第十八話:スルメ狂騒曲
季節はちょっと肌寒い風が体に直撃しる秋から冬への前兆。そんな時にファーストソングの制作が始まった。
「アメンボ青いなあいうえお…」
「ちげえよ!!」
大塚の目の前にペチンと長い定規が叩きつけられる。
「アメンボ赤いなあいうえおだろ!!」
勉強はまあまあ出来る屋良が長い定規を鞭代わりに、大塚にあいうえおソング(キモい)を覚えさせようとしている。小学校でやらなかったのか?と俺はギターを弾きながら思った。
「いいからおまえらもやれよ!!」
大沢が二人怒鳴りつける。そんな大沢もキーボードを弾いてない。何故かと言うと、キーボードの鍵盤の間に何故だかスルメが入っていて弾けないのだ。俺たちはこのスルメは福元の酒のつまみだと思っている。
「ぜってー、俺じゃねえ」
と、涙ぐみながら福元は弁解している。
俺は溜め息をついた。ぜってーやる気ないよな、このバンド。
やっとの事で大沢、屋良、大塚が曲作りに専念し始めた。大塚と屋良は、アメンボ赤いなあいうえおと言えたからよしとしようという事になった。一方大沢はピンセットと手を組んで何とかスルメを救い出せたのだ。
だが、福元は未だに『俺じゃねえ』と濡れ衣をさせられた小学生のようにふてくされてる。
誰か言ってやれよ。スルメも歩けるんですよって。
「あの時風間君にお弁当のウインナーをあげたのに、風間君はなにもくれなかった」
と、小学校時代の悲しい思い出をブツブツと呟いていた。
『うぜー』と小さい声で俺は今すごくムカついてるぜ!!と出張するような言葉を屋良が言った。
大沢がジャンと大きな音を立てて鍵盤を平手で叩きつける。
大塚はへこむぐらい強くスネアを叩いている。
俺は…もうギターも触ってません。
なんかすごいシラケて、何もする気になれなかったんです。
「スルメも生きてていいよな」
と、呟いてみるが未だに福元はブツブツと何かを呟いている。
「はあ…!もういいよ!大沢、あのスルメ、俺のだ」
屋良がやり切れない声でみんなに白状する。
福元がその言葉を聞いた途端バッと屋良の方を向いて、屋良の方に近づき、パイルドライバーを屋良にしかけた。
「てめーよぉ!!俺がどれだけ苦しんでたのか分かるかよぉおお!!」
「いたい!いたい!いたい!ギブ!ギブ!」
「よろしい」
よろしいじゃねえよ!!てか何がよろしいんだよ!!
俺もパイルドライバーをくらってやると思って立ち上がろうとしたが、
「あ」
と、福元が何かに気付いて喋り始めた。
「そういえば屋良と同じく俺もスルメ食ってたな…ははは、ドンマイドンマイ。スルメも歩けるって」
福元が屋良の肩を叩きながら話した。屋良は堪忍袋の尾が切れて、暴れ始めたところを大沢に押さえられてる所だ。
「てめーをかばってやったのによー!!すげームカつく」
「落ち着けって屋良!」
「さあ、みんな、サボってないで本気でバンドを始めよう。ははは。(爽やか)」
なあ、このバンドやる気あるのか?
筆で書かれた果たし状。決戦を申し込まれたのは屋良と大塚だった。二人はカツアゲされそうになった所を殴って逃げきったのだ。「大塚はそんなに悪くねえ」と、カッコつけて屋良が行った。だが…