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4話

「でさぁ、なんか荷物が重いなって確認してみたらさぁ、スライムが鞄に入り込んでて食料全部パァ!」

「あっはは、馬鹿でやんの!」

「番号札108番! 番号札108でお待ちの人~!」

「このデザート美味しいね~」

「今日のは大通りにあるお菓子屋さんからの仕入れらしいよ」

「へ~! 今度買いに行こうよ!」

「番号札108番~! いないの~!?」

「呼ばれてんのお前じゃね?」

「あ、まじ? すんませ~ん!」

「裏通りに良い砥屋がある。今度紹介しよう」

「助かるわい。代が替わってからというもの、あの店も質がなぁ」


 昼の食堂は盛況で、聞こえてくる声は濁流のような情報の波。右から左から、あちらこちらからと聞こえる声は、耳の良い者であれば耳の1つも塞いでしまいたくなるほど。

 だからこそだろう。喧噪が苦手な者達は早々に学園の広場へ出るなり、学園外へと繰り出すなりをしている様子。

 

「こっち! こっちよ、ルカ~!」

「ごめん、ごめん。ちょっと遅れちゃった」

「いいわよ。それよりほら、こっち来なさい。順番、とっておいたから」

「ありがと!」

「十分感謝するように」

「は~い! さっきのも含めて、いつも感謝してま~す」

「よろしい。なんてね、ふふっ」

「あははっ」


 手を振るホノカに合流して注文窓口の列に並びながら、どれにしよう。あれにしよう。と、待ち時間に雑談の花が咲く。そして、咲いた花は枯れることなく、列が順番に消化されるまで続くのだ。


「で、頼んだのがそれ?」

「小銭稼ぎが出来なかったから、ちょっとお財布がねぇ」

「あ~……」

「大丈夫大丈夫。今度はちゃんと気を付けるから、そんな目で心配しなくても」

「う~ん。ルカはなにかしらやらかしそうなのよねぇ」

「ひど~い」


 空いてる席に腰を掛け、互いに向かい合ってのランチタイム。

 ホノカはすじ肉もごろりと入ったカレーとサラダのセット。ルカはと覗きこまれれば、一番安くてお腹も満てるとミートソースのスパゲッティ。

 カチャリ、もぐもぐ。食事の音が喧噪の一部となって溶けていく。


「……そうだ」

「うん? どうしたの?」

「今度、一緒に魔石回収の依頼でもどうかしら」

「ホノカと一緒に? ホノカのとこに付いてくには、あたしだとまだ許可でないけど」

「そうね。だから、ルカの方に合わせて」

「え~? そりゃあ嬉しい申し出だけど、あたしが普段行くとこはホノカにはあんまり実績にならないんじゃない?」

「いいの。実績がどうとかじゃないんだから」

「う~ん」


 スパゲッティを巻いたフォークをぱくり。口に咥えたそのままに、ルカは腕を組み、首を捻っての思案顔。

 別段、ホノカと一緒に何かをすることが嫌なわけではない。ないが、探索に関しては普段がソロである故に、誰かと一緒に。という発想が今一つルカにはしっくりこない。かといって、好意での申し出であることは間違いないため、断るのもはてさてと。

 手首に巻いたノアへと視線をちらりと向けてみても、当機であれば如何なる場所であろうともマスターをお守りします。なんて、当てにならない返答ばかり。


「さっきも教室で言ったでしょ。出来ることならフォローぐらいするって。友人がお金もないで身売りになんてなったら……」

「流石にそれは心配のし過ぎじゃない?」

「……いいえ、その時は私が身請けすれば合法的に……」

「んん?」

「ううん、なんでもない。とにかく、ランチですらカツカツは心配だわ!」


 ルカには聞き取れない程の声量で呟かれた言葉と一瞬の不穏をかき消すように、ぐっと拳を握りしめて力説するホノカ。

 脳内に、なるほど、良いご友人。と、ノアの独白も聞こえてくるが、理解が追いつかないルカはまた違った意味で小首をかしげる。

 しかし、なにはともあれと、熱意をここまで伝えられれば断りにくさもなおのこと。今回ばかりは好意に甘える他になし。


「そっかぁ。なら、今回はお願いし――」

「よぉ、ホノカ。誰かと組んで探索したいなら、ルカじゃなくて俺とでどうだい?」


 ようかな。という言葉尻が、乱入者の声に圧し潰された。


「――お呼びじゃないわ」

「ぁ、ヴェノンだ。やっほ」

「おう。いやぁ、しかし、相変わらずすげないねぇ」


 声の方向を見向きもせずに、ホノカの声は一瞬で温度をなくす。

 それを気にした風もなく、ひひひっ。と、笑ったはヴェノンと呼ばれた男。背はさほど高くもなく、立てばルカやホノカですら目線を同じとできる程度。細められた生来の瞳と張り付いたような笑みが胡散臭さを漂わせている。


「反応を返してくれんのも、ルカだけと来たもんだ」

「ルカ? 返さなくていいのよ、こいつに」

「まあ、挨拶ぐらいはね」

「入学ん時のは謝ってるじゃねぇか」

「その後も付きまとわれるこっちの気にもなって欲しいのだけれど」

「仕方ねえだろ。一目惚れしちまったんだからよぉ」


 それが嘘くさいっての。とは、ホノカの言。

 冒険者と名乗るにはギルドの、ひいては国の認可が必要となる。認可を得るために学園へと入学する必要はないが、学ぶことで得られる知識や技術は多い。そのために入学する者も少なくはない。この3人もまた、例に漏れずそうであった。

 その入学の折、ホノカとヴェノンとでひと悶着――一目惚れしたヴェノンがホノカに言い寄り、決闘で打ちのめされるということがあったのだ。それ以降、ヴェノンはより惚れ込んだとして機会を探り続けている訳だが、間が悪いというかなんというかで結果は如何ともしがたい様子。そして、今回も――。


「お前と俺なら、同じ場所でも問題は……」

「……はぁ。そういう話じゃないのよ、これは」

「あん?」

「実はね――」


 ホノカの提案の発端はルカの懐事情にある。それ以外の人物と組む意味はないのは当然とも言える。それを理解しないまま話に食いついてしまったのは、ヴェノンの早とちりとも言えよう。


「そういうことか。だが、ルカはソロでも良かったってんだろ? なら、いいじゃねぇか」

「ま、まあ、確かにあたしも最初は……」

「ほら、こう言ってるじゃねえか。な、いいだろ? な?」

「嫌よ。これ以上しつこいなら――」

「いや、だから……」

「お、久しぶりにやってくれんのかい? 俺も最近、いいのを仕入れたからよ。前みたいにはいかねぇぜ?」

「はっ……夢を語るのは寝てからになさい。今から地面に転がしてあげるから」

「変わらず言うねぇ。場所は広場でいいな? 申請はこっちでしとくからよぉ」

「あら、用意がいいのね」

「……あの、ホノカも聞いて?」

「それじゃあ、先に行ってるぜ」

「ルカ、少し待ってて。腹ごなし程度、すぐに叩きのめしてくるから。返事はその時に改めて」

「え、あ……」


 ヒートアップすれば止まらない。

 ヴェノンの言葉にのせられて、売り言葉に買い言葉。当事者の1人であった筈のルカを置いて、瞬く間にと決闘のムードが出来上がる。ルカ自身は最早言葉を挟む余裕もない。いや、挟もうとはしたが1人は意図的に流し、1人は暴走して聞き逃していたとも言う。

 そして、昼食の最中のそれは耳目を集めてしかるべき事柄。

 いついかなる時であろうとも、火事と喧嘩はなんとやら。イベントの気配を人々は逃さない。


「おい、聞いたか?」

「ホノカさんとヴェノンさんがまたやり合うってさ」

「場所は?」

「広場って言ってなかったか?」

「ホノカさんのライドが見れるかしら」

「一番前を確保しないと……!」


 情報は燎原の火の如くと瞬く間に広がり、昼食の賑わいとはまた別種の賑わいへと変わる。そして、見物だとばかりに1人が動き出せば、あっという間に食堂が空いていく。

 興味がないのか。それとも乗り遅れたのか。がらんとした食堂に残されたのは指折り数えられる程でしかない。

 その食堂に居残った1人であるところのルカは、ホノカとヴェノンを止めようとした姿勢のまま、固まっている。

 風がひゅるりと通り過ぎていった気がした。


「……マスター、よいのですか?」

「……もう」

「? マスター?」

「もう! 誰も人の話を聞かないんだから!」


 自慢の友人と語った言葉はどこへやら、再起動を果たしたルカは怒っていますとばかりにぷりぷりと。しかし、それも少しの間だけ。すぐに民族移動もかくやの大移動を追いかけていく。怒りながらであってもホノカを心配して、そして、やり過ぎないようにとも心配して。

 ルカの腕で揺れながら、ノアは静かにその光景を見守っていた。

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