16 二人の家
後書きに絵があります
クライヴはヒーロー研修を辞退し、今は本部の職員として働いている。クライヴがいる間は万が一停電が起きてもコンピュータ機器や各システムの復旧を速やかに行える。発光して当たりを照らせるうえ、コンセントのない場所で充電ができると、ずいぶん人気者らしい。
それらのほとんどが口実で、実際停電などは一度も起きておらず、整った容姿とツンデレと言われる性格で人気があるのだと本人は気付いていない。
シャロンも父親の死をきっかけにということにして、研修を辞退した。ラボで軽い軟禁状態にあったのだから、研修終了に必要な単位もとれていなかった。
それに、大罪人の家にあった培養ポッドの中で作られたヒトモドキのモンスターが、ヒーローとして働けるわけもない。
カナタはシンイーとボドワンのチームに入って研修を続け、プロ不足で多忙なエリオットの代わりにヒューゴが担当教官となった。
その後カナタ、シンイー、ボドワンは無事にプロとして活躍するヒーローとなり、シャロンもよく食事に行ったりと良い関係が続いている。
街では、ジェラードは今も英雄のままだ。命と引き換えにモンスターを倒したということになっている。
実際そういう死に方ではあったものの、モンスターを作って街に放ち、自分の遺伝子を組み込んだ別の個体と交合させようとしていたという情報が無いだけで、ずいぶんと印象が違うものだ。
シャロンはジェラードの人脈から、時々広告のモデルや番組出演などの仕事を引き受けて収入を得ている。
ジェラードを喪った人々がシャロンを求めるのは至極当然であり、最近は収入がそこらのヒーローを上回るようになってしまったが、それはヒューゴとカナタには秘密にしておくことにした。
「で、まさかヴァージンロードを、あのヒューゴと歩くとはねえ……」
女性ヒーローとして、今やバラムで一番の人気を誇るシンイーは、ビールがもう半分ほどになったジョッキをテーブルにごんと置く。
シャロンがクライヴと婚約し、ささやかな結婚式をあげた日のことを思い出しているシンイーは、わかりやすく片方の眉を上げてフンと笑った。
「あんなヤリチンと歩くくらいなら、あたしが歩いてやったのに」
研修生時代ではヒューゴを教官と呼び続けていたシンイーも、プロとなった今ではアイツやらコイツ、ヤリチンなどと呼ぶようになった。
その「ヤリチン」という聞き慣れない言葉の意味は、聞いてもいけないし調べてもいけないと釘をさされている。たまたま近くにいたミリエルに尋ねたことがあったが、二度と口に出すなとものすごい剣幕で怒られた。しかし、やはりたまに気になってしまう。
シャロンは後でこっそり検索してみようかと考えては、忘れてしまうのを繰り返している。
「ヒューゴが私のパパだったら、楽しそうだと思った」
「ダメ! 教育に悪い! 見境なく女から女へフラフラと……お父さんってのはもっと強くて逞しくて優しくて、子供の手本になるような人よ」
「……ヒューゴ、強い」
「強いだけじゃ、手本にならないのよ」
まるで自分の家にいるかのようにくつろいで、ナッツをぽりぽりと食べているシンイーに、空になった皿を片付けていたクライヴがわざとらしい大きなため息をついた。
「あのう、僕たち新婚ホヤホヤなんだけど……女帝シンイーさんは、いつまでここにいるつもりなのかな」
「チッ……わかったわよ、はいはい、帰りますよ。帰れば良いんでしょ。じゃあね、シャロン」
「また来て」
「うん。ていうか、今度はシャロンがうち来なさいよ。うちのお父さんも是非遊びに来てって」
「男のいる家……クライヴがやだって言う」
「何それ、束縛クソ男じゃない。ていうかアタシの家でもあるんだけど……」
「それなら僕も一緒に行くよ」
「他人の前でベタベタするのやめなさいよね」
悪態をついて出ていくシンイーを玄関まで見送り、手を振って分かれる。
研修生だった頃のシャロンの悪行を、今となっては面白いネタとして扱うシンイーの無遠慮な振る舞いが心地よい。
シンイーも、あの馬鹿な真似をしたシャロンの本性を知って、面白く思ってくれているらしい。
揉めに揉めて研修の辞退を止めさせたミリエルも、シャロンのルックスだけは嫌いじゃないだの何だのと言って、撮影現場の警備に名乗り出てくれるため今は仲良しだと思っている。
シャロンは周りの人々に恵まれている。
玄関のドアを閉めると、背後から腕が伸びてきて体を包み込まれる。
「……シャロン」
耳元で名を呼ぶ夫、クライヴの甘えるような声にきゅうんと胸が高鳴って、耐え忍ぶように目をぎゅっと閉じる。
シャロンの服と同じ洗剤の香りがかすかに混ざるクライヴの肌の匂いは、鼻を通って、脳に甘い予感を運び込む。耳たぶにそっと触れてきた唇の感触にじんじんと熱を持った。
「クライヴ、ここ、玄関」
「そ、そうだね……ごめん」
謝ったクライヴの腕がシャロンの体を離れる。その手はシャロンの手を握って、軽く引っ張って玄関を離れようと誘っていた。
「僕、カクテルの作り方を最近勉強したんだけど……あっ、そういえばコーヒーゼリーを作って冷蔵庫に」
「クライヴ」
ダイニングに連れて行こうとするクライヴの手を、シャロンは途中、寝室の前で引っ張り返した。
口元に小さく笑みを浮かべると、クライヴがごくりとつばを飲む。
「で、でも……僕、まだお風呂とか」
「クライヴは綺麗。問題ない」
クライヴはシャロンも綺麗だと言う。例えどんな姿でも、どんな存在であろうとも、クライヴにとっては何より綺麗なのだと言う。
自分はモンスターなのか。
その問いに答える者はいない。誰かに問うことすら無いかもしれない。
魔女ならば、モンスターならば、バケモノならば……きっとそれらは私利私欲に従って生きるだろう。
シャロンは開き直って、シャロンと名付けられた自分のために生きると決めた。
クライヴルートをお読み頂きありがとうございました。
嫌われからのベタベタ過保護キャラが大好きで、ツンツンしてるけど可愛い感じのキャラにしよう! ということでこんな感じになりました。
喋り方がなんというか……文字だけで見るとカナタと似てしまうことが多々あって、書くのが難しいキャラでもありました。
キャラデザがぼんやり、まだ決まっていなかった段階で、アンケート内でダントツの人気1位(ダントツというほど全体票ありませんが……)だったため、顔を描くときにめちゃくちゃプレッシャー感じました。
また作中での服装が殆ど運動着なので、シャツを着ている儚げな金髪美少年になっていないのもちょっと……それも悩みどころでした。(作者の趣味でオリエンタルな感じの私服着させられていたし……)
カナタとクライヴの二人は読者様に愛されるキャラになればいいなぁ……と思っていたので、アンケートやコメントなどで好きだよ! と言って頂けて本当に嬉しかったです!
……。
…………!
まだ完結していない……ということはつまり……つまり……そうなのです。
次のページからは最後の一人……問題のアイツのルートになります。
好き嫌いがめちゃくちゃ分かれそうなキャラなのですが、お好きな方がもしいらっしゃいましたら、どうぞよろしくお願いいたします!
ここまでお読み頂き、誠にありがとうございました!
投票もありがとうございました!
無期限投票なので、今後順位の変動もあるかもしれませんが記念の絵です。
シャロンが紫色っぽくなってしまった・・・




