漫画家の友人に捨てられたけど胃痛が治りました〜戻ってこいと言われても幸せなので戻りません〜
「悪いけどカシコ、君はもう来なくて良い」
「オバカーノ?どうしたの、急に」
「聞こえなかったか?もう来るなと言っているんだ」
「そんな…どうして急に」
「前々から気になってたんだ。君は特に漫画を描くのを手伝うわけでもないのに何しに来てるんだって」
「僕は君の…」
「言い訳は聞きたくない!とにかく早く出ていってくれないか」
「…そう…わかったよ、今までありがとう」
そう言って僕…カシコ・イーノはさっきまで友人だと思っていたオバカーノ・カートゥーンの家から出ていった。
◇◇◇◇◇
「これからどうしようかな…」
しょんぼりしていても始まらない、とりあえず腹ごしらえしようとカフェに向かう途中走ってきた女の子とぶつかった。
「きゃっ」
「危ない!」
転びそうになる彼女を支えると抱えていた封筒から何枚か紙が落ちる。
それを拾ってちらりと目にしたのは…漫画だった。
それはネームと呼ばれる下描きのようなもの。
思わず眺めていると、遠慮がちに声をかけられる。
「すみません、返してください…」
その声で我に返り慌てて原稿を返す。
「よかった、汚れてない」
ほっとする少女に
「そこのコマ、もう少し大きくした方が良いと思うよ」
思わず口を出してしまった。しまった、と口を閉ざすが少女は驚いて目を見開いていた。
「どうして…たった今編集さんにも同じことを言われました」
「そこが一番言いたいことなんじゃないかなって。もう少し強調したほうが良いと思って」
「あ…そうなんです!ここがこのお話の中のメインテーマで…」
「待って、立ち話もなんだからとりあえずそこのベンチに座ろう?」
近くの公園のベンチを指差す。
少女は頷くと二人並んでベンチに座った。
そこから数時間――。
話の設定について延々と語る少女に相槌を打ちながら、原稿に目を通して余計な部分やもう少し描き足した方が良いところを指摘する。
いつの間にか日は傾き始めていた。
「す、すみません…こんな時間まで話してしまって」
「いや、僕も久しぶりに漫画のこと話せて楽しかったよ。僕はカシコ・イーノ。君は?」
「私は…」
◇◇◇◇◇
「くそっ!あのダメ編集め!」
オバカーノは荒れていた。
なぜなら最近何を描いてもダメ出しされるのだ。
「つまらなくなった」「話がくどい」「絵が雑」
等々…辛辣な言葉を投げつけられる。
いったいなぜ…と考えてカシコの顔が頭を過る。
(そうだ…今まではあいつが、カシコがアドバイスをしてくれてたんだ…。仕方ない、あいつを戻そう。俺が頭を下げればきっとほいほい戻ってくるに違いない。なにせあいつは俺のファンだからな)
意気揚々とカシコの家に向かうも時すでに遅し。
カシコは少女の元へと引っ越していた。
空き家となった家の前でオバカーノは呆然と立ち尽くしていた――。
◇◇◇◇◇
少女は新進気鋭の漫画家としてデビューし、売れっ子となった。
その影には夫として、またマネージャーとして彼女を支えるカシコの存在があった。
二人はいつまでも新婚の頃のように仲睦まじく、漫画について熱く語っていたという。