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アンラヴドヒーローズ【全年齢版】  作者: トシヲ
▼前編(共通)
25/80

25 グリズリービーチ

 燦々と煌めく太陽の光を反射するように、ビーチの砂は白っぽく輝いて、その眩しさに少しだけぼやけて見える。


 まだビーチへ入る手前。公道から続く階段の上にいるというのに、向こうの海はあまりにも大きく果てがない。

 その広大さに一抹の恐怖が浮かび上がるも、ビーチへ来る途中で偶然会ったカナタとクライヴの2人が視界にいるだけでシャロンは安心した。


「おーい! お前ら! こっちこっちー!」


 砂浜を駆け、階段の下から大きく手を振りながら寄ってくるヒューゴはすでに水着姿だ。上半身は裸で、首にかけたシルバーのペンダントがキラキラと輝いている。


 ヒューゴはあのロケットペンダントに何を入れているのだろう。写真かメッセージか、それとも誰かの遺灰だろうか。

 そんなシャロンの思考など打ち消すように、カナタとクライヴが呆れたような声を漏らす。


「なんで今日は遅刻しないんだ?」

「遊ぶ日は一番に来るなんて、先輩さすがです」


 言われてみればそうだ。一番に到着しているヒューゴなど、まさに不思議な存在だ。幻かもしれない。凝視するが、ヒューゴはしっかりと存在していた。


「さて、僕たちも着替えるか」


 クライヴの言葉に、カナタが不敵に笑う。


「クク……俺は下に水着を着てきたから、あとはもう脱ぐだけだ」

「ふーん……ちゃんと帰りのパンツは持ってきた?」

「不安になるようなこと言うなよ! それにまあ、半乾き程度になら魔法で……」

「……私も着てきた。今脱ぐ」

「今!? ここじゃあだめだ! シャロン!」

「おい! 脱ぐな!! 脱ぐなっ、このビッチ!!」



挿絵(By みてみん)



 結局海の家と呼ばれる建物の更衣室を借り、衣服などの荷物を預けたシャロンは、外で待っていてくれたヒューゴを見上げて不安な気分になる。


 ヒューゴも含め、水着姿の者は皆肌を露出しているのだ。

 シャロンは両腕や腹部などの肌を出すことができない。脚はさらけ出しているものの、上半身にはきっちりと水中用のパーカーを着込んでいる。


 温泉という施設では、タオルを湯の中に入れてはいけないというルールが存在する。

 海に入る服装についても、何かルールがあったりするのではないか。その不安を、シャロンは口に出す。


「私、これ以上脱げない」

「生足だけでも、俺は最高にイイ気分になれるぜ」

「このまま海、入れる?」

「ああ。これ水泳用の素材だろ? 平気平気……あ、髪は結んだ方が良いかもな」


 今日のヒューゴは目にかかるほどの前髪をピンで留めて、後ろ髪も縛っていた。

 その髪を解き、取り外したゴムでシャロンの髪を器用に団子状にして結ぶ。


 ヒューゴは髪を解いてしまって良かったのだろうか。配慮の足りない自分が申し訳ない。


「ヒューゴは髪も結べるの」

「まあ女の子と遊んでりゃあ、これくらいはな。器用でカッコイイだろ?」

「……友人、たくさんいるの?」

「んー、友達っつうか……まあ友達みてえなもんか……でもシャロンたちの方が仲良しだぞ?」

「……私はヒューゴもカナタもクライヴも、コーヒーゼリーと同じくらい良いと思う……好きというやつかもしれない……多分……」

「そりゃ良かった……って、クライヴのどこが良いんだ? 意地悪されてんだろ?」


 ヒューゴの言葉に、確かに冷たくされていると改めて思う。

 クライヴは自分のことを嫌っているとシャロンは思うし、どこが好きかと問われるとはっきりとは言えない。


「……昔は、優しくしてくれた」


 おそらく、それだけのことだ。子供だった時、友達のいないシャロンの側にいて、笑いかけてくれたのが彼だった。

 いつしか忘れてしまっていた記憶が蘇って、不思議な感情が胸を暖かくする。

 ヒューゴが頭を掻いて上を向いた。何か思うことがあるらしい。


「そりゃあ勝手な男だな。ま、俺も人のこと言えねえんだけどさ」

「ヒューゴも優しくなくなる? カナタも、いつか怒る? 男はみんなそうなるの?」

「あー……俺は優しいふりしてるだけだけど、カナタは大丈夫じゃねえか? 俺がシャロンのこと虐めようとしたら、カナタに助けてもらえよ」

「……わかった」


 簡単に嘘をつけそうなヒューゴが放った言葉は意外で、わずかに動揺もあった。

 だが、カナタが信頼のできる男だという意見も聞くことができて、良かったのかもしれない。


 シャロンは誘拐されたあの日、ヒューゴのある一面を目にしている。

 シャロンですら感じ取れた異様な姿が、今でもはっきりと瞼の裏にある。


 人にはそれぞれ、本当の姿、隠した感情、考えがあるのだろう。それはシャロンも同じだ。


「カナタはほんと、良いヤツだよなぁ」


 ヒューゴの呟きに、シャロンはこくりと頷いた。


海回ですが、そろそろお気に入りのキャラはできましたでしょうか…?

長〜いですが、前編は31話までです…。

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