墓守と死霊遣い ③
X次元とは違うどこかの次元――そこにそびえたつ西洋の城のような建物の一室で、二十代後半の女と未だ二十歳に満たない少女が言葉を交わしていた。それも、若い方がエラそうな態度をとっている。
「ねえアイダ、勝手に専門家を雇ってX次元に送り込んだそうじゃない。しかも失敗したとか」
やたらと色っぽい声が石造りの建物内に響く。
アイダと呼ばれた女は、自分より年下なのに色気にあふれた少女を横目に見ながら、覇気のない声で言う。
「やっぱり他人に頼んじゃ駄目だった……だから、今度は私が直接行く」
「あなたって人間の死体は全然使わないじゃないの、なんで今更墓荒らしなんてするわけ?」
そう言う少女は、王子様のような格好をした男から飲み物を注いでもらいつつ、優雅に椅子に腰かけている。いや、『ような』ではない。彼女のグラスに飲み物を注ぐ男は事実、とある次元の王子だった。
見れば、飲み物を注いだ男だけではない。たくさんの着飾った男たちを少女は女王のように侍らせている。
それを見たアイダは感情のこもってない口調で言った。
「相変わらず悪い趣味……」
少女はそのことを自覚しているのか、おかしそうに笑う。ほどよく発達した乳房を覆い隠すように垂れる金のツインテールがさらさらと流れ、タイトなドレスの上で踊った。
「私からすれば、小汚い獣の死体ばっかり遣うあなたの方が趣味悪いわよ。その点、私の操る死体は美男子ばかりだけど」
少女は満足げに自分の周りを囲む美男子たちを眺める。
美男子たちの瞳はどこまでも濁っており、言葉を発することもない。なぜなら彼らは全て死体なのだから。
「ねえアイダ、X次元を襲うなら私もついていくわ」
「……どうして?」
アイダがX次元を襲うのは個人的理由だ。それに、少女はきれいな死体にしか興味がないはず。土の中で腐りきった死体なんて欲しくないだろうに。
「いや、最近X次元に新しい男の墓守が働き始めたそうだから、見に行こうかなって。それで、もしイケメンだったら私のコレクションに加えてあげる」
一番のお気に入りなのか、飲み物を注がせていた死体を可愛がるようになでつつ、少女はうっとりする。
アイダはしばし考える。
少女の腕は確かだ。戦力にはなるだろう。別に邪魔をする理由もないだろうし、連れて行ってもマイナスに働くことはないはずだ。それになにより、アイダが何と言おうと彼女はついてくるに違いない。なら言い争うことになる前に快く承諾しておいた方がいい。
そんな風に考え、アイダはゆっくり首を縦に振った。
「わかった……でも来るからには多少は手伝って欲しい」
少女は楽しそうに真っ赤な液体の入ったグラスを揺らし、満足そうに笑った。
「このフレーダにお任せあれ」
死霊遣いフレーダはお気に入りの死体に自分をエスコートさせながら、大量の死体を引き連れて部屋を出て行った。
それを見届けたアイダの口から吐息がこぼれる。
「はぁ……ダン、ようやく会える」
その声には先ほどまでとは違う明確な心がこもっていて、陰気な死霊遣いアイダは虹色のワンピースを抱きしめベッドに倒れこんだ。