4. 聞き取り調査
私はユウトと一緒に街中を歩いていた。ほんとは別々で行動した方が早いけど、ユウトはこの町のことよく分かってないから一緒に行くことにした。
「マーヤさんは知らなかったんですか?なんとか様に付き人いるって」
「初めて聞きました。マリタン様の伝説は小さい子でも知ってますけど、付き人がいるって話は初めて聞きました。お母さんはどこで知ったんだろう。」
「そうなんですね…」
二人とも黙ってしまった。気まずい空気が流れる。こういう時何を話せばいいんだろう。
「あの…マリタン様ってどういう人ですか?」
「マリタン様は英雄です!さっきお母さんも言ってたんですけど、500年戦争っていう長い戦争を終わらせたんです!しかも武力を一切使わずに。」
「え!?武力を使わずに戦争を終わらせた?そんなフィクションじゃないんですから。」
「そうなんですよ!そこがマリタン様のすごいところなんです!全く武力を持たずに交渉術だけで世界を平和にしたんです!その話術はほんとにすごかったらしいですよ。マリタン様の演説を一回聞いただけでその人は熱狂的な支持者になると言われていたんです。」
「ていうか、マーヤさん詳しいですね。どこで知ったんですか?」
「町にマリタン様の伝説を楽しく教えてくれるおじさん達がいるんです!吟遊詩人と呼ばれているんですけど…あっ…まだいるかも!」
そうだ。昨日お祭りがあったから吟遊詩人もたくさん来たはず、昨日のうちに町を出ていなければ、まだいるかも!
「宿屋を回ってみましょう!吟遊詩人がいるかもしれません!」
私はユウトを連れて、町で一番高級な宿屋へ向け走り出した。
その宿屋には有名な大道芸人や吟遊詩人が多くいたが、誰もマリタン様の付き人のことは知らないようだった。
「こんなにいろんな人に聞いてるのに、誰も知らないなんて」
「本当はマリタン様の付き人なんていなかったのかもしれませんね。」
ユウトが明らかに落ち込んでいることがわかる。私たちのせいで無駄な期待をさせちゃったかも…
「マーヤちゃーん!」
私たちはさっき話した吟遊詩人の一人に声をかけられた。彼はサイチさんといってこの町出身の吟遊詩人だ。
「マリタン様の付き人のこと何か知ってるんですか?」
「いや俺が知ってる訳じゃないんだけど、もしかしたらあいつならマリタン様の付き人のこと知ってるかもしれないと思って...
パキルっていって俺と同じバークワクト出身の吟遊詩人なんだけど...ちょっと変な奴で訳の分からない話を本気で信じてよく俺に話してくれたんだ。
その中でマリタン様の付き人の話も出てきたんだよ。その時はどうせホラ話だろうと思って聞き流したんだが、マーヤちゃんの話とめっちゃ似てる気がするんだよ。だから直接会って話してみるといい。
この紙にあいつが止まってる宿の住所があるから行ってみて、ちょっと危ないとこだからお母さんと一緒に行った方がいいかも。」
そういって紙切れを渡された。
「ありがとうございます!」
私は頭を下げてサイチさんにお礼を言った。ユウトもありがとうございます。と頭を下げていた。
じゃあ俺は部屋に戻るからとサイチさんは帰っていった。私達は喜々とした足取りで宿屋を後にした。
「どうします?この宿屋に行きますか?」
さっきもらった紙切れを覗き込みながらユウトは言った。
「数少ない手がかりですから行きましょう!」
私はマリタン様の付き人のことが知りたくてしょうがなくなっていた。
「でもさっきの人は危ない場所って言ってましたよ?明日お母さんと一緒に行ってもいいんじゃないでしょうか。」
「大丈夫ですよ。ユウトは見た目弱そうですけど魔物には強そうなので。」
「そうですか..」
ユウトは納得してなさそうだが特に何も言わなかった。
しばらく歩くと町はずれの貧民街にたどり着いた。ここらへんにサイチさんの言ってた人が泊まってる宿があるはずだ。
ここの家はどれもボロボロで隙間の空いた扉からこっちを見ている気配がする。道のわきには土汚れた服に虚ろな目をした男が座っていた。
「ここなんだか気味悪いです。」
ユウトが小声でつぶやく。そうなるのも無理はない。私もここは苦手だ。でもここの人が旅人や町の人を襲ったって話は聞いたことないから大丈夫なはず...
「もうちょっとで着きますから大丈夫ですよ。」
ユウトと自分を鼓舞しながら歩き続けると古い宿に着いた。女将さんに紙切れを見せてパキルさんと話がしたいと言ったら、ちょっと待っててくださいねと言って階段を上って行った。女将さんはすこし綺麗な着物を着ていたが、痩せこけていてミイラのようで不気味だった。
少し待つと女将さんがやってきて、お部屋にご案内しますと言われ部屋に通された。
部屋の奥には赤と青の派手な法被を着た坊主の男性が座っていた。ニヤニヤとした顔でこちらを見ている。
「おや?お客は珍しいが、可愛いお嬢さんじゃないか!これも天からの授け物ってね!ククク...」
坊主男の不気味な笑い声が部屋に響く。私は上手く笑顔を作ろうとするが笑えてるかな。
「突然お邪魔してすみません。
私はこの町で医院を営むカーラの娘のマーヤです。」
「ああなるほど!お嬢ちゃんはあの医者の娘なんだね!クク...これは面白い...」
母のことは知っているみたいで安心した。
「で、お嬢さんの後ろに立っている男は誰だい?」
「あ、こんにちはユウトです。」
ユウトは急に声をかけられ驚きつつも丁寧に挨拶した。
「本日、彼についてお話したいことがありましてお伺い致しました。」
「彼のことなら彼に聞けばいいんじゃないか?私はあいにく心の中が分かる能力を持っていなくてね。ククク...」
本当にこの人に聞いて大丈夫なのかな。でも今日手に入れた唯一の手がかりだから聞くしかないよね。
「あの...実はユウトさんは異世界から転生したかもしれなくて...マリタン様の付き人も転生してきたかもしれないっていう話を聞いたんですけど何か知りませんか?」
坊主男は私の話を聞いた途端、ニヤニヤがふっと消えて真剣な表情になった。
「その話、誰から聞いた?」
「マリタン様の話ですか?それなら母から聞きましたけど...」
「ああ...そういうことね...」
そういうと坊主男は腕を組んで考え込んだ。
「何か知ってるんですか?」
「私は何も知らないさ。何もね。」
「そうですか。」
何か知ってそうな雰囲気だったけど教えてくれないらしい。何か事情でもあるのかな。
「すみません。突然お邪魔しました。」
「邪魔になるほど話してないさ。ククク...
それよりも君たちに一つ忠告だ。」
「なんですか?」
「他人に「転生してきました」なんて言うもんじゃない。」
「そうですよね。頭おかしいと思われますよね。」
「それで済んだらいいが、もしかしたら命が危なくなることもあるかもよ。クク...」
「そんなに危ないんですか!?」
「そういうイカれた奴もいるってことだよ。」
そうなんだ。めっちゃ言いふらしちゃったけど大丈夫かな...
「忠告ありがとうございます。これからは気を付けます。」
「君たちの選択は私は興味ないね。」
「そうですか。でも今日はほんとにありがとうございました。」
「今度はお嬢ちゃん一人で来てくれるのかね?ククク...」
いい人なのかなって思ってきたのに最後の一言で台無しになった。もう帰りましょう。と小声でユウトに伝えて部屋を後にした。
外はもう暗くなり始めていた。
「マーヤさん、すみません。全部任せてしまって...」
「大丈夫ですよ。初めての土地で初めての人と話すんですから緊張するでしょう。」
「は..はい。コミュ障なので...」
「こみゅしょう?」
「あ、人見知りってことです。」
「そうなんですね。
そういえば、気になってたんですけどユウトって私より年上ですよね。私15歳ですし。」
「えっ!?マーヤさん15歳なの!?」
「は...はい、そうです。」
「しっかりしていたので、俺と同じくらいかと思ってました。」
「年上なら敬語使わなくていいんですよ。そういう文化がこの国にはあるんです。」
「そ、そうですか。」
「むしろ敬語をやめてください。年上の人が私に敬語使ってるとむずむずします。」
「そうです...そうだね。がんばりま...がんばるよ。マーヤさんは敬語使ってていいの?」
「私は良いんです、年下ですから。あと、さん付けもやめてください。私はユウトって呼んでるんですからそちらもお願いします。」
「マーヤでいいんですか?」
「いいですよ。」
「じ..じゃあ、マーヤよろしく...オネガイシマス」
彼はまだまだ敬語が抜けなさそうだけど、ちょっと仲良くなれた気がする。
「ただいまー」
やっと家に帰ってきた。夕飯の匂いが香ってきた。
「おばあちゃんごめんね。今日は夕飯手伝えなくて...」
「大丈夫よ。トーヤがおつかいに行ってくれたから。」
「えっ、大丈夫だった?」
「だいじょーぶだよ。お姉ちゃん心配しすぎ」
ほんとかな?誰かに迷惑かけてなきゃいいけど。
「お母さんはいるの?」
「さっき奥に行っちゃった。」
「じゃあ呼んでくるね。」
奥の部屋に入るとお母さんは何やら手紙を読んでいた。
「お母さん、夕飯できたよ。」
「きゃ!マーヤ帰ってきてたのね。そうね。夕飯食べましょう。」
お母さんは手に持ってた手紙をすっと胸元にしまった。誰からの手紙だったんだろう。
夕飯を食べ終わるとお母さんに呼ばれた。
「マーヤ、大事な話があるの。」