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アンラヴドヒーローズ【全年齢版】  作者: トシヲ
▼後編(ヒューゴ)
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04 シープストリート

 翌日も運動着でパトロールをし、頭の中がヒューゴでいっぱいになってしまったシャロンは、今日も頭を撫でてもらえないかとそわそわしていた。

 だが、不思議とヒューゴと目が合わない。

 いつもならばヒューゴから何かしらちょっかいを出され、カナタが彼を叱ったりするのだが、それもない。


「カナタは胸と尻なら尻派か? あー、でもデッカイ胸好きだろ? 尻より巨乳か!」

「ちょっ、だから、セクハラだって言ってるじゃないですか!」

「クライヴは胸だよな? あっ、その顔は脚だな? 太もも好きそうな顔だぜ!」


 今日のヒューゴはやけにカナタとクライヴばかりに絡んで、シャロンへはあまり話しかけてくれない。

 午前の救助活動の講習でぼんやりしていたからか。次は挙手して積極的に取り組んで、褒めてもらおうと決める。


「いい加減にしろ! このチンピラ変態教官!」

「クライヴくんこわ〜い! ムキになって怒ると、余計にムッツリに見えるぞ〜」

「触るな! 次触ったら電気を流す」

「そんなケチケチイライラすんなよ。ちなみに俺は、女の子なら全身どこでも大好き」

「いい加減にしろ!」


 パトロール中で外面のいいはずのクライヴが怒り出して、まとわり付いてくるヒューゴを払っている。

 わいわいと3人がはしゃいでいるのを横目に、シャロンは3人の分もパトロールに集中して周りをしっかりと観察していた。

 ヒューゴがふざけているのは、きっと最近シャロンがぼんやりしがちで講習を疎かにしているからだ。だからシャロンを試しているのだと思うようにして、人々や街の様子を眺める。


 鳩は落ち着いて地面をつついていて、人もなんら変わらない。

 平和な街に、シャロンの手柄となりそうなものは無かった。



挿絵(By みてみん)



 いつもよりもパトロールが長く感じた。

 3人の後ろを歩きながら、誰とも会話が無く、ずっと気を張っていたからかもしれない。


「シャロン、おつかれ」


 ぽつんと除け者のようになっていたシャロンに声をかけたのはカナタだった。

 除け者にされているという自覚も無かったシャロンは、カナタがじっくり様子を見てくる意味もわからず頭を傾げる。


「その……元気か?」

「健康面、問題ない」

「そうか……あっ、俺、すごく腹減ったなあ、このままでは餓死しそうだ。おやつを奢ってくれるイケメンな先輩いないかな。おしゃれで吊り目がクールでイケメンでスタイル良くて強くて天才のイケメン先輩は」

「はいはーい! 俺俺ー! 事実とはいえ褒めすぎだぞ! よしカナタちゃん、一発休憩行くか!」

「一発ってなんですか!? 怖いです……普通にお茶でお願いします」

「大丈夫だ。俺、下でいいぞ。ちゃんと優しくしてくれよな……」

「いや、無理です! それセクハラですよね!?」


 シャロンには全くその会話の意味がわからないが、とにかくおやつを食べに行くというのは魅力的な話だ。

 カナタのあまり上手いとは言えない演技に流され、4人はそのまま喫茶店に行くことになった。

 

 ヒューゴがあまりシャロンに話しかけないことに、カナタはもちろん、流石にクライヴも気付いて不審なものを見るような顔をする。

 いつもならばヒューゴが率先してシャロンにメニュー表を見せるのに、なぜかクライヴがその役目を負っている。


「なあ、クライヴ」


 そんなクライヴにカナタが声をかけ、不自然な笑顔を浮かべてトイレへ行ってしまった。

 正面に座っていたクライヴが出ていったことで奥へ詰めて眼の前に来たヒューゴに何か話しかけようと思考を巡らせて、結局正直に欲望のまま話しかけることにした。

 ソファー席でなかったら、こうしてヒューゴが正面に詰めて座ることも無かったかもしれない。僥倖に、シャロンは素直に欲を口にする。


「頭、撫でて」


 お辞儀をするように俯く。すると大きな手のひらがシャロンの頭に乗った。


「……今日はひとりでパトロールしてたな」

「うん、ちゃんとしたよ……だから、頭、撫でて」

「偉い偉い」


 嬉しい。

 疲れも、抱き始めていた寂しさも忘れてそれだけになってしまう。



「お待たせしました。コーヒーゼリーでございます」


 レトロな制服に身を包んだ店員がシャロンの注文したコーヒーゼリーをテーブルに運んだ。

 ヒューゴの注文したサヴァランよりも早く来てしまった。

 照明を受けてキラキラ輝くコーヒーゼリーに、シャロンも目をぴかぴかと光らせる。

 いつもあまり動きのない唇も、好物を前に少しだけ緩んでしまう。


「お先に召し上がれ」


 ヒューゴの言葉に頷き、スプーンを持ち上げる。

 ぷるんと揺れるゼリーと白いホイップクリームを口へ運ぶと、まずは程よい冷たさと苦味、コーヒー特有の渋く芳醇な香りが口の中へ広がる。微かな酸味に、ホイップクリームの濃厚な甘みも加わってまさに絶品だ。


 コーヒーゼリーに舌鼓を打っていると、カシャ、と歯切れのいい音が鳴る。ゼリーから視線を上げると、ヒューゴのスマートフォンのレンズがシャロンをとらえていた。


「なぜ、撮るの?」

「んー……可愛いから?」


 スマートフォンを傾け、その向こうのヒューゴがレンズ越しでなく瞳でシャロンを見つめる。

 とくんと胸が鳴り、シャロンは次の一口を運び込めず、眉尻を下げてヒューゴを見つめ返す。


「お待たせしました、こちら特製サヴァランと、エスプレッソのセットになります」

「はい、どーも」

「カレーライスもすぐにお持ちしますね」


 カレーライスを合言葉にでもしたように、トイレからカナタと、クライヴも戻ってくる。

 カレーライスが「おやつ」に入るのは初耳だったが、それはそれは美味と喜んで食べるカナタに、そのことを言及する者はいなかった。

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