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アンラヴドヒーローズ【全年齢版】  作者: トシヲ
▼前編(共通)
9/80

09 繁華街

「カナタ! クライヴ! シャロンを見なかったか!?」


 ここまで焦った様子のヒューゴを目にするのは初めてのことだった。ヒューゴの気迫にカナタは一瞬固まったが、ぶんぶんと首を横に振る。



 2人ずつに別れたあの後、カナタとクライヴは時々他愛のない話をしながら街を見回っていた。

 クライヴはシャロン以外には比較的温和なタイプで、カナタから話しかけると気持ちを切り替えたように、表情も声音も穏やかだった。

 カナタの出身地の話や都会に来て驚いたことなどを話していると、声に出して笑ったり質問をしてきたりと、気さくで明るい一面が見えた。


 少年漫画のようなライバル関係よりも、どちらかというと協力的な同期として、同じ研修チームのメンバーとして良い関係が築けそうであった。


 シャロンの言動の一つ一つに不快感を示すクライヴは、彼女が独断で席を立ち、姿を消したことに腹を立てただろうか。

 視線をクライヴへ向けると、彼はカナタの想像に反して青褪めていた。


(心配、してるのか?)


 当たり前のことだが、少し拍子抜けしたような気分になる。

 勝手な行動をとるなと激昂する様を思い浮かべていたというのに、クライヴは蒼白い顔でスマートフォンを取り出すと、あるアプリケーションを開いた。恐らくスマートフォンを紛失した際にその位置情報を調べられるものだ。


「研修が終わるまでは、僕もシャロンもジェラードさん名義のスマホを使わせてもらってるんだ。同じ名義で契約してる端末の位置なら、このアプリで確認できる」

「なるほど……シャロン、どこに行っちゃったんだろうな」


 もしかすると、あからさまなヒューゴのセクハラに耐えかねて、逃げ出しただけかもしれない。女性特有の理由でトイレや、緊急の買い物が必要な場合もあるだろう。


 しかし胸の奥にある嫌な予感に、カナタの心臓は少しずつ鼓動を速めていく。

 よりによって、この、若い女性が次々に拉致されている事件のパトロールの真っ只中で忽然と姿を消すなど、不安を駆り立てられて当然だ。


 クライヴのスマートフォンに表示された地図には、位置を示すマークが端末の数だけ表示されてる。一つはクライヴの持つスマートフォンと現在地。そしてもう一つは、シャロンのものに違いないだろう。

 それはすぐ近くの場所を示していた。移動もしていないようで、マークは静止している。

 3人はすぐにそこへ向かうことにした。


挿絵(By みてみん)


 シャロンのスマートフォンは、歩道と車道を分けるようにある生け垣の中に放置されていた。

 指紋を付けないようにヒューゴが手巾を被せて、まるごとビニール袋に入れる。

 落ちつきを取り戻した様子のヒューゴは、そのままインカムでエリオットに連絡をし、司令部にもシャロンが失踪したことを伝えた。


 ほんの1分ほどで、ヒューゴのスマートフォンにシャロンのインカムの位置情報が送られてくる。それは彼女の足だけで移動できる距離ではない、車を使わねば不可能なほど離れた場所を示していた。

 それも、度々講習でも耳にする、第3区の旧市街というバラムでも治安の悪い区域の建物の中で、シャロンが自分の意思で行くような場所ではない。


 ヒューゴはヒーロー業務に使われる地図アプリケーションを開いて、丁度近くで活動中のエリオットの班と合流することを決めた。

 このアプリケーションでは地域別の治安レベルや天候、事故、渋滞の他にも、司令部から権限を与えられれば、別のヒーローのインカムや支給端末などの位置情報と、そのヒーローの情報が見られるようだ。


「もしもし、エリオット、送った地図見たか? 3区の廃ビル……ああ、お前んとこのシンイーはなるべく参加で。多分女手が必要になる……じゃあ先に向かうぜ」


 通話の内容から、ある程度状況は理解しているが、ヒューゴは面倒くさがらずにしっかりと2人にも説明を繰り返した。

 普段は不真面目でおちゃらけた態度の彼だが、やはりプロなのだ。頼りがいがあるし、指示もわかりやすく、教官として相応しいと上が判断しただけある。


「これから3区の廃ビルに向かう。発信機の信号じゃ地下らしい。こんなやり方じゃだめだけどさ、シャロンは、マジで変態野郎の拠点を探り出しちゃったみてえだな。お前ら具合とか大丈夫なら一緒に来い」

「はい」


 ヒューゴがタクシーを呼び止めた。上着を脱いで制服と身分証を運転手に見せ、所属IDと名前を告げる。

 代金は、後でタクシー会社が司令部の方に請求する。運転手はただ頷いて、緊張に震える指でカーナビゲーションの操作を始めた。

 ヒューゴの告げた住所をセットし、車が発進する。

 ミラーに映る運転手の緊張は解けないまま、表情は固かった。

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