3. 彼は転生者?
翌日、目が覚めたユウトさんと話がしたいとお母さんが自分の医院に連れてきた。私も同席して欲しいと言われ、私とお母さんとユウトさんの3人が診察室で向かい合って座っていた。
はじめにお母さんが口を開いた。
「これから色んなことを質問していくわね。なるべく正直に回答してくれると嬉しいわ。分からないことはちゃんと分からないって言ってちょうだいね?」
「はい、わかりました。」
「じゃあまずお名前を教えてくれるかしら?」
「はい、高橋優斗です。」
「ずいぶん変わった名前ねえ。どこから来たのかしら?」
「東の果てにある日本という国の東京という街から来ました。」
「ニホン、トウキョウ……どれも聞いたことない名前ね。それに東の果てはジョグリブ王国よ。ジョグリブ王国は知ってる?」
「知らないです。」
「そう…じゃあ歳はいくつ?。」
「18歳です。」
え!?私よりも年上なの!?
てっきり同い年だと思ってた。
「じゃあ次の質問ね。」
お母さんの質問はとても多かった。数えてないけど50個ぐらいあったと思う。ユウトはその一つ一つに真摯に答えていた。聞いた事のない言葉が出てくることが多々あったが、ユウトはとてもふざけているようには見えなかった。
「お疲れ様!質問攻めにしちゃったけど大丈夫かな?」
「はい大丈夫です。」
「お母さん、この人は大丈夫なの?」
「うーん……受け答えもしっかりしてたし、嘘をついている素振りはなかった……
だとすると2つの可能性があるわね。」
「2つの可能性?」
「1つ目は彼が自分で作った嘘を本当にあった事だと強烈に信じ込んでいるかもしれない。本当の狂人だね。」
狂人?この人が狂人なの?こんなに優しそうで力が無さそうな人が?
「そんな顔をしないでおくれ、彼が狂人と決まった訳じゃない。」
そう言われても…
「あの…もう1つの可能性って何なんでしょうか?」
ずっと黙っていたユウトが口を開いた。心なしかさっきより体が小さくなっている気がする。
「もう1つの可能性は、彼が転生してきたか。」
転生?
「お母さん転生ってどういう意味?」
「転生って言うのはね、ここじゃない違う世界からこの世界にやって来たってことよ。」
「よくわかんないけど、ニホンとかトウキョウとかの場所がある世界があって、ユウトはそこからきたってこと?」
「そうよ。ユウトくんはどう思う?」
「転生……そう!転生です!俺は別世界から転生してきた転生者なんだ!!」
ユウトが急にテンションが上がって大きな声を出したのでびっくりした。こんな大きな声出せるんだ。
「でも、異世界から来たって物語の世界じゃないんだしそんなこと本当にあるのかな?」
私はふと思ったことをお母さんに聞いてみた。
「案外ありえることよ。これは噂なのだけれど、あのマリタン様に実は付き人がいて、その人が異世界から来たという話を聞いたことがあるわ。」
「マリタン様に付き人が!?」
自分が思ったより大きな声を出してしまい恥ずかしくて顔が熱くなるのを感じた。
「あの、マリタン様って誰ですか?」
マリタン様も知らないのか…ほんとにユウトは異世界から来たのかもしれない。初めて聞く転生者という言葉がユウトにはピッタリに思えてきた。
「マリタン様はね血で血を洗う戦争を終わらせた英雄なのよ。」
優しく話しかけるお母さんの言葉から、お母さんもユウトが転生者かもしれないと思い始めていることに気づいた。
「じゃあ、そのマリタン様の付き人はどういった方だったんでしょうか。」
母は少し難しい顔をして口を開いた。
「ごめんね、ユウトくん。マリタン様に付き人が居たってことは知ってるんだけど、それ以外何も知らないのよ。」
「そうですか…」
ユウトの肩がまた小さくなっていく。その姿がとてもさみしくて心が締め付けられた。
「あの、ユウト、私と一緒に聞き込みしてみない?」
自分の口から思いもよらない言葉が出てきた。
「あ、いや…私と行くのが不安だったら行かなくてもいいし、第一マリタン様の付き人のことを知っている人がいるかわかんないしね。」
「いい...いいですね...行きましょう!
カーラさん忙しい中ありがとうございました。」
「いいのよ。こちらこそありがとうを言うべきだわ。本当にありがとうね。」
ユウトは頭を下げて診察室を飛び出していった。
私も彼を追いかけて病院を出た。