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アンラヴドヒーローズ【全年齢版】  作者: トシヲ
▼後編(ヒューゴ)
71/80

09 ???

「ここ、どこ?」


 そういえば、と切り出す。目が覚めた直後にひどい目にあったので問うことを忘れていた。

 他にもいろいろと聞かねばならないことがあるが、ヒューゴはまた上機嫌に鼻歌を歌って、シャロンの髪を丁寧にタオルに挟んで水分を叩き出している。


「ヒューゴ」


 ドライヤーで乾かしてもらい、キングサイズのベッドに導かれて座る。

 ヒューゴのことを目で追っていると、戸棚と思っていた家具の中に、なぜか小さな冷蔵庫があった。そこから出した飲料水を電気ポットで温めて、インスタントコーヒーと、カップに入っている即席ヌードルを2人分トレイに乗せて持ってくる。


「ベッドで食べるの……?」

「お泊り会って感じで良いだろ」

「もし溢したら……」

「そん時は別の部屋に移りゃあ良いんだよ。3分経ってねえけど、俺もう食っちゃおっかな」


 プラスチックのフォークで、ずるずると蕎麦のように食べ始めるヒューゴを見つめる。

 シャロンは湯を注ぐだけの即席料理を口にするのが初めてだ。それどころか麺類はパスタしか食べないので、啜り方がわからない。


 ちゅるちゅると麺を啜ってみるが、上手く食べれないので、結局フォークに巻き取って食べることにした。

 マナーとして正しいのかわからなかったが、ヒューゴが何も言わないので、そうやって最後まで食べきった。味は、もちろん顔や言葉には出さないものの、あまりシャロンの口には合わないものだった。


「ヒューゴ、パパは……」

「門限気にしてんのか?」


 こくんと頷くと、ヒューゴがまた人を小馬鹿にしたように笑う。クライヴならば断固として許さず抗議をしただろうが、シャロンはこれくらいのことで怒りや悲しみを抱かない。なぜ笑っているのかな、とただ見つめる。


 ヒューゴがテレビのリモコンのボタンを押す。

 旧型のTVモニターが明るくなり、丁度ニュース番組がやっていた。

 ネズミ型のモンスターが退治された内容と、第3区でヒト型のモンスターが現れたという内容だ。


「こ、これ……」


 ヒト型のモンスターは爆発騒ぎを起こして逃亡。現場にいたプロヒーローと研修生を合わせた2人が行方不明、居合わせた2人の研修生が足や腕に軽症を負ったという報道だった。

 行方不明者としてヒューゴとシャロンの顔写真が表示され、これまでの失踪と合わせてヒーローが7人も行方不明となっているとアナウンサーが読み上げた。


「わかったか? シャロンは俺に誘拐されちゃってるわけだから、門限のことなんか気にすんなよ」


 語尾に星や音符のマークでも付けたかのように陽気な態度を崩さない。

 シャロンはおずおずとヒューゴを見て、どうしてこんなことをしているのかと視線で尋ねた。

 ヒューゴはこの状況には不釣り合いな優しい笑みを浮かべ、大きな手のひらをシャロンの頭に乗せる。


「俺さ、壊すのすっげェ好きで……シャロンのことずっとぶっ壊してェなって思っててさ……な、俺のことまだ好きか?」


 ヒューゴの言葉へ理解が追い付かず、ぽかんとする。追い付かないどころか、壊すことが好きだとか壊したいだとかと、その意味を理解できない。

 だが顔を覗き込まれると心臓が高鳴るし、頭を撫でられると擦り寄りたくなる。

 ついさっき怖い思いをしたばかりだと言うのに、優しくされると調子が狂ってしまう。


「……ヒューゴのこと、まだ、好き」

「そっかそっか。じゃあ、可愛いシャロンの腕でも治すか〜」


 ヒューゴの両腕が伸びて抱き寄せられる。ヒューゴが抱擁を擬音で表現していたとおり、ぎゅうっと抱き締められてふにゃりと口元が緩んでしまう。

 あんな写真を撮られ、売ったなどとジェラードに知られれば酷く叱責されるだろうが、ほだされてしまったシャロンは、仕置きをされてもまたヒューゴが痛みから救い出してくれるので、それで良いかとも思う。


 恐る恐る両手をヒューゴの背中に回して抱き返す。

 風呂に入って同じシャンプーを使ったのに、ヒューゴからはシャロンとは少し違う香りがする。

 いつもの香水とは違う肌の香りに、じりじりと体に熱を感じる。


 シャロンを軽々と抱き上げて、ヒューゴはまたあの椅子に座らせた。

 傷跡を治すために、それまで着ていたバスローブを脱がされていく。

 半裸になったシャロンの体に、ヒューゴはまたロープを括り付けていった。両足は閉じた状態で、胴体を椅子の背もたれとぐるぐるに巻きつける。

 自由なのは両腕だけだ。その手でヒューゴのバスローブをつまんで不安を訴える。


「どうして、縛るの……」

「動かないようにだけど」

「……どうやって、傷跡を消すの?」


 肝心のことを聞いていない。

 以前、既に癒合してしまった傷跡を消すには、再び皮膚の表面に傷を作らねばならないと聞いた。


 嫌な予感に背筋が凍る。

 伏し目がちにシャロンを見ている赤みの強い瑪瑙色の瞳が冷たいような気がして、喉をひゅっと鳴らす。


「そんじゃ、湯沸かしてくるわ。ちょっと待っててな」

「お、お湯で、な、なに、を」

「その傷跡にかけんだよ。爛れれば治せるだろ。あー、ハハッ、でもそれじゃあ他んとこも火傷するし、濡れちまうかァ……バーナーも用意しといて良かったぜ」

「ひっ……」

「こんがりとさ、美味そうに焼いてやるよ」


 熱いものは怖い。炎が怖い。皮膚の表面を焼くに留まらず、跡形もなく溶けて消えてしまう気さえする。

 生きていてこれほど感情を上下に揺さぶられたことはない。怖い思いをし、安らぎ、幸せな気持ちになってからまた突然突き落とされたかのようだ。

 混乱までしているのだろう。脳の中身がぐちゃぐちゃになって考えがまとまらず、酷く焦燥し、狼狽して、ぽたぽたと涙がこぼれ出る。


「嫌っ、たすけて、先生、たすけて……」


 涙のせいだろうか、視界がぼやけていく。頭が重たい。あまりのショックのせいか、意識が混濁してきてしまった。


「薬、効いてきたか? アハハッ、バカだよなァ! 誘拐犯の出す食いもんとか飲みもんとかァ、簡単に口に入れんなよ……おやすみ、シャロン」



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