31 ???
薄暗闇の中、スマートフォンの画面が光っている。
寒さなど感じないに等しいが、シャロンは震え、頬の触れている硬い床を酷く冷たいと思った。
シャロンは計画に失敗した。
明るく優しく、ちょっぴりドジで男たちに好かれる少女を演じきれず、それどころか今では軽蔑の視線を向けてくる者もいる。
スマートフォンにはSNSのUIが映っている。
これまでの投稿は全て消えてしまった。その代わりに、有名なパティスリーのマカロンや限定ショコラ、ケーキ類を並べた写真が新しく投稿された。
やはりシャロンに似合うものは、これなのだ。
酷い痛みもあるうえ上手く体が動かせず、肌に刺さっているものが引っかかって大変な作業だったが、なんとかぐちゃぐちゃの布を離れ、シャロンはアイマスクを被る。
真っ暗になった。
先にアイマスクをすれば楽だったのに、今日はその余裕すら与えてもらえなかった。
コツンと、靴音がする。
「……」
脱衣だけで力を使い果たしてしまったので床に倒れたままでいる。足音と衣擦れの音に、シャロンは反応すらしない。
近くまで来たそれは、横たわっていたシャロンをそっと抱き上げ、まるで赤子をあやすように軽く揺すった。
そんな行動をとるのはいつも来てくれる医師だ。
温かい腕で抱かれ、鼻にはほんのり甘いような匂いが届く。
診察台に寝かされると、医師はシャロンの体から痛みの原因を取り除いていく。
廃ビルでシャロンの体を良いように撫で回し、服を切り取って笑っていた男とはまるで違う手付きだ。必要最低限触らず、手際よく関節を元通りに曲げて治療は終わる。
それから医師はシャロンの頭をぽんと撫でると、手のひらにコーヒー味のキャンディを握らせた。
甘みに苦味と僅かな酸味の加わった、シャロンの好きな味だ。
「……先生、ありがとう」
シャロンの礼に返事をするように、再び医師の手のひらがシャロンの頭を撫で、彼は部屋を出ていく。
いつもならば翌朝まで大切に隠しておくキャンディを、シャロンはすぐに包みを破って口に入れた。
アイマスクをつけたままキャンディを舐めていると、消してしまった「好きなもの」の写真が頭に浮かんで、やがて溶けて消えた。
言葉にできない、切ない気持ちになる。
だがこんな時、シャロンはある者の顔、声を思い出す。するとなぜだか胸のあたりがぽかぽかと温かくなるのだ。
シャロンが小さく口にした者の名は――
前編を最後までお読み頂き、誠にありがとうございました!
次はいよいよ恋愛へと発展する後編です。




