表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うちの村に無能が転生してきました  作者: 投降の旗印


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/13

9. 1日目

 翌朝、早起きして朝ごはんを作ろうと思って下に降りてみると、もうガーベラさんが朝ご飯の用意をしていた。


「ガーベラさん、おはようございます。早起きですね。」


「おはようございます。いつもは早起きではないのですが、居候が2人増えたのと昨日の夜ご飯があまりに貧相だったので可哀想だと思いまして....」


 昨日のこと気にかけてくれたんだ。無感情だと思っていたガーベラさんの心が少し見えてきた気がした。


「わざわざありがとうございます。私にお手伝い出来ることがあったら言ってください。ガーベラさんの助手ですから。」


「そうですね...では足りない食材を買ってきて貰いましょう。トーキンスさんの八百屋の場所は知ってますか?」


「いえ、知りません...」


「そうですか...」


 ガーベラさんは少し顎に手を当てて考え込んだ後、張り紙をはがしてその裏に何かを書き始めた。

 肩越しに紙を覗いてみると地図が書かれていた。


「マーヤさん、ここが今いる薬屋です。この道をこういって、ここで曲がって、ここはまっすぐ、ここで曲がって.......

 ここで曲がるとトーキンスさんの八百屋に着きます。」


 大分入り組んでるなぁ。一回で行けるかな?ガーベラさんは私の不安に気づいたのか口を開いた。


「大丈夫です。大通りに出れば道案内の看板があるはずです。そこに書かれている「トルキン商店街」の方向へ行くとお店に着くはずです。」


「丁寧にありがとうございます。では行ってきます。」


「はい。いってらっしゃい。」


 私は不安な足取りで歩き出した。ガーベラさんの地図を見ながら歩いていたが、かなりざっくりした地図なのですぐに迷ってしまった。近くにいた人に聞いて道を教えてもらったり、大通りに出て案内看板を見つけたりしながら何とかトーキンスさんの八百屋に着いた。


「いらっしゃい。見ない顔だね。」


声をかけてきたのは、がっしりとした体つきのホルミ族のおじさんだった。彼はお店の店主らしい。


「はい、昨日この街に来たので、まだよくわかってないんです。

あの...これとこれを2個ずつください。」


「あいよ!

嬢ちゃんはファミル族か。サーベンスさんの医局に入りたいのかい?」


サーベンスさんの医局?ゲリスには医局と薬屋があるんだ。


「いえ、私はガーベラさんのところで助手をしています。」


「えっ!?ガーベラさんとこの助手!?」


店主は驚いた顔で私を見つめた。ガーベラさんが助手を雇うって珍しいことなんだ。まあ、なんとなくわかるような気がするけど...


「そうなんです。私、ガーベラさんの弟子になりたくって。」


「ガーベラさんの弟子!?」


店主はまた驚いた顔をした。すると周りに聞こえないように小声で言った。


「嬢ちゃん、それはやめたほうがいい。これは人から聞いた話なんだが、

 ガーベラさんは前にファミル族の少女を助手として雇っていたらしい。でも彼女はガーベラさんにこき使われて、逃げ出してしまった。今はもう彼女がどこにいるのか分からないんだとよ。だから嬢ちゃん気をつけな。」


「は...はい。」


 え、そんなことがあったの?私は不安に駆られた。私もその人みたいにガーベラさんにこき使われて、逃げ出したいほどに追い込まれるかもしれない。


「ほい、お代はちゃんと頂いたよ。これが当店自慢の採れたて新鮮野菜だ。大事に持ってけよ!」


「ありがとうございます。」


 採れたてで新鮮じゃない野菜ってあるのかな。まいっか。じゃあ帰ろう。


 一人で来た道を歩いていると、さっきの店主のおじさんの言葉が気になってくる。あの話は本当なのかな?私、こき使われちゃうのかな?


 ガーベラさんの店に帰る道すがらずっとそんなことを考えていた。でもいくら考えても不安は消えず、むしろ大きくなるばかりだった。


 結局、不安が消えないまま薬屋に帰ってきてしまった。


「ただいま帰りました。」


「マーヤさん、おかえりなさい。買ったものはこちらに置いてください。すぐにご飯を作るのでちょっと待っててください。」


 ガーベラさんは私が買ってきたものを受け取ると、すぐに台所に入っていった。本当にあの人は助手を潰してしまうほど、こき使う人なのかな。


 わからない。私はガーベラさんのことを知らない。


 心の底にしまってあった”帰りたい”という気持ちが気泡のようにぷくぷくと湧き上がってくる。ああ家が恋しいなあ。ゲリスに来てからまだ1日しか経ってないのに家の温かさが恋しい。お母さんとおばあちゃんとトーヤが居たあの時の日常はめっちゃ幸せだったな。戻りたいな。


 いやいや、ダメダメ。私がこの町に来た理由を思い出さなきゃ。まだここに来て一日しか経ってない。時間はたっぷりある。ゆっくり見ていけばいい、ガーベラさんがどういう人か。私の頭の中であれこれ考えても仕方ない。そう思うことにした。


 すると、台所からガーベラさんが顔を出した。


「ご飯ですよ。あれ付き人の方はまだ起きてないんですか。」


「ああ、すみません。今、起こしてきます。」


 私は階段を駆け上がり、屋根裏部屋へ上っていった。ユウトは布団にくるまって気持ちよさそうに寝ていた。私がこんなに悩んでるのになんでこの人は気持ちよさそうに寝ているんだと腹が立ってしょうがなかった。でも少し心が和らいだ気がした。


 今日の朝ご飯は白米とお味噌汁ときゅうりの漬物という家でもよく出る献立に加えて、小魚が3匹あった。ガーベラさんが昨日のことを気にして追加したのかな。


 朝食を食べ終わるとユウトはすぐに屋根裏部屋に戻ってしまった。どうせまた寝るのだろう。実に怠惰な人である。ガーベラさんに ”お仕事の説明をします” と言われ、昨日ガーベラさんと会った受付に案内された。


「マーヤさん、あなたの仕事は受付です。」


受付か。お母さんの医院で患者さんの案内とかしたことあるけどそういう感じなのかな?


「あの...具体的にはどういったことをするんですか?」


「これから順に説明していきます______」


 どうやら患者さんが来たら、御薬手帳を見せてもらい、後ろの箪笥に患者さんの名前が書かれた引き出しの中の袋を一つ渡せばいいらしい。事前に薬を準備しているなんてガーベラさんはマメだな。


 御薬手帳を持っていない人はガーベラさんが症状を聞き、薬を調合するらしい。


 私の仕事は御薬手帳を持っているか確認して、持っていたら薬を渡して、持っていなかったらガーベラさんを呼ぶだけだ。


 思ったよりも簡単な仕事で驚いた。八百屋のおじさんが言ってたのはやっぱり嘘なのかな。この調子なら使いつぶされることはなさそうで安心した。


「では説明も終わったので店を開けます。」


そういうと、ガーベラさんは入り口近くにあった暖簾を出しに外へ出る。


「そういえば、このお店って看板とかないですよね。最初に来た時、どこか分からなくて通り過ぎそうになりました。」


「まあこんな入り組んだところに店を構えているのですから、看板を立ててもあまり意味がないでしょう。うちもそんなに余裕があるわけではないですからね。」


 暖簾を掛け終えたガーベラさんは私の疑問に答えた。


「そうなんですか。」


 私は受付の椅子に座り頬杖をついたまま答えた。


 ガーベラさんはそのまま奥の部屋に入っていき、何かの作業を始めた。


「何してるんですか?」


 私は奥の部屋に入りながらガーベラさんに尋ねた。

 ガーベラさんは慌てた様子で書いていた書類をしまいながら、


「そんな大したことではありません。ある人物からちょっと頼まれましてね。」


とちょっと言いにくそうに答えた。


 聞いちゃいけないことだったかな。


「でもマーヤさんが私の弟子になれば教えると思います。」


「そうなんですか!?」


おっと...つい大きな声を出しちゃった。弟子っていう言葉に敏感になりすぎたかな。


 受付に戻って椅子に座る。ガーベラさんの仕事を教えてくれないのは、あまり人に知られたくないのか、私のことを信じていないのか。ガーベラさんに直接聞いてみても答えてくれないだろうし、前者だと思っておこう。何事も前向きに考えることが大事だよね。


 にしても暇だな。全然患者さんが来ない。このままだと今日何も仕事しなかったことになっちゃう。


「全然人が来ないですね。」


 私は入口の方を向いたまま愚痴をこぼす。


「平日の午前中はこんなものでしょう。」


 背後から冷静な声が聞こえる。


 昨日想像していたよりもゆっくりと時間が流れていった。


 正午ごろ、やっと一人目の患者さんが来た。その人はホルミ族の男性で御薬手帳を持っていた。名前を確認して後ろの箪笥から薬袋を取り出す。




「君、初めて見る顔だ。新人さんかい?」


 その男性が声を掛けてきた。


「はい、そうです。私はガーベラさんの助手をしているマーヤです。よろしくお願いします。」


「へぇ〜、よくできた子だね。にしてもガーベラさんが助手を取るとは変なことが起こるもんだ。」


「やはり、そうなんですか?」


 朝に八百屋で聞いたのと同じような反応が返ってきたので、ガーベラさんのことを知る良い機会だと思って聞いてみる。


「いや…さぁ。ガーベラさんって寡黙だしよ。何考えてるか分かんないところがあるからよ。助手を取って面倒を見るって、あんま想像できないんだよな。」


 男はガーベラさんに聞こえないようにヒソヒソ声で話す。


「聞こえてますよ。」


 でもガーベラさんは地獄耳だったようだ。男は今度はガーベラさんに聞こえるように言った。


「いやぁ…陰口言うつもりは無かったんだよ。実際俺はこの薬屋に何年も通ってるけどよ。ガーベラさんじゃない人が受付にいるなんてことは一度も無かったんだよ。

だからなんでだろうなって思っただけさ。」


「師匠から薦められたからです。」


 その言葉はこれまで以上に冷たく、私の心を締め付けた。


 ああそうか。ガーベラさんはお母さんに薦められたから受け入れただけなんだ。本当は私の面倒なんて見たくないのに、師匠であるお母さんから”娘をお願い”って言われたから仕方なく助手として受け入れたけど、弟子にするつもりは無いんだ。1週間過ぎたら、そのまま家に帰すつもりなんだ。


 男はガーベラさんと軽い雑談をした後、代金を払って去っていった。


 男が居なくなったあと、薬屋は異様に静かになった。


 ガーベラさんは奥の部屋で黙々と作業している。

 私はさっきのガーベラさんの言葉が心に残って上手く話しかけられない。


 そのまましばらく時間が流れた。


 夕方頃になると患者さんがチラホラ来るようになった。


 私は受付の仕事をこなしていく。


 患者さんの数はお母さんの医院で受付のお手伝いをした時と同じくらい。でもバークワクトよりゲリスのほうが大きい街だから相対的に見ると少ない方だと思う。


 夜になると人は増えたが、ガーベラさんも受付で対応してくれたため、事なきを得た。


「急に患者さんが増えましたね。」


 ひと波が終わったあと私はそう話しかけた。


「どうやらお仕事が終わってからここに来る方が多いようです。薬の処方はあまり緊急性の高いことではありませんから、一日の仕事を終えてから来た方が楽という人が多いのかもしれません。」


「へぇ、そうなんですね。」


「では閉めますよ。手伝ってください。」


「はい!」


 これで今日の仕事は終わりらしい。そういえばお母さんの医院はもう少し早い時間に閉まってたと思うけど…。


 この時間まで開いているのは、さっきガーベラさんが言ってたように、仕事終わりに来る人のためということだと思う。


「鍵を閉めて…

はい、これで今日のお仕事は終わりです。

お疲れ様でした。」


「はい!ありがとうございました。」


 ようやく私の助手一日目が終わった。長い一日だった。今朝おつかいに行ったのが昨日のことのように感じる。


「私は今から食材を買ってきます。あなたはお米を炊いておいてください。」


「分かりました。でもこの時間に空いている店はありますかね?」


「大丈夫です。路地裏には夜遅くまで営業している店が多いんです。」


 だとしても、夜に女性一人で歩くのは危ないと思うけど...


「本当に大丈夫ですか?」


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。さっと買ってきますから、マーヤさんもお腹すいたでしょう?」


 お腹すいてはいるけど....


「ほら、あなたも早くご飯を炊いてください。」


「はい...」


 私は渋々うなずいた。まあでもガーベラさんがこんなに言ってるんだから大丈夫なんだろう。多分...



 ガーベラさんが買い物に出かけて数分後、階段をドタドタと下りる音が聞こえたと思ったらユウトが顔をのぞかせた。


「あ~おはよ。ご飯まだ~?」


 なんだこいつ。一日中寝てたのに、ご飯の用意もしないの?


 それに頭ぼさぼさだし、目やにつきっぱだし、これで食事にありつけると思ってんの?


「あの、みすぼらしいので、顔を洗ってください。あと、今ご飯を炊いているので手伝ってください。」


「あ、うん。」


 分かってるのか分かってないのかわかんない返事をした後、ユウトは水桶で顔を洗い始めた。


「で、俺は何すればいいの?」


 濡れた顔を拭きながらユウトは聞いてくる。


 いや自分で考えろよ。そのくらいわかるでしょ。あんたもう子供じゃないだろうし。


 そういった言葉が口から出かけるが何とか我慢する。


「じゃあ、あなたは火加減の調節をしてください。ほら火吹き棒を持って!」


「これって…。マーヤが使ってたやつ?」


「あ。


やっぱなし!


 私が火の管理をするので、土釜の方見ててください。」


「見るだけでいいの?」


 この人、ホントに大丈夫かな...。


 その後、何とかご飯は炊けたけど、ユウトはただ見てるだけだった。


「ふぅ〜やっと出来た!大変だったね。」


 いやあんたは何もしてないだろ


 この怠惰で不真面目でどこか他人事な彼に苛立ちを募らせていた。


 ここまで我慢してきたけど、もう限界だった。


「あの…」


「ん?どうしたの?」


「このご飯を作るために、あなたは何かしましたか?」


「え、えっと…」


「私はご飯炊くのを手伝ってと言いましたが、あなたは何か手伝いましたか?」


「…」


「今回のことだけじゃありません。

あなたはゲリスに来てから、私もしくはガーベラさんの負担を少しでも減らすような努力をしましたか?


料理をしない、掃除もしない、洗濯もしない、仕事も手伝わない。


あなたはこの2日間、何をしてきたんですか?」


 私は、自分が冷静に怒っていることに驚いた。


 もっと声を荒らげたり、感情が爆発すると思っていた。頭は冷静のまま言葉だけがスラスラと出てくる。


「私は新しい環境で、知っている人もいませんし、ガーベラさんは何考えているか分からないですし、弟子になれるかも分からない。

不安で、不安で、今にも押しつぶされそうです。


でもやらなくてはいけません。ガーベラさんに認めてもらわなくてはいけません。


そのために、完璧ではないですが、自分が出来ることをやっているという自覚があります。


あなたはどうですか?


転生前は、あなたは何もしなくても生きていけたかもしれません。

でもここでは違います。


あなた、ガーベラさんに迷惑がかかっているの分かってますよね?


今は何も言ってきてないですが、このままだとあなたは追い出されるでしょう。


あなたはもう大人です。向こうの世界ではどうだったか知りませんが、こっちでは歴とした大人です。


大人なら誠意を見せてください。誠意を見せれないなら、ここから出て行ってください。迷惑ですので。」


 そう言い放った。


 ユウトは俯いて何か喋ろうとしていたが、モゴモゴして聞き取れない。


 もういいや...


 彼のことは諦めて晩御飯の支度を始めた。彼は何かしようとあたふたしているが正直邪魔だ。


 そう思っていると、ガーベラさんが帰ってきた。ガーベラさんは煮物と天ぷらを買ってきてくれて、すぐに晩御飯になった。


 私とユウトの険悪なムードに気づいたのか、ガーベラさんは「何かあったのですか」と聞いたけど、わたしが「何もないです。」と言ったきり会話がなくなった。まるでお通夜のような静かな食事だった。


 ご飯を食べ終えるとユウトはそそくさと屋根裏部屋に行ってしまった。ああ、もう寝ちゃうのか,,,食器も洗わずに。


 私は、明日の準備をするガーベラさんを手伝った後、自分の部屋に戻った。


 これで何でもいいから手伝ってくれるようになれば嬉しいんだけど...

 でも少し言い過ぎたかもしれない。明日になったら謝ろうかな。でも彼がそのままだったら...


 まぁ..いいや、ともかく寝よう。疲れた。


 こうして激動の1日が終わった。



ーー

 翌日、朝起きるともうすでに朝食が出来上がっていた。


「さあ、食べましょう。」


 私が席に座るとガーベラさんは言った。


 あれ?ユウトは?


「あの...ユウトは待たないんですか?」


「え?ああ、あの付き人のことですね。


彼は朝早くにどこかへ出かけに行きましたよ。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ