レスキュー! 人々の命を守れ!
思い付き短編です。
世界征服を企む敵って、その後どうするつもりなんだろう、と考えてたらできました。
どうぞお楽しみください。
平日のオフィス街。
その中にある、『都会のオアシス』とも呼ばれる大型公園に、謎の大型飛行物体が着陸した。
人々が何事かと戸惑う中、飛行物体の屋根部分に現れる人影。
「ふはははは! 我々の問いに答えぬ傲慢な者達に鉄槌を! 己の欲のため悲痛な問いに耳を塞ぐ愚者に鉄槌を!」
仮面をつけた黒いマントの男の言葉で、飛行物体の扉が開く。
そこから全身タイツのような服をまとった人が、多数駆け出して整列した。
その手に持つ槍のような武器に、人々から悲鳴が上がる。
「きゃあああぁぁぁ!」
「な、何だ!? テロか!?」
さらに身の丈三メートル近くある、狼の顔をした怪人の登場で、周囲は恐慌に陥った。
「ぐるるるる……!」
「ば、化け物だぁ!」
「いやあああぁぁぁ!」
仮面の男は満足げに頷くと、その指を一つのビルへと定める。
「資本主義に肥え太った豚共め! 貴様等の耳を塞ぐ、耳垢のように溜まった富を奪い取ってやろう! 手始めにあのビルだ! 行け! 我が精鋭達!」
『はっ!』
平和が、日常が乱されそうになったその時!
「待て!」
「む!?」
闇に立ちはだかる五つの光!
「闇を照らす炎の光! ライトニング・レッド!」
「悪を切り裂く稲妻の光! ライトニング・イエロー!」
「神秘に輝く水の光! ライトニング・ブルー!」
「人々を守る木漏れ日の光! ライトニング・グリーン!」
「みんなを癒す柔らかな光! ライトニング・ピンク!」
『正義の光! ライトニングレンジャー!』
ポーズを決めたライトニングレンジャーは、人々に避難を呼びかける。
「さぁ! 我々の後ろに!」
「あ、ありがとうございます!」
「あいつらはここで俺達が食い止める!」
「何て頼もしい……!」
「貴方達には指一本触れさせません!」
「……きゅん」
「みんなの笑顔は僕達が守る!」
「推し確定ですわ、これは……!」
「行くわよ! みんな!」
『おう!』
「ピンクさんに号令されたいだけの人生だった……!」
その様子に、仮面の男は不敵な笑みを浮かべた。
「ほう、ライトニングレンジャーとやら。我々に逆らう、と言うのか。……面白い! 後悔するが良い!」
「行くぞ!」
戦いが始まる、と思ったその時!
「!?」
「わ! な、何ですか皆さん! 避難を……! あっ! そっちは危ない……!」
一度はライトニングレンジャーの後方へ逃げていた人々が、一目散に怪人達の方へと走って行くのだ!
「あ、あの、一体何が……!?」
戸惑うレッドに、逃げて来た男性が叫ぶ。
「あのビルに爆破予告があったんだ! 周囲数キロを吹き飛ばすって……! だから早く逃げないと……!」
「何っ!?」
レッドはビルを見上げ、そして仮面の男を睨みつけた。
「お前達か! 卑劣な……!」
「……ライトニングレンジャーよ……」
仮面の男は飛行物体の屋根から飛び降りると、
「一時休戦といこう」
『は?』
固まるライトニングレンジャーをよそに指示を出し始める。
「ウルフキングよ! その嗅覚で爆弾を見つけ出せ!」
「はっ!」
「A班は周囲のビルへの探索を命じる! テロであれば爆弾は一つとは限らぬからな! またウルフキングが爆弾を見つけたら、特徴を共有して探索せよ!」
『はっ!』
「B班は避難誘導に当たれ! パニックに陥ると民衆は思わぬ行動に出る! 複雑な言葉は避け、短く端的な指示で誘導せよ!」
『はっ!』
「C班は研究所に戻り、ドロー博士を召集! 爆弾が単なる爆発物ならば私でも解体できるが、そうでない場合には、博士の知識と技術が必要だ!」
『はっ!』
「では行け!」
『はっ!』
「……え……?」
放心していたライトニングレンジャーだったが、飛行物体が飛び立つのを見て正気を取り戻し、仮面の男に詰め寄った。
「お、おい! 何をしているんだい!?」
「何故テロを防ごうとする!?」
「お前達は世界を征服するつもりなんだろう!?」
「そうだ! 故にこのテロは防がねばならぬ!」
「ど、どうして……!?」
「世界征服という事は、世界を支配するという事だ。全てを焼き払い、瓦礫の支配者になるつもりはない」
「……成程。支配するならなるべく無傷で手に入れたいってわけね」
「その通りだ。この国の腐った支配構造である資本主義と、その傀儡たる政府と大企業を無力化するつもりではあるが」
仮面の男は、戦闘員に誘導される人々に目を向ける。
「彼らは我々が支配した国家の礎となるのだ。決して傷つけさせはしない……!」
『……』
黒い手袋に包まれた手が決意を表すように強く握りしめられるのを見て、ライトニングレンジャーも白い手袋の中で力を込めた。
「……みんな、いいね」
「……ちと癪だがな」
「それが最良の選択だろうな」
「僕達の使命は変わらないから……」
「力を、合わせて……!」
全員が頷いたのを見て、仮面の男に歩み寄るレッド。
「今に限っては僕達と君達の目的は同じって事だね」
「む?」
「君達に世界征服はさせないけど、今は人々を共に守ろう!」
「ふっ、良かろう!」
仮面の男とレッドは固く手を握る。
「では私はウルフキングが見つけるであろう爆弾を解体する」
「僕達は避難誘導と爆弾捜索を手伝おう」
「頼むぞ」
「あぁ!」
こうして爆弾テロ事件は未然に防がれた。
その後も彼らは世界征服に乗り出そうと、政府や大企業を攻撃しようと企むのだが、その度に何らかの事故や災害の報が入り、その救助に当たる事になった。
彼らは自分達を『Response・Each・So many・Questions』という合言葉から『RESQ団』と名乗っていたが、その行動から『レスキュー団』と呼ばれるようになる。
そして今日もまた。
「世界征服を開始する。邪魔立てするなら容赦はせんぞライトニングレンジャー!」
「こっちのセリフだレスキュー団! 世界征服の野望は止めてみせる!」
「レスキュー団と呼ぶな! 我々はRESQ団である!」
「あぁごめんごめん。みんながそう呼んでいるから……」
「全く……。今日こそは世界を我々の手にする第一歩を踏み出すのだ!」
「そうはさせない!」
「ならばいざ!」
「勝負!」
「うわー! 高速道路で玉突き事故がー!」
「……」
「……」
「……一時休戦だ」
「あぁ! 急ごう!」
彼らは世界を手に入れるために力を尽くすのであった。
頑張れレスキュー団!
負けるなライトニングレンジャー!
世界を救うその日まで!
読了ありがとうございます。
そのうち、
「猫が屋根から降りられなくなってるー!」
「……ライトニングレンジャーよ」
「一時休戦、だろ?」
こうなりそう。
お楽しみいただけたら幸いです。