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第8話 アミノ産ガーリックフラワー


 香辛料というと、一言でいうと色んな種類がある。

 食べ物に使うことをイメージすることが大半だが、少し考え方を変えるとこれがまた面白い世界が広がる。


 例えばハーブだ。 

 匂い消しや食などに役立つ有用な植物として有名だが、元の世界では薬として使っている人もいた。


 食べ物だけに利用するのではなく、薬や魔除け、様々な効果を持っている。

 それを何百年と掛けて現代まで繋いで発展させてきたというのだから、人というのは凄いと思う。


 こちらの世界ではまだ見かけてはいないが、それに近い物はいくつかあった。


 しかし、今回使うのはハーブではない。


 中庭にやってきた俺は、一枚の花をアリスに見せる。


「これを使います、アリス様」

「これは……中庭に咲いている装飾用の花ではなかったのですか?」

「ええ、一般的にはそのように言われていますね」


 アリスが俺の手を取った場所こそが、今回の主役だ。


 白い花の正式名称をガーリックフラワーと呼ぶ。


「アミノ様、ガーリックフラワーは食用には向かないのではありませんか? 食べても味はしないはずですし……」 

「その通り。ガーリックフラワーは全く栄養価がなく、食には向いていません」


 アリスの知識は正しい。

 それをさらに補足するように、アリスが続けた。


「美しい白い花を咲かせ、鳥や害虫が嫌うからと観賞用に向いていると知っていますけど……」


 この花は育てるのにはとても向いている。

 白い花だからこそ、青や緑とのコントラストがとても良く、よく映える。


 しかし、この花には違和感がある。

 

「では、なぜガーリックフラワーと呼ばれているのですか?」

「え……? た、確かに……考えたこともありませんでした」

「この花の由来は、人間には感知できないフェロモンを出すことにあります」

 

 【薬祖の祝福】というのは、やりようによっては鑑定眼のような使い方もできる。


『ガーリックフラワー』

 白い花が特徴的で、人間には見えないニンニクの見えないフェロモンを出す。

 それらを鳥や害虫が嫌い、寄り付かない。


 それを俺が説明すると、アリスが目を見開いた。


「し、知りませんでした……!」

「まぁあまり広がっている話ではありませんね」


 そうして、ひと花のガーリックフラワーを摘んだ。


 【薬祖の祝福】を行使し、どのようにすれば望む結果が得られるかを導く。

 花を数枚手のひらに集め、ギュッと握る。

 

 数滴が零れ落ち、指先で軽く舐める。


「……うん、悪くない」


 そうしてアリスに向けた。


「アリス様も一口どうですか?」

「え……あっ、いやその……」


 ん? 何を照れているんだろう。


「大丈夫ですよ、毒とかありませんから」

「そ、そういうことではないのですが……わ、分かりました」


 そう言って、アリスが髪を耳に掛け、恭しく舌で俺の指先をなめた。


 な、なんだろう……凄く危ないことをしている気分になる。


 先ほどまで頬を染めていたアリスも、凝縮したガーリックフラワーを舐めて驚く。


「……っ! 辛い! 舌がヒリヒリします……!」

「でしょ?」


 今まで、誰もこういうことをしようとは思ってこなかったのだろう。

 当然だ。ただの観賞用の花を香辛料にしようだなんて思う人間はそうそういない。


「これ凄いですよ! アミノ様!」


 味変には事足りる。

 これが広まれば、とりあえずは香辛料不足は解決だろう。


「ほ、本当に三分で香辛料を用意してしまうなんて……!」


 アリスは興奮が収まらないのか、珍しく俺に詰め寄る。 

 ち、近い……。


「ガーリックフラワーは観賞用です。白く美しく、庭をより綺麗に見せるでしょう。それも正しいです」


 それが本来の使い方、としてこの国の人々は信じている。

 いや、この世界の人々と言うべきだろう。


「でも、使い様によっては観賞だけでなく、食にも活かすことができる」

「……っ!」


 一定の視点で見続けるのではなく、角度を変えてみると世界というのは簡単に変わる。

 それをアリスに教えたかった。


「使い様……」 

「でも、これはまだ作業の一段階目です」

「えっ!?」


 これは本当に雑な作り方だ。

 本当に大事なのはここからだ。


「あくまでガーリックの辛みしか出ていません。これでは香辛料と呼ぶには少ない」


 懐からいくつかの薬品を取り出す。

 それを土に流し、根から花へ吸収させる。


「ここからが本番です」


 *


 俺がいくつか手にした薬品は、いわばガーリックフラワーの性質を少し変えてしまおうというものだ。

 もちろん、人への害は一切ない。それは薬祖の知識で絶対だ。


「こ、これは……?」

「ガーリックフラワーをちょっと弄ったんです」


 アリスが見ている花は、先ほどまでの花でなく、少し黒みがかったような花に変化していた。


「そっちがガーリック・ペッパー。こっちがジンジャー……それとこれが唐辛子」


 それぞれの実を宿らせた訳ではないので、正確にはそのエキスが採取できるという感じだ。


「これを絞れば、先ほどとは違ってそれぞれの香辛料の味がします」

「ほ、本当に……?」

「ええ。どうぞ」


 半信半疑になりながら、アリスが実際にエキスを口にする。


「ぜ、全部かりゃいです……舌がいちゃい……」

 

 舌を出しながら目をバッテンにさせている。

 何だこの子可愛すぎかよ。


「で、でも凄いですアミノ様! これならいろんな味も楽しめて、一気に解決ですね……!」

「そうですね。ただこのままでは売り出せません」


 そうしてバケツを用意し、そこにエキスを溜め込む準備をする。


「これを凝縮して粉状にする必要があります。そしたら、液体だけなく料理の下準備、ちょっとした味付け、色々な用途に使えますから」


 微笑んでそう伝える。

 食は人を支える力だ。


 決して軽んじていいものじゃない。


「これで多くの人が笑顔になってくれると嬉しいですね」

「……っ! アミノ様……」


 そうして、アリスがバケツを手にした。


「私も……私も手伝わせてください」

「いやでも……」

「私がやりたいのです。私も、ポルシェノール領に住んでいますから。少しでも力になりたいです」


 正直言ってかなり助かる。

 アリスは仕事がとても速く、比類ないほど優秀だ。


「では、商売方面を任せても良いですか? あまり数字は得意じゃなくて」

「お任せください、アミノ様」


 実際、俺はあまり数字が得意じゃない。

 ユリミアの所では感情を殺して淡々と数字を記入していたけども……一つでも数字を間違えるとアウトって結構シビアだよね……。


 ストレスも半端じゃなかった。数字ができる人っていうのは、本当に凄いと思う。


 頭がぼんやりしている時とか、掛け算も怪しいからね……。


 それから俺たちはガーリックフラワーを加工し、準備を始めた。

 販売価格は相場程度で、今の香辛料がまた普及し始めた時には販売数を落とすつもりだ。


 領主の仕事もしながら、そちらの作業も進める。

 そんな生活を一週間ほどして、ようやくかなりの数のガーリックフラワーを加工し終わった。


「ではアリス様、お祭りを開催しましょうか」

「お祭り……?」

「ポルシェノール領、ガーリックフラワー祭です!」


 まずはこの香辛料を知ってもらうために、ポルシェノール領の街中で本当に小さな祭りをすることにした。


 

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