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2 記憶喪失のなかで


私は、本当の記憶喪失に陥った。

覚えていたことは、両親と自分の名前とうっすら感じる家族の日常生活だけだった。医師から質疑応答を終え、差し支えのない日常生活や、基礎的な知識には何も異常が見られなかったと言われた。医師に、1週間の安静をと告げられた。


(私は、何をしていたんだろう…)


記憶が失くなるとは、何とも不思議な心ここに在らずといった感情も何も思わない、もしかすると恐怖を抱いている気持ちにさせた。例えば気分転換に外に出ようとしても、どこへ…。美味しいものを食べよう、何が美味しい…。

何かしらの意欲が湧き、脳から神経を伝い《動け》と命令しても全ての物事に対して、疑問を抱き、その疑問を解消しようと思い更に行動をおこそうとするが、何をすれば良いのかが分からない。そのような思考をただただと繰り返すことしかできなかった。


唯一、行動しようと思い試みることができたのが、病院内の探索だけだった…。一つ、出来事があったと言えば、女の子とぶつかりかけたぐらいで何事もない、ただ人が動き、立ち止まり、考え、また動き、立ち止まる。そして様々な感情を抱いている姿を見ることしかできなかった。


4日ほど過ぎた辺りに、両親が私にある紙を持ってきた。退屈しのぎに何を持ってきたのかと思えば、想像を超えた。


「なにこれ」

「あんたはね、合格していたの。卒業試験に…」

「記憶にはないだろうが、お前は春からアトラティカルの正隊員になるんだ」

「はっ…」


アトラティカル……………



その紙はアトラティカル本部所属、正隊員認定証明書だった。


心がざわめいた。反応した。この国の二大勢力の一つだ。アトラティカルの正隊員と言えば、まず育成機関に受かり、尚且つ卒業試験に合格をしなければなれず、育成期間である3年間は寮に入り、厳しく正しい私生活を送り、勉学等においても優秀な成績を納め、さらには戦闘力を高める訓練も必修科目であり、必ず履修しなければならない。

まずい…。私には何も知識もなければ戦闘力もない。こんな人間いたらダメだろ…いや、そもそもバレてるだろうし取り消しとかの可能性も出てきたな…

正隊員には、階級がある。世間一般や育成機関の生徒にも詳しいことは伝えられていない。主に上級、中級、下級に別れており、私達市民と関わり合いが多いのが下級隊員たちだ。


「私、育成機関なんかに通ってた…」

「そ、そうだ。3年前、お前が勝手に育成機関を受けて受かったと行ってきてな…。それから、何回は家に帰ってきたが、ほとんどお前は立派な正隊員になるべくして努力してきた」

「母親としては、今はゆっくり記憶を取り戻すのもいいと思うの…」


母の顔に涙が浮かんだ。

(私はどんだけ親不孝者だったんだろうな〜)

私はその言葉を口にした。

「アトラティカルからは、なんて?」


両親は、顔を見合せ間を置いて分からないと言った。

「育成機関の生徒は基本誰にも、自分は育成機関に通ってる。なんて言わないものだから…」

「多分、先生も知らないのだろう」


今これから先、やりたい事なんてない。

私が悩む理由は簡単だった。アトラティカルの正隊員は相当な報酬金を貰えるからだ。どれだけの一文なしでも、アトラティカルの正隊員として裕福な生活を送っている隊員もいる。

(なんか、めっちゃお金が欲しいって気持ちが湧いてきた。記憶喪失前の私は何か欲しかったのかな〜)


「なんか、私欲しい物ってあった?」

「「???」」


(あれ?なんか固まってる…?)


「お前が、欲しい物なんて…」

「沢山あったわね〜」

2人はどこか懐かしむようで、どこか切なさそうな顔をしていた。


「今一瞬、あんたの記憶が戻ったのかと思ったわ」

「正隊員は、お金が頑張った分だけ貰えるからな」

そう、笑った言った。

アトラティカル、育成機関、お金…。言葉を聞くだけで、心に焦りを抱かせた。

なぜ、焦りを抱くのかも分からないし、お金好きだったのも正直、私自身が言うのも変だが意外だった。


アトラティカルの正隊員になれば、この心のざわめきも焦りも、感情の答えも分かる気がした。


ただ、あの時…アトラティカルと言葉を聞いた瞬間に感じたのは、緊張と不安と焦り。民間人たちの多くはアトラティカルと聞き、心を弾ませるの人がおおい。なぜなら、我が国は軍事国家であり、お金にも困らなければ、人々から憧れの目で見られるアトラティカル。


誰かが、運命の人に出逢ったとき、まず脳が反応する。認識するのだ。そして、心…感情が追いつき、これは運命の人だと深く脳に刻まれる。そして、それからその人を見たり話したり、運命だと思う相手のことを聞く度に心が動かされる。と私は思う。それと同じ過程で、今回、私がアトラティカルと聞き心が動いたのは、そういった何かしらの出来事が私の脳に刻まれているのかもしれない。

記憶喪失になり、感情が大きく動いたのは、これが初めてだった。


「私が記憶喪失になったのを、誰かに報告しましたか?」

私は医者に聞いた。

(あぁ、やっぱり。アトラティカルに関する話をしようとすると、また心が無性にざわめく…)

医者は、はぁと深くため息を吐き

「君の元に来た人間は、両親のみだ。オマケに学校も卒業しているのだろう?なら、どこに誰に君のことを報告すればよいのかねぇ」


(マジ…?私友達いないの……?)

驚きが勝った。確かに誰も来ないな〜とは思ってたけど、それは単に私が記憶喪失で会っても覚えてないから気をつかってくれていたのだとばかり、思っていた。自分が恥ずかしい………!!!


アトラティカルに行きたい…。1度、脳で認識されるほど、私の心は動いていた……


両親に、アトラティカルに行きたい。そう告げたあと、母は泣き、父は悲しそうな…顔をしていた。

証明書と一緒に同封されていた、これからの予定の連絡にはちょうど8日後の日程に手続きを行う。と書かれていた。場所はアトラティカルの本部だった…




「行ってきまーす」

あれから、退院手続きや歩く簡単なリハビリなどを終え、手続き当日を迎えた。

何も変わらないのに、酷く自分の部屋ではない自分の部屋で見た自分のアトラティカル育成機関の制服。この制服を着た自分は似合っていない思う。


アトラティカルの本部 入隊手続き場所____

全員がきっちり制服を着こなし、軍隊のように並んでいるのかと思えばそうでもなかった。

ある程度、着崩しているものや、友達と談笑したりしている人が専らほとんどだった。

(まぁ、分かってはいたけどさ………)

誰か一人くらいは喋りかけてくれるのかな〜と思っていたのだが……

(誰も喋りかけてきやがらんな)

そうこう、イラつきかけていたとき、立ち位置が上のような人が登壇した。


「諸君、卒業試験合格おめでとう。幾多の苦しみ、辛い経験など皆、よく耐えてくれた。私は皆のことを誇りに思う。これからのアトラティカルを共によろしく頼む。入隊手続き、そして入寮手続きの説明は、君たちの先輩からだ」


そう言い残し、彼は登壇降りた。

(幾多の苦しみね〜。記憶ないんだよな〜)

けど、記憶がないということが分かれば、間違いなく除隊しなければならない。あの心のざわめきに理由を知るまでは、誰にも知られるのはまずいな….

(友達いないのは、涙出そうだけど案外良かったのかもしれない)


「これより入隊手続きを始める。まず先にAクラスの生徒からだ。Aクラスの生徒は先に右に進んでくれ」


あの眼鏡……もう、卒業したんだしAクラスじゃないんだから、Aクラスだった。にして欲しかったな〜。いやなぜ、自分がAクラスじゃないって認識してるんだ!もしかするとAクラスだったかもしれないじゃないか…。しかし、15?人ほど動いた人達と共に行こうとできなかった。


それから、私は他の人達と共に、入隊手続きを終えた。

(なるほど。)

入隊手続きでは、「あなたは何クラスですか?」とは、聞かれなかった。

(将来、有望株だけは把握しておきたかったのかな〜)

私にしてみれば、ラッキー。

入隊手続きと正直、嫌だったが入寮手続きを終えた。

ここで入寮して周りと合わせておかないと、万が一上に目をつけられると思ったからであった。

正隊員の服は、私が着ていた制服の首の裏の内側に変な数字が書いてあった。変な数字が制服のサイズだった。

(首の裏を見ただけで靴のサイズまで…。楽でいいな〜)


次は入寮日の5日後、私はまたアトラティカルに行く。次の入寮日を迎えれば本格的に正隊員として働くことだろう。入寮日の次の日は入隊式___。これで私の、あの心のざわめきの理由が理解できると思った。

記憶がなくても、優しい家族がいる。そして、謎に私自身がなんとかなる。そう信じていた。


そして、入寮日_______


私は紛れもない 女 なので、アトラティカル本部敷地内にある女子寮に向かった。

(優しい人だといいな〜)


〈820〉ドアを叩き、ドアを開き、足を踏み入れた___



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