5 討伐の先
ゲイルに命中したものの、致命傷を負わせることはできなかった。
(まずい、ゲイルに当たったのに、ゲイルはこちらに反応を示さない)
ゲイルは基本、自分を襲った相手に矛先が向くのが、このゲイルば違った。はじめから市民を狙っていたのかと思われる。
予感どおり、ゲイルは市民の頬と肩と腕を引っ掻き、攻撃した。このタイミングを見逃さなかった。
ゲイルの攻撃のあと、すぐさま発砲の音が被害者の悲鳴と重なった。
サキは、ずっと銃のトリガーに指を引っ掛けており、銃口はずっとゲイルに向いていた。
そうして、避難区域ではなかった場所に現れたゲイルは全て消え去った。
サキは、その場に両膝をついた。偶然当たった発砲を奇跡だと、人々は認識した。
おぉぉぉ!と歓声が上がった。が、4分の1ぐらいは、何故もっと早く対処をしなかったのか、たまたま当たっただけど非難するものもいた。
「ケガは…」
「あぁ、大丈夫です!こんなの!」
被害者はお礼を伝え、ここで救護班を待つこととなった。
皆が、色々な感情や思いを抱いていたが、共通な認識があった。それは安心。だが、1人だけ安心していない者がいた。
(アドラーは……大丈夫か………)
心でそう思ったのと裏腹に、足はポート・セカンド・アベニューに向かっていた。
アドラーは、かなりコアを消耗し集中力も低下していた。
(まずいな…。そろそろコピー人体が活動停止しそう…)
だが、しかしアイルがこの場に来てからかれこれ、40分が経過していたが、誰も応援には来なかった。
(クッソ!今は部隊編成で巡回警備に当たっている人間が少ないっていうのにさ、上級隊員はもうすぐ行われるオールゲンアとの公開模擬戦に向けての強化合宿中だし、最悪ッ!)
アイル・アドラーは、自分に害を与えきた者たちを返り討ちにしてから、誰からも勧誘されず、任務時に一緒になっても あまり良い顔をされなかった。
そのため、誰かと共闘するという経験がほぼ無かった。
「アドラー」
(ハッ !?)
「何か手伝えることはありますか?」
平然とした顔で、共闘しようと言われた。いや、正確にそう言われていないが、アドラーには、このような経験がなかった。
「…いや、いい…。それより市民は…」
「まぁ、何とか…ゲイルは無事消え去りましたよ」
「な!?ゲイルが現れただと!?」
「はい」
「し、市民への対応は…どうした!」
「あーーー…、すみません。忘れてました」
「わ、忘れてたって!」
「あんたが、無事か気になったから」
アイルはこのとき、瞬時に脳が理解し刻んだ。
(危機的な状況で、誰かが自分を心配し駆けつけてくれた。それがこんなにも安心し嬉しい)と………
まだ、彼は14歳の子供だ。若いということは経験もない。自分一人で対処ができなかったときの対応だ。
「お前…お前は俺の援護を…俺が…俺の背中が狙われたとき援護してくれ」
「承知した」
2人の共闘は、息があっているようで息が合わなかった。
ダンッ
「お、お前!今、俺に当てようとしただろ!」
「いや〜、わざとじゃなくて…」
「スナイパーの大抵の奴は、援護射撃が得意だぞ!」
(いや、記憶ないっつの!)
ゲイル討伐は2人に増えたが、アイル1人だった時の方が、倒す効率は良かった。
だが、アイルは嫌とか面倒とかいう感情はなく、ただ安心して集中してゲイル討伐に夢中で向き合うことができ、無邪気な少年の顔をしていた。
(!?アドラーー!?)
「アドラー、後ろ左上、ゲイルが攻撃態勢に入っている!」
人は、何か熱心に打ち込んでいるときや、夢中になっているとき、自分の世界に入っているときなど、周りがいることや、人の声が届かないことが多くあった。
(あいつ、声届いてないな…。援護射撃してあげたいけど、今、アドラーの背中にいるゲイルを倒さないと、あいつのコピーは活動不可能となる。どうする…!?いや、考えている暇はない…!)
「アドラー、後ろ左上!!アドラー、
アイル!! 」
「!?」
ダンッ_____
アイルの反応よりも速く、自身の指がトリガーを速く引いた。
アドラーはずっと心のどこかで思っていた。もう自分は誰かが助けようとしてくれないのではないかと…
だから、その分1人で、孤高に、誰にも舐められないようにと…
そして、今彼はこう思った。
(こいつは、あの事件のことを…俺のことを…怖がらない)
そう、人は第一印象が重要というが、それは脳に与える最初の情報であるために重要なことだった。
そのため、アイルは多くの人に若くして入隊した。という認識をされ、そして暴力事件を起こした。理由は若さ故の過ちだと__。それ以来、多くの人はケガをしたくないと怖がるようになった。なにせ、12歳の子が20歳であり尚且つ、体格が同年代より大きい相手にケガを負わしたのだ。怖がるなんて自分もそちら側の立場だったら思う。だからこそ、この一連の過程はアイルの脳に、《サキ・アールグレッドは俺を怖がらず助けようとしてくれた。そして共闘してくれた人》という認識が深く刻まれた。
アイルが何より辛かったことは、若いからというだけで、判断されたりすることではない。何も関わったこともない相手に勝手に自分を怖がられる。ということだった。
アイルは笑った。
「サキ!俺に当たってもいい!背中は任した!」
2人の共闘は、最初から最後まで息が合うようで合わなかった。そして、ようやくゲイル討伐を終えた。
《 ゲイル討伐 》
場所 : ポート・セカンド・アベニュー
時刻 : 16時43分52秒
時間 : 58分9.42秒
隊員 : アイル・アドラー
被害者 : 1名(軽傷:擦り傷)
破損 : 木
あれから、アドラーとは会っていない。
あの日のあの会話で2人の任務は終わっていた。
「お前…………ありがとな」
「いえ、こちらこそ」
「なんで、お前は俺のことを気にかけた…」
「んぇ?」
「お前だって知ってるだろ!!俺が年上を病院送りにしたって!それなのに…それなのになんで!なんでお前は俺のとこまで来たんだ!」
(んー、普通に気になった。ってだけなんだけどな〜)
「お前は俺のこと怖くないのかよ!!!」
(…………泣いてる)
アイルの目にはうっすらと涙があった。そう、彼はまだ14歳なのだ。まだまだ子供で、けど正式なアトラティカルの隊員だ。そんな彼にかける言葉はサキの頭には一つしかなかった。
「お前も大変だなって………」
「…ぇ」
「だって、お前だって、育成機関に受かって卒業試験にもちゃんと合格したんだろう?なのに、年齢が若いからってだけで疑われたんだろ?才能っていうかまぁ、努力したのにさ…勝手に怖がられてもいるんだから大変だろうなって」
アイルはやっと、やっと理解してくれた、自分の気持ちを言い当ててくれた人に出会った。
ちゃんと、自分は卒業試験に受かった。それなのに、若いから。若いからと言われ続け疑われた。そして、怖がられている。だから、1人でいた____
「……初めてだった。誰かと共闘するのは…」
「そう………」
「いいもんだな!誰かと一緒に戦うって!」
ゲイル討伐の後だからか分からないが、ひどく美しく澄み渡る綺麗なオレンジ色の夕陽の光が彼の眩しい笑顔をさらに引き立たせた。
「今回のゲイル討伐は、先輩は報告書を書く決まりだ。お前のこともちゃんと書いてといてやるよ」
「いや〜、できれば私のことは何も書かないでほしいなー」
(市民に傷を負わせたとか、知られたらまずい…。けど、アイ、アドラーのせいになるのもな〜)
「??なぜだ?相当いい報酬が貰えるけど?」
「いや〜、実は市民に傷を負わせたことを記録に残したくなくて……」
一か八かでサキは本当のことを伝えた。
「なーんだ!そんなことかよ…。いいよ!分かった」
「!?」
「なんだよ、そんなびっくりした顔して!最初のゲイル討伐で市民にケガを負わしたなんてお前みたいな奴が記録を残したら、これから先大変だもんな!」
ニシシと笑う彼を見ると、やっと安心したのだった。
部隊編成期間最終日、サキは訓練場へリリアちゃんと向かうとき、飲み物買って行こうとしたため、リリアちゃんに先に行ってもらっていた。
(今日は、結構訓練する予定だからな〜。…お茶にしとくか)
ピッ
「おい」
「!?」
(あっぶね〜。お茶2個横並びで良かった〜。この声…)
アイル・アドラー。
「お前、今日訓練?」
「そうだけど…」
(お前って……)
「…………………………………」
「何かありますか??用がなければ人を待たせているので…」
「…く、組むのか……誰かと……」
消え入りそうな声で、何とも言えない可愛らしい声が聞こえた。
「部隊を?いや〜、誰とも組む予定ないけど……」
「…………。」
「フッ、もしかして私とですか?」
「!?!?…な!?……」
(図星か……)
サキには、入隊以前の記憶がほぼ家族関連の乏しい記憶しかないため、組む気はあまりなかった。アトラティカルと聞き、何か心に引っかかる感情の答えを探したかった。
「俺、気づいたんだ…。俺は若い。だからこそ、まだまだ学ぶことだって多い。けど、1人では無理だ!だから、俺はお前と仲間になりたい」
アイルは今まで、なんだかんだで目を合わせなかった。今、自販機の前で彼を目を真っ直ぐ見た。あの夕陽の、オレンジ色の光よりも真っ直ぐな目を…。
感情よりも速くに、脳が命令を送った。
「いいよ……!?」
アイルの笑顔は、いつになく輝いていた。
「ッシャ!サンキュー!これからよろしくなっ!」
そして、ようやくサキの感情が追いついた。
(…誰かと仲間になるのは、いいかもしれない…)
心は温かさに満ちていた。
____アトラティカル 上層部会議室____
「えぇ、先日の1件ですが……下級下位3等隊員アイル・アドラーによって、ポート・セカンド・アベニューより出現したゲイルの撃退の件につきまして、どのような報酬を言い渡しますか、司令」
いかにも、上層部の中でも下っ端であろう男が、アトラティカル最高司令官に言った。
「………セントラル付近にも、ゲイルが出現したとのことだった。これは誰が…」
「はい。目撃した市民が50人程確認でき、事情聴取を行ったところ小柄な男の子が対処してくれた。との事でした。アドラーは、昨年の暴力事件があったため、あまり表には出していなかったため、知らなかったのでしょう」
「フム………もう1人の…アドラーと共に当たっていた隊員は何をしていた」
「はい。アドラーからの報告書では自分の指示で避難区域ではない場所にいる市民や外に出ている市民に建物の中へと避難誘導を行わせたいたと報告を受けております」
「…分かった。ご苦労」
最高司令官である男が口を閉ざすと、まるで少しでも動いたら何者かに撃たれるといった緊張感が張り巡らされていた。そんな中、1人の上級隊員が静寂を破った。
「アドラーの奴、流石だな〜。若いだけあって、体力もある。こりゃ安泰だな〜アトラティカルも」
「黙れ、ヴァロフ。お前が口を開いていい場所じゃない」
「ならなぜ、俺を呼んだ…ククッ」
「…クソ」
本日の議題はアトラティカルの宿敵、オールゲンアに対する緊急会議だった。
「オールゲンアの最近の情報を」
「ハッ」
最高司令官より命じられた男は、すぐさまオールゲンアの直近の状態を話した。
「以前より、こちらで考えられていた通り、やはりオールゲンアの今年の新入隊員の実力はかなりのものです。こちらの上級中位以上に多くの隊員が値します」
「…やはり、そうか……」
アトラティカルは、深刻な危機に直面していた。
昨年度の報告会で、オールゲンアの最高司令官は来年は楽しみだと言っていた。その理由は、今年度のオールゲンア新入隊員には、卒業時Sクラスだった生徒が過去一で多く、アトラティカルの3倍はいた。
そのため、公開模擬戦での戦闘を終え、圧倒的な実力を見せつけ国を統一しようとしているのではないかという緊急性をもたらしていた。
「それから、少し小耳に入れて置いた方が良いかという情報があります」
「なんだ…」
「オールゲンア育成機関、Sクラスの生徒1名が、本部に上がっていません」
皆が同じ反応を示し、1番速くに声を上げたのは、いかにも下っ端であろう男だった。
「な、なんだと!?それは、一大事じゃないか!そいつは今、どうしている!?」
「オールゲンアは、何を思って……しかもSクラスの生徒を逃すなんて…!?」
「アトラティカルでも、育成機関卒業後、本部に上がらない隊員はここ20年はいないというのに!?」
「もし、それが罠だった場合、アトラティカル領民は非常に危険だ!一刻も速く捉えなければ」
「まずいぞ…これは。アトラティカルの隊員でもSクラス上がりの隊員は上級隊員を少なくとも3人は必要になってくる。さらに市民がいる場所で戦闘を開始されると…」」
「えぇ、あちら側も市民にケガを負わせたくないのは一緒。市民に被害が及ぶことはまず、ないでしょう」
「ただ、戦力差を市民に知られることになりますね」
そして、最高司令官が口を開く____
「その者を調べろ」
「ハッ」
「そして、巡回警備には上級隊員も積極的に参加させる。皆の者、良いな……」
部隊編成期間内に、部隊結成届けを出すことは叶わなかったが、無事に受理され、晴れて2人は仲間となった。これからの任務は、基本的に部隊で動くため、これからも、このクソガキと共に巡回警備を行うこととなったのであった。
そして、ルールを決めることにした。色々なルールをお互いに出し合ったが、一つ、一致したものがあった。それは、
『2人だけだと息が合わないから、息を合うように支えてくれる隊員を勧誘する』ということだった___
「オールゲンア、Sクラス、…………………」
そして、密かにアトラティカルの最高司令官は呟いた。
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読んで下さり大変誠にありがとうございました。
話がややこしくて申し訳ありません。
面白くない、興味がない、しょうもない、大変申し訳ありませんでした。
続きは、明日投稿させていただきます。
大変誠にありがとうございました。
次からは、もう1人隊員を増やし、部隊事に行われる模擬戦へと進んでいきます。
部隊の順位を決める模擬戦。ルール等は8でご説明します。
10位までの部隊はこの、模擬戦には参加しません。
そして、11〜15位を目指して頑張るのですが、今回は目標20位以内を目標に模擬戦を頑張って行く構成を考えております。
大変誠にありがとうございました。