7.冒険証 後編
「はい、完成しました」
受付の人が戻ってきて、冒険証を差し出した。
「ありがとうございます」
俺が受け取ろうとすると、受付の人は腕をバシッと叩いた。
なんで叩くんだよ。
「こちらは私の方で保管します。なので、勝手に受け取ろうとしないでください」
冒険証を保管する? 何を言っているんだ。
冒険証というものは冒険者の証を印すものだ。
冒険者なら冒険証を持っていなければ生きていけない。
なので、ギルド側が保管するのは通常ならあり得ない話だ。
ミッションを受ける際は冒険証が必要。
武具を買う際も冒険証が必要。
野菜を切る際だって冒険証が必要だ。
……野菜に関しては包丁で切れるか。
この七年、スメルが冒険証で野菜を切っている部分しか見てなかったので、包丁の存在を忘れていた。
「あ、でも、見たい分には見せますよ。
見たい際は受付に来てください」
「なら、今見せてください!」
アイリアが食いつくように言った。
他人の冒険証にそんなに興味を持てるのか。
まあ、俺も他人のエッチ力は気になるが。
「わかりました」
受付の人はアイリアに冒険証を渡した。
アイリアは冒険証を見ると驚いた表情をした。
「超弱い」
超弱いか。
この一ヶ月で能力が落ちたのかな。
この一ヶ月は冒険はしてないし、訓練もあまりしてなかったからな。
でも、潜在能力よりも装備の能力の方が重要なんだよな。
「レンも見てよ」
アイリアは冒険証を見せてきた。
パーティー名のところに『世界最強パーティー』と書かれている。
……はめられたな。
アイリアに任せず、自分自身で紙に記入した方がよかったようだ。
「なんでパーティー名を書いたの?」
「見てほしいのはそっちじゃなくて能力欄の方だよ」
「能力欄の方はどうでもいいよ。パーティー名を書いた理由を教えてほしい」
「レンにパーティーに入ってほしかったからだよ」
アイリアは俺の肩を叩き、爽やかな笑顔をした。
そんな笑顔をしても、俺は許さないぞ。
「パーティーを離脱したいな」
「ほら、能力欄見てよ。低すぎて驚くと思うよ」
誤魔化さないでくれ。
パーティーに入らないことを条件に、アイリアの家に突撃すると決めた。
アイリアにこんな条件は話してないが、そんな感じの雰囲気は出していた。
家を借りてる側なのにワガママだ、と思うかもしれない。俺もそう思う。
けど、パーティーに入るのは本当に嫌なんだ。
家を借りるためには名前が中二病なパーティーに加入しなければいけないのなら、俺は借りない。
俺には借りない覚悟があるんだ。
……少々その覚悟は揺らいでいるが。
正直、中二病程度で気持ちを揺るがせるのは如何なものか、という考えも浮かんでいる。
でも、中二病は苦手なんだ。
俺は中二病に色々なことを……という展開はないが、苦手なのは仕方がない。
俺にとって中二病は、密着した関係ではなくて、学校で隣の席でした、というレベルでありたい。
今はパーティー名の話だが、能力が少々気になったので、能力欄を見てみた。
攻撃力と魔力がHだった。
ちなみに、潜在能力はH〜Sの八段階ある。
平均はFだ。
以前は攻撃力も魔力もSだったよな……
なぜこんなに弱体化しているんだ?
もしや、緑ビームの影響か?
今までの状況を考えると、緑ビームしかないよな……
まあ、それは一旦置いておこう。
そんなことより、エッチ力が測定不能だった。
つまり、ゼロということだ。
ちなみに、それ以外の能力は前の冒険証と同様だった。
エッチ力低すぎだ!
なんでこんなに低いんだよ!
あの緑ビームにはエッチ力を吸収する能力があったのか?
……そういえば、エッチ力は以前から0だったな。
俺のエッチ力は一生上がらないのか……
「低いでしょ」
「低いね」
「雑魚にも程があるほど弱いよ」
「どんなに弱くても、そこまで言う必要はないんじゃない」
「仕方ないよ。超雑魚だから」
酷いな。
たとえ雑魚だったとしても、声に出すべきではないぞ。
「ということで、訓練しようか」
「は?」
アイリアから発された単語が意味不明すぎて、つい心の声が漏れてしまった。
「なんで訓練? というか、訓練って何?」
「そりゃ、雑魚だからだよ。訓練の内容は日によって違うよ」
雑魚だから訓練で強くなろう、ということか。
さすがに早すぎじゃないかな?
「訓練は明日からでいいじゃん。それより、パーティーから脱退したい」
「パーティーは楽しいからいいじゃん」
パーティーというものは心の支えになる。
パーティーのおかげで訓練も冒険も乗り切れる。
しかし、パーティーが恵まれなければ心の支えにならない。
現在、中二病ネームパーティーに入っている。
中二病ということは、心の支えになるはずがない。
ということは、訓練と冒険の過酷さを耐えられなくなる。
過酷さを忘れるために、冒険中、美人なお姉さんについて行ってしまい、一時の快感のために高額請求をされる。
そして快感を得た数時間後、後悔が襲ってくる。
それを何度も繰り返し、人生終了。
こんなパーティーは楽しくない。
ということで、パーティーから脱退する。