表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤオヨロズ~桃源郷万屋への依頼~  作者: 夏月あおい
何でも屋と3億円と女2人?
8/18

7話「ここの社訓は一つだけ、【弱肉強食】」

 

「そうか。掃除の手間は省けたようだな」


 そう言いながらも、顔から滲み出る不機嫌さは他人から見れば見かけたらすぐに逃げてしまうほどに出ていた。追っ手の結果は、返り討ち。本来ならば帰って来た瞬間に手を下すはずだったが、最後にいた路地裏には誰もいなかった。

 何の跡もなく、だ。


「――手が早い。なるほど、フランケンシュタイン。君が言っていたことは本当だったわけだ」


 ようやく不機嫌なオーラが霧散して、目の前にいる大男に再度問いかける。


「アンダーグラウンド社……あの女が縋った場所。全く厄介だな」

「ああ。地下はここ以上に厄介のるつぼだ」


 そう言って、フランケンシュタインは酒々井を見る。


「なんせ、死んだはずの人間や犯罪者、行方不明の人間、人権がなくなった人々、都市伝説、魑魅魍魎、シリアルキラー、それ以外もあるが――まあ、表に居られなくなった、そう言った者たちが行き着く場所なのだから」

「全く、厄介だ」

「なあ、フランケンシュタイン。君はアングラ社に行ったことがあるのかい?」

「あるよ。捕まっていた時があるからね」

「そうか。なら丁度いい。君に追加で二つほど頼みがある」


 そう言って酒々井はフランケンシュタインを見る。相変わらず鉄仮面が目立ち、片方の空いた顔から見える赤い瞳は見慣れない。それでも、しっかりと顔を見る――使える駒にはきちんとした敬意を払う。


「地理を調べるためアングラに行って、ついでに黒川とあのエルフを連れて帰ってきてくれ」






「……ここが、アングラ」


 長いエレベーターを越えて、音声アナウンスが鳴り響く。改めて降りて見た、地下の世界に彼女は簡単と驚愕の息を付く。

 護衛依頼と言っても、あの時処理した7人以上は出てくることなく、すんなりと自分たちが出てきたエレベーターに二人を連れ込むことに成功した。こんなに簡単に3億が手に入るなんて、と萬はにこにこと笑いが止まらない。だが、一方の八百は、依頼者の黒川が連れていたフード付きのパーカーを羽織り、黒のスカートを付けている少女に目が向いていた。


 金髪のセミロングに、セルリアンブルーの双眸。そして、尖った耳に、美しい風貌。


 人の顔つきではあるがあまりにも目が違って見える。表情はそこまで豊かではないのか、少し悲し気な雰囲気を出しながら、黒川の袖を掴んで離さない。ただ、似すぎていた。

 何に? それは忘れてはいけないものに。


「あの」黒川がいぶかしげに八百を見る。

「この子が何か?」

「あ……ああ、すみません。少し知り合いに似ていたもので」

「知り合い、ですか」

「ええ。ですが気のせいだったみたいです。失礼しました」

「ヤオちゃん、もしかして一目惚れ?」



 揶揄う萬の腹に素早い肘打ちが入り込んだ。



「……」


 何とも言えない表情をする黒川と少女に対して、八百は頭を下げながら改めて説明する。



「こいつはほっといてください。改めてここが目的地のアングラ社です」

「……ありがとうございます」

「…………くろ、かわさん」か細い少女の声が、黒川を探すように聞こえた。


 視線を向ければ心配そうに自分を見つめる少女がいる――ごめん、と謝るように黒川は彼女の頭を撫でる。


「……大丈夫。覚悟は決めてる」

「そういや、君名前なんていうの?」


 流石に気になったのか、萬が聞いてくる。


「依頼者の黒川さんは名前知ってても、その子の方は知らないんだよね」

「…………別に答えなくてもいいでしょう? 依頼に関係ありますか?」

「関係あるかって言われたらまあ、あるかなあ。一応護衛対象の名前知ってなきゃ、いざという時に確認がしづらいし」


 一理ある理由を出されたことで、少し黒川は黙ってしまう。反応的に言いづらい名前なのか或いはそもそも名前がないのか。萬も八百もこれ以上の踏み込みはできないか、と思ったがその答えは、本人から返ってくる。


「409番」

「え?」


 萬がきょとんとした顔で彼女を見て、八百はそれに納得したように目を閉じた。


「ああ、なるほど」

「え、俺の理解が追い付かないんだけど。ていうか数字って」

「ここにもたまにいるだろ」そう返して、改めて彼女を見る。

「――()()()()()()()()()()()()()()()()


 その単語群に、黒川も動揺する。

 本来地上ではなかなか聞かない――そもそも聞くことがない単語。


「ああ、なるほど」萬が納得して頷く。

「んじゃ409番ちゃん、よろしくねえ」


 手を振ってやれば彼女も同じように手を振り返す。体格的に高校生ぐらいだろうか、そんな彼女の雰囲気的にただのエルフではないということは分かる。とはいえそれ以上は深入りしない――したところで、依頼が終われば会うこともなくなるのだから。

 黙ってしまった彼女に改めて忠告するように、八百が告げる。


「ま、今は俺らが護衛してますが、アングラの庇護が欲しいなら、気を付けた方がいいですよ」


 見透かしたように八百が、二人を見る。




「なんせここの社訓は一つだけ、【弱肉強食】ですから」


次回6/10 19:00更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ