3.お姉さん
女性が俺のところにテクテクと来て、顎に手をのせてしゃがみ込んだ。
優しい笑みを浮かべている。
ロングストレートヘアーのサラサラなピンク髪。髪からはラベンダーの匂いがする。
スタイリッシュな体に、透き通るほど綺麗な肌。
そして、笑顔が最高に可愛い。
これは千年に一度の美女だ。
可愛すぎる。
俺より一、二歳、年上のように見える。
年上は好みだ。
恋心を抱いたので、お付き合いを前提にエッチさせてください。
背中には小さな魔法の杖を背負っている。
腕には銀色のブレスレットのようなものを身に着けている。
そして、輝く財宝がチラリと見えている。
お姉さん、しゃがみ込んだらパンツ丸見えですよ。
ミニスカを履いているんだから、気をつけるべきです。
神○さん、あと一つの輝く財宝を直視したら、七つの輝く財宝を直視したことになるんですよね。
なので、七つの玉の代わりに、七つの輝く財宝を直視したら、願いが叶うようにしてほしいです。
……俺は何を要求しているんだよ。
「可哀想な俺を恵んでくれるのですか?」
「まあ、そういうところかな」
「それなら、この湯切りに入れてください」
俺は湯切りに指を差した。
「あ、恵むっていうのはお金の話じゃないよ」
「なら何をくれるんですか?」
「服とか食事とか家かな」
衣食住を提供してくれるのか。
お金と衣食住なら衣食住の方が良いな。
「それはありがたいです」
「でも、一つ条件があるよ。あ、でも、服だけは先に渡しておくね」
お姉さんはポケットの中をゴソゴソとし、洋服を出した。
ポケットの中に洋服が入るんだね。ビックリだ。
「これだね」
「ありがとうございます」
お姉さんは俺に上着とズボンを渡した。
それを俺は着た。
お姉さんが着替え中に俺をジロジロと見てきたので恥ずかしかったが、それと同時に興奮も覚えた。
……俺はMではない。中道だ。
「なら、条件を言うね」
条件か……
ドラゴンを撃破して! とか、私の家の執事をして! とか、家の隅に現れたガサガサGを追い出して! という難しい条件ではないよね?
「条件はね、あなたが私のパーティーに入ることだよ」
パーティーに入るか……
「パーティーに入るのは可能ですが、弱い可能性があります」
今の俺には愛しの剣がない。
剣がなければ、俺はどれくらいの強さかわからない。
お姉さんから剣を貰えばいい?
チッチッチッ、俺の剣はそんじょそこらで売っているような剣とは違うんだよ。
「そんなのわかってるよ」
まあ、白パンツ一丁の人を見たら、弱そうと思うか。
「この状態でもいいのなら、入らせてもらいたいです」
「白パンツ一丁の状態で、ってこと?」
「もし弱かった状態だとしても、という意味です」
誰が白パンツ一丁で生きたいと思うんだよ。
「私のパーティーは強さなんて関係ないから」
お姉さんは自慢するように言った。
それは最高のパーティーだね。
「パーティーの名前はなんと言うのですか?」
「世界最強パーティー」
「あの、もう一度お願い
「世界最強パーティー」
ネーミングセンスが皆無だ。
いや、皆無以上かもしれない。
そして、強さは関係ないパーティーなんだよね?
なら、最強なんて単語は入らないはずだが。
「それは本当の名前ですか?」
「本当だよ。ほら、この冒険証見て」
お姉さんはポケットから冒険証を差し出した。
その冒険証のパーティー名のところを見てみると、『世界最強パーティー』と書かれていた。
入る気を失わせるパーティーだ。
衣食住が提供されるとしても、お姉さんがパーティーにいなければ入ってないだろう。
……パーティーリーダーは中二病を拗らせているのかな?
パーティー名の下に書かれている、お姉さんの潜在能力欄も見てみた。
……弱いな。
攻撃力と魔力はもちろんのこと、知力やエッチ力、その他諸々も平均を下回っている。
お姉さんがパーティーにいる時点で、名の通りの最強パーティーではないようだな。
確かに、強さは関係ないパーティーだな。
「ちなみにリーダーは誰ですか?」
「私だよ」
「もう一度言ってください」
「私だよ」
……は?
お姉さんがこんなパーティー名を付けたの?
いやいや、違う。
前リーダーがこの名を付けたのだろう。
「このパーティー名を付けたのは前リーダーですよね?」
「私だよ」
お姉さんは自慢するような顔をして言った。
ガビーン。
え、嘘だろ。嘘だと言ってくれよ。
俺はお姉さんに恋心を抱いたのに、一瞬で破恋した。
お付き合いを前提にエッチをするという約束は破棄しましょう。
……俺の妄想話だから、お姉さんとそんな約束はしていなかったな。
中二病だから無理というのはいけない、と思うだろう。
俺もそう思う。
けど、仕方がないんだ。中二病だけはどうしても恋愛対象になれないんだ。
パーティーに入る気も皆無になった。
「あの、パーティーに入る約束は破棄に
「冒険証作りに行こうか」
「いや、それは破棄
「ギルドに行くぞ!」
お姉さんは立ち上がって座っている俺の腕を掴み、立ち上がらせた。
そして、ギルドへと向かった。
お願いします。破棄させてください!
……そういえば、湯切りザルが置いてけぼりになっているな。
――――
ギルドにやって来た。
つい数十分前にいた建物だ。
お姉さんは扉を開けようとしている。しかし、扉は開かない。
鍵が閉まっているので当然だな。
「あの、パーティーの話は破棄に
「ちょっと開けてください」
お姉さんが叫ぶように言うと、鍵は解錠した。
「なら行こうか」
「破棄させて
お姉さんは俺の腕を掴み、ギルドの中へ連れて行った。
ギルドのカウンターには受付人、整然と並ぶ机のところには三人の元メンバーがいた。
ミクルちゃん、エッチを前提に結婚させてくれ。
「なら冒険証を作成しに
「その前に元パーティーメンバーと話したいです」
「あ、そういえばあの三人がメンバーだったのか」
お姉さんはあの三人と面識があるような言い方をしているが、知っているのか?
「あの三人を知ってるのですか?」
「知らないけど、知ってるかな」
どういうことだよ。
選択肢は知ってるか知らないかの二択だろう。
「あ、レンがいるよ」
ミクルちゃんが俺の方を指差した。
スルメとカソマルが俺の方を見た瞬間、別の方向に目を逸らした。
追放されたやつが帰ってきたら気まずいだろうからね。
「名前はレンって言うんだ」
俺は頷いた。
「名字は?」
「名字は無い感じです」
名前は片町 蓮。名字は片町になるが、異世界のような名字でないため、名前だけ名乗っている。
名字を考えればとも思ったが、面倒くさかった。
「もしかして孤児院育ち?」
お姉さんは笑みを浮かべながら聞いてきた。
「ではないですね」
お姉さんはしょぼんとした表情をした。
俺が孤児院育ちだったら嬉しかったのかな?
「そうなんだ……あ、私の名前はアイリア•フレストって言うよ」
良い名前だな。
「アイリアと呼んでいいですか?」
「いいよ。あと、敬語である必要もないよ。これから一緒にやっていくんだから」
残念ながらここでお別れとなります。
俺は元パーティーに復帰したいと思います。
……迷子レベルの安易な追放だったな。
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