05 シープストリート
――第2区 バーガーショップ
「シャロンとカナタが初パトロールで大活躍したから、今日は2人分だけ奢ってやるよ! クライヴも次はもっと頑張れよ」
最寄りの交番から再び大通りへと戻って、バーガーショップに入ると、ヒューゴが笑ってクライヴの肩を叩いた。
上機嫌なヒューゴの言葉にシャロンは困惑した顔をして、目を伏せる。活躍したのはカナタだけで、シャロンは何もしていない。
「えっと……わたし、何もしてないよ……?」
ちらちらとクライヴの様子をうかがう。彼のヒューゴに対しての目つきは以前よりは少し柔らかく変わったものの、シャロンに対しては相変わらず酷く冷たい。視線を一瞬だけ向けて、ぷいと顔をそらされてしまった。
「ヒューゴ、今までの非礼は侘びる。でもヒーローを志しながら、スリにあうのが活躍とは思えない。理由もなくこの女を褒め称えるな」
「そうだよ。わたしはスリにあっただけで何もしてないから……だから、むしろ、お礼にわたしが奢る!」
「んー……ていうか俺ェ、シャロンにだけ奢って2人きりで飯食いてえな〜。つまり、これはデートのお誘いなんだけど」
「だからヒューゴ先輩、それはセクハラです! あとすみません、俺、今すっごく貧乏なので奢ってほしいです!」
「わーったわかった! カナタにはご褒美、シャロンには下心で奢る。クライヴは次の活躍に期待! お前はもっと視野を広く持つと良いぞ」
結局、ヒューゴが初めに言った通りにシャロンとカナタの分だけを彼が奢る形になった。
4人がけの席に座る。シャロンの隣がカナタ、正面がヒューゴ、斜め前がクライヴだ。
「いただきます」という言葉と共に、カナタはしっかりと手を合わせる。育ちが良いというより、ヒーローとしてふさわしい爽やかで誠実な男だ。
両手で持ったハンバーガーにかぶりつく幸せそうなカナタとは対照的に、クライヴはナイフとフォークを使って器用にハンバーガーを食べている。
少し悩んだが、シャロンはカナタのように両手を合わせてから、ハンバーガーを素手で食べることにした。
正面のヒューゴもそうやって食べているので、多数決のようなものだ。
「ビッチ、お前、ヒーローになる気が無いにしても、自衛くらいはちゃんとしろ」
「く、クライヴ……シャロンは何も悪くないだろ」
「悪いんだよ、こいつは。まさかとは思うけど、カナタはこの女に好意を持ってるの?」
クライヴの言葉にカナタの顔がみるみる赤くなっていく。
シャロンは口の中のハンバーガーを飲み下し、じっとカナタの横顔を見上げる。
「……わたしもね、カナタのこと、とっても良い人だなって思ってるよ」
にこりと笑うと、クライヴの鋭い眼光がシャロンを突き刺した。触れてもいないのに、視線だけでピリピリと肌が痺れるような、強い殺気に息がつまる。
なぜそんなに怖い顔をするのだろう。シャロンには理解不能だ。
「おい、ビッチ。やめろ」
「……ねえ、クライヴは、どうして怒るの? わたしはね、ただ……」
ぎりりと歯を食いしばるクライヴに、咄嗟に視線を手元に落とした。肩をすくめたシャロンに助け舟を出すように、ヒューゴがクライヴの二の腕を肘でつつく。
「クライヴ〜、ヤキモチか? お前ら幼馴染なんだろ? ボクのシャロンたんがカナタに盗られちゃう〜ってか?」
「ち、違う! ヒューゴも……いや、ヒューゴは大丈夫だろうけど、とにかくカナタ、この女はだめだ。やめておけ! ろくなことにならない!」
「ま、待てよクライヴ! 何も、本人の前で……シャロン、あんまり深い意味で捉えるなよ。その、か、可愛いなとか綺麗だなとか思ったのは本当だが、別に、す、す、好きとか、そういうわけじゃないからなっ、今は!」
「そうなんだ……でもわたし、カナタもクライヴも好き、だよ?」
「えっ……俺は? ねえ俺は? シャロン、俺はっ!? 俺はーーッ!?」