第六話:最高のプラネタリウム
翌日、学校で黒崎の転校が発表された。
悲しむ女子、涙目の女子。
その中で今日メルアドを教えようとした女子が自分のメルアドを書いた紙を立ち上がって破ろうとする女子もいた。
稲垣はそんな女子を見て、自分も女で黒崎に恋をしていたらこうなるのかなあと思っていた。
チャイムが鳴って、SHRが終わった。
紙を破ろうとした女子は、二人の女子に担がれて保健室へと連れて行かれた。
チャイムが鳴ってすぐ、教室に微かな揺れを感じる。
教室にいた生徒が微かな揺れに気付いて何だこれ?と疑問を持ち始めた。
微かな揺れはほんの少しだけど大きくなっている。
―何かが来る―
保健室に行った3人を除いたクラスはそう感じずにはいられなかった。
揺れの“原因”が教室の前に来た。
幽霊か?怪獣か?学校始まって以来の鬼教師か?クラスがこの“原因”の正体を知りたかった。
教室のドアが開く。生徒がゴクンと息を飲み込む。
「稲垣〜!!大沢〜!!」
“原因”の正体は大塚と屋良だった。
でも二人だけであんなに教室が揺れるか?と大沢は考えていた。
「んだよ、お前らかよ」
稲垣が突っ込んだが、二人はそれに応じず息を切らして呼吸している。
なぜ隣のクラスなのに息が?元ジャニーズJr.だろ?大沢はこの謎解きに必死になっていた。
「俺らクラス全員+ゴジラも連れてお前等に話がある」
「クラス全員かよ!!しかもゴジラ付き!?そんなに大事な用事かよ」
なるほど。
クラス全員+ゴジラだから微かな揺れで休み時間で散らばったクラスメートと職員室にいるゴジラを探したから息を切らしていたのか。大沢は結論づけた。
「みんな、よく聞けよ」
屋良が全員を静寂にさせた。
「黒崎、転校するんだとよ」
大沢と稲垣がマジゴケをした。二人はなぜこけるのか不思議がっている。
「もう知っとるわい!!同じクラスだろ!!」
稲垣が突っ込んだらクラスはなるほどと納得してゾロゾロとクラスへ戻っていった。
何だあれ?稲垣のクラス全員は隣のクラスが起こした事件に疑問を持ち始める。
放課後、黒崎がいないから何もしないで家路へとついた。
家へ帰ると、稲垣の母親、有紀と妹の萌が『早いね』と言葉を送ったが、稲垣は無視をする。
稲垣は部屋に入ってベッドにゴロンと寝ころび、テレビのスイッチを付けた。
テレビはドラマの再放送がやっていた。
学園ドラマで主人公が担任をしているクラスにいじめが発生されている事が分かった。
『人には痛いっていう感情があるんだ!!痛いという感情を知らずに人に痛いという感情を与えるのは、0点をいつも取るやつよりもバカだ!!生きていてもしょうがない奴なんだ』
痛いっていう感情ね。稲垣はテレビを消して天井を見た。
楽しみたい感情…。
それを知らずに人の楽しみたい感情を裏切るのはバカだ。生きていてもしょうがない奴だ。
稲垣はハッとして起き上がった。
「黒崎はこの町で最後まで楽しみたかったんだ!!」
稲垣は家から飛び出した。黒崎の家へと向かうのだ。
「どっか出かけましたよ」
家政婦が稲垣に伝えると、稲垣は『すいません』と軽くお辞儀をして走った。
「どこにもいねーよ」
もう閉店した駄菓子屋の前に座って、稲垣は黒崎探しを休んでいた。
「腹減ったぁ。帰るべ」
稲垣は立ち上がって歩きだした。
しばらく歩くと川の土手に着いた。
「確か俺らを追っているパトカーがこの土手でバランスを崩してそのまま川に落ちたなぁ。あれは笑えたなぁ」
稲垣が一人で思い出話をしていると、微かにタバコの匂いが鼻に立ちこめた。
この匂い!!稲垣はハッと気付いて匂いで何かを探し始めた。
このタバコの匂いは、黒崎達が吸っているタバコの煙の匂いだった。
稲垣は匂いの元を探すため走り続けた。
辿り着いた場所はもちろん川の土手だった。
そこには座りながらタバコを食わえている黒崎の姿があった。
「黒崎!!」
黒崎が振り向くと、息を切らしている稲垣の姿が視線に入った。
「おう、草野球ではいつもサードの稲垣君じゃないかい。大きくなったなあ」
黒崎は稲垣に近付いて髪を撫でてポンポンと稲垣の頭を叩いた。
「三日前に会っただろ。そんな三日間で急激な成長を遂げる人間じゃねえよ。しかも草野球そんなにしてねえしするとしたらいつもショートだし」
黒崎は煙草をくわえながらニヤリと笑った。
「やっぱり稲垣君だ」
「そうだよ。俺は稲垣誠だよ」
「まあ座れよ。稲垣誠」
黒崎は土手の左側をポンポンと叩いた。
稲垣は三歩ぐらい黒崎に近付いたら、黒崎は両方の手のひらを突き出して『ストップ』と言って黒崎は左側にハンカチを敷く振りをした。
「どうぞ」
黒崎は稲垣を導いた。
ハンカチを敷いた振りでも俺のズボンは汚れるよ♪稲垣はハイテンションで黒崎の左側に座った。
「吸う?」
黒崎はライターと煙草を差し出したが、稲垣は手の甲でいらないという素振りを見せた。
「ははは、煙草はいつも吸わないからな」
黒崎が新しい煙草に火を点けた時、一番星が顔を出した。
夜か。稲垣を時間が気になってきた。
「どうして引っ越すんだ」
稲垣は遠回しに質問をしてみた。
「親父が法律番組のレギュラー弁護士に選ばれて、遅刻しないために近くに引っ越すんだと」
「そうか、おまえの親父さん弁護士だもんな」
黒崎は小さく頷いた。
「てか明日には俺はもうこの町にいないんだよな」
「そうか…はぁ!?」
稲垣は驚いて振り向くと、黒崎は何にも動じずに煙草を吸っていた。
「なあ黒崎?」
稲垣は深刻な顔で黒崎に訪ねた。
どうしたんだ?黒崎は煙草を道に擦り消しながら思った。
「どうしたん?」
「前さ、俺が黒崎に俺の今の思いを言ったじゃん。その時の気持ちってどうだった?やっぱり最後にパァっとやりたかった?」
「パァっとやりたかった。ファイナルアンサー?」
えっ? ミリオネア?稲垣は頭の中でみのもんたに言われた気分で緊張した感じになって『ファイナルアンサー』と言った。
「ダラダラダラダラ…」
黒崎は忠実に再現したる!と思いながらドラムを叩いてるように両手を振った。
稲垣は息を飲んだ。
「稲垣君、残念」
黒崎は残念そうな笑顔を浮かべた。
稲垣はミリオネアのスタジオに一人残された気分で、オーディエンス使えばよかったと頭の中で嘆いていた。
「スーパー煙草君、没収!!」
世界・不思議発見?急な番組変更に稲垣は焦ってしまい、しゃべらない所なのに噛んだ。
黒崎はゆっくりと煙草をポケットに閉まった。
「はい、おれ煙草吸わない」
「はっ?」
「お前がバカやってるから没収されたんだろ」
バカやって煙草をやめてんじゃねえかおまえ。
稲垣は笑みを浮かべながら星空を眺めた。
星空は最高のプラネタリウムだった。
パァっと最後にやりたかったんだろ?
稲垣の答えに反対した黒崎。
黒崎の本当の思いを聞けて、稲垣はこいつと友達になってよかったと思った。 そして…。