表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

言葉に出来ない宝物を

作者: マグ郎

 僕はしがない旅人。チェロを担いで演奏をしながら旅を続けている。

 ここはお喋りの町。その名の通り、人々はお喋り好きで人と語らう事を何よりも楽しんでいる。


 正直、この町にはあまりいたくない。

 自分はどうしても自分の気持ちを言葉にするのが苦手だ。


「それならそれでいいんじゃないか」


 突然話しかけられた。この町ではさして珍しい事でもないが、この場合は違う。だって、この人は……


「ああ、ごめん。そうだその通り。きみの()()()()()だよ。わたしは人の心が読めるんだ」


 不思議なローブで全身を隠した人物はそう朗らかに言う。顔はよく見えないが、申し訳なさそうにしている事は伝わった。少しの疑念を抱きつつも、気にしてない、と心の中で呟いてみる。


「きみが寛大な人で良かった。良かったらわたしがきみの傍にいよう。ここの人たちはおしゃべり好きだが、人と人の会話に無断で入るような無粋なことはしないのさ」


 正直、とても頼りになった。町ゆく人に執拗に話しかけられることもなければ、宿の手配まで代わりにしてもらった。


「ああ、わたしがこの町にいる理由かい? 

 人とはすべてを言葉にはしないものだ。けれど、ここの人たちは想ったことをすぐに言葉にしてしまうからね。わたしがつい心を読んで発言しても『そんなことまで言っちゃったっけ?』で済むのさ。単純なことだが、わたしにはこれが重要でね。

 もしかしたら、きみには少し軽率に映るかもしれないけどね」


 ……自分がかすかに疑問に思った事にまで返答してくるのは、この人が実にこの町の人間らしい部分ではある。


「あはは。ごめんごめん、外の人と話すのは久しぶりでね。

 きみに声をかけたのは、きみが()()()()()を無理やり言葉にしようとしていたからさ。言葉では言い表せない気持ち、というものはある。自分の奥底に仕舞っておきたい気持ちも……きみが言葉にしようとしていたのはそういう類のものだ。


 それは、仕舞っておきたまえ。きみだけの宝物にするべきだ。宝物は、誰にもバレない場所に大切に隠しておかないとね。しかるべき時に、その宝物を言い表せる時がくるはずさ。


 でも別に、誰にも気づかれなくても構わないだろう? だってきみは()()の素晴らしさを既に知ってるんだから。誰かに伝えるなんてもったいないし、それがその場しのぎの言葉ならなおさらさ」


 こうして、実際にバレてしまっているのでは説得力ないのでは? と思わないでもない。

 この人の言う気持ちとは、旅の思い出。この町に入って、外の人とわかるたびに幾度も投げかけられた質問。その返答を考えるたびに、思った。答えたくない、と。


「ふふ。そうだね、その通りだとも。でもさ、きみは言葉よりももっと、きみに相応しい表現方法を持っているんじゃないかい?」


 意味深に自分の担いでるものを見てくる。この町に入ってから、確かに頼りっぱなしだ。仕方ないと内心でため息を吐きつつ、ちゃっかりと二人用の部屋を頼んでいたこの案内人のために、チェロを手に取った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ