21 ゲームセンター
「つーワケで、今からゲーセン行って遊ぼうぜ」
急にそんなことを言い出すヒューゴに、シャロンは目を少し細める。
シャロンはその「ゲーセン」というものが何なのか思考する。ゲームセンターの略称であることは、何かの書籍で目にしたことがあった。だが実際に行ったことはない。
ゲームというものには、トランプなどのカードゲーム、簡易的なボードゲームのようなものにしか触れたことがない。
それもクライヴと2人でやって以来、目にもしていない。だがそういったことに慣れていそうなヒューゴがいれば、初心者でも対応できるのだろう。
「……ん。行く」
好かれようとではなく、ヒューゴの行きたい場所を知るのも良い機会だろうと思い頷いた。
ちらりとカナタの方を見ると、彼も一緒に来てくれるようで、眩しく笑いかけてきた。
「ゲーセン……初めて……」
「期待通りのザ・お嬢様だな! 腕が鳴るぜ」
「一応聞いておきますけど、スロットとか賭博店じゃあないですよね」
「普通の、その辺にあるゲーセンに決まってんだろ! カナタは俺のことを、何だと思ってんだよ……」
「ヤンキーあがりの天才ヒーラー教官です」
「おいおい、俺は現役で不良少年だぜ?」
「いやいや、少年はキツいですって……」
ショッピングモールやビル、飲食店などが立ち並ぶ街にある、ごく一般的なゲームセンター。
外から見た時はやけに賑やかな場所だと思っていたが、中に入ると本当に様々な機械の音声、人の声が大きく、距離が空いたら会話も上手くできなさそうだ。
クレーンゲームという、開閉するアームで景品を掴んで排出口の方に落とすゲームが多く並んでいる。その中でも、いかにも『シャロン』が好みそうなぬいぐるみが景品となっている台の前で、カナタが足を止めた。
「シャロンは、どれが一番可愛いと思う?」
ふと、自己紹介をする時にぬいぐるみが好きと言ったことを思い出す。
それに従った反応をすべきか、しなくても良いのか考えてしまう。
好きか嫌いか、どちらだと問われると答えが難しい。ただ、嫌いではない。ぬいぐるみに対して嫌悪感は一切感じない。
それを好きというのか、そうでないのか、シャロンにはまだわからない。
当然、どれが可愛いのかもわからない。色が違うだけで、どれも同じ形状をしている。
「おーい、2人とも! あれやろうぜ!」
答えが出るよりも早く、ヒューゴが間に入ってきた。彼の指さす方に、クレーンゲームとは違う筐体がいくつか並んでいる。
人間のような形をしたモンスターらしきものが映し出されるモニターの前に、紐に繋がれた玩具の銃がある。射撃をするゲームなのだろう。
「じゃあ、まずはカナタと俺がやってるとこ見て、シャロンは遊び方覚えてな」
「うん」
言われたとおり、後ろからモニターとヒューゴ、カナタを順に眺める。
片手で次々に映像の中のモンスターを撃つヒューゴとは対照的に、カナタは両手でしっかり持った銃の標準を合わせるのに必死のようだった。
そのうえ、眼の前の敵を倒しきる前に銃弾が無くなり、装填をしている間にモンスターが飛びかかってくる。
「いやいやいやいやいやいや、やばい! 死ぬ!」
「アッハハハ! カナタ、お前超下手くそだな!」
モンスターにまとわりつかれ、画面の片方だけが赤くなる。
それを指差して笑うヒューゴも、あえて操作をやめたことで同じように襲われて、画面に『GAME OVER』と表示されてしまった。
負けてしまったうえに、それを横から笑われているカナタはなぜか楽しげに笑っている。
ヒューゴもカナタが上手くできなかったことを笑い、どう考えても足を引っ張っていた彼にこれっぽっちも怒らない。
そんなヒューゴを見て、シャロンは少し安心感を覚えた。たとえ上手くできなくても、ヒューゴもカナタもシャロンを怒らないだろう。
「次はシャロンの番な。カナタはちゃんと俺の手本を見とけよ〜」
「勉強になります。ヒューゴ教官」
「俺のことは、ヒューゴお兄ちゃんで構わないぜ」
「お兄ちゃんというか、アニキって感じですよね」
「雑魚キャラみてえじゃん……ほらシャロン、こっち」
シャロンが台に上がるのに、笑ったままヒューゴが自然と手を差し伸べてきた。その手に自分の手を乗せて、引っ張り上げて貰う。
これくらいの段差など、全く苦痛でもなんでもないのだが、何も考えていなかったので自然と流れに身を任せていた。
支払い用のカードを持っていないため、財布から硬貨を出そうとポーチに手を伸ばす。しかしポーチを開けた時には、すでにヒューゴが支払いを済ませていた。
ぼんやりと生きているせいで、またもやヒューゴに経費で落とせないであろう支払いをさせてしまった。次からは凍らせて動きを封じてでも、自分で払おうと決める。
玩具の銃は持ってみると少し重みがあった。
だが、やはりプラスチックのそれは銃と呼ぶにはただの張りぼてにすぎない。
持ち手がやたら丸っこくて滑りやすく、質感はあからさまと言っていいほど金属とはかけ離れている。
シャロンはその重さと大きさ、質感から、銃をカナタのように両手で持つことにした。
「頑張れシャロン!」
後ろから声をかけてくるカナタに頷く。
もし上手くできなくても、これはゲームで、遊びと割り切っている2人の気分を害す危険性はかなり低い。
だが、か弱く愛らしい女の子を上手く演ずることができなかった代わりに、これくらいはちゃんとできると証明せねば。シャロンは銃口をまっすぐモニターに向けた。




