墓守と死霊遣い ⑥
おかしい。
森の中でヒマツを追いかける美男子の死体達。その十数メートル後ろを走りながら、戦闘であまり頭を使うタイプではないテトは、理性ではなく本能でその違和感をとらえ始めていた。
先ほどからどれだけ速く走ってもヒマツ達に追いつけないのだ。距離が一向に縮まらない。美男子の死体にまだ何かテトの知らない秘密が隠されているというならこの状況は頷けるが、その前を走るヒマツはどうだ? ヒマツの身体能力はテトの知る限りただの人間と同じである。それに獣人であるテトが追いつけないどころか距離を詰めることもできないなんてあり得るのだろうか?
――絶対にありえない。
眉を顰め、テトは美男子たちを追いかけることを諦め、一度立ち止まって辺りを見回した。
すると、まるで蜃気楼のように先ほどまで数十メートル先を走っていた美男子たちが姿を消した。
いつの間にか幻影を追いかけていた? フレーダの仕業だろうか? しかしそんな技を使う死霊遣いなど聞いたことがない。
テトは本能で感じ取った。
いつも頼りにしている自分の人間離れした視力は今に限っては信じられないと。
であるならば、頭はよくなくとも機転はきくテトである、解決法はすぐに思いついた。
簡単な話だ。視力が駄目なら嗅覚を使えばいい。
テトは目を閉じ、嗅覚に意識を集中させた。すると、斜め前から死体の臭いがした。ただし、自然な死体ではなく、先ほどの美男子同様、様々な薬品で人の手が加えられたものだ。そして、自分をはさんで死体と対角線上に、限りなく臭いを消してはいるが、わずかに生きた人間の臭い。
「もう一人いたのか」
「あ、あれー……ばれちゃってますか」
がさり、と斜め後ろから人の動く音が聞こえる。テトが目を開けてそっちを見てみれば、魔女のように大きな帽子をかぶり、これまた魔女のように大きな漆黒のマントに身を包んだ少女がいた。年のころはフレーダよりも幼い。冷や汗をかきながら、鋭い目つきのテトから眼をそらしている。
「あ、あのですね……私は足止めを頼まれまして……そのー、戦いとか危ないので、このままおしゃべりでもしてませんか? ……なんて」
必死にフレンドリーな表情を作っている謎の少女に対し、好戦的なテトはもちろん、
「狩る」
そう言って鋭い牙をのぞかせた。
「ですよねー」
少女はそう言うとじりじりと後ずさり、テトの後ろを指さし叫んだ。
「ジェイソン君三号! やっちゃってください!」
テトの後ろの木陰から、少女の操る死体が姿を現す。
ブィィィィィンン!!!!! と、巨大なエンジン音が鳴り響く。
現れた死体は、白いホッケーマスクを付け、巨大なチェーンソーを構えた大柄の死体だった。普通の人間が見れば卒倒しそうなほどの見た目だったが、猫耳少女のテトは全くひるむことなく、むしろ瞳をぎらつかせながら、
「よーやく狩の時間だ」
そう言って勢いよく異形の死体めがけて飛び掛かった。