墓守と死霊遣い ⑤
「さてと、君が死霊遣いアイダだな」
森の中で追いかけっこが始まったころ、墓地の入り口では墓守ヌビアス・シリスと死霊遣いアイダが対峙していた。
「ええ……私はアイダ。あなたはヌビアス・シリスね」
「そうだ。ヌビアでいいぞ」
明るく両手を広げるヌビアに対し、アイダは相変わらず暗い表情だ。どちらが墓守かと聞かれればアイダだと答えてしまいそうなほどにはその暗い雰囲気は墓地に合っていた。もっとも、服装は虹色のワンピースという明るいものだったが。
バランスの悪い見た目のアイダはヌビアのフレンドリーな言葉を無視し、腕を振る。
クマが先ほどよりも素早い動きでヌビアに襲い掛かってきた。
ヌビアがその攻撃を躱すと、クマの巨大な爪は墓石に当たり、大の大人二人がかりでも持ち上げられないような質量のそれを軽石のように弾き飛ばす。
「クマ……それもグリズリーというのはここまで力があるものなのか。実に恐ろしいな」
アイダが再び腕を振る。
今度は小刻みな、ボクシングで言うところのジャブのような攻撃が繰り出される。しかし、ジャブと言ってもクマの強大な筋力から放たれるそれは普通の人間がくらえばひとたまりもないだろう。
踊るようなステップで攻撃を躱しつつ、ヌビアは尋ねる。
「君は人間の死体を使わないと聞いたのだが、そんな君がうちの墓地に何の用だ?」
「あなたには関係ない」
「関係あるさ。ここは私の墓地だ」
「……死体を一つもらいに来た」
「なら最初からそう言え」
と、ここで初めてヌビアがクマの体に触れた。
躱したクマの腕に、そっと手を置く。
「言ったら……くれるの?」
ヌビアはにやりと笑い、
「まさか、やるわけがないだろう」
そう言ったとたん、クマの死体が倒れ、地面を揺らす。
「何をしたの?」
アイダは何度も腕を振るうが、クマが起き上ることはない。ピクリともしない、自然な死体に戻ってしまっていた。
「簡単なことだよ。君たち死霊遣いは、死体にあの世とこの世のはざまを行き来する精霊たちを憑依させて操るが、私はその精霊たちをもといた場所に返してやったんだ」
アイダは予備として用意していたのか、懐からスズメバチの死体の入った小瓶を取り出すと、先ほどのクマ同様操りだす。
「ほう、虫も使えるのか」
「……」
アイダは無言で腕を振るうと、さっきほどのクマとは比べ物にならないほどのスピードで動くスズメバチでヌビアの命を狙った。