第二十話:金魚のフン
「ああ、そこに隠れてる奴、出て来いよ」
俺は足をガタガタ震わせていた。そして、行こうかどうかを迷っていた。
影があるシャドーパンチが得意技のケンカ界でも噂の屋良が、俺の目の前であっけなく倒されてしまった。
その時、俺は感じた。やっぱり質より量だよなって。
「早く出て来いよ。出て来ないならこっちから行くぞ」
古谷が鉄パイプをカンカンと鳴らしながら俺に呼びかける。
やべえよ。本気でやべえよと思いながら死角で隠れていた。
よく考えてみれば、俺っていつも人の後をついて行く事しか出来なかったなあ。どんな身分になろうとも、人に嫌われなければいいって思ってたな。
俺は空を見上げた。そういえば、一人で空を見たのも久し振りだな。
だいいち屋良も、なんで俺を一人にしたんだ。もしかして、足手まといになるからなのか?やっぱり、俺は人がいなきゃ何も出来ない金魚のフンなんだ。
「さっさと出て来いよ!!」
古谷は鉄パイプをガンガンと鳴らした。結構キレている。
今逃げれば逃げ切れるかな。俺はそう思ってゆっくり立ち上がった。
「待って!!」
どこからともなく俺を呼び止める声がした。俺は不思議に思って辺りを見回すと、目を疑うような光景が映った。
よ…妖精?妖精が俺の周りをくるくる飛んでいる…。こんなファンタジー小説みたいな光景、生まれて初めてだ。
「初めまして、私はピリオドの妖精。よろしくね♪」
ネーミングセンス悪いなぁって思った。
「あなたの今の状況を見ると、命に関わる問題の可能性高いね」
「なあ、妖精なんだろ!?魔法を使って俺を強くしてくれよ」
俺はもう何をしていいのか分からなかったので、ついに妖精に助けを求めた。
「私、魔法使えないの」
えっ……?お前妖精じゃないのかよー!!
「魔法なんかかけなくても、あなたは強いよ」
「どこが!!俺は金魚のフンなんだよ……」
俺が落ち込むと、妖精が杖らしき物を出してきた。そして、その杖からビームが放たれ、ビームは俺に直撃した。
魔法、使えないんじゃなかったっけ…と俺は思った。
―俺は小学生の頃、ケンカが強いと有名だった。俺の友達の傘が盗られた時も、俺はその犯人を突き止めて、そいつを血だらけにして傘置き場に置いた思い出がある。他の不良小学生や中高生にも恐れられ、いつの間にか愛称が付けられた。確か…。すると、俺は頭の奥の方で流れ星みたいな光がたくさん出てきた。
「そうか!!」
俺は叫んだ。
俺でもこんな俺でも一人で出来るケンカがあった。金魚のフンだって、いつかは切れるんだ。
俺は覚悟を決めて、廃工場の中に入った。
「やっと来たか…」
古谷はよっぽど待ってたのかニンマリと気味悪い笑顔を浮かべた。
「屋良の恩返しが来るまで俺が暇つぶしさせてあげるよ」
俺が自信満々に言うと、古谷はマジ顔になって仲間に『やれ』と命令した。
仲間は鉄パイプを振りながらこっちへ走ってくる。
「死ね」
仲間がそう言いながら俺の腹に鉄パイプを刺そうとしたが、俺は足で受け止めた。全然痛くない。
俺はその足をそのまま振って仲間の一人を蹴り倒した。
「…やれ」
古谷が言葉をちょっと失いながらも仲間に命令した。
仲間は叫びながら俺に鉄パイプを振ったが、俺はそれをよけてかかと落としをし、後ろから狙おうとした奴を後ろ蹴りでひるませた。そして、かかと落としした奴を蹴り飛ばした。結構飛んで鉄にぶつかり気を失った。
「お前、まさか…」
古谷の顔が青ざめてゆく。こいつも知っていたのか。
「そう、俺は地獄のキックパーティーという愛称の大塚だ!!」
今まで金魚のフンだった俺は一人でこんなにすごい数のヤツとケンカしてしまった。
「ふざけんじゃねーぞ…」
ついに始まった古谷とガチンコ対決。さーて、地獄のキックパーティーの始まりだ…。