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5. 大事な話

「話ってなに?」


「マーヤはガーベラのこと知っているかしら?」


「ガーベラさんってお母さんのお弟子さんだよね?」


「そうよ。ガーベラがゲリスに戻って薬屋を始めたらしいのよ。」


「そうなんだ!」


 ガーベラさんはバークワクトからほど近いゲリス出身でお母さんの一番弟子だ。お母さんの元で長いこと手伝いをしていたけど、私が生まれる前に王都へ薬の調合を学ぶためお母さんの元を離れたらしい。


 そんな彼女がゲリスに戻り薬屋を始めたということは薬の知識が一人前になったということを意味する。


「それはすごいね!」


「えぇ、お母さんも誇らしいわ。

 それで提案なんだけど、ガーベラの所に行って薬を学ぶのはどうかしら?」


「私が薬を!?」


「そう。」


「でも私、お母さんの教えもちゃんと守れてないし...」


「大丈夫よ。お母さんが教えられることは全て教えたから、マーヤなら出来るわ。

 それにマーヤにも師匠がいないといけないわ。」


「師匠はお母さんじゃダメなの?」


「ダメ。家族は師匠になれないの。」


「そうなんだ...」


 不安だな…。家族での旅は年に1回ぐらいはあったけど1人で旅に出たことは無かった。それにガーベラさんと会ったのも1回きりだし上手く会話できるか分からない。

 娘の不安を感じ取ったのか、母はある提案をした。


「そうだ。1人で行くのが不安ならユウトくんと一緒に行けばいいじゃない!」


 ユウトと一緒?あんなに頼りない人と?まあでも不安だけど1人で行くよりはいいか。それにゲリスは大きな港町だからユウトの事が何か分かるかもしれない。


「そうだね。ユウトと2人で行くことにする。」


「よし決まり!さぁ今日は寝て明日ユウトくんに話そう。」


 私は部屋を出て布団に入った。


 次の日、昼前にようやくユウトが起きてきた。お母さんは仕事に行ったから私から話すことになった。

「ユウト、お話があります。」


「どうしたんですか?あ、どうしたの?」


「私は川を下ったところにあるゲリスという町で薬の知識を学びます。」


「はあ。」


「それでお母さんと話して、ユウトも一緒に来てもらうってことになったんだけどいいかな?」


「え?もう決定事項なの!?」


「まあお母さんはそんな口調だったけど。」


「そうか。まあでもこの世界をいろいろと見て回りたいしいいかもな。」


「そうですね。それにゲリスは結構大きな町だから何か知ってる人がいるかもしれないですよ?」


「へぇーそうなんだ。それに女の子と二人旅ができるなんて最高だね。」


「あの...時々気持ち悪いこと言うのやめてもらいません?」


「すみません。」


 最後のは置いておいて、とりあえずユウトが一緒に行くことを了承してくれてよかった。


 夕方前にお母さんが早めに帰ってきた。どうやら私のために特別なご飯を作ってくれるらしい。何だろう楽しみだな。


 家の裏ではユウトとトーヤが遊んでいた。ユウトが足で球を転がす「さっかー」という遊びを教えているらしい。足だけで球を思い通りに転がすのは難しそうだけど、トーヤはすぐものにしていた。


 トーヤが縁側でぼーっと眺めている私に気づくと笑顔で近づいてきた。


「ねえ、お姉ちゃんもやろうよ!」


「え~できるかな?」


「大丈夫、俺が教えるから。」


 その時のユウトだけは頼もしく見えた。

 最初は足がかすったり球を踏んじゃって転んだりしたけど、しばらくやっていたら慣れてきた。球を思い通りに動かせるようになるとめっちゃ楽しい。今やトーヤとパス?を回してゴール?が出来るようになった。


 最後に、ユウト対トーヤと私の2対1の試合が始まった。


 こっちは2人だから余裕だろうと思ってたら、ユウトが素早い動きで攻めてくる。右に肩を入れたかと思ったら素早く左に重心を移して簡単に私を追い抜いてしまった。


 トーヤはユウトを必死に追いかけて何とか食らいついている。しかし一瞬のスキを突いてユウトはシュートを放ち、その球はゴールに見立てた2本の木の枝の間を通り抜けた。


「すげぇー!」


 トーヤが目を輝かせて言った。


「ちょっと本気出しすぎじゃないですか?」


 呆れた声で私はユウトに聞く。


「すみません。久しぶりにサッカーしたからつい楽しくなっちゃって...次は2人が攻める番だよ。」


「今度は手加減してくださいね。」


 試合が始まった。

 私は最初に球を持っていた。とりあえずゴールに向かって真っすぐ蹴っていく。するとすぐにユウトが私の前に現れ行く手を阻んだ。

 私はユウトを避けるように横に移動していくがユウトもついてくる。どんどん横にずれていってトーヤとの距離が遠くなっていく。


「トーヤくん、突っ立てちゃダメだよ。お姉ちゃんがパスしやすい位置にいないと!」


 急なユウトからのアドバイスに驚いたけどトーヤはわかった!といって私の元へ走ってきた。


 ユウトのスキを突いてトーヤにパスをした。でも距離が近すぎたからかユウトはすぐにトーヤの前に立ちはだかった。


 このままじゃダメだと思いトーヤとちょっと離れたところで私とトーヤの間にユウトがいない位置に移動した。


「トーヤ!お姉ちゃんにパスして!」


「うん!」


 トーヤは私がいるところを一度見ると球を蹴った。その球はゆっくりと私の足元に転がってきた。


「トーヤ、ゴール前に走って!」


「うん!」

 ユウトは球を追いかけて私の前に走ってくる。ユウトが最大限近づいたタイミングでゴール前のトーヤにパスした。


 トーヤは誰もいないゴールへ球を蹴った。その球は2本の木の枝の間を通り抜けた。


「やったー!」


 トーヤがガッツポーズをした。私もユウトに勝ってうれしい。トーヤとハイタッチした。


「いやぁ上手かったな。」


 ユウトは手で汗をぬぐいながら言った。


「ご飯できたよ~。」


 ちょうどご飯が出来たらしい。


「ひと汗かいたことですし、ご飯食べましょうか。」


「えーもっとやりたい。」


 トーヤが駄々をこねる。


「ご飯食べ終わってからやろうね。」


「はぁーい。」


 さっかーが楽しかったのだろう。残念そうにトーヤは家に入ろうとする。


「待って!水場で泥を落としてから入りなさい。」


「はぁ~い。」


 さっきと同じような返事をする。木の枝を抜き取って球を抱えたユウトが私に話しかけてきた。


「ちゃんとお姉ちゃんやってるんだね。」


「まあ10歳も年上ですから。でもトーヤの遊び相手になかなかなってやれないのが少しかわいそうだなと思って。」


「遊んであげればいいじゃん。」


「でも私すぐバテちゃうし、こんな年の離れたお姉ちゃんと遊びたくないでしょう。」


「そんなことないと思うよ。トーヤくんはお姉ちゃんのこと大好きだから遊びたくないなんてことはないと思うけど。」


「そうですかね。」


 第三者からそういわれるとちょっと照れるな。


「よし俺らも泥を流してご飯食べるか!」


「そうですね!」


 今日のご飯は赤飯と鮭の盛り合わせだった。この豪華な食事が私のためというのがすごくうれしい。


「よし、みんな集まったわね。」


 お母さんが口火を切った。


「実は、明日からマーヤとユウトくんはしばらく家を離れます。」


「え~お姉ちゃんどっか行っちゃうの~?」


 トーヤがさみしそうに言う。急な知らせでごめんね...


「大丈夫。また戻ってくるから。」


「ほんと!?」


 トーヤのまぶしい笑顔が愛くるしい。この顔もしばらく見れなくなるのか。心がジーンとする。


「じゃあ説明します。マーヤは私の弟子のガーベラに薬を教わることになりました。マーヤを一人で旅に行かせるのは不安なのでユウトを連れて行こうと決めました。ユウトくん大丈夫かしら。」


「はい。大丈夫です。」


 ユウトがちょっと頼もしい顔になった。ずっとその顔でいてくれればいいんだけどな。


「明日の朝、二人は出発します。だから最後のごはんを家族みんなでワイワイ楽しもう!」


「もう食べちゃっていいの!?」


 トーヤが待ちきれずに箸を片手に前のめりになっている。


「いいわよ。」


お母さんがそういうと、トーヤはがつがつと食べ始めた。


「おいひい~!」


 頬いっぱいに詰め込んだトーヤはおいしさに浸っていた。


 私はおばあちゃんと話していた。


「マーヤがもう師匠から習う時期になるとはねぇ。」


「おばあちゃんにも師匠がいるの?」


「もちろんいるとも、ファミル族はそうやって技を継承していくんだよ。」


「へぇーそうなんだ。そういえばお母さんが「家族は師匠になれない」って言ってたんだけど、どうして?」


「それは、う〜ん。次マーヤが帰ってきたときに教えるからね。」


「えー、今教えてくれたっていいじゃん。」


「もう少し大人になってからのほうがいいと思うわよ。」


「十分大人だけどなぁ。」


 一方、マーヤと彼女のおばあちゃんを挟んで向かい側では、カーラとユウトが話していた。


「うちの娘をよろしくお願いします。」


「いえいえ頭を上げてください。マーヤさんのおかげで俺は助かったんですから。

俺が言うのもなんですが、こんな頼りない男に娘さんを預けてもらって大丈夫ですかね?」


「大丈夫です。マーヤは一人でいろんなことが出来ますし、私はユウトくんがやるときはやる男だと思ってますから。」


「そんな無条件に信じてもらってうれしいですけど大丈夫ですか?」


「無条件ではないですよ。それに私は仕事で忙しいですし、お母さんもトーヤの世話で手が離せなくなると思うのでユウトに頼むのが一番いいと思ったんです。」


「そうですかね。」


「そんな不安そうな顔しないでください。あなたは私達と会ってからわずか数日でこんなに仲良くなったのですから大丈夫ですよ。」


「そうですか......そうですね。すみません、どうしても悪い方に考えてしまいがちなのですが、ダメですね。ずっと俺がこんなんだったらマーヤさんにも悪いですしね。」


「そうですよ。悪い方に考えるのは悪くないですが、考えすぎは良くないです。適度に前向けるようになると良いかもしれませんね。」


「なんか心理カウンセリングを受けているみたいです。」


「心理カウンセリング?」


「人の悩みを聞いて寄り添ってくれる仕事が俺のいた世界にあったんです。」


「へーそんな仕事があるなんて素晴らしい世界ですね。」


「あなたの方が素晴らしいですよ。自然とそれが出来てるんですから。」


「ありがとうございます。」


夕食は夜更けまで続いた。マーヤはこの時間が終わってほしくないと思った。


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