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空に歌えば  作者: カツオ
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第二十二話:ゲロパゴスの叫び

 いつもの長橋ライブハウス。そこにはいかにも“バンド”を奏でている俺たちがいた。

「心の中で秘めた思いが時々爆発するほどドキドキして〜♪」

 いつもは俺たちの練習を眺めて頷くだけだった福元も胸を押さえながら歌っている。

「未来に向かった〜♪君と僕の物語〜♪」

 福元の歌に俺たちがハモって、最後に福元が

「終了ぅ!!フゥー!!」

と叫び、大塚が綺麗なシャララって音をハイハットで奏でる。

 福元がフゥーと息を吐く。俺たちは息を飲む。

 福元が俺たちの方を向いて、腕で丸を描く。

「ヨッシャーーーーーー!!」

 俺たちは歓喜の叫び声を上げる。

「やったよ…。ついに俺たちオリジナルの曲が完成されたんだ」

 大沢が嬉しさの余韻に浸っている。

 そう、スカイ・オブ・ソング、初めてのオリジナル曲が完成したのだ。…別にコピーバンドじゃないけどね。

「でもこれすごくね?歌詞」

 屋良が歌詞が書いてある紙を見て言う。

「君が好きだよと言うと僕は地球温暖化よりも暖かくなりそうだ。とか恋が叶った男子高校生みたいだよな」

「これ体験談かい?福元さん」

 大塚が福元に聞くと、福元は首を横に振って

「告った事もない」

と言った。

「そうか…告った事ないかぁ……はぁあ!?」

 俺たちはめちゃくちゃ驚いた。なんか外見からは何回か告って成就する感じだが予想外の発言に驚いた。

「何だよ何だよ!!告ってなくて悪いかよ!?」

 福元が以外そうにツッコむ。

「なあ、せめて赤ん坊の時には『ママ大好き』とか言ってたよな?」

 屋良が聞くと、福元はんーと…。って感じで考える。

「俺赤ちゃんの頃から反抗期!!」

 と言って親指を立てた。

 信じられん。てか反抗期早すぎる。

「あんた、いい歳なんだからそろそろ恋をしなきゃ…」

 大塚は肩を叩きながら満面の笑顔で福元に言う。俺からも分かるようにその顔を見ると必ずイラつく。福元も今イラついている。

「ははは、大丈夫さ」

 福元がまた右の親指を立てて反抗する。

「どうして?」

 俺らが聞くと、福元は笑顔になった。ちょっと気持ち悪い。

「だって結婚適齢期って75歳でしょ?」

 !?。何考えてるんだよ…。倍以上違うぞ。

 俺がそう思っていると、福元がピョンピョン跳ね出した。

「!?…何やってるんだよ?」

 大沢が聞く。

「俺が、何かを考えてる時は、ピョンピョン跳ねなきゃ、思い出さないの」

 跳ねているため音が途切れ途切れになっている。

 福元がピョンピョン跳ねている間、俺たちはそんな福元を見下している。何か福元を蹴りたい。

 ピョンピョンピョンピョン…。ピョンピョンピョンピョン…。だんだん苛立ちを覚えてくる。

「だー!!長いんだよ!!!!」

「思い出したぁあああ!!」

「うっせぇえ!!」

「てめえもうるせえよ!!」

 ライブハウス内で怒号の叫び声が飛び交う。防音室じゃなければ騒音だな。これ…。

「思い出したんだよ!!」

 福元の顔が輝いている。

「だから何が!?」

 俺たちがイライラしながら答える。

「思い出したんだよ!!告られた経験があるんだよ!!」

「はぁい!?」

 福元の経験からするとこうだ。

 修学旅行の最終日、福元の学校一同は京都で自由行動をしていい事になった。

 福元は仲のいい友達2人と三人で行こうとしたとき、女子四人組に呼ばれた。

「私たちと一緒に行こ!!(女子)」

 三人は別に嫌でもなかったので承諾した。なんか、あいのりっぽいなって思った。

 しばらく七人と京都見物をしていたら、女子の一人が『ここで解散して、また集まろう』と言ったので、福元は誰と行こうかなぁっと思っていたら、肩をトントンと叩かれた。

 振り返ると一人の女子が恥ずかしそうに立っていた。

「一緒に行こお(女子)」

 福元は別にいいかと思って頷き、一緒に行った。

 京都でしか置いてないゲーム機があるゲームセンターに行ったり、京都限定のお菓子を食べたりしていた。そして、2人で哲学の道を通っていたら、その女子がボソッとこう呟いた。

「なんか、デートみたいだね…(女子)」

「お、おう(福元)」

 すると、その女子は福元の前に立って、真剣な眼差しで福元を見た。

「ど、どうしたの?(福元)」

「わ、私…ペリーの事が…好きでした!!(女子)」

 ペリーとは福元の中学校時代のあだ名。あだ名の由来は、歴史のテストの時、アメリカの初代大統領は誰という問題に対して、福元はペリーと書いた事から来ているそうだ。ペリーは黒船だろ…。

「…ごめん。まだ女子と付き合うっていうのがどうゆう事かよく分からなくって…(福元)」

「じゃあ、待ってる。付き合うって本当の意味が分かるまで私は待ってる(女子)」

 それ以来、なんのおとがめも無いそうだ。

 

 

「何やってるんだよ!!ペリー!!」

 屋良がキレながら福元の胸ぐらを掴んだ。

「だって、俺、その後、転校しちゃってたんだよ」

 それを聞くと、屋良は舌打ちをして福元の胸ぐらを離した。

「転校する前になんか言えばよかったじゃん」

 俺が言うと、福元は笑顔になった。

「忘れた」

 福元のあまりのバカっぷりに俺も苛立ちを覚えてしまう。

「何忘れてるんだよペリー!!」

 俺と屋良は福元の胸ぐらを掴んだ。

「リンチだからやめろよ」

 大沢は冷静に俺たちに突っ込んだ。てかそんな大沢くんもこのまえ野良犬蹴ってたけどな(大沢くんは野良犬に左腕を噛まれてました。)。

「んでさ、その人の名前って覚えてるん?」

 大塚が聞くと、福元はまたピョンピョンと飛び始めた。大沢が息を吐きながら指の骨をボキボキ鳴らしている。怒ってるんだろうな。

 ピョンピョンピョンピョンピョンピョン…ピョンピョンピョンピョン…。ああ、ギターで叩きたい。

 俺がギターを掴んだ時、福元がこけたから本気でビビった。

「思い出した!!」

「名前をキュー!!」

「太田恵美!!あだ名はおおめぐ!!」

「ぬぁああー!!」

 大塚が何かを思い出したのか叫んだ。

「何だよ!!ゲロパゴス」

 なぜか屋良は大塚の事をゲロパゴスと呼んでいる。なんかいいような、悪いような、よく分からない感じ。

「そいつ、俺の姉ちゃんの先輩」

 俺らはしばらくの間、沈黙している。そして、大塚の姉ちゃんが早稲田の中学校に行っていた事に気づいた。

「じゃあ福元って早稲田中学が母校なのかよ!?」

「おう」

 普通に返事するのが尚更ムカつく。ほんとはすげー頭いいじゃん。


ゲロパゴスこと大塚の姉ちゃんが福元の彼女になるかもしれない奴の事を知っているかもしれない。ならば行こうじゃないか!!ピリオドの向こうまででも!!でも、福元が早稲田なんてな…。

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