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X次元の墓守  作者: さとー
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墓守と死霊遣い ⑦

 テトが謎の少女に化かされているころ、フレーダを追いかけるヒマツは徐々にその差を詰めていた。元々持久力的にはヒマツの方が上回っている上に、フレーダは三つの死体を操りながら走っているのだから、その結果は当然と言えるが、しかしヒマツがフレーダを追い詰めているというわけでは決してない。なぜならヒマツを追う美男子たちもまたヒマツとの距離を詰めているからだ。

 ヒマツ自身に戦闘能力はなく、つかまればナイフとフルーレによってずたずたに引き裂かれる未来しか見えないのでこちらも必死である。

「なによもう、しつこいわね……しつこい男は嫌われるわよ」

「だったら後ろの死体をどうにかしてくれませんかね」

「男なら自分でどうにかしてみなさいな」

 必死に逃げていたフレーダはここで立ち止まり、くるりと振り返ってヒマツの方を向く。諦めている表情ではなく、むしろ笑っている。

 どう見ても待ち構えているが、ここでヒマツが止まったところで後ろの美男子たちに捕まるだけだ。

 ヒマツは覚悟を決め、余裕の表情でたたずむフレーダめがけて突進した。

 フレーダは一向に動かない。右を見ても左を見てもおかしなところなどない。

 しかし、ヒマツの伸ばした手がフレーダに触れようとしたとき、その腕が真上から降ってきた何かに斬り落とされた。

「上かよ……っ」

 上から降ってきたのは、四体目の死体だった。それも、今度は一本の刀を持っている。

 さらに後ろから、追いついた美男子三体がそれぞれ二本のナイフとフルーレを容赦なくヒマツの体に突き刺した。フルーレに関しては確実に心臓のある位置を貫いている。

「ようしゃないなぁ……もう」

 口からどす黒い血を吐き出しながら、ヒマツはその場にどさりと倒れた。

「はぁ……大人しく私の誘いに乗っていればよかったのに。無駄にたくさん傷つけちゃったじゃない」

 フレーダが汗をぬぐいながら、動かなくなったヒマツの体を足で転がし仰向けにした。

「さてと、お着換えしましょうね」

 うっとり微笑み、刀を持った死体を操ると、フレーダはヒマツのボロボロの服を無理やり脱がせ始める。そしてその場にしゃがみ込み、まぶたの閉じたヒマツの顔を優しくなでた。

「なによ、死んでるときは案外可愛い顔してるじゃない……ま、及第点ってとこかしら」

 フレーダの瞳に映るヒマツの肌は相変わらず土気色で、生きている時とそう変わらなかったが、むしろ今の方が自然なように見える。つまり言い換えれば、動いていた時からヒマツの肌は死体のような色をしていて、さらに言えば、死体そのものだった。

 そのことに気付いたのか、フレーダは若干眉を顰めつつも、すでに死んでしまったのだから関係ないと思ったのだろう、なんの警戒もなしに自らの手で軽くヒマツの髪を整える。

 明らかにフレーダは油断していた。

 しかしそれは仕方のないことだろう。なぜなら、一体どこの誰が腕を切り落とされ、心臓を貫かれた人間が動き出すと思うのか。

 だからフレーダは最初、見間違いだと思ったに違いない――ヒマツの目が開いて、その視線がフレーダをとらえたという現実を。

 しかし次の瞬間、フレーダは自分の目が正しかったことに気付く。

 がしっと、死んだはずのヒマツの手が、優しく髪を整えるフレーダの腕をつかんだのだ。

「んなっ!?」

 混乱した様子のフレーダを、ヒマツが力任せに地面に押し倒し、その上に覆いかぶさる。

「くっ! レディーに対して乱暴よ!」

 ヒマツが死んでいないことに驚きの表情を見せつつも、再度フレーダは死体に指示を飛ばす。今度は確実に息の根を止めようと、刀とフルーレ、そして二本のナイフが深々とヒマツの体に突き刺された。

 ヒマツの体を貫通したフルーレと刀から血がしたたり落ち、フレーダのタイトなドレスに黒いシミを作る。

 お気に入りのドレスが汚れたことに不快そうな顔をしながらも、瞳孔の開いたヒマツの目を見て勝利の笑みを浮かべたフレーダだったが、しかしヒマツは死んでいなかった。

「あれ、おかしいなぁ……死霊遣いって両腕を封じれば死体を操れないって聞いたんだけど」

「そ、そんなバカな……」

 驚きに目を見張るフレーダに対し、ヒマツは呑気なものだ。

「この分だと拘束しても意味なさそうだし、やっぱ死体壊すしかないのかな」

「くっ、いつまで上に乗っかってるのよこの化け物!」

 フレーダが自分に覆いかぶさるヒマツの腹を足の裏で思いっきり蹴り上げる。

「うわっ!」

 無様に仰向けに転がるヒマツへ、再度四体の死体が刃物を突き立てた。

「はぁ……はぁ……どうなってんのよあいつ」

 ヒマツの傷は、切り落とされた腕すらもすでに生えている。

「再生した……いや、これは……まさか……」

 もう今日で何度目になるのか分からない凶刃を受け、しかしヒマツは立ち上がる。

 傷口からは、赤黒い液体が噴き出したかと思えば、一瞬でその傷は塞がった。

 事実に気付いたフレーダが目を見張り叫んだ。

「リビングデッド……ッ!」

 リビングデッド――直訳すれば『生きた死体』。それはつまり、一度死んだ人間をよみがえらせたということで、死霊遣い誕生の理由であり、未だ達成されていないとされる悲願だ。死体であるがゆえに死なず、肉体はそれ以上朽ちることはなく、傷を負っても再生する。

 つまるところの、不老不死である。

「それも……完全な成功体じゃないの……」

 いくつもの致命傷を受けて立ち上がるヒマツの正体を知り、しかしフレーダは恐怖の色を見せず、むしろ興奮した様子で目を見開き、口を大きく歪めた。

「男一人見に来てみれば、とんだお宝が見つかったわね」

「お宝だなんて……ただの死に損ないですよ」

 立ち上がるヒマツを美男子四体が取り囲む。

「手足を切り落としても再生するし、意識を刈り取ることも不可能……なら、力任せに拘束するしかないわね」

 死霊遣いの悲願を前に、フレーダは興奮した様子で舌なめずりをし、それを合図にするように四本の凶刃が再びヒマツへと襲い掛かった。

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