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8. ガーベラさん

 私の目の前には無表情でこちらを見つめる女性が立っていた。

この顔は覚えている。私の母の弟子であり、これから私の師匠になる女性。

ガーベラ・コルメンだ。


「お久しぶりです。ガーベラさん」


私は緊張を隠すように明るくあいさつした。

「すいません。どなたか存じ上げないけれども、今店を閉めるところなんです。また明日来ていただけませんか?」


 私はガーベラさんに忘れられていることに大きなショックを受けた。確かに前会ったときに何か話した記憶はないし、何年も前のことなんだから忘れられていてもおかしくないだろう。私の記憶が強烈なものであったがためにガーベラさんも私のことを覚えていると思い込んでしまったのかもしれない。


「こんばんは。私はマーヤと申します。数年前に母とこの店に訪れたのですが覚えていませんか?」


「あっ、師匠の娘さん。覚えています。あの時のお子さんが大きくなりましたね。」


 よかった。忘れてたわけではなさそうだ。それにしても彼女の口調は抑揚がなさすぎて感情が読みにくい。


「それなら良かったです。今日はガーベラさんにお話があって来ました。」


「お話ですか。」


「私を弟子にしてください!」


私は勢いよく頭を下げた。


「あなたが私の弟子になりたい...」


ガーベラさんは抑揚のない声でそうつぶやいた。


すぐに返事がもらえると思って頭を下げたままにしていたが、なかなかガーベラさんは話始めない。


大丈夫かなと思い頭を上げると、ガーベラさんは人形のように固まっていた。


「ガーベラさん!大丈夫ですか?」


慌ててガーベラさんの肩を優しくたたきながら声をかけた。


「ああ、すみません。突然のことで驚いてしまいました。私があなたの師匠になるのですか。それはお母さまから言われたのですか?」


「はい!そうです。薬の知識を教えるにはガーベラさんが適任と言っていました。」


「師匠がそんなこと...」


ガーベラさんはまた固まってしまった。でも今回は解けるのが早かった。


「師匠からのお達しですから、面倒は見ましょう。」


「本当ですか!ありがとうございま...」


「しかし、正式に弟子と認めたわけではありません。」


えっ、うそ...


「1週間、私の薬屋のアシスタントになってもらいます。その間にマーヤさんが私の弟子になる素質があるか見定めます。」


弟子の素質!?そんなのないよ〜。しかもガーベラさんが見定めるんだよね。絶対厳しいじゃん。

1週間後に泣きながら家に帰る自分の姿がありありと浮かんできた。


「それでいいですか。マーヤさん。」


「はい。よろしくお願いします...」


私はそう答えるしかなかった。何とかこの1週間でガーベラさんの弟子にならないと...弟子になれませんでしたって言って家に帰ってもお母さんに合わせる顔ないし…


「2階に空き部屋がありますから、1週間そこで暮らしてください。」


「はい、あの…こちらの男の子、私の付き人でユウトっていうんですけど彼はどこで暮らしたらいいですか?」


ガーベラさんが驚いた顔で私を見つめた。


(娘に付き人をつけるなんて師匠は心変わりでもしたのでしょうか。)


ガーベラさんが何かつぶやいていたがよく聞こえなかった。


「彼は屋根裏部屋でいいんじゃないでしょうか。」


「そうですか。分かりました。」


 ガーベラさんのユウトに対する態度がちょっときついんじゃないかと思ったけど、キンミ族の付き人だと思ってたらこんなもんだよな。ていうかしばらくガーベラさんと話してたけどその間ユウトは何してたんだろう。


「これから2階を案内します。ついてきてください。屋根裏部屋もつながってますので付き人の方も来てください。」


「はい!

ほら..ユウト行くよ...」


「うん...」


 ユウトは目を伏せながら私の後ろをちょこちょこと付いてきた。この様子を傍から見たら付き人と主人だよね。私はそんなことを考えていた。


 階段を上って左側の襖をあけてカーベラさんは振り返った。


「ここがあなたの部屋です。」


その部屋は少し小さかったが一人で住むには十分の広さだった。ガーベラさんは押入れを開けた。


「少し埃がかぶってますがこの布団を使ってください。下には机と座布団があります。ほかに何か欲しいものがあれば私に言ってください。」


「わざわざありがとうございます。それで屋根裏部屋というのはどこにあるのでしょうか?」


「屋根裏部屋へはこちらです。」


 そういってガーベラさんは天井から垂れ下がっている縄を引っ張った。

すると天井にある木枠が下りてきて梯子が現れた。すごい...こんな仕掛けバークワクトでは見なかった。


 その梯子を上ると屋根裏部屋は暗くて寒いところだった。そこには古びた箪笥や木箱が所々に置いてあった。恐らく物置部屋として使われていたんだろう。

 ガーベラさんはその荷物を漁って冬用の毛布を出した。


「この毛布はもう捨てるところでしたが、どうぞ使ってください。」


そういって床に置いた。


「ありがとうございます。」


ユウトはそういって頭を下げた。


「では部屋の紹介が終わりましたので、夕食にしますか。」


梯子を下りたあとガーベラさんはそういった。


「そうですね。今日のご飯はなんですか?」


今日はいろいろあったから、いっぱい食べたいなぁ~


「今日はサンマの塩焼きなのですが、あいにく一人分しか買ってきてないので、それを3人で分けます。」


 ということで1本のサンマをなんとか三等分にして食べた。


部屋に戻って横になっても空腹感は続いていた。急に来たから用意していないのは分かるけど、もっと食べたい~


 そういえば明日からガーベラさんのアシスタントやるんだよね。この1週間で何とか弟子として認めてもらわないと…


 そう決意して私は目を閉じた。

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