第3話 ユリミア視点①
ユリミアが住んでいるテンペランド領。
テンペランドの街中で、少しばかり騒ぎがあった。
「おい、どうなってんだよ……! 税がまた上がってんじゃねえか……!」
「不作もあって今年の冬は抑えてくれるって話じゃ……」
「アミノって貴族が隠れて使ったって噂だろ……? いなくなったのに、なんで?」
「聞いてた話と違うじゃねえか……!!」
アミノが婚約破棄をされ、領地から居なくなった後にそれは起こっていた。
領主としての仕事をすべて肩代わりさせられていたアミノの穴を埋めるため、ユリミアがその仕事を任されていた。
領地経営の一室で、ユリミアが書類を投げ捨てた。
「はぁ? 私の仕事? そんなの知らないわよ!」
「で、ですが……アミノ様の穴を埋めていただかなければ、領内経営が……」
「アミノ如きの代用をこの私にさせるつもり!?」
これから出かける所だったのか、豪勢な姿のユリミアに書類を渡そうとしていた。
「ですから、ユリミア様が目を通したと朱印が必要で……」
「それで私にこんな量の書類を読めと!? アミノの時はもっともっと少なかったじゃない!」
「それはアミノ様が分かり易くまとめて下さっていたからで……」
「はぁぁぁ? じゃあ、その仕事をあんたらがやれば良いじゃないの!」
それを言われた使用人たちが口を紡ぐ。
アミノと同じことをするのは、とてもじゃないが不可能だった。
アミノは祝福を巧みに使いこなし、仕事をマルチタスクで処理していた。
一人で数人……いや、何十人もの仕事をこなしていた。無理やり連れて来られ、仕事を肩代わりさせられていたというのに、仕事を終わらせられなかった日は一度もない。
「こんなの一日で終わる訳ないじゃない!!」
アミノ様は終わらせていた、と使用人たちは言いたげだった。
一日で、アミノは終わらせていた。しかし、ユリミアの積み重なる負担や叱責のストレス続きで、仕事の効率が著しく低下していたのも事実だった。
圧倒的な劣悪な環境下でなお、アミノは『仕事をきちんと終わらせないと、迷惑を掛ける人たちが大勢いる』と責任をもって果たしていた。
それは自分の領民でなくとも、そこに生きる人々のためを想っての行動であった。
窓の外から叫び声が聞こえた。
「出てこい! 領主のくせに話が違うじゃねえかー!」
それを見たユリミアが舌打ちをする。
「チッ……クズがまた騒いでる。本当にうるさい」
アミノが去ってからテンペランド領の領民からの不満の声も多く、日に日に屋敷の門近くに集まる人数は増えている。
ユリミアを抑える人物がおらず、思い通りにならないとすぐにキレる姿勢はより悪化していた。
「ねえ! 何でも良いから今すぐ黙らせて来なさいよ! 毎日うっさいのよ」
「で、ですが……」
「ここは私の領地! 私が管理を任されているんだから、何をしても良いはずでしょ! アミノが消えるまでに妙な噂が広がると困るのよ!」
「は、はい……」
ユリミアの命令に数人の使用人が席を離れる。
そうしてその現状を見たひとりが、小さく呟いた。
「アミノ様が居ればこんなことには……」
その言葉がユリミアの耳に届き、近くにあったツボを投げる。
ツボが壁に衝突し割れる。
「ひっ……!」
「あんた……クビ」
「え!?」
「クビ!!」
ユリミアが命じ、先ほどの呟いた使用人を追い出す。
「アミノアミノって……私はあんなダサい男、アミノなんかと婚約させられてずっと苦痛だったんだから!!」
私は悪くないと呟き、息を整えた。
「大丈夫。アミノの悪い噂はもう貴族社会……いや、国中に広がっているもの。誰もアミノの味方なんかしない」
ユリミアが思う。
(アミノに罪を被せ、破滅するようパパとママがすべて用意してくれているわ。自分のお金を使っただけで破滅なんて、バカバカしいもの)
もう少し、もう少しでアミノは罪に問われる。
「そのために、わざわざ使い捨ての底辺貴族と婚約なんてしたんだから」
アミノの悪い噂はすべて事実であったとして裁かれ、私は可哀想な令嬢となる。
ユリミアはすべての証拠を捏造し揃えている。
それ故の余裕であった。
しかし……その奥にある爆弾に気づくことは決してなかった。
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