいだな。
というか幼女を眺める? ……まさか俺の写真集とか? ぐぬぬ、まだギリギリこの姿を客観的に見れるが流石に自分の写真集は恥ずかしいな。
……まぁ自分がどんな表情をしているのを確認するのも悪くはないだろう。
とりあえず入ってみれば分かることだ。
ガチャ
「ッ!!!??」
『唯斗~、遊びにきtにょわあ!?』
扉を開けた俺の目の前には迫ってくる稼働椅子に座った唯斗の後ろ姿があった
俺は避けることも出来ずに椅子に轢かれた
「……あたたたた」
「誰だ! 響が来るまでの俺の幼女補完タイムを邪魔す……るのは……? ひ、響!? 大丈夫か!?」
「……う、うん」
「ごめんよ、ごめんよぅ……」
唯斗は椅子の下敷きになっている俺を助け起こし、自分の膝の上に乗せて頭を撫でたり頬ずりしたりしてきた
まだ少し痛いしもっと優しく扱って欲しいなぁ
「……ん? あああああああ!?」
「どうしたんだ唯斗? 素っ頓狂な声上げて」
「あわわ、あわわわわ……」
唯斗は俺の右腕を持ち上げてまじまじと見てきた
「た、たたた大変だ……。俺の可愛い響の右腕にかすり傷がががが……」
右腕のかすり傷? あ、ホントだ。でもまぁ別に痛くないし大丈夫じゃね?
「大げさだなぁ、これくらい全然大丈夫だよ」
「馬鹿か! 響に傷が付いたんだぞ!? こっちは全然大丈夫じゃない!!」
……むむぅ、そんな面と向かって大声で言わなくても。あ、ツバ飛んだ。しかも顔についたし……
「その顔は俺が言いたい事がわかってないって事だな。いいだろう、簡単に説明するぞ。……年齢制限引っ掛かってなかなか買えなかったあのゲームを親に買ってもらいました。ゲーム機に入れる際に落としてしまいました。裏面が傷つきまし」
「わかった! 超わかった! それは大げさにしていいよ!」
きれい好きならディスクに傷とか発狂ものだもんな。
「わかったか。よしよしいい子だ。それじゃ救急セット的なのを持ってくるから、傷から血が出てきたら全力で腕を上げるんだぞ」
「うん。……ありがと」
「……おう(ひょー、たまんねーなぁ♪)」
そう言って唯斗は部屋からでていった
にしても……
唯斗のやつ、俺をそんなに大事に思ってくれているなんて
えへへ、嬉しいなぁ……嬉しいなぁ……♪
……あ、そうだ! 今日は唯斗のステータスを見せて貰うんだった。今の内に色々見ちゃおう
そう思い立った俺は唯斗のPCの前に行った
「……? ……おお、これはかわゆいオナゴじゃあ……」
画面に映し出されていたのはいわゆる『ぎゃるげ』だった。金髪の幼女だった。どことなく髪の癖が俺に似ているような気がする
名前は……やつばちゃんか。なんだか大人しそうな子だな。唯斗はこういう子がいいのかな? さすがは唯斗だ、わかってらっしゃる
それから俺は適当な所からロードしてぎゃるげを始めた
『(自重音声)』
「………………」
初っぱなから凄まじいエロシーンがでてきた。いや、エロシーンなのかはわからないけど何故か頭がそう悟った
普通こういうのを見ると大抵の女の子はみんな変な気分になるらしいのだが、まぁそんなことはなかった
なぜかって?
そりゃあ、ねぇ? 家には恐ろしい魔女が2人もいるんだもの。しかたない
『(自重音声)』
……でも、この子みたいに自分でしたらどうなるんだろう? 母さん達に襲われた時みたいになるのかな
……いや、やめとこう。なんというか、やっちゃいけないというか、なんかそんな感じがする
「お待たせ響ぃ~。……な!?」
「ん? ああ、取ってきてくれたのか? ありがとう。……唯斗」
唯斗の方を向くと、唯斗はかなり驚いた顔でこっちを見てきた
「お、おまおま……それ……」
「ん、ああ。なかなか良いもの見させてもらってますよ~。ふぇっ?」
気がつくと唯斗はドドドドっと俺に近づき、軽々と持ち上げてベッドに座らせた
「小さい子があんなもの見たらメッ!! だぞ!」
「あぅっ」
軽くデコピンされた
「でも唯斗、今までは普通にあんな感じのぎゃるげ? 貸してくれたじゃないか」
俺がそう言ったことで、唯斗の熱いトークが始まった
「響、響が見た女の子はなんだったかわかるか?」
「えーと、金髪ロリでやつばちゃんっていったかな」
「あの子な、響とだいたい似たような状況に置かれているんだ」
俺と同じような?
「ま、まさか?」
「そう、やつばちゃんは元男だ」
な、なんだと!?
というか女の子になっちゃうシチュエーションってぎゃるげにもあるんだ……。この国はもう終わってるのかもしれないな……。
「俺はな、響がいつもどんな思いで生活を送ってるのか気になってそういうジャンルのゲームや書籍に手を出し始めたんだ。そしたら恐ろしいことに気づいたんだ」
恐ろしいこと?
「そ、それって……?」
「元男の女の子はな、愛し合うとどんどん女の子になっていってしまうんだ。心も体も」
「愛し合う? つまり俺達の関係が続いたらマズいんじゃ……」
「……あはぁ! やっぱ響は純粋だなぁ♪ まぁつまりだ、愛し合うってのはエロいことするってことだよ」
「エロいこと……」
はわわわ、なんだか頭がボーッとしちゃった。こりゃもう完全に母さんと七海のせいだ
「男の時と勝手が違って困るところを楽しむのが本来のTSものらしいんだが、これが18禁製になると精神がどんどん女の子化していくんだよ。俺はそれが何故か辛い……。もちろん響には響のままでいて欲しい。俺達はもう立派なカップルだが、することは親友みたいにじゃれ合う+ラブだ。響が変わったら今の幸せはなくなるかもしれない。俺はそれが凄く辛い」
「唯斗……」
「だからそういう事は覚えさせたくない。俺も立派な大人になるまで響とそういう事をするのは我慢する」
「うーん……。でもさ唯斗、俺だってまだ心は男なんだ。そういう事はちょっと気になる」
母さん達に抵抗できずにいいようにされるのはアレだし、反撃方法くらい知りたいもん
「……(うもも、響はたまに引かなくなるんだよな。ふむ、ここはエサを垂らして話を逸らそう。響なら簡単だ)」
「なぁ響」
「ん?」
「ポテト揚げてやるから食わないか?」
なに!? ポテトだと!?
「食べる食べるぅ~♪」
「(ふはは、さすがはポテト王女。エサで簡単に釣れるぜ!)」
「ねぇねぇ、どれくらい揚げてくれるの~?」
「うーん、山盛り?」
「ふわぁ~、山盛りぃ~」
ポテトが山盛り……ポテトが山盛り……。~~~♪
「それじゃあキッチンに行きましょ~(チョロいぜ!)」
「はーい♪」
なんか忘れているような気がするが、ポテトの前では簡単な話は全て吹き飛ぶ。これが俺!
そのあと、沢山のポテトを食べた俺はとても幸せな気分で唯斗の膝の上で寝るのだった




