第二十七話:鼓動を感じる時
12日が早くも過ぎ、いよいよガールズバンド限定のバンド大会が始まった。
バンド大会の前に解散したORANGE PUNCHはどうなるのか…。
バンド大会会場。たくさんのバンド大好きな人が集まっている。なんかオタクっぽい人や追跡者みたいな人もいるがほっとこう。
雲がバンド嫌いなのか空から去っていき、太陽が眩しくバンド大会会場を照らす。
その舞台裏入り口に俺らと池永がいる。
屋良と大塚と俺だけが紙袋を持って立っている。その三人だけがシラケた面をしている。
「なぁ、本当にこんな事していいのか?ガールズバンド限定なんだぞ」
俺が福元に訴える。何故ならば、俺らは人間を捨ててしまうからだ。誰だって人間は捨てたくないはずだろう。
「かまわん。さっさと公園のトイレに行ってこい」
「…はい」
三人はトボトボと公園へと向かう。
「可哀想だな。あいつら」
大沢が見下すように同情する。その目は俊足のチーターから逃げきったシマウマみたいだ。
「そうかな」
「えっ?」
「見ろ。屋良なんかすごい興奮してるからヤバい顔になってるぞ」
確かに今の屋良の顔は吐き気がする程気持ち悪い顔だ。
「なんで屋良はあんなに嬉しそうな顔なんだ?てかそれを超えて気持ち悪い顔になってるし…」
大塚が不快な顔をして俺に聞く。なんか大塚の顔が青くなっている。
「簡単な事さ」
「なんだ?」
「好きな物になれるからだよ」
そう。屋良の好きなものは女。つまり俺たちは女装をするのだ。池永のバンドのメンバーに不足なギター、ベース、ドラムを俺らのメンバーで補う。つまりサポートって訳だ。それで男子禁制のバンド大会だから俺らは女装するって訳。これって犯罪だし、僕らはピュアな高校生だよ。
公園のトイレに着いた俺たちは迷わず男子トイレを利用する。だが男子トイレから女が出て来るって俺らは掃除のおばちゃんかって事で俺らは慎重に女子トイレに入った。
「すげー。みんな個室だ」
大塚が嬉しそうにはしゃぐ。そりゃそうだろ。
「なんか、うん、俺らって総理大臣になったみたい」
なんでだよ。総理大臣はみんな女子トイレに入ってると思うのか?それだったら俺はその真実を書き留めて本を出すぞ。タイトルはもちろん『インガールズ』。
とにかく色んな事があって俺たちは女装グッズを出した。丈が足りないブーツカットのジーパンとかドモホルンリンクルとか色々出した。ドモホルンリンクルは必要なのか?
「てかさドモホルンリンクルの効果が出る前にバンド大会終わるよな」
大塚がすんなり言う。まったくだ。大塚君、成長したね。アド帳が一気に30人増えたからかな。
異様にサラサラなカツラを被り、口紅をうっすら付けて、効果はないけどドモホルンリンクルを付けて、ダボダボジーパンからブーツカットに履き替えた。
「ふぅ、完璧だな」
俺は空を見上げた。空、見たか?俺たち三人は、人間を捨てたんだぜ。もうちょっと祝ってもいいんじゃねぇか。
俺はこの時、この世にいる全ての男に土下座をしたくなった。なんか男としてめちゃくちゃ恥ずかしかったりする。
俺たちはバンド大会会場に向かった。土下座するのは後でもいいだろう。
福元と池永が笑顔でこう言った。
「似合ってるよ」
これが人間を捨てた英雄に捧げる一言なのかこの言葉の意味はもう人間を捨ててよしって事じゃないか。
「訴えてやる…」
大塚が涙ながらに呟いたので俺と屋良は焦って大塚を担いで控え室へと移動した。訴えてもどうにでもならんだろうと俺は思った。
このバンド大会は現在発売されている他のアーティストの楽曲しか発表出来ないだから俺らみたいなオリジナルの歌は反則で失格になるって訳。それを考えて俺たちが発表するのはWhiteberryの『桜並木道』。池永が大好きだという。別に『夏祭り』でもいいと俺が言ったら泣き出したので焦った。そんな練習の成果を今日発表する。
「さあいよいよ始まりましたよ!!ガールズバンド限定バンド大会。女だってギター弾いてもいいじゃねぇか!!男女共同参画社会基本法杯開催致します」
なんて法律的なタイトルなんだ。ある意味感動していますよ。今。
ほら、法律的なタイトルだからみんな盛り上げてくれないから司会者も拗ねてます。
「今回参加したガールズバンドの人数は合わせて26組。たくさんのご参加、ありがとうございます!!」
みんながワーワーと盛り上げる。
「始まったな」
福元が舞台裏で言ったら、池永はゆっくり頷いた。
「お前ら、絶対コーラスなんかいれるんじゃねえぞ。即失格になるからな」
「わかってるよ」
俺はギターのチェーニングをしながら福元に適当に応える。
「凛ちゅわ〜ん。俺たちは何番?」
屋良がデレデレしながら池永に質問をする。なんかあいつを思い出す。某少年誌のあのキックが強いコック。わかるかな。
「えっとねぇ…、08番だよぉ☆」
池永が可愛く笑顔で応えるから屋良がまたダメージを負う。
「可愛い…可愛いすぎるぜ」
「そぅ?ありがとねぇ☆」
また笑顔で対応するから屋良がダメージを負う。
「本番前に死ぬなよ。屋良」
大沢が注意すると、屋良が親指を立てながら倒れた。池永可愛すぎるんだよ。
「08番、ORANGE PUNCHでWhiteberryの『桜並木道』」
司会者が紹介した直後俺たちは会場に出てきてアンプに繋ぐ。
「見ろよ。ボーカルがちょー可愛いぜぇ」
アキバが一斉に池永に萌える。でもこれでは審査にならないんだ。
アンプへと繋いだギターは、自信満々なその音色をいつ鳴らそうかと待ちかまえながら度々ノイズを鳴らす。
大塚がシンバルを四回叩く。
音楽の鼓動、頂くぜ。
力いっぱいドラムを叩き、心臓に響くようにベースがうなり、ボーカルがこれかといわんばかりにマイクに思いをぶつけている。
そんな中、俺は気付きました。腕毛が生えているという事を…。
女子が普通腕毛なんて生やすのか?しかもガールズバンド限定大会の時に剃らないなんておかしいじゃないか。
「あの子、腕毛生やしてるぜ」
やべっ、ついにばれたか。
「そんな所も萌えるよな」
萌えるのか!?腕毛フェチでよかったぜ。
なかなかやるねーって顔で審査員が腕組みしながら見ている。
俺は審査員をチラ見しながらギターを弾く。
演奏がそろそろ終了に近付く。ガールズバンドっていいな。暴れないから疲れないや。このままガールズになっちゃおうかな。どう思うロックンゴッド。
演奏が終了した。
絶え間なくそして大きい拍手が鳴り響く。池永は会場のみんなに可愛い笑顔を見せた。屋良が倒れそうになったのに焦ったがなんとか発表は成功に終わった。
「ねえ俺らこのまま?」
俺がカツラに手を掛けながら池永に聞く。
「代表者だけいればいいからみんなは公園のトイレ行ってていいよ」
俺らは足早に公園のトイレに向かった。
「ふぅ、助かったぜぇ。ずっと女になってるなんてな、俺は生まれも育ちも男なんだよ」
変装用のキャミをたたみながら屋良が言う。
なんか日本語が違いますね。てか女装前はすげー喜んでたじゃないか。ヨダレまで垂らしてさ。
とりあえず普通の服装に戻って俺たちは公園のトイレから出た。女子トイレ…から…。
その後の悲劇を、俺たちはまったく予想してなかった。清掃のおばさん(ボランティアと見せかけて仕事)とバッチリ目が合っちゃったなんて…。
「キャー!!」
おばさんは若作りな声で叫ぶ。
これって外来語でいうピンチですよね…。
サヨナラ青春☆
そんなに笑ってどうしたの?
そんなに泣いてどうしたの?
そんなに怒ってどうしたの?
そんなに疲れてどうしたの?
これが青春なんだよ。




