第十五話:厳しくなるギター教室
今日、大沢から電話があって裏切りの真相を教えてくれました。
俺は『へっへっ〜』と笑ってました。なんか変な状況になりながらも大沢の話を最後まで聞きました。
昨日、福元に連行された時、俺は泣き叫んでいました。
明日、絶対大沢を訴えてやるってね。
「訴えるのは構わないけどギターを上手くしなきゃねぇ」
そんな福元にちょっとカチーン。
そんなこんなでライブハウスに到着。
「さあ、前回の復習をしようか…ふふふ」
「…はい…(俺泣いてます)」
必死に弦を押さえてるのにぶれるギターの音色。怒鳴りまくってる福元を背に緊張してまたぶれる。
しまいには、もうギターをするな!と叫びました。
本当はしたくない。ギターを投げて蹴って『さようなら』と言って去りたいが、なんかあいつの言う事に従うのはなんか嫌だから、『すいません』と謝ってしまう。これもある心理的行為なのかなー?
どんどん弦を押さえて弾いて、しまいには指から血が出た。
俺は助けを求める目で福元を見る。
「指に血が出たからって死なないよ」
な、なんやてー!!こいつ、死ぬまで俺にギターを触らせる気か!?俺はそんな人生ごめんだぜ。
指からはカミソリで指を切ったみたいにどんどん血が出てくる。
俺はその度に指をしゃぶって福元から『汚いな』と罵られる。
―もう、これ完璧に傷害罪だよね?
―そうだよ。傷害罪だよ。
そんなふうにギターを弾きながら自問自答を繰り返していた。
時刻は午後七時になった。今までで口に入れた物は、家では昼に自分で作ったおにぎり二個と、ライブハウスではペットボトルの飲料水一本だ。あと二時間で父親が帰ってくるし、もう夕飯の準備をしているだろう。
俺の腹が鳴った。腹がへった。
「あのー、なんか食べ物を…」
俺は最後の賭けとして、鬼に化した福元に助けを求めた。
「食べ物を食ってギターが上手くなったらいいよ」
と言って、バックからおにぎりを出して食べ始めた。
俺はどんどん悔しさが増して行き、本気で上手くなってやると決意した。
「やってやる!」
俺は心の中で何回も叫んで強く弦を押さえた。
時刻は八時半になった。指からはとめどなく血が出ていて、ギターの弦にも血が付着して、俺の足下には血の水たまりが出てきた。なんだか大量出血のためか頭がくらくらしている。
福元は時計を見て頷いた。
「じゃあ今日はこれで終了」
よかった、終わった…。俺は心の中で何回もやり遂げたぞ!と叫んだ。そして倒れた。
意識がどんどん薄れていく。俺、ギターで死ぬんだなと思って、目をゆっくり、ゆっくりと閉じた。
誠!誠!
誰かが俺を呼んでいる?福元か?
暗い暗い空間の中で俺は誰かが俺を呼んでいる声を聞きつけた。
俺は声のするほうに歩くと、かすかだが白い光が見えた。俺がどんどん歩くと、眩しいぐらい輝いている光が俺を包んだ。
ここはどこだ?俺はゆっくり目を開けると、眩しい蛍光灯の光を浴びながら、泣いているお袋と萌と、心配の眼差しで見ている親父が、俺の顔を見ていた。
「誠、起きたの?」
お袋が俺の手を強く握って泣きながら俺に聞いた。
「ここは」
「病院だよ、兄ちゃん」
萌が涙を拭いながら答えた。
俺は病院に運ばれるのは初めてだからぐるりと病室を見渡した。すると奥の方で左の頬を赤くした福元が立っていた。
「福元…」
俺が呟くと、お袋が俺が悪い事をした時に見る目で福元を見た。
「あんた、まだいたの」
萌が突き放した感じで聞く。
「出てってくれ!!誠はもうギターを止めたんだ!もうあんたの顔は見たくない!出てってくれ!!あんたがいると治る物も治りゃしない!!」
親父が厳しい言葉で福元を追い出そうとする。
その時、俺は聞き逃してはいけない言葉を聞いた。ギターは止めたって聞こえた。
福元は拳を強く握りしめながら病室を去った。
あの赤くなった頬は親父が殴ったのだろう。
「誠、もうあの人の言うことは従わないようにね。わかった?」
お袋が俺の手をまだ握りしめながら俺に言い聞かせる。
俺は小さく頷いたがよくわからなかった。
こうして俺はギターを止める事になった。
やりたい事をやるのが一番いい成長のしかただ。と、音楽チャート一位を記録したバンドのボーカルのは語る。
夕焼けは空は規則性もなく雨になったり空を雲で覆ったりする。
俺、これでいいのかな?
俺は血で滲んだ包帯を見ながら考えた。