第三十話:大切なもの
屋良さんは池永さんとの恋を見事に忘れ、硲との恋に燃えています。池永が大沢にくっついていると、無視してベースを弾く。なんか屋良って浮気をしなそうだな。
早速デートの約束をした屋良はお洒落に身を包み、両親に軽くお辞儀をした後パトラッシュと叫び走ったそうです…。なんで…?
ここで、皆さんお待ちかねの屋良的デートスタイルをご紹介しましょう。
その1、デートの集合場所は目立つ場所に限る。(渋谷でいうとハチ公とか)集まる時間は一時から二時がジャスト(結構早く集まると昼飯代まで余計にかかるし、遅く集まると夕食までのコミュニケーションが少ないため)
その2、最初はゲーセンだ!!最初からプリを撮らないで、UFOキャッチャーで相手に何でも出来るぜ的なアピールをしよう(取った人形はもちプレゼントするから比較的可愛いのを選ぶべし)。プリは撮った後の落書きは相手にさせるべし(絶対ハートをたくさんつける)。チュープリはまだ早い(引かれる)。
その3、夕食はおごれ。
ファミレスがちょうどいい(普通のレストランに行くと、運が悪かったらおごるどころじゃなくなる)。
ドリンクバーは絶対頼むからコップ等を相手の分も取る(てかドリンクも入れろ)。
炭酸はそんなに飲むな(引かれる)。『いいよ自分の分ぐらい払うよ』的な事を彼女が言ってきたら下手に断らないで『マジで、サンキュ』って感じで行こう(これこそ優しいっていうのだ)。『おごるよ』って言われたら『大丈夫、自分の分はあるから』的な自然な理由で断ろう(サンキュっていうと貧乏に見えるから)。
その4、映画もいいかも。ポップコーンを買っとけ。できるなら夕食の前にいった方がよい。
その5、デート中はリードをして、手を繋がせる(なんか相手も嬉しくなる)。
そんなデートスタイルを頭に入れ、屋良はデートに挑む。
そんな中、俺らはと言うと…。
「狭ぇんだよ」 そんな中、俺らはと言うと…。
「広すぎだろ。このバス」
大塚プレゼン、屋良を追跡ふふふツアーINジャパンをこの50人乗りのバスで過ごす。
「中入るの4人だろ(運転手付き)これじゃあ超目立つよ」
大沢が後ろの5人が座れる場所で、一人寝転びながら言った。十分気に入ってんじゃん、あんた。俺、ここ行きたかった。
「てか屋良のデートプラン分かるの?」
俺が聞くと、屋良が笑顔でポケットから何か出す。
「屋良の部屋から貰いました。屋良著作の恋人はサンタクロースデートツアーだって」
うん、もうクリスマスは過ぎたし、大塚も屋良の部屋から貰ったって盗んだんだろ。
犯罪じゃん。
「ふふふ(?)とりあえずプランを覗こうじゃないの」
とりあえずプランを覗きました。
PM:13:00。待ち合わせ、出発。
PM:13:30。ゲーセンを楽しむ。
PM:15:00。遊園地で楽しむ。
「てか遊園地にもゲーセンはあるだろ?」
ごもっとも。
PM:18:00。夕食を食べる。
PM:19:00。バイバイ。
「まあ、いいんじゃないの」
俺たちはそれなりにいいと思い、結構いい評価とした。
さあ、あとはお前だけだ。美女キラー屋良、青春を楽しめ。俺らはその青春を見て楽しむから(笑)。
な、なんてこんな遅いんだ。もう一時過ぎてるぞ…。
屋良はあまりに遅いから焦っているらしい。屋良はポケットから何かを出そうとする。そう、寝ずに考えた恋人はサンタクロースツアーのプランだ。
って、忘れたーーーー!!わかんねえよ。とにかく覚えてるのは、遊園地とゲーセンに行くだけだよな。
屋良は本気で焦っているらしい。俺は大塚さん、そちもワルよのぉと思った。
「ごめんね。屋良くん。待った?」
か、可愛い。
屋良は驚いた。何故ならば結構時間を掛けて服を選んだのか、着こなし抜群ですごいオシャレだった。
俺らがいるバスの中でも可愛いって盛り上がっていた。
「大丈夫だよ。それよりすげぇオシャレじゃん」
「そぉだよ。これでもうち頑張ったんだぜ☆」
「やるなー、どこに売ってるの?こんな服?」
「フツーに店だろぉ(笑)」
「そおだよな。ははは」
いい加減行けよ。てめえらよ。バスの中は超暇なんだよ。
「うん。じゃあそろそろ行こ」
「うん♪」
そう言って、二人は自然に手を繋ぎながら歩いていった。それを確認した俺らは急いで近くにあるゲーセンを目指す。
ゆっくり二人のペースについていくと、交通量の多いこの街では渋滞になりかねないから早くゲーセンに行く事になる。
ゲーセンに着いたとしても最強に暇だから俺らはゲーセンに入ろうかななんてプランを考えている。
「てかよー、普通に歩いて着いてきた方がよくね?」
そう言って大沢は持ってきたバックの中からメントスを出して封を開けた。好きなのかな?
「歩くと非常にバレやすいし、おばはんに通報されたら困るのはこっちだ」
さすが、大塚くん分かってるぅ。俺は大塚の肩を叩いた。この事は第27話を見てください。
「ふぅん」
興味なさげに応えた大沢はバックからメントスを出して封を開けた。二本目ですよ。親分。
「うわはやっ」
大塚が言うとおり、いつの間にかバスの窓のスクリーンにゲーセンが映っている。屋良の数倍も早く着いたのだろう。あまりにも暇だ。なのでゲーセンの中で屋良を見守る事にした。
ゲーセンの中に入ると、自動のどこでもドアが開くと、一瞬にして雑音の世界へと瞬間移動してしまう。うるさい。もうちょっと小さく出来ないのか?だから現在の若者は大音量で音楽を聞くんだ。俺もそうだけど俺んちは広いからね(死ね)。
大塚がゲーセン内を走り、辿り着いた場所はドラムのゲームだった。
またアド帳増やす気かよ?
「ふふふ、ついにこの時が来たぜ」
大塚はポケットからドラムのバチを出した。MYバチっすか?
「またまた女子高生のアドレスゲットだぜ!!」
大塚がウキウキ気分で百円玉を入れる。やる曲はもちろん『天体観測』。
大塚がMYバチを構える。
演奏が始まった。早速鮮やかなドラムスティックを披露する。すると瞬く間に女子高生が群がってきて大塚の事を『かっこいい』とかなんか言っている。ああ…アドゲットだな…。
一回のミスもなくステージクリアをしたら、群がってる人達が拍手をした。
おっ、女子高生が一気にケータイを取り出したぞ。アド聞くのか。
女子高生が一気に動き始めた。
「アド教えてくださぃ☆」
そう聞かれたのは俺と大沢だったぁ!!大塚撃沈!!
「見た時からカッコイいなぁなんて思ったんですぅ」
女子高生はまだいいよとも言ってないのにアド帳を開く。せっかちだなぁ…もう。
「別にいいけど」
「やったぁ☆」
一瞬にして俺と大沢の周りに女子高生が群がる。大塚はもう無視して違う曲やってます。大塚撃沈!!
女子高生のケータイに自分のアドを打ち込んでいるのに無我夢中で俺らは忘れていた。今日は、屋良のデートの保護監察してるんだって事を。俺がそのことに気づいた訳は、俺らが楽しそうにゲーセンライフを満喫している所を見た屋良と硲が視線に入ったからだ。開いた口がふさがらないとはまさにその事だ。
大塚が『大切なもの』をドラムのゲームで挑んでいた時に、俺らは『大切なこと』に気づいたのだ。
人生とはいつもそうだ。
目の前にあるものから片付けてしまうから後ろに潜むものは片付けられないのだ。要するにどんなに暇だと思っても人間は常に忙しいのだ。暇だと思っている奴は、目の前に潜むものさえも奥に奥に押し込み、そのまま消えるのを待つ。だから、そんな奴の頭は収納スペースがいっぱいある部屋へと変化してゆくのだ。
「お前ら、何しているんだよ…?」
大塚が挑んでいた『大切なもの』はステージクリア出来なかった。
俺ら4人が映っている鏡は、やがてヒビが入る。
「お前らはやっぱりそうだったんだな」屋良はそう言って、俺らから去った。その人の人生はあの人が決める。そんな人生ゲームはこの世にはないんだよな。俺らもブランコに乗っているサラリーマンも思った。