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うちの村に無能が転生してきました  作者: 投降の旗印


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10. 弟子の仕事

前回のあらすじ:マーヤがユウトに溜まっていた鬱憤を吐き出した翌日、ユウトはどこかへ出掛けに行ってしまった...

「どこかへ出かけに行ったって、どこに行ったんですか?」


「さぁ私は知りませんけど、マーヤさんが行かせたんじゃないんですか?」


「えっ、私は何も言ってないですけど...」


 もしかして昨日のアレ?何もしないなら出てけ!って言って本当に出て行っちゃったってこと?


「彼は”マーヤさんから言われたので”って言ってたんですけど...

 マーヤさんもどこにいったのか知らないんですよね。」


「はい...わからないです。そもそも出ていったことも知りませんでしたから。」


「ということは、彼は家出したってことですね。」


 家出…。


 まあそうか。この状況ならそうだ。


 じゃあ早く探さなくちゃ。彼はこの街に来てまだ3日も経ってないし、ろくに外に出てないから、どこに何があるかも分からないはず!


「ガーベラさん。私探しに行きます!」


「ちょっと待ってください。」


 駆け足で部屋を飛び出そうとした所で呼び止められた。


「お店はどうするんですか。

私の助手という職務を放棄するんですか?」


「い…いや、放棄する訳じゃないんですけど…」


「それに、あなたが探して見つかるんですか?


あなたはこの街に来て3日目です。街のこともまだよく分かってないでしょう。


そんなあなたが探して彼は見つかりますか?仮に見つけたとしても、この店に帰ってこられますか?」


 確かに…そう。そうだけど…


「だからって、ユウトを見捨てるんですか!?」


 私は怒気のこもった声で叫んだ。


 ガーベラさんは少し驚いた表情で私を見つめた。しかしすぐいつもの冷たい顔にもどり、囁くように言った。


「私は見捨てるとは言ってません。あなたが探すべきでは無いと言ったんです。」


「どういうことですか。」


「私の知り合いに人探しが得意な方がいます。彼に頼んで探してもらいましょう。」


 そう言って、彼女は口角を少し上げた。


 優しく笑いかけているのかな。でも目が笑ってないから怖い…


「私も手伝います!その人と一緒に探します!」


 そもそも彼が家出した原因は私にある。私が探しに行かないといけない。


「あなたは探しに行くべきではないと言ってるでしょう?


あなたにはあなたの仕事があります。その仕事をこなすことが、彼を見つけるためのあなたの役割です。」


 いい子にしていれば、いいことが起こる。


 そう諭されているようだった。


 小さい頃はその言葉を信じてたけど、今は違う。いい子にしていても、いいことが起こるわけではない。


 ましてや今回は人探しで、私の仕事は街の片隅にある薬屋の受付。私の仕事が私の目的に関係あるとは思えない。


 私はガーベラさんを睨むようにじっと見ていた。何を言うでもなく、ただじっと…。


 いや私もわかってる。


 私じゃ頼りにならないことを。


 私はこの街に来たばかりでよく知らないし、人を探す能力が高い訳でもない。


 ガーベラさんの知り合いは、そのどちらも持っているだろう。だから私が手伝っても出来ることがなく、むしろ足を引っ張ってしまうこともあるかもしれない。


 でも…だからって…私の友人が急にいなくなったのに、探しに行かないなんてこと…できないよ…


「マーヤさん。早くご飯を食べますよ。」


 冷めたご飯を口に運びながら考える。ユウトを探すにはどうしたらいいかな。


 食器の音だけが響く部屋で黙々と食べていると、ガーベラさんが口を開いた。


「ずっと気になってたんですけど、マーヤさんと彼はどのような関係何ですか?」


「私とユウトですか?」


「はい。初日に彼はマーヤさんの付き人とおっしゃていましたが、付き人にしては自由過ぎますし、マーヤさんも彼を付き人のように扱っていないようなので不思議に思っていたんです。」


 私はユウトと出会った時のことと、家で看病してたことを話した。彼が転生者であるということは伏せておいた。人にあまり言わないほうがいいって言われたからね。


「そんなことがあったんですね。山で倒れているキンミ族を助けるなんて、さすが師匠の娘ですね。」


「そうですか〜?ありがとうございます。」


 ガーベラさんに褒められると嬉しいな。


「では、なぜ一緒にゲリスに来ることになったんですか?」


「それは母が言ったんです。一人旅は不安だから彼を連れていくようにって。」


「そうなんですか。師匠が言ってたんですね。それなのに私は彼に少しきつい態度を取ってしまいましたね。」


 ガーベラさんは申し訳なさそうにしていた。


 この人、こんな顔もするんだ。


「では、私は私の知り合いに頼んできます。」


 いつの間にかガーベラさんはご飯を食べ終えていた。


「はい、よろしくお願いします!」


 私の気持ちが伝わったのか、ガーベラさんは少し微笑んで店を後にした。


 ポツンと残された私。ゲリスに来て初めて“1人” になった。1人ってこんなに寂しくて怖くて不安になるんだ。


 ユウト、早く見つかるといいな。


–(ガーベラ視点)ー


 私は薬屋からほど近い路地裏を歩いていた。


 薄汚い服を着て私からおこぼれを貰おうとしてくるキンミ族達を無視しながら進む。


 そして古びた家の前で止まる。表札には汚い字で「サムダのなんでも屋」と書かれてあった。


 私はその家の引き戸を開け、中に入る。


 部屋の中には少し汚れた畳の上に小綺麗な家具が置いてあった。


 内装だけ見れば老舗の問屋に見えるだろうが、私はこのほとんどが、どこかから盗んできた物やガラクタを繋ぎ合わせて見てくれだけ整えたものだと知っていた。


 奥には上物そうな和服を着た30代ぐらいのキンミ族の男が座っていた。この服も安物を高く見せてるのだろう。


「おう!ガーベラじゃねぇか。」


 その男は見た目とは不釣り合いの軽い声色で話しかけてきた。


「サムダ。どんなに外面を整えても第一声がそれだったら、台無しですよ。」


「まあいいじゃあねえか。ガーベラは俺の事知ってるから今更取り繕ったって逆に気持ち悪いもんだぜ。」


「そうなんですか。」


「それより今日はどんな要件だ?」


「ある人を探して欲しいんです。」


「人探しか。ゲリス内には俺独自の情報網があるから任せな!」


「それは頼もしいですね。」


「で探すのはどんなやつなんだ?」


「ユウトという名前のキンミ族の男性で、歳は10代後半、背丈はサムダより少し大きいぐらいですね。ねずみ色の着物を着ているはずです。」


「うーん、キンミ族でユウトなんて名前聞いた事ねぇな。」


「彼は2日前にゲリスに来ました。あなたが知らないのは当然でしょう。」


「そうか来たばかりなのか。何処か行先に心当たりはねぇか?」


「分かりません。私はあまり話したことないので彼の事はよく知りません。」


「よく知らねぇのにわざわざここまで来て俺に頼んでるのか?ずいぶんお人好しだな。ガーベラらしくねぇ。」


「うちで雇っている助手の大切な人らしいので、見つけてあげたいんです。」


「あぁ噂で聞いたぜ。お前が若いファミル族の少女を新たに雇ったってな。またそいつを使い潰してすぐ逃げられると思ってたが、今回は大切に扱うつもりなんだな。」


「あれは逃げられた訳じゃありません。ちょっと方向性が合わなかっただけで……」


「それを逃げたって言うんじゃねえか?」


「まあでも従業員を大切にするってことはいい事だ。で、依頼料はいくらなんだい?」


 すぐにお金の話をするなんて現金なヤツだ。でも彼も仕事なのだからまあ仕方ないか。


 私は懐から銀貨2枚を取り出し机に置いた。


「それだけか?

俺はそのユウトってやつを知らねえんだ。しかも来たばかりって言うなら街のやつも知らねえはずだ。ほとんど手がかりがない中で探すんだ。


だから、もっと弾んでくれよ~。」


 彼はねだりながらこう言った。これは彼の常套手段だ。感情に訴えかけて高い依頼料を取ろうとする。


 私はそのようなやり方は好きではないが、キンミ族は下に見られるのでそういった駆け引きの上手さは生きていく上で必要なのだろう。


「あと2でどうだい。」


 あと2枚銀貨を増やせということだろう。決して無理じゃない額だ。私がどれくらい出せるかをこいつは分かっている。そういう点が上手い。でもここで引き下がってはならない。


「そうですか。では違う人に頼みますね。」


 そう言って店を出ようとする。


「ちょちょっと待って、あと1、あと1でいいから!」


 ということで銀貨3枚に落ち着いた。予定より少し増えたがいいだろう。


 よしユウト探しを頼めたわけだし帰るか。私は店を出て帰路に就く。


 一昨日マーヤさんが弟子にしてくださいと頼んできたとき、私は無理だと思った。


 師匠であるカーラは、なぜ大切な娘を私のような出来損ないに預けたのだろうか。


 私は幼い頃から人と話す能力が極端に欠如していると自覚していた。


 人の心に寄り添い、言葉で癒やすことが求められる「医者」という職種は、私にとって最も遠い場所にあるものに思えた。


 それでも、母の強い勧めに抗えず、私はファミル族の優れた医師であるカーラの門を叩きいた。


 そこで目にしたのは、誰に対しても分け隔てなく慈愛の心で接し、病だけでなく心までも救っていく師匠の姿だった。


 私はその姿を心から尊敬し、同時に絶望した。私には一生かかってもあのような光輝く存在にはなれない。そう卑屈になり逃げるように選んだのが、人ではなく植物や鉱物と向き合う「薬師」の道だ。


 そんな私が果たして誰かの師匠になどなれるのか。 サムダの店を後にし、どんよりとした曇り空のゲリスの街を歩きながら、私は自問自答を繰り返していた。


 期待に応えられないのではないか、またかつての助手のように、私の不器用さが誰かを傷つけてしまうのではないか。そんな不安が胸を締め付ける。


 店に着くと入口にピンクの暖簾が掛かっていた。行くときは出てなかったのに。


「あ、ガーベラさん! お帰りなさい!」


 中から聞こえてきたのは、弾むようなマーヤさんの声。店に入ると、そこには近所のホルミ族の男性と親しげに談笑する彼女の姿があった。


 聞けば、店が開くのを待てずに早く来てしまった患者さんを、彼女が機転を利かせて招き入れ受付を済ませていたとのこと。


 彼女の自然な笑顔と、相手の緊張を解きほぐす柔らかな物腰。ゲリスに来てまだ数日だというのに彼女はすでに街の住人と打ち解けていた。


 ……ああ、やはり似ている。


 その背中に、私は強烈な師匠の影を感じずにはいられない。


 男性が満足げに店を出て行った後、私は彼女にユウトさんの捜索をサムダに依頼したことを報告した。


「本当ですか!ありがとうございます!」


 マーヤさんは少し安心したような顔を見せ、すぐに「午後の準備をしますね!」と、忙しなく動き始めた。


 その後は、いつも通りの営業が始まった。マーヤさんが受付で患者さんを迎え、私は奥の作業部屋で作業をしながら薬を調合する。


 間仕切りの向こうから聞こえてくる彼女の明るい声や、時折混じる笑い声を聞きながら、私は物思いにふけっていた。


 私がどれほど渇望しても手に入らなかった「人を惹きつける才能」を、彼女は呼吸をするように自然に使いこなしていた。彼女にはすでに医者としての確かな素養が備わっている。私が教えることなど、何もないのではないか。


 彼女の資質は、私よりもずっと高い。それでも、彼女がわざわざ私の元を訪れた理由は何だったのか。


 その日の夜ご飯の時、私は意を決して彼女に尋ねた。


「マーヤさん。なぜ、私の弟子になりたいと思ったのですか? 私よりも優れた医者は、王都にだっているじゃないですか。」


 マーヤさんは箸を止め、少し照れくさそうに笑った。


「最初は、確かにお母さんに勧められたからでした。でも……今日、ガーベラさんの作業部屋を見て、私、本当にすごいと思ったんです」


彼女は目を輝かせて続ける。


「あそこには使い込まれた植物の本や、細かい手書きの資料が山のようにありました。


ガーベラさんがどれほどの時間をかけて知識を積み上げてきたのかが伝わってきて……。


私、勉強が苦手ですぐに根を詰められなくなっちゃうから、ガーベラさんのその勉強熱心さに心から感銘を受けたんです。」


 そうか...そうだったのか。


 私は自分にない「慈愛」を持つ師匠に憧れた。そしてマーヤさんもまた自分にない「知識への情熱」を持つ私に価値を見出してくれていた。


 私を冷たく閉ざしていた心の雪が溶けていくような気がした。


 私が「欠点を隠すための隠れ家」だと思っていた薬学の知識が、彼女の目には「尊敬すべき強み」として映っていた。


 胸の奥に溜まっていた暗い霧がすっと晴れていくのを感じる。


 私は完璧な師匠である必要はない。彼女が持っていないものを私が持っているのであれば、それを伝えることこそが師匠の役割なのだ。


 そして師匠の娘に私が教えられる限りのことを教える。それが弟子としての仕事だ。


 私とマーヤさんがご飯を食べ終え食器を片付けた後、マーヤさんに、「お話があります。」と声をかけた。


 私は食器の片付いた机を前に座り、マーヤさんは向かい側に座った。


 私は彼女の目を真っ直ぐに見つめ、静かに、しかしはっきりと告げる。


「マーヤさん。あなたを私の正式な弟子として認めます。」


 彼女の顔に、驚き、戸惑い、疑念、また戸惑いの表情が代わる代わる現れ、少しずつ喜びの感情が広がっていき、顔を埋め尽くした。


「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」


 彼女は満面の笑みでそう言った。

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