12 ???
この回は成人向け作品を無理矢理全年齢向けにすべくいろいろと書き直したのですが、性的で、人によっては不快感ある内容だと思うのでお気をつけください……でも……そんなん気をつけようが無いよな……
またもヒューゴはシャロンが逃げぬようにか、はたまた写真を高く売るためなのか縄を巻き付けてくる。
シャロンはその縄のせいでスカートが少し捲れてしまったことを察し、おずおずと彼の名を呼んだ。
「ヒューゴ……」
「名前呼ぶんじゃねえよ。萎えんだろ」
「……せんせ」
「っ……それさァ、もっと萎えるから。まじで呼ぶなっつうの」
言葉尻で語気を強めたヒューゴに、シャロンは口を閉ざす。
いくら何でもしてやりたいと思っていても、少しは不安な気持ちもある。だから頭でもどこでも、ヒューゴの手で優しく撫でて貰いたかった。
シャロンの小さな願望もねじ伏せるように、ヒューゴがチッと舌打ちをした。
ジェラードが舌打ちをするほど苛立った時は、シャロンはいつも意識を失うほどに痛めつけられる。だからヒューゴにもそうされるのではないかと、体が小刻みに震え始めてしまった。
いくら彼を好きでも、痛いことは怖い。彼に嫌われるのはもっと怖い。
「ハハッ、ビビってて可愛い〜、カメラ、カメラっと……」
カシャ、とシャッター音がする。
無慈悲な音を立てるヒューゴにシャロンは肩をひそめる。
怖くて、またヒューゴの名を呼んでしまいそうになった。
カメラに収めねばならないから距離があっても仕方ないかもしれないが、頭を撫でてくれたら……あのゲームセンターの時のように横にいてくれたら、どれほど安心するのだろう。
そんな妄想にすがって、涙でアイマスクが濡れた。
身をよじるとスカートの裾がまた捲れて、下着が見えていないか不安になる。
――カシャッ!
「ヒーローのお嬢様が変態みてーな写真撮られてんの、ほんとウケるわ! ハハッ」
「……う……」
「写真高く売れそうだし、良いじゃん。なァ? 何でもしてくれんだろ? パンツも見えるようにわざわざもがいてくれてさァ……」
「……ううっ……」
「あーあ、とんだ変態だなァ。さすが、真面目くんのクライヴにビッチって言われるだけあるぜ……シャロンは誰にでもパンツ見せるビッチちゃんだもんな」
「……何枚……あと、何枚撮るの……いつまで……ひゅ」
また名を口にしそうになってしまった。
両手で口を抑えて堪えたいのに、自由がきかない。
カシャッ、とシャッター音を耳にしてから、ヒューゴが飽きたとでも言うようにため息をついた。
拘束を解き始めていたヒューゴの名を呼んでもいいのか様子を伺っているうちに、優しい手付きでアイマスクを外される。
いつもシャロンを見守ってくれる穏やかな瑪瑙の瞳と目があって、きゅうっと胸が締め付けられて苦しくなる。
やはりまだ、どうしても彼を好きだと思ってしまう。こんなにひどいことをされているのに。
その好きという感情が、食べ物はもちろん、カナタやクライヴへの好感と違うと、はっきりわかるようになっていた。
「……あ、の」
「あ?」
「……したい……ちゅう……唇じゃなくていい。私が、ひゅ……あなたに……」
「いや、無理無理」
涙が次々溢れて止まらず、しゃっくりまで出始める。
こんなふうに泣いたのは、これが初めてかもしれない。
「あっ……おい、泣くなよ、めんどくせぇな」
「なんで、だめなの? ちゅう……足でもいいから、したい……」
「いや、足でもなんでも、無理なもんは無理」
「……別の人と、するの? もう誰かと、ちゅう、した?」
「そりゃ、他の女の子とはチューもスケベもしまくってるぜ。でも、シャロンとはしねェーの」
「わ、私が、普通の女性じゃなくて、パパの偽物だから? それとも……私が、き、きら……だから……」
「……泣いたら、何言ってるのかわかんねえよ……ほら泣くな、よしよし」
感情がここまで大きくなって、悲しくて辛くて堪らないのは初めてだ。
頭や背中を撫でられても、悲しみまでは拭ってもらえない。むしろ優しくされると、一方的な愛おしさばかり大きくなってしまう。
好きになればなるほど悲しい気持ちにさせられる。ヒューゴとずっと共にいて、少しだけでも構わないから、彼に好かれたいと思ってしまう。
シャロンはヒューゴの手を、ようやく自由になった両手で挟み込むように持った。彼が嫌がるとわかっていながらも、たった一度だけでいいので唇に好きな人の温もりを感じてみたくなった。
ヒューゴほどの力があれば、シャロンのことなどいとも簡単に払い除けて、逃げることもできるだろう。
振り払われずにいることに感謝して、シャロンはヒューゴの指に唇をくっつけた。
唇からヒューゴの手の温かさを感じ取る。人肌は熱くも冷たくもなく優しい温度で、彼がなぜ振り払わないのか気にしつつも、欲張りになって何度もちゅっちゅと唇をくっつけた。
いつもシャロンを撫でて、抱き上げて、傷を癒やし、キャンディをくれた大きな手にたくさんの愛を込めてキスを送る。
いつかシャロンにも、誰かがこんな風にキスをしてくれるだろうか。
それがヒューゴならば良かったのに。
普通の女性たちのように母親の腹から産まれ、映画のように、好きな人との間に子供を作っても良い環境で育っていたら、ヒューゴがキスをした人のうちの一人になれたかもしれない。
「オイ」
低い声に、もう恐怖も抱かない。
もうキスはしてしまった。何も望むことなどないから、殺されても構わない。
「まだ懲りねぇのかよ。マジで……次はスカートの中撮るぞ」
「……うん」
シャロンはスカートの裾を持ち上げ、ヒューゴに見せつける。
ヒューゴの手に唇をくっつけた罪で咎められるのなら、それも本望だった。
「や、やめろ。いい……もう、いいから」
女の体を見て喜ぶタイプのヒューゴが、シャロンから目を逸らして狼狽している。
あんなに暴言のようなものを吐いていたくせに、いざシャロンから見せつけると、弱々しく眉を顰めて俯いてしまった。
シャロンには彼の考えがあまりわからないが、言われた通りにスカートを元に戻した。
「……俺さ、壊すのが好きって言ったよな? チャラいけど優しいとかなんとか、女が勝手に俺に抱いてた幻想がぶち壊れた瞬間の顔がさァ……死ぬほど好きなんだ。シャロンは、まだ随分と可愛らしい顔で俺のこと見てくれるけど……マジで好きなの? 俺のこと」
「うん、だいすき……」
即答すると、ヒューゴがすっと目を細めた。
逸らされたままの視線の先には、シャロンが脱いだバスローブが落ちてくしゃくしゃになっている。
「……さっき、名前とか先生とか、呼ぶなって言ってごめんな」
「……また、呼んでも良いの?」
「名前でも先生でも、好きに呼べよ」
「ヒューゴ……ヒューゴ、先生も、大好き」
「……あっそ」
素っ気ない返事をし、少し苛立っているようなヒューゴにシャロンは困惑しつつ、和らいだ雰囲気に少しずつ安心を取り戻す。
怒っているように見えるヒューゴは、少しだけ耳を赤くしていた。