3 下っ端の役目
まだ入隊式も終えていない、下っ端の隊員の部屋は2人1部屋という何とも狭く明るい部屋だった。
2人部屋か……
(まぁ知ってはいたけど…)
同室者がいなければ、ベッドのどちらを使うのかも決めれないな〜。
無の状態になれば、自分はなぜ記憶喪失なのか…なぜアトラティカルだったのか…分からなくなる。
しばらくの間は、慣れるのに無になる時間は少ないだろうが、幸先が不安なためか、それとも、やはり何かアトラティカルとあったのか、心の不安が募る。
さらに、この部屋に入ってから、アトラティカルにこれからも住むと脳にハッキリと刻まれたためか、異様に鼓動がおさまらない。
コンコン…
控えめなノック音が響いた。ガチャりとドアが開き、私の同室者が顔を見せた。
「は、はじめまして…。」
「初めまして、よろしく。」
第一印象は、背は高くもなければ低くもない。髪も長いとは言えなければ短いとも言えない。けど、同室者としては問題なさそうな相手だった。
「あ…えっと…。」
「全然サキって呼んでください。ポジションはスナイパーです。名前は?」
自分ではめっちゃ優しく言いました。
「リリア………ローディア…と言います。ポジションは……ヒーラーです…あの…」
「??」
「…よろしくお願いします…」
深々と頭を下げられ、私のこの子に対する印象は、最高だった。
どちらのベッドを使うか、お互い何かルールを決める?とか他愛のない話をし、夜を迎えた。
(彼女はもう眠ったか…)
リリアちゃんとの会話は、実に平和だった。
相手の気をつかえ、優しく大人しく、少し緊張というか人見知り屋さんなのかと伺えた。それに…
(かなり当たりだな〜)
記憶がない分、あまり育成機関時代の話はしたくなかった。そのため、
「何かルールを設けますか?」
「ルール?いやいや〜全然何も必要ないよ〜。んー、強いていえば…。あんまり、育成機関時代の話はしたくないな〜」
「え……」
「あぁいや、成績が非常に悪かったし、あんまり触れられたくないって感じ…で!」
ヤベ、なんか違った?
「あの…」
「はい」
「今仰ったばかりなのですが…」
「うん…」
「卒業時のクラスを教えて頂けませんか…」
固まってしまった。クラスぐらい何ともないと思うだろうが(Aクラス以外)、私には記憶がない。
しまった。私がこの部屋に入った時の、あの異様な焦りは、これだったのか…!両親は確実に知らないし、誰か係の人に聞けば、まず記憶に残り、最悪の場合 記憶喪失ということがバレてしまう可能性があった。
(どうする…。ひとまず、Aクラスとは言えない。Bクラスも控えた方がいいな。Aの次ってことは、それなりに目立ってきただろうし、どこまでクラスがあるのかは分からないがDクラスぐらいが安心だろうな。けど、Dクラスがなければ…。どうする)
「あ、あの…。すみません」
「へっ…?」
「こういう時は、私が最初に言うべきでした。すみません…。私は入学式でF、やっと卒業時でCまで上がれました。」
はじめて、彼女を目をまともに見たかもしれない…。
「…Dクラス……」
(どうだ…?)
「Dクラス…そっか…だからか…。」
「あの…さ…」
「私、FとEとCしか経験してなくて…。だから、あなたに会ったことがなかったのですね!」
そう彼女が笑って言った。
彼女は、とても可愛らしかった。
それから、彼女は少し?打ち解けてくれた。
「Dクラスってこと、私的にはちょっと悔しくて…。みんなには、極力内緒にして貰えないかな?」
「はい!もちろんです。誰にも言いません」
悔しくも何とも思わない、だって記憶がないから…。ただ、今日の記憶は暖かな記憶の方が私の脳には刻まれた。
入隊式の朝、私とリリアちゃんは、食堂に向かった。
食堂にはチラホラ女子寮だというのに、チラホラと男性もいた。
報告や仕事の依頼、緊急を要する情報など、伝えに来るからであった。原則として、自分の寮以外立ち入り禁止だが、報告など色々あるたま、ロビーと食堂だけは入ることが可能だった。2人、注目を浴びている男性がいた。
「いや〜、今年の新入隊員の女の子達も可愛いね〜」
「その辺にしとけよ…。今日はこの子達の入隊式だぞ」
「分かってるって〜」
1人は無邪気に女好きそうな人で、もう1人は女子の中にいるのが原因なのか居心地が悪そうにしていた。
「あの人たちの、あのバッチの色あれは上級ですね…。」
「へー、上級…」
「………。あの紋章はきっと、ユーペルト隊の人達ですね」
「……?」
「あ、ご存知ありませんか?」
「いや〜、あまり興味がなくて…」
ギクッ…。彼女はニッコリと微笑んで、
「カリスト・ユーペルト。上級上位三等隊員であり、自身の隊はアトラティカル4位。現アタッカー2位、ソードランキング1位というアタッカーの方々の憧れの的になっている方です。その方のチームメイトです。」
「ありがとう」
「いえ」ニコッ
(あの王冠の紋章、気をつけないとな…。そして、バッチ。金色が上級ならば銀色が中級か…。そして銅色が下級。上級がどれだけいるか分からないが気をつけないと…)
朝食終え、入隊式が行われる会場に向かった。
※階級 : 上級上位1等
〜
下級下位五等
補足 : 下級の中で上位、中位、下位と分かれ更に、一等から五等まで振り分けられる。
(お給料はもちろん上に行けば行くほどUP)
「これより、第137回アトラティカル本部、入隊式を執り行います。一同起立。」
これから始まるであろう、新生活に向け、昨日の不安や焦りなどはなく、ただ楽しかった。
式は進み、通常なら最高司令官の挨拶があったらしいが、今回は諸都合で割愛された。周りにいた人は残念がる人7割、気を緩める人2割、私を含めた何とも思わない人やその他の人が1割だった。
「続きまして、第137回首席生、前へ」
ある生徒が一人、歩き出した。
(アトラティカルの首席はあいつか…)
足と腕が細く、スラリとしていて雰囲気的に物静かなんだろうなと私とあまり合わないなと思った。
「やっぱり、首席は彼だったみたいですね…」
「うん、そうだね。」
「…今年の首席争いは、本部でも相当注目されていたそうです。」
「あぁ…」
「ふふっ」
「??どうした?」
「見た目は凄く賢そうなのに、中身は少し…天然さんなんですね」
「・・・」
(賢そうか…自分は馬鹿だったとは思わなかったけど、そういや賢いとも思ったことないな〜)
「いや〜、勉強の方も、ね?」
「ふふっ、私も勉強苦手ですよ。けど、情報収集は得意なんです。あなたの役に立てそう…」
「いや〜。もう役に立ちまくってるよ」
「ありがとう、ふふっ」
「以上をもちまして、第137回アトラティカル本部、入隊式を終わります。一同、起立。」
入隊式が無事に終わり、心が落ち着いたのはたった少し時間であった。
私たちは混雑を避けるために、少し時間を置いてから退出しようと決めた。
会場外には多くの、隊員たちが自身の隊に入らないかと勧誘活動に勤しんでいた。
リリアちゃんから聞けば、階級が違っても隊が組めたり、個々の実力よりもチームワークに焦点を当てているため下級隊員であれど上級隊員より所属している隊の順位が上回っていれば、下級隊員の方が地位は上になる。そのため、下級隊員だけでなく中級隊員もチラホラ…いや、かなりいた。私にも2回だけ素敵なお誘いがあったが申し訳ないがお断りをさせてもらった。
それから、次の日___
「じゅ、授業…?」
「授業というより講習ですよ。それに、訓練だってありますから!そんなお気を落とさずに…」
アトラティカルの正隊員のして2日目。私たちに言い渡されたのは、講習を受けろ!との事だった。いきなりのゲイル討伐ではなく、見回りぐらいか本部内での仕事になると思っていた。まさか、講習とは…。どうやら、育成機関では基本的な知識を学び、本部入隊後はもっと詳しいアトラティカルの内部を学ぶことが必須とされていた。
それから、1週間。ほとんどの下級下位五等隊員達は講習を受け、講習最終日にこれからのことが説明された。
「君たちは今、ソロという立ち位置だ。ソロでもいいが基本的には部隊を作って欲しい。2人から最大で6人までで組むように。誰と組むかや階級は自由だ。チーム編成期間は今日から2週間だ。その2週間の間には実務実習…つまり始めての任務、見回り警備がある。その日程は表に張り出してある。ちゃんと見ておけよ。では解散とする」
そう言い残し、1週間、私たちの講師を務めてくれた講習は教師をでた。
「サキちゃんは……どうするの?」
「ん〜、まぁとりあえず、日程 見に行くかな〜」
「…私も行くわ」
「OK、行こっか〜」
一旦、初任務の日程及び割り当ては、侵入隊員1名と昨年度に入隊した隊員1名、計2名ずつによる街中の見回り警備だった。私は3回の警備が割り当てられていた。
(上も今の期間は任務になれることと部隊を作って欲しいんだなー)
1度目は明日、〈アイル・アドラー〉という人との任務だった。
「誰とでした?」
「アイル・アドラーって子」
「アイル・アドラー!?」
「??」
リリアちゃん曰く、アイル・アドラーは、昨年度、当時中等部1年生という若さで入隊した若き秀才。誰と部隊を組む、もしくは誰の部隊に入るのかと期待されていたが、彼は誰とも組まなかったため、実力不足だったから、若いからという理由でみんなの注目は消え去ったが名は広く知られているといった人であった。
(今は目立っていない…。けど一応、あまり相手に印象を残さないでおこう)
「怖い方ではないと思いますが……」
「ありがとう。リリアちゃんはどうだった?」
「私は偶然にもお知り合いの方だったので大丈夫ですよ」
「そっか、良かったね」
「…はい。あの…部隊はどうするのですか?」
「ん〜、まだ考えてないんだ。リリアちゃんはどうするの?前に勧誘してくれた人達の組むん?」
「………。私は…その人達と組んでみようと思うの…」
「おぉ!いいじゃん!頑張って!」
「………うん!ありがとう」
(リリアちゃん、あの時 結構声かかってたし、リリアちゃんが組んでみるって言ってた人達、めっちゃ頼み込んでたからな〜)
次の日、初任務ということで期待と緊張と僅かな楽しみとアドラーさんに対する不安を胸に本部にある任務待機場所に向かった。
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お読みいただきありがとうございました。
次から戦闘に入ります。4〜5は、1番書きたくて、読者様に呼んで頂きたい物語です。
ここまでは、面白くなかったと思いますが、4と5を読んで下さる幸いです。
大変誠にありがとうございました。